数学において、ムーファン・ループ: Moufang loop )とは、特別な種類の代数構造である。多くの点で群に似ているが、必ずしも結合法則を満たさない。ムーファン・ループは、Ruth Moufang (1935) によって導入された。 滑らかな[訳語疑問点]ムーファン・ループは、関連する代数であるマルツェフ代数英語版 がある。それはリー群に関連するリー代数があるのと類似している。[原文 1]

定義 編集

ムーファン・ループループ   で、任意の  ,  ,   に対して、以下の4つの同値な恒等式を満たすものである (  の二項演算は並置記法[訳語疑問点]で記述する):

  1.   … (N2)
  2.   … (N1)
  3.   … (M1)
  4.   … (M2)

以後の説明の便宜上、式の後ろにつけた番号は、参考文献 Kunen (1995) に倣った。

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  • 任意のは、結合的であるから、従ってムーファン・ループである。
  • 非ゼロな八元数は、乗算に関して、非結合的なムーファン・ループを成す。

性質 編集

結合性 編集

ムーファンループは (群とは異なり) 必ずしも結合的ではない [注釈 1]。ムーファン恒等式は、結合法則の弱い形式と見なすことができる。 ムーファン恒等式に適当な値を代入することにより、以下の式が得られる:

  1.   (式 (N2) において y := e を代入)
  2.   (式 (N1) において z := e を代入)
  3.   (式 (N2) において z := e を代入 or (N1) において y := e を代入 or (M1) において z := e を代入 or (M2) において y := e を代入)

ムーファンの定理は、ムーファン・ループにおける三つの元 x, y, z が結合法則   に従う場合、結合的な部分ループを生成すると述べている。この定理の系として、ムーファン・ループは、非結合的であると言える。すなわち、ムーファン・ループの任意の二つの元によって生成される部分ループは、結合的であり、従って群になる[訳語疑問点] [原文 2]

左右の乗算 編集

可逆性 編集

ラグランジュ性 編集

ムーファン準群 編集

このセクションでは、ループではなく準群の場合にどうなるか考察する。 準群がムーファン恒等式の内の一つを満たす場合は、必ず単位元が存在することが示される[1]。 以下に、証明の一部 (Theorem 2.2) だけ述べる。Theorem 2.3 はより難しいので、参考文献を見よ。

  を準群とする。ムーファンの恒等式の内 (M1) が成り立つと仮定する。 任意の を固定する。準群の定義によって、 を満たす がただ一つ存在する。 この時、任意の に対して、 が成り立つ[訳注 1]。よって、準群の定義 (消去律) によって が成り立つ。従って、 は左単位元である。

次に、再び準群の定義により、 を満たす がただ一つ存在する。この時、  が成り立つ[訳注 2]。再び準群の簡約律より、 が成り立つ。従って、 は右単位元である[訳注 3]。 さらに、  であるから、  は(両側)単位元である。

(M2)  だけを仮定する場合も、(式を鏡のように反転させて) 同様に証明できる。 この場合は に対して、 を満たす を取ると、 、つまり  は右単位元であることが言える。 先ほどと逆に  を満たす  を取って、同じことをすれば、  が左単位元になることも言えるので、両側単位元である。

Open problems 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ むしろ、結合的なムーファンループは、すなわち群である

訳注 編集

  1. ^ 最初の等号は、ae = a を代入、二番目の等号は (M1):  において  として適用した
  2. ^ 最初の等号は  が左単位元だから、二番目の等号は仮定した (M1) において  として適用、最後の等号は 左単位元であることと、 による
  3. ^ 参考文献 Kunen, K. (1995) の証明を和訳、記載したが、右単位元であることの証明は、Wikipedida 英語版 en:Moufang_loop#Moufang_quasigroups にある証明の方が簡潔である
  1. ^ Smooth Moufang loops have an associated algebra, the Malcev algebra, similar in some ways to how a Lie group has an associated Lie algebra.
  2. ^ A corollary of this is that all Moufang loops are di-associative (i.e. the subloop generated by any two elements of a Moufang loop is associative and therefore a group).

出典 編集

  1. ^ Kunen, K. (1995) https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/summary?doi=10.1.1.52.5356, p2, Theorem 2.2 および 2.3

関連項目 編集

参考文献 編集

  • V. D. Belousov (2001), “Moufang loop”, in Hazewinkel, Michiel, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Main_Page 
  • Goodaire, Edgar G.; May, Sean; Raman, Maitreyi (1999). The Moufang loops of order less than 64. Nova Science Publishers. ISBN 0-444-82438-3 
  • Gagola III, Stephen (2011). “How and why Moufang loops behave like groups”. Quasigroups and Related Systems 19: 1–22. 
  • Grishkov, Alexander; Zavarnitsine, Andrei (2005). “Lagrange's theorem for Moufang loops”. Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society 139: 41–57. doi:10.1017/S0305004105008388. 
  • Kunen, K. (1996). “Moufang quasigroups”. Journal of Algebra 183 (1): 231–4. doi:10.1006/jabr.1996.0216.  https://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/summary?doi=10.1.1.52.5356
  • Moufang, R. (1935), “Zur Struktur von Alternativkörpern”, Math. Ann. 110: 416–430, doi:10.1007/bf01448037, https://eudml.org/doc/159732 
  • Romanowska, Anna B.; Smith, Jonathan D. H. (1999). Post-Modern Algebra. Wiley-Interscience. ISBN 0-471-12738-8 

外部リンク 編集