ラリッサ (衛星)

海王星の第7衛星

ラリッサ[8][9] (Neptune VII Larissa) は、海王星の第7衛星である。

ラリッサ
Larissa
ボイジャー2号が撮影したラリッサ
ボイジャー2号が撮影したラリッサ
仮符号・別名 S/1981 N 1
S/1989 N 2
Neptune VII
見かけの等級 (mv) 21.5[1]
分類 海王星の衛星
発見
発見日 1981年5月24日
1989年7月 (再発見)[2][3]
発見者 H・J・ライツェマ
W・B・ハバード
L・A・レボフスキ
D・J・ソーレン (1981年)
ボイジャー2号 (再発見)
軌道要素と性質
元期:1989年8月18日
軌道長半径 (a) 73,548 ± 1 km[4][5]
離心率 (e) 0.001393 ± 0.00008[4]
公転周期 (P) 0.55465332 日[4]
軌道傾斜角 (i) 0.251° ± 0.009° (海王星の赤道面に対して)
0.205° (局所ラプラス面に対して)[4]
海王星の衛星
物理的性質
三軸径 216 × 204 × 168 km[6]
平均半径 97 ± 3 km[1]
体積 3.5×106 km3[7]
質量 4.2×1018 kg[1]
平均密度 1.2 g/cm3 (仮定値)[1]
自転周期 同期回転
アルベド(反射能) 0.09[6][1]
赤道傾斜角 0
表面温度 51 K (推定)
大気の性質
なし
Template (ノート 解説) ■Project

発見と命名 編集

 
ラリッサの地図。上が公転に先行する半球、下が後行する半球。

掩蔽観測による発見 編集

ラリッサは、ハロルド・J・ライツェマウィリアム・B・ハバードラリー・A・レボフスキデイビッド・J・ソーレンによって、1981年5月24日に星の掩蔽を利用した地上からの観測により発見された[10][11]。1981年1月の時点で海王星がある恒星と5月24日に見かけ上非常に接近することが予測されており、それを受けての観測であった[10][12]。この予測では恒星は海王星に衝突径数 1.9 で接近する (つまり海王星自身はこの恒星を掩蔽しない) とされており、大気海王星の環などの惑星周辺の観測をすることが主目的であった[11][12]

2箇所の望遠鏡を用いた観測では、8.1秒間にわたる 3-4% の1回の減光が測定された[11]。海王星の大気による掩蔽の場合は少なくとも1分程度の減光が起きるはずであること、また環による掩蔽であれば2回減光が発生するはずであることから、この減光は海王星の衛星によるものである可能性が高いと考えられた[11]。また偶然視線上に入り込んだ小惑星である可能性も極めて低いと結論付けられた[11]。この発見は同年5月29日の国際天文学連合のサーキュラーで公表され、S/1981 N 1 という仮符号が与えられた[10]。また観測の詳細は、海王星の3番目の衛星[注 1]の可能性がある天体として、1982年1月15日付けのサイエンス誌に発表された[11]

この時に観測されたのは掩蔽であり、衛星の直接的な検出や継続的な観測が行われていないため、軌道要素は確定しなかった。

ボイジャー2号による再発見 編集

その後ラリッサは、惑星探査機ボイジャー2号が海王星をフライバイした際に撮影された画像の中から、1989年7月に再発見された[13]。しかしこの時は発見された天体が S/1981 N 1 と同一であることは気付かれないまま、ガラテアデスピナの発見と合わせて同年8月2日の国際天文学連合のサーキュラーで公表され、S/1989 N 2 という新たな仮符号が与えられた[13]。このサーキュラーでは「5日間に渡って10枚の画像を捉えた」とだけ報告されており、7月28日以前のいずれかの段階で発見されたとみられる。

このように、初めて検出されたのは1981年のライツェマらによる観測であるが、軌道要素を確定できたのは1989年のボイジャー2号による観測であった[13]。国際天文学連合の惑星系命名ワーキンググループでは、発見日を1989年7月、発見者をボイジャー2号の撮像チームとしており、1981年にライツェマらによって掩蔽が観測されていたことを付記している[3]

命名 編集

その後1991年9月16日に、ギリシア神話において海神ポセイドンの妻とされた女神ラリッサに因んで命名され、Neptune VII という確定番号が与えられた[14]

特徴 編集

ラリッサは5番目に海王星に近い軌道を公転する衛星である。海王星の衛星の中では4番目に大きく、不規則な形状をしており、表面はクレーターで覆われている。また、地質学的に変化を起こした兆候は見られない。他の衛星と同じく、トリトンが海王星によって非常に軌道離心率が大きい軌道に捕獲された直後の摂動によって破壊されたかつての海王星固有の衛星の破片が、再び降着して形成されたラブルパイル天体だと考えられている[15]

ラリッサの軌道はほぼ円軌道だが完全な円ではなく、また海王星の静止軌道半径より内側にある。そのためラリッサは潮汐力によってらせん状に軌道が減衰しており、いずれ海王星の大気に突入するか、ロッシュ限界を超えて潮汐力で粉砕され、海王星の環になると予想される[2]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ この時点で発見されていた海王星の衛星は、トリトンネレイドの2つのみであった。

出典 編集

  1. ^ a b c d e Jet Propulsion Laboratory (2015年2月19日). “Planetary Satellite Physical Parameters”. Jet Propulsion Laboratory Solar System Dynamics. ジェット推進研究所. 2018年12月25日閲覧。
  2. ^ a b In Depth | Despina – Solar System Exploration: NASA Science”. アメリカ航空宇宙局 (2017年12月5日). 2019年1月22日閲覧。
  3. ^ a b Planet and Satellite Names and Discoverers”. Planetary Names. 国際天文学連合. 2015年1月11日閲覧。
  4. ^ a b c d Jacobson, R. A.; Owen, W. M., Jr. (2004). “The orbits of the inner Neptunian satellites from Voyager, Earthbased, and Hubble Space Telescope observations”. Astronomical Journal 128 (3): 1412–1417. Bibcode2004AJ....128.1412J. doi:10.1086/423037. 
  5. ^ Jet Propulsion Laboratory (2013年8月23日). “Planetary Satellite Mean Orbital Parameters”. Jet Propulsion Laboratory Solar System Dynamics. ジェット推進研究所. 2018年12月25日閲覧。
  6. ^ a b Karkoschka, Erich (2003). “Sizes, shapes, and albedos of the inner satellites of Neptune”. Icarus 162 (2): 400–407. Bibcode2003Icar..162..400K. doi:10.1016/S0019-1035(03)00002-2. 
  7. ^ Stooke, Philip J. (1994). “The surfaces of Larissa and Proteus”. Earth, Moon, and Planets 65 (1): 31–54. Bibcode1994EM&P...65...31S. doi:10.1007/BF00572198. 
  8. ^ 『オックスフォード天文学辞典』(初版第1刷)朝倉書店、425頁。ISBN 4-254-15017-2 
  9. ^ 太陽系内の衛星表”. 国立科学博物館. 2019年3月9日閲覧。
  10. ^ a b c Brian G. Marsden (1981年5月29日). “IAUC 3608: 1981 N 1; Sats OF SATURN; 1980l”. Central Bureau for Astronomical Telegrams. 国際天文学連合. 2019年1月22日閲覧。
  11. ^ a b c d e f Reitsema, H. J.; Hubbard, W. B.; Lebofsky, L. A.; Tholen, D. J. (1982). “Occultation by a Possible Third Satellite of Neptune”. Science 215 (4530): 289–291. Bibcode1982Sci...215..289R. doi:10.1126/science.215.4530.289. PMID 17784355. 
  12. ^ a b Mink, D. J.; Klemola, A. R.; Elliot, J. L. (1981). “Predicted occultations by Neptune - 1981-1984”. The Astronomical Journal 86: 135. doi:10.1086/112865. ISSN 00046256. 
  13. ^ a b c Brian G. Marsden (1989年8月2日). “IAUC 4867: NEPTUNE; JUPITER”. Central Bureau for Astronomical Telegrams. 国際天文学連合. 2019年1月22日閲覧。
  14. ^ Brian G. Marsden (1991年9月16日). “IAUC 5347: SNe; 1991o; Sats OF SATURN AND NEPTUNE”. Central Bureau for Astronomical Telegrams. 国際天文学連合. 2019年1月22日閲覧。
  15. ^ Banfield, Don; Murray, Norm (1992-10). “A dynamical history of the inner Neptunian satellites”. Icarus 99 (2): 390–401. Bibcode1992Icar...99..390B. doi:10.1016/0019-1035(92)90155-Z. 

外部リンク 編集