リーディングフレーム

核酸分子内のヌクレオチド配列を、重なり合わない連続したトリプレットの集まりに分割する方法

分子生物学では、リーディングフレーム: reading frame)とは、核酸DNAまたはRNA)分子内のヌクレオチド配列を、重なり合わない連続したトリプレット(三連符)の集まりに分割する方法である。これらのトリプレットが、アミノ酸、あるいは翻訳時の終止信号に相当する場合、それらをコドンと呼ぶ。

考えられるリーディングフレームの例:
AGG·TGA·CAC·CGC·AAG·CCT·TAT·ATT·AGC
A·GGT·GAC·ACC·GCA·AGC·CTT·ATA·TTA·GC
AG·GTG·ACA·CCG·CAA·GCC·TTA·TAT·TAG·C

核酸分子の一本の鎖には、5′末端と呼ばれるホスホリル端と、3′末端またはヒドロキシル端がある。これらは5′→3′方向を定義する。この5′→3′方向に読み取れるリーディングフレームは3つあり、それぞれはトリプレットの異なるヌクレオチドから始まる。二本鎖の核酸では、もう一方の相補的な鎖からこの鎖に沿って5′→3′方向に、さらに3つのリーディングフレームを読み取ることができる。二本鎖核酸分子の2本の鎖は逆平行であるため、第2鎖の5′→3′の方向は、第1鎖に沿った3′→5′の方向に対応する[1][2]

一般的には、核酸の一部分の中で、生物学的に意味を持つのはせいぜい1つのリーディングフレーム(オープンリーディングフレームと呼ぶ)である。一部のウイルス転写産物は、複数のオーバーラップ(重畳)したリーディングフレームを使って翻訳できる。哺乳類のミトコンドリアDNAで、リーディングフレームがオーバーラップした例が知られている。それはATPaseの2つのサブユニットの遺伝子のコード部分である。

遺伝情報 編集

 
6フレーム翻訳の例

DNAは、一連の3つのヌクレオチドコドンによってタンパク質配列をコード化する。したがって、任意のDNA配列は6つの異なる方法で読み取ることができ、1つの方向に3つのリーディングフレーム(異なるヌクレオチドから始まる)と、逆方向に3つのリーディングフレームである。転写の際、RNAポリメラーゼは鋳型DNA鎖を3′→5′方向に読み取るが、mRNAは5′→3′方向に形成される[3]。mRNAは一本鎖であるため3つの可能なリーディングフレームしかなく、そのうちの1つだけが翻訳される。mRNAのリーディングフレームのコドンは、リボソームによって5′→3′方向にアミノ酸へ翻訳され、ポリペプチド鎖が生成される。

オープンリーディングフレーム 編集

オープンリーディングフレーム(open reading frame、ORF)とは、RNAに転写されて、タンパク質に翻訳される可能性のあるリーディングフレームのことである。これには開始コドンから、通常3ヌクレオチドの倍数の長さを持つ後続領域を経て、同一リーディングフレーム内の終止コドンまでの連続したDNA配列を必要とする[4]

ミトコンドリア葉緑体のゲノムでは、あるORFが翻訳された結果、推定されるアミノ酸配列が不明のままの場合、対応するオープンリーディングフレームは「未確認のリーディングフレーム(URF)」と呼ばれていた。たとえば、MT-ATP8英語版遺伝子は、ヒトのミトコンドリアゲノムの配列が完全に決定されたときに、初めてURF A6Lとして記載された[5]

複数リーディングフレーム 編集

 
ヒトミトコンドリア遺伝子MT-ATP8およびMT-ATP6が使用する2つのリーディングフレーム。ヒトミトコンドリアゲノムのこの領域のDNA配列は黒で示されている。2つの遺伝子は46塩基で重なっている。MT-ATP8のリーディングフレーム(赤の角括弧)はTAG終止コドン(赤丸)で終了する。MT-ATP6のリーディングフレーム(青の角括弧)はATG開始コドン(青丸)で始まる。2つの遺伝子は14個のセンスコドンが重畳しているが、異なるORFを使用しているため、それぞれのタンパク質の配列は異なる。

複数リーディングフレーム(multiple reading frames)を使用すると、オーバラップ遺伝子英語版(overlapping gene)が生じる可能性がある。このようなものはウイルス、原核生物、およびミトコンドリアのゲノムに多数存在する可能性がある[6]B型肝炎ウイルスBYDV英語版などの一部のウイルスは、異なるリーディングフレームの中でいくつかのオーバーラップ遺伝子を使用している。オーバーラップ遺伝子を遺伝子重複(gene duplication)と混同しないよう注意すること。

まれに、mRNAの翻訳中にリボソームがあるフレームから別のフレームに移動することがあり、これを翻訳フレームシフト英語版(translational frameshift)と言う。これにより、mRNAの最初の部分は1つのリーディングフレームで翻訳され、後の部分は異なるリーディングフレームで翻訳される。これは、フレームシフト変異とは異なるもので、ヌクレオチド配列(DNAまたはRNA)は変更されず、読み取られるフレームのみが変更される。

参照項目 編集

脚注 編集

  1. ^ “Quantitative sequence and open reading frame analysis based on codon bias”. Systemics, Cybernetics and Informatics 4 (1): 65–72. http://www.iiisci.org/Journal/CV$/sci/pdfs/P842315.pdf. 
  2. ^ “CRITICA: Coding Region Identification Tool Invoking Comparative Analysis”. Mol Biol Evol 16 (4): 512–24. (April 1999). doi:10.1093/oxfordjournals.molbev.a026133. PMID 10331277. 
  3. ^ Lodish (2007). Molecular Cell Biology (6th ed.). W. H. Freeman. p. 121. ISBN 978-1429203142 
  4. ^ Benjamin C. Pierce (2012). Genetics: a conceptual approach. W. H. Freeman. ISBN 9781429232500 
  5. ^ “Sequence and organization of the human mitochondrial genome”. Nature 290 (5806): 457–65. (April 1981). Bibcode1981Natur.290..457A. doi:10.1038/290457a0. PMID 7219534. 
  6. ^ “Properties of overlapping genes are conserved across microbial genomes”. Genome Res 14 (11): 2268–72. (2004). doi:10.1101/gr.2433104. PMC 525685. PMID 15520290. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC525685/.