千島式(ちしましき)または千島式表記法(ちしましきひょうきほう)とは、中国語の粤語(広東語)をラテン文字によって表記する方法の一つ。

日本の言語学者(広東語・漢語方言研究者)である千島英一によって考案された。

英語や中国語の標準語(普通話)を学んだことのある日本人学習者の学び易さを第一に考えて設計されており、東方書店白水社語研等で出版された同氏の著書等他[1]において使用されている。

声母

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19の声母が立てられている。

b
[p]
p
[pʰ]
m
[m]
f
[f]
d
[t]
t
[tʰ]
n
[n]
l
[l]
g
[k]
k
[kʰ]
ng
[ŋ]
h
[h]
gw
[kʷ]
kw
[kʰʷ][kʷʰ]
w
[w]
zh
[t͡s/t͡ʃ]
ch
[t͡sʰ/t͡ʃʰ]
s
[s/ʃ]
y
[j]

韻母

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53の韻母が立てられている(うち2韻は鼻音独立韻)。

尾音
ø -i -u -m -n -ng -p -t -k
介音 ā/aa a
[]
āi/aai
[aːi]
āu/aau
[aːu]
  ām/aam
[aːm]
ān/aan
[aːn]
ānɡ/aang
[aːŋ]
āp/aap
[aːp̚]
āt/aat
[aːt̚]
āk/aak
[aːk̚]
a   ai
[ɐi]
西
au
[ɐu]
  am
[ɐm]
an
[ɐn]
ang
[ɐŋ]
ap
[ɐp̚]
at
[ɐt̚]
ak
[ɐk̚]
e e
[ɛː]
ei
[ei]
(eu
[ɛːu]
掉*)
  (em
[ɛːm]
舐*)
  eng
[ɛːŋ]
(ep
[ɛːp̚]
夾*)
  ek
[ɛːk̚]
i i
[]
  iu
[iːu]
  im
[iːm]
in
[iːn]
ing
[ɪŋ]
ip
[iːp̚]
it
[iːt̚]
ik
[ɪk̚]
o o
[ɔː]
oi
[ɔːi][ɔːy]
ou
[ou]
    on
[ɔːn]
ong
[ɔːŋ]
  ot
[ɔːt̚]
ok
[ɔːk̚]
u u
[]
ui
[uːi][uːy]
      un
[uːn]
ung
[ʊŋ]
  ut
[uːt̚]
uk
[ʊk̚]
ö ö
[œː]
    öü
[øy][ɵy]
  ön
[øn][ɵn]
öng
[œːŋ]
  öt
[øt̚][ɵt̚]
ök
[œːk̚]
ü ü
[]
        ün
[yːn]
    üt
[yːt̚]
 
ø         m
[]
  ng
[ŋ̩]
     
  • m と ng は単独で音節を構成する鼻音独立成韻「唔」(m)、「吳」「五」(ng) にのみ使われる。

注)*韻母 eu, em, ep は、口語用発音に用いられる為、標準的(伝統的)な韻母一覧表には含まれていない。

※当初[2]韻尾を伴う長母音 a の表記に長音符号マクロン)を用いる方式(āi)が採用されていたが、その後[3]イェール式等と同様の母音字を2つ重ねる方式(aai)に改められた為、表記法が2種類存在する。

声調

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広東語には九声があるが、入声がその内の3声を占めるので音の高さとしては実質6つであり、1から6までの数字で表記される。

 
広東語の6声調。
番号 声調名 声調パターン 調値 例字 表記
1 陰平[4] 高平調 / 高降調 55 / 53 si1
2 陰上[5] 高昇調 35 / 25 si2
3 陰去 中平調 33 si3
4 陽平 低降調 21 / 11 si4
5 陽上 低昇調 23 / 13 si5
6 陽去 低平調 22 si6
7(1) 陰入(上陰入) 高促調 5 sik1
8(3) 中入(下陰入) 中促調 3 sek3
9(6) 陽入 低促調 2 sik6

ここで示した調値は5度式であり、5が最も高く、1が最も低いことを表す。

関連項目

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参考文献

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  • 千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. ISBN 978-4-497-91317-3 
  • 千島英一. 東方広東語辞典. 東方書店. ISBN 978-4-497-20508-7 

脚注

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  1. ^ 同氏以外の著書では、『身につく広東語講座』張淑儀 / 上神忠彦 東方書店(2010年)、『ニューエクスプレス 広東語』飯田真紀 白水社(2010年)、『ニューエクスプレス+(プラス) 広東語』飯田真紀 白水社(2019年)等がある。
  2. ^ 『香港広東語会話』東方書店(1989年)、『標準広東語同音字表』東方書店(1991年)
  3. ^ 『東方広東語辞典』東方書店(2005年)
  4. ^ 髙平調 (55) は、「超平」と呼ばれることがある(本来の声調 (中・低調) から高平変調したものを含む)。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 16. ISBN 978-4-497-91317-3 
  5. ^ 入声の中には、一部、陰上と同じ調値の高昇変調(35)を取る「超入」も存在する。また、入声以外の本来の声調(中・低調)から高昇変調したものは「超上」と呼ばれることがある。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 11,16. ISBN 978-4-497-91317-3