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子宮頸癌(しきゅうけいがん、: cervical cancer)は、子宮頸部と呼ばれる子宮の出口より発生する。そこに生じる悪性の上皮性病変()のこと[1]

発生頻度は発展途上国で高い。発症は20代から40代で高く、死亡は25歳未満ではまれであり、特に高齢者多い。主な原因に、主に性交渉にって感染するヒトパピローマウイルス (HPV)の感染があるが、大部分の人で通常は免疫によってHPVは排除される。子宮頸癌の人々の87.4%に、HPVの感染が確認されている[2]。ほかの部位のがんに比較して生存率は高く、検診により死亡率は最大80%減少する可能性がある。

進行は遅いため、3年ごとといった検診が推奨されており、要検査の場合に診断が行われる可能性がある。程度が軽い場合は子宮を温存する円錐切除術が実施される。

目次

疫学編集

 
2004年における10万人毎の子宮頸癌による死亡者数(年齢標準化済み)[3]
  データなし
  2.4以下
  2.4-4.8
  4.8-7.2
  7.2-9.6
  9.6-12
  12-14.4
  14.4-16.8
  16.8-19.2
  19.2-21.6
  21.6-24
  24-26.4
  26.4以上

2007年の世界保健機関(WHO)の報告では、全世界で年間約50万人に子宮頸がんが発生し、約27万人が死亡していると推定されている。子宮頸がんの発生頻度は、アフリカ、南アジア、東南アジア、中南米、カリブ海沿岸地域で高い[2]

日本の2012年の子宮頸がんの罹患者数は約10900人で、死亡者数は約2900人と推計される。

年齢別にみた子宮頸癌罹患率は、20歳代後半から40歳前後まで増加した後、横ばいになる[4]。近年の日本の子宮癌全体の罹患者数の推移では、39歳以下で罹患者数の増加が認められる。 (39歳以下の子宮癌のほとんどは子宮頸癌で、子宮体癌の大部分は40歳以降に発生する。) また39歳以下では、子宮頸癌は乳癌の次に罹患率が高い。

主な死亡層は高齢者となる。イギリスの2010-2012年の死亡データからは、25歳未満の子宮頸がんによる死亡は年7人であるが、65歳以上では同449人となり、この層が全年齢層の半分以上を占める[5]。日本のデータでは特に80歳前後でピークの死亡者数となる[2]

ほかの部位のがんに比較して生存率が高い[6]。進行は遅く、早期がんを治療すれば95%の生存率、それ以前の状態では生存率は100%に近いとされる[7]

原因編集

一部の型のヒトパピローマウイルス (HPV) の感染が、最大の危険因子である。続いて喫煙であり[8]、他にも様々な原因が関与する[9]

ヒトパピローマウイルス編集

ヒトパピローマウイルスの16型と18型が、世界の子宮頸がんの原因の75%を占め、31型と45型では10%を占める[10]

日本では子宮頸癌の人々の87.4%に、あらゆる型のHPVの感染が確認されている[2]。信頼性の高いPCR/シークエンス法による調査では、16型18型は子宮頸癌のほぼ50%から検出されている[2]。 好発部位は扁平上皮化発生領域であり扁平上皮化癌が約90%である[1]。子宮頸部扁平上皮癌ヒトパピローマウイルス (HPV) という腫瘍ウイルスの感染が原因で引き起こされる。

HPVには100以上もの種類があり、皮膚感染型と粘膜感染型の2種類に大別される。子宮頸癌は、粘膜感染型HPVの中でも高リスク型HPVと呼ばれている性交渉によって感染する一部のHPVが長期間感染することによって引き起こされる。が、性交経験がなくても発症はある。

高リスク型に分類されるHPVの型は16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51, 52, 56, 58, 59, 68, 73, 82である[11]

HPVに感染しても多くの場合は、免疫によってHPVが体内から排除される。HPV感染の大半は2年以内に自然消失するが、免疫が誘導されにくいため、何度でも感染する。約10%の人では感染が長期化(持続感染化)する。HPVが持続感染化するとその一部で子宮頸部の細胞に異常(異形成)を生じ、さらに平均で10年以上の歳月の後、ごく一部(感染者の1%以下)が異形成から子宮頸癌に進行する。

HPVによって引き起こされる他の疾患としては、尖圭コンジローマ疣贅がある。このほかHPV感染者とのオーラルセックスなどに起因して口腔癌のリスクを高めるとの報告がある。

喫煙編集

現行あるいは過去の喫煙者では、浸潤性のがんのリスクが2-3倍であり、受動喫煙ではリスクの増加に関連するがその度合いは低い[12]

ほか編集

経口避妊薬を5-9年間使用していた場合に、リスクの約3倍と関連し、10年以上では約4倍である[12]

既にHPVに感染している場合に、妊娠したことのない女性に比較して、1-2回の満期妊娠を経験している場合に2-3倍である[12]

組織型編集

ほとんどが子宮頸部に生ずる扁平上皮癌である。粘液腺癌(頸管円柱上皮由来)扁平上皮癌以外で比較的多い。類内膜腺癌、漿液性腺癌、腺扁平上皮癌、粘表皮癌、すりガラス様細胞癌、腺様嚢胞癌などがある。

分類編集

発生経路から、異形上皮、上皮内癌、初期浸透癌、浸透癌に分類され、上皮内癌以降は臨床期別分類が設けられている[13]

子宮頸癌の臨床期別分類にはFIGO分類とTNM分類の2種類がある。日本ではFIGO分類にTNM分類を併記する形式がとられている。以下はFIGO分類である。

子宮頸癌の臨床期別分類
大分類 解説1 小分類 解説2
0期 浸潤が認められない上皮内癌 (Carcinoma in situ)
I期 癌が子宮頸部に限局
Ia期 組織学的に微小浸潤癌が確認されたもの
Ib期 Ia期以外のI期癌
II期 癌が子宮頸部を超えて広がるが
骨盤壁または腟壁下13に達しないもの
IIa期 腟壁に浸潤するが子宮傍組織へは浸潤しないもの
IIb期 子宮傍組織に浸潤したもの
III期 骨盤壁に浸潤したか腟壁下13に達したもの
IIIa期 腟壁下13に達するが骨盤壁へは浸潤しないもの
IIIb期 骨盤壁に浸潤したもの
IV期 癌が骨盤腔を超えて広がるか、
膀胱、直腸の結膜に浸潤したもの
IVa期 膀胱、直腸の粘膜への浸潤があるもの
IVb期 小骨盤腔を超えて広がるもの
Ch Ia期までの症例で子宮摘出を行ったところ、癌が子宮を超えて広がっていたことが判明したもの

症状編集

異形上皮、上皮内癌、初期浸潤癌の段階では多くが自覚症状を欠く[1]。癌が進行して浸潤癌となると不正出血(接触出血)がみられる[1]

検診編集

子宮頸癌の最大の特徴は、原因がはっきりしており予防可能な癌であるという点である。これは異形成(子宮頸癌になる前の病変)が発見可能なためであり、定期的な子宮頸癌検診により、異形成の段階で発見・治療することにより癌の発症を未然に防ぐことができる。検診により死亡率は最大80%減少する可能性がある[7]

アメリカ家庭医学会英語版は、無駄な医療を抑制するための、賢い選択(Choosing Wisery)キャンペーンにてパップテストについて言及しており、性的に活発でも21歳までは検査の必要なく、検査が必要となるのは21-65歳で、30歳までは3年ごと、それ以上では5年ごととしている[14]

国別の子宮頸がん検診受診率(2010年)[15]
検診受診率
米国 85.0%
ドイツ 78.7%
フランス 71.1%
韓国 68.7%
イギリス 68.5%
オーストラリア 56.8%
日本 37.7%

日本国内で実施されている子宮頸癌検診の検査法は細胞診とHPV検査である。いずれもWHOで子宮頸癌の検診検査として有効性が認められた検査法。

細胞診編集

細胞診は子宮頸癌を疑うような異常細胞がないか判定する検査。子宮頸部から採取した細胞を色素で染色し、異常細胞がないか顕微鏡で観察する検査法。検査結果は日母分類と呼ばれるクラス分類に従って、以下のいずれかに判定される。

  • クラス I:正常である。
  • クラス II:異常細胞を認めるが良性である。
  • クラス IIIa:軽度~中等度異形成を想定する。
  • クラス IIIb:高度異形成を想定する。
  • クラス IV:上皮内がんを想定する。
  • クラス V:浸潤がん(微小浸潤がん)を想定する。

クラス IIIa以上の場合は精密検査を実施。細胞診による癌または前癌病変の発見率は約70%とされている。細胞診結果の記述法として上記の日母分類(クラス分類と異形成の対比)の他に、Papanicolaou (Class) 分類、WHO分類、CIN分類、ベセスダシステム(医会分類)などが知られている。

HPV 検査編集

HPV検査は子宮頸癌の原因である高リスク型HPV感染の有無を判定する検査。細胞診と同様に子宮頸部から採取した細胞を用い、HPV感染を判定する検査法。30歳以上では10%弱がHPV陽性と判定される。HPV検査による癌または前癌病変の発見率は約95%とされている。細胞診とHPV検査を併用した場合、癌または前癌病変の発見率はほぼ100%とされている。

ヒトパピローマウイルス(HPV)感染は、ほとんど全ての子宮頸がんの原因である [16]。ほとんどの女性は感染しても18ヶ月以内に体内から排除され陰性となる。 高リスクのタイプ[17](例えば、16,18,31,45型)の感染が長期間続く人は、HPVがDNAに影響を及ぼすので、子宮頸部上皮内腫瘍英語版を発症する可能性がより高い。

英国国民保健サービス(NHS)は、スクリーニングプログラムに「HPV triage」を追加した。 これは、最初のスクリーニング検査が境界線の結果または低悪性度の異常細胞を示す場合、HPVのさらなる検査が追加で行われることを意味する。 HPVが存在することが示されている場合、再検査に呼ばれるが、HPVが存在しない場合は、異常がないかのように通常のスクリーニングスケジュールを再開する[18]。 HPV検査報告の正確性に関する研究:

  • 感度88%〜91%(CIN3以上を検出する場合)[19]、〜97%(CIN2 +を検出する場合)[20]
  • 特異度73〜79%(CIN3以上検出)[19]、〜93%(CIN2 +検出)[20]

より高感度なHPV検査を加えることにより、特異性が低下する可能性がある[21]。特異性が低下すると、結果は偽陽性の検査の数が増え、病気を持たない多くの女性で、コルポスコピーのリスクが増加し、侵襲的な処置[22] および不要な処置が増加する。 価値のあるスクリーニング検査は、疾患を有する者が正しく識別されるために、感度と特異性との間のバランスを必要とする。

HPV検査の役割に関して、ランダム化比較試験で、HPVをコルポスコピーと比較した。 HPV検査は、直接コルポスコピーほど感度が高く、同時に必要な膣鏡の数を減らす[23]。ランダム化比較試験では、HPV検査が異常な細胞診の後に行われるか、または子宮頸部細胞検査の前に行われる可能性が示唆されている[20]

2007年に発表された研究では、パップテストを行うことで炎症性サイトカイン応答を引き起こし、HPVの免疫学的クリアランスを開始し、子宮頸癌のリスクを低下させる可能性があることを示唆している。パップテストを一度でもしたことのある女性でも、がんの発生率は低かった。 HPV陽性率の統計的に有意な低下は、生涯にパップテストを受診した回数と相関していた[24]

HPV検査では、32-38歳の女性のランダム化比較試験で、その後のスクリーニング検査で検出された子宮頸部上皮内新形成または子宮頸がんの発生率を低下させることができた。 相対的なリスク削減は41.3%であった。 この研究の患者と同様のリスクを有する患者(63%がCIN2-3または癌であった)について、絶対リスクを26%低下させる。 3.8人の患者は、1人が利益を得るために治療されなければならない(治療に要する数= 3.8)。 CIN 2-3のリスクの高い方または低い方の結果を調整するには、ここをクリック

HPV検査とPap検査の結果と所見[25]
HPV検査 Pap検査 細胞診結果の説明[26] 判定
陰性 陰性 正常または正常範囲内の所見 5年以内に再検査
すべて 陰性 正常または正常範囲内の所見 3年以内に再検査
陰性 軽度の 異型扁平上皮細胞英語版(ASC-US) 扁平上皮細胞に変化がある。良性悪性の区別はできない
陰性 軽度の 扁平上皮病変英語版 (LSIL)(HPV感染、軽度異形成) 扁平上皮細胞に軽度の異常がみられる 6-12か月以内に再検査
検査せず ASC-US 扁平上皮細胞に変化がある。良性悪性の区別はできない
陽性 陰性 正常または正常範囲内の所見
検査せず LSIL 扁平上皮細胞に軽度の異常がみられる すぐにコルポスコピー
陽性 LSIL 扁平上皮細胞に軽度の異常がみられる
すべて 高度の異型扁平上皮細胞英語版 (ASC-H) 扁平上皮細胞に変化があり、悪性の可能性が疑われる
陽性 ASC-US 扁平上皮細胞に変化がある。良性悪性の区別はできない
すべて 高度異形成英語版 病変(HSIL) 扁平上皮細胞に高度の異常がみられ、早急に受診が必要
すべて 扁平上皮癌 疑い(SCC) 扁平上皮がんが疑われ、早急に受診が必要
すべて 異型腺細胞英語版 (AGC) 腺細胞に変化が見られ、悪性変化の可能性が疑われ、早急に受診が必要

診断編集

検診の結果、細胞診クラスIIIa以上であったり、HPVに持続感染しているなど、精密検査の必要性があると判断された場合は精密検査を実施し、最終的な診断を行う。

精密検査ではコルポスコピー(コルポ診)が行われ、拡大鏡(コルポスコープ)を用いて子宮頸部粘膜表面を5~20倍に拡大して観察する[27]。その際、病変を明確にするため3%酢酸を子宮頸部に接触させ(酢酸加工)それによる変化をも所見とする[27]

コルポスコピーで異常を疑う箇所がみられた場合、その部分の組織を採取し、組織診(いわゆる狙い組織診と呼ばれる診査組織診)による病理学的検査を行う。この診査組織診により癌の診断及び臨床進行期の推定を行うが、上皮内癌と初期浸潤癌の確定は困難である[28]

高度異形上皮、上皮内癌、初期浸潤癌の確定診断(及び治療)には円錐切除診が行われる[28]

このほか血清学的検査(SCC)も行われることがある[28]

予防編集

定期検査編集

パップテスト、HPV検査の2つの検査は予防に非常に有効である。パップテスト(子宮頸部細胞診)は子宮頸部の細胞を擦り採って顕微鏡検査を行う検査で、がん細胞や前がん状態(癌になる前の異形成)を見つけ出せる。HPV検査は子宮頸癌を引き起こすHPVへの感染をチェックする。これらの検査を21~65歳の間、定期的に受けることが重要とされる[29]。 アメリカなどでは腟鏡を使って自分で子宮頚部をセルフチェックすることを推奨する動きがある[30][31]

HPVワクチン編集

HPVワクチンは、子宮頸がん、膣がん、外陰がんの多くの原因となる型のHPVを防ぐことができる。ワクチンは12歳頃からの接種が推奨されている。またワクチンの接種後も定期的なパップテストを受けることは重要である[29]

その他、禁煙コンドームの使用、性交渉のパートナーを制限することも、子宮頸がんのリスクを下げる可能性がある[29]

HPVと性行為編集

HPVはほとんどの場合感染者との性行為(膣性交、肛門性交、オーラルセックス含む)で感染する可能性が高いが、性行為は感染に必須の行為ではない。HPV感染は皮膚と皮膚が接触することでおこるため、性行為がなくとも(例えば感染した手で肛門や陰部に触れても)感染し、同一の体でも部位から部位に移る。そのため、”他人と性器同士の接触をしない”ことでHPV感染のリスクを下げることは可能だが、他の経緯で感染する可能性はあくまで排除できない[32]

治療編集

異形成の治療法編集

異形成は程度に応じて軽度異形成、中等度異形成、高度異形成に分類される。また、上皮内癌も高度異形成と同様の取り扱いである。

軽度異形成はHPVが自然消失すると、それに伴い異形成も自然治癒する可能性が高いため、通常は治療を実施しない。

中等度異形成の日本国内での取り扱いは一定していない。経過観察・または治療を行うが、日本産科婦人科学会の治療指針では、16型、18型、31型、33型、35型、45型、52型、58型は癌化リスクが高く、治療を検討する指針となっている。特に16型、18型、33型のリスクが高い。治療法は病変部位を含め、子宮頸部の一部分を円錐状に切除する円錐切除術[33]が一般的。円錐切除術では子宮を切除することなく、ほぼ完治するが再発の可能性もある。子宮を残すことができるため、術後の妊娠出産にもほとんど影響はないとされている。

高度異形成の場合も円錐切除術等により、治療を行う。

子宮頸癌の治療法編集

子宮頸癌の進行期は軽度のものから順に0期、IA1期、IA2期、IB1期、IB2期、II期、III期、IV期に分類される。

0期(上皮内癌)は癌が粘膜層にとどまっている段階であり、異形成と同様に円錐切除術で完治可能。しかし、挙児希望がなければ子宮全摘術を行うこともある。

Ia期は程度が軽い場合は円錐切除術で子宮を残すことが可能であるが、円錐切除術で病変を取りきれない場合は子宮全摘術を行う。

Ib期以降の進行癌の場合は子宮のほか、卵巣卵管、その周りのリンパ節などの臓器も摘出する。国内ではIII期やIV期でも手術をおこなうことがあり、III期では動静脈を切断して靭帯の根部から摘出する術式が、IVa期では膀胱、直腸なども摘出する術式が取られることもある。

米国の子宮頚癌ガイドラインではIA2期以降では放射線療法単独療法、IB2期以降では放射線療法化学療法併用療法が推奨されている。

研究事例編集

異形性の進行段階を戻すワクチンが開発中であり、中には乳酸菌を用いた経口のワクチンもある[34]

出典編集

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  1. ^ a b c d 杉山二郎 『産科婦人科学講義ノート』2000、p88
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  3. ^ WHO Disease and injury country estimates”. World Health Organization (2009年). 2009年11月11日閲覧。
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外部リンク編集