尻腐病

ナス科の植物に発生する病気・症状

尻腐病(しりくされびょう、英語: Blossom end rot, Bottom rot)または単に尻腐れは、植物に起きる病気の一種。病変した果実は尻腐れ果と呼ぶ。

トマトにおける尻腐れ

本項ではトマトに代表されるナス科の尻腐病について記載する[注 1]

歴史 編集

古くから存在が知られた。1950年代にはカルシウム欠乏が原因であると考えられるようになった[5][6]

しかし、直接原因のカルシウム欠乏をもたらす原因が複雑であるうえ、対策も難しいことから現代においても広く発生が認められる[5][6]

原因 編集

カルシウム欠乏症によって起こる生理障害である[7]。カルシウム不足によって細胞壁・細胞膜の安定が失われ、細胞自体の膨圧によって変形、組織が壊死して病変する[6]。このとき、カルシウムは組織の先端ほど欠乏することから、特に尻の部分で症状が発生することになる[6]

土壌自体のカルシウム不足よりも、植物自体のカルシウム吸収阻害、あるいは果実部にカルシウムが行き届かないといった原因による発生が多い[5]。土壌中にカルシウムが十分量含まれていても、高温・土の乾燥などカルシウム吸収が抑制される環境によって尻腐れが助長されることに注意する[7][6]

なお、カルシウムは水溶性であることが多いため、降雨量が多い日本では土壌がカルシウム不足になりやすい傾向にある[8]。石灰資材を用いてカルシウムを補うだけでは解決せず、土壌のphを高めてしまう[6]

予防 編集

 
ピーマンにおける尻腐れ
  • カルシウム不足のほか、ケイ素不足を避ける[7]
  • 高温を避ける[5][7]
  • 土壌の乾燥を避ける[5][6]
  • 追肥は少量ずつにする[5][6]
  • アンモニアの代わりに硝酸態窒素を使用する[6]
  • 果実肥大期において、下位葉を多少葉かきする[6]
  • 果実付近の風通しを確保する[6]

対応 編集

尻腐れは回復することがないため、果実全体を取り除くことで植物全体の負担を減らす[6]

利用 編集

見た目は損なわれているが、病変箇所を取り除けば食用には問題ない[9]。日本では尻腐れトマトについて、農産物直売所においてそのまま店頭に並べたり、ジュースなどに加工して販売する事例が紹介されている[9]

関連項目 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ ハクサイ尻腐病[1]、 セイヨウナシ尻腐病[2]、 コメにおける尻腐米[3]、 球根類における尻腐れ病[4] などに同様の名称があるが、別の病気である。農業生物資源ジーンバンクにおけるサイト内検索を実行した結果も参照すること。

出典 編集

  1. ^ 渡辺斉『農作物病害診断防除便覧』富民社、1956年、179頁https://dl.ndl.go.jp/pid/2480423/1/108 
  2. ^ 那須英夫、畑本求、伊達寛敬、藤井新太郎「ナシ胴枯病菌およびセイヨウナシ尻腐病菌によるナシの果実腐敗について」『日本植物病理学会報』第53巻第5号、1987年、630–637頁、doi:10.3186/jjphytopath.53.630 
  3. ^ 大門熊太郎 (1936-10). “尻腐米の損害と其の発生原因”. 現代農業 2 (10): 22-31. https://dl.ndl.go.jp/pid/1503820/1/21. 
  4. ^ 日本花卉園芸協会 編『新花卉』タキイ種苗出版部、1975年5月、70頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1781572/1/37 
  5. ^ a b c d e f しり腐れ―農業技術事典 NAROPEDIA”. ルーラル電子図書館. 2023年5月14日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l 植物の生理障害”. タキイ種苗. pp. 60-61. 2023年5月15日閲覧。
  7. ^ a b c d タキイ種苗株式会社. “トマト-カルシウム欠乏”. www.takii.co.jp. 2023年5月14日閲覧。
  8. ^ むやみに使うとアブない!石灰との上手な付き合い方【畑は小さな大自然vol.25】”. マイナビ農業-就農、農業ニュースなどが集まる農業情報総合サイト. 2023年5月14日閲覧。
  9. ^ a b このトマト、腐って...ない! 農家おすすめ、甘くておいしい「尻腐れ果」”. J-CAST トレンド (2021年3月22日). 2023年5月14日閲覧。