文字之教端書
「文字之教端書」(もじのおしえはしがき)は、啓蒙思想家の福澤諭吉の著した児童向け教科書『文字之教』第一文字之教のまえがき。全7条からなり、1,2,3条において、福澤諭吉が漢字と表記のあり方についてその見解を記している。その見解は漢字制限論の先駆として位置づけられ、国語国字問題を扱った諸書においては、この「端書」が(教科書としての同書の本文やその内容から独立して)しばしば言及される[1]。
端書
編集1条
編集一 日本ニ仮名ノ文字アリナガラ漢字ヲ交 ヘ用ルハ甚 ダ不都合ナレドモ、往古ヨリノ仕来 リニテ全國日用ノ書ニ皆漢字ヲ用ルノ風ト為 リタレバ、今俄 ニコレヲ廃セントスルモ亦 不都合ナリ。今日ノ處ニテハ不都合ト不都合ト持合 ニテ、不都合ナガラ用ヲ便ズルノ有様ナルユヘ、漢字ヲ全ク廃スルノ説ハ願フ可 クシテ俄ニ行ハレ難キコトナリ。此 説ヲ行ハントスルニハ時節ヲ待ツヨリ外 ニ手段ナカル可シ。 — 福澤諭吉
2条
編集一 時節ヲ待ツトテ唯 手ヲ空フシテ待ツ可キニモ非 ザレバ、今ヨリ次第ニ漢字ヲ廃スルノ用意專一ナル可シ。其 用意トハ文章ヲ書クニ、ムツカシキ漢字ヲバ成ル丈 ケ用ヒザルヤウ心掛 ルコトナリ。ムツカシキ字ヲサヘ用ヒザレバ、漢字ノ數ハ二千カ三千ニテ澤山ナル可シ。此書三册ニ漢字ヲ用ヒタル言葉ノ數、僅 ニ千ニ足ラザレドモ、一 ト通リノ用便ニハ差支 ナシ。コレニ由 テ考レバ、漢字ヲ交ヘ用ルトテ左マデ學者ノ骨折 ニモアラズ。唯 古 ノ儒者流儀ニ傚 テ妄 ニ、難 キ字ヲ用ヒザルヤウ心掛ルコト緊要ナルノミ。故 サラニ難文ヲ好ミ、其稽古ノタメニトテ、漢籍ノ素讀ナドヲ以 テ子供ヲ窘 ルハ、無益ノ戯 ト云 テ可ナリ。 — 福澤諭吉
3条
編集一 醫者、石屋ナドノ字ハ、仮名ヲ用ルヨリモ漢字ノ方、便利ナレドモ、上ル、登ル、昇ル、攀 ルナドノ字ヲ、一々書キ分ルハ甚ダ面倒ナリ。猿ガ木ニ攀ルモ、人ガ山ニ登ルモ、日本ノ言葉ニテハ、ノボルト云 フユヘ、漢字ヲ用ルヨリモ仮名ヲ用ル方、便利ナリ。都 テ働ク言葉ニハ成丈 ケ仮名ヲ用ユ可シ。 — 福澤諭吉
参考文献
編集- 伊藤正雄「『文字之教』について」『評論』第725号、旬刊評論社、1973年。
- 伊藤正雄 著「『文字之教』について」、西川俊作、松崎欣一 編『福澤諭吉論の百年』慶應義塾大学出版会、1999年6月1日。ISBN 4-7664-0732-6 。
- 福澤諭吉事典編集委員会 編『福澤諭吉事典』慶應義塾大学出版会、2010年12月25日、632 f頁。ISBN 978-4-7664-1800-2 。
脚注
編集外部リンク
編集- 冨田正文; 佐志傳. “デジタルで読む福澤諭吉 文字之教 : 第一文字之教”. 慶應義塾大学図書館. 2011年10月29日閲覧。
- [文字之教 : 第一文字之教 https://dcollections.lib.keio.ac.jp/ja/fukuzawa/a21/73]