断罪無正条(だんざいむせいじょう)とは、律令法に設けられた規定の1つ。法令に該当する条文が無い場合、類似する罪を類推適用することを認めた条文。

概要 編集

日本の律令においては、三条公忠『後愚昧記』応永4年5月19日条に引用された名例律の逸文からその存在を知ることが出来る[1]。すなわち、法令に定めた罪に該当しなくても処分の必要性があると認められた者を罰するために、裁判官が判決において類似の条文を掲げ、当該条文と比較して問題行為の内容が記載された罪よりも軽い(挙重明軽)または重い(挙軽明重)という比較に基づいて処罰を行った。

この考え方は日本の法律においては長い間にわたって維持され、明治時代に制定された新律綱領[2]および改定律例においても採用された。だが、明治時代に日本国政府が参考にしたドイツ的大陸法の刑事法の基本原則の1つである「罪刑法定主義」においては刑事法の類推適用を認めた断罪無正条とは相いれないものであり、明治15年刑法によって廃止された。なお、英米法においてはコモン・ローのために厳密な意味での罪刑法定主義は今日まで採用されていない。

脚注 編集

  1. ^ 「凡断罪而無正条。其応出罪者。則挙重以明軽。其応入罪者。則挙軽以明重」(『律令』P49)
  2. ^ 新律綱領名例律無正断正条「凡律令ニ。該載シ尽サゝル事理。若クハ罪ヲ断スルニ。正条ナキ者ハ。他律ヲ援引比附シテ。加フ可キハ加へ。減ス可キハ減シ。罪名ヲ定擬シテ。上司二申シ。議定ツテ奏聞ス。若シ輙ク罪ヲ断シ。出入アルコトヲ致ス者ハ。故失ヲ以テ論ス。」(『明治日本の法解釈と法律家』P178)

参考文献 編集

  • 井上光貞・関晃・土田直鎮・青木和夫校注『律令』(日本思想大系新装版、岩波書店、1994年)ISBN 978-4-00-003751-8
  • 岩谷十郎『明治日本の法解釈と法律家』(慶應義塾大学法学研究会叢書、慶應義塾大学法学研究会、2012年)ISBN 978-4-7664-1917-7