木星・冥王星重力効果

木星・冥王星重力効果(もくせい・めいおうせいじゅうりょくこうか、英語: Jovian–Plutonian gravitational effect)とは、木星冥王星の影響を受けて、地球上で極短い時間に重力が小さくなると主張するエイプリルフールの嘘。1976年4月1日イングランド人天文学者パトリック・ムーア英語版BBC Radio 2英語版で発表した。

巨大な惑星である木星の質量は太陽系における他の惑星の合計の2.5倍以上である

背景編集

 
このエイプリルフールを仕掛けた天文学者パトリック・ムーア英語版(2002年)

パトリック・ムーア(Patrick Moore, 1923年3月4日 - 2012年12月9日)はイギリスのテレビに出演していた天文学者の中で当時最古参で、公共放送における出演歴の長さに加えて、矢継ぎ早に繰り出すコメントや片眼鏡の着用など、数多くの風変わりな習慣で知られていた。イギリス空軍爆撃機軍団英語版戦時ナビゲーターを経て、1945年王立天文学会フェローに選出され、BBCテレビジョン英語版の番組「ザ・スカイ・アット・ナイト英語版」のプレゼンターを1957年から死去するまで務めていた。1968年には大英帝国勲章オフィサーを受章している。このように、ムーアはイギリスにおいて尊敬できる天文学者として一般大衆から高い人気を得ていた[1]

木星の質量は太陽系にある他の惑星を合計した質量の2.5倍である[2]冥王星はとても小さい上太陽や地球からとても遠く、1930年まで発見されなかった[3]

1976年4月の出来事編集

1976年4月1日、ムーアはラジオリスナーに向けて、午前9時47分に天文イベントとして木星と冥王星のが起こり、どの場所でも観測が期待できると解説、さらに冥王星が木星の後ろを通過した時に、2つの惑星[注 1]が持つ重力の強力な組み合わせにより地球の重力が著しく減少し、もしリスナーがその正確な時間でジャンプしたら浮いている感覚を覚えるだろうと発言した[4][5]

その午前9時47分が過ぎて間もなく、BBCには重力が本当に減少するか確かめたというリスナーからの電話が100本以上も寄せられた[4]。中には、ある女性からの「自分と11人の友達が座っていた時に、椅子から浮き上がり部屋中を穏やかに周回した」という報告まであった[6]

その後の告白編集

しかし、この話は早い段階でエイプリルフールのと明らかにされている。ムーアの発言は、1974年J・グリビン英語版とS・プレージマンが出版した『The Jupiter Effect英語版』(日本語訳『惑星直列 1982年 地球に大地震』平野正浩訳、金沢文庫、1975年)の主張を踏まえたものであった。この本は1982年に起こる惑星直列の影響で全世界を天変地異が襲う、と予言した内容で、学者からは根拠がない主張として一蹴されていたが、1976年の時点でもまだ一部で信じられていた。ムーアは惑星の配列で地球に影響が及ぶ、などという主張のばかばかしさを訴えるため、あえてこのエイプリルフールの発言を行ったのである[4]

後にガーディアン紙のマーティン・ウェインライトはさまざまなエイプリルフールの事件を取り上げた記事の中でこの事件に触れ、ムーアは「自身の信用度に裏打ちされた、熱烈な場の空気が加わった」重みのある発表を行うことが出来るため、悪戯を成功させるに相応しい「理想的なプレゼンター」だった、と執筆している[6]

1980年、ムーアは、1930年に冥王星を発見したクライド・トンボーと共に冥王星に関する書籍を出版した[7]

別の嘘への引用編集

2014年12月から2015年1月初頭にかけて「『2015年1月4日に、惑星直列の影響で地球上が短時間無重力になる』とNASAが発表した」という内容のニュースがインターネット上に流れた[8] 。これはフェイクニュースに過ぎず、NASA公式Twitterスクリーンショットを装った画像も偽造に過ぎなかったが、その中で「専門家による解説」として(実際には2012年に既に死去していたにも関わらず)ムーアが登場し、彼の1976年のエイプリルフールのジョークが日付だけを変えてそのまま引用された[9]

関連項目編集

脚注編集

注釈編集

  1. ^ 後の2006年、冥王星は国際天文学連合によって帯を形成している数多くの同種小天体のような準惑星と再分類されたが[1]、この時点では太陽系における惑星の1つと分類されていた。

出典編集

  1. ^ Patrick Moore Biography Archived 2014年12月23日, at the Wayback Machine. online at hicelebs.com (accessed 27 March 2008)
  2. ^ Beeb, Reta, Jupiter: The Giant Planet (Washington, D.C., Smithsonian Institution Press, 2nd edition, 1996, ISBN 1-56098-685-9)
  3. ^ Tombaugh, Clyde W., The Search for the Ninth Planet, Pluto (Astronomical Society of the Pacific Leaflet No. 209, July 1946) reprinted in Mercury vol. 8, no. 1 (January/February 1979) pp 4-6
  4. ^ a b c Planetary Alignment Decreases Gravity -- April Fool's Day, 1976"”. Museum of Hoaxes. 2015年4月11日閲覧。
  5. ^ Novak, Asami (24 March 2008). "10 Best: April Fools' Gags (the Web Is Closing for Spring Cleaning!)". Wired.
  6. ^ a b Wainwright, Martin (2008). “JUMP FOR JOY”. The Guardian Book of April Fool's Day. Aurum Press. p. 54. ISBN 978-1-84513-344-3 
  7. ^ Moore, Patrick, & Tombaugh, Clyde W., Out of the Darkness, the Planet Pluto (Harrisburg, Pa., Stackpole Books; and London, Lutterworth Press, 1980)
  8. ^ Planetary Alignment On Jan 4, 2015 Will Decrease Gravity For 5 Minutes Causing Partial Weightlessness”. www.delightfulknowledge.com (2014年12月22日). 2019年5月26日閲覧。
  9. ^ 「1月5日午前2時47分に地球が無重力になる」デマ広まる”. ねとらぼ(ITmedia) (2015年1月5日). 2019年5月26日閲覧。

参考文献編集

  • Tombaugh, Clyde W., Pluto in The Astronomy Encyclopaedia, ed. Patrick Moore (London, M. Beazley, 1987)

外部リンク編集