焼却炉
焼却炉(しょうきゃくろ)は、廃棄物を処理する方法の一つとしての焼却の効率化と、処理とともに排出された有害物質の無害化を行う施設である。ごみを焼却することによって、体積を減らせるだけでなく、殺菌や害虫駆除をすることもできる。焼却処理された残渣などは、最終処分場に埋め立て処分されたり、セメントなどの原料として使用されたりする。
可燃廃棄物に単純に着火しても、完全燃焼させるには条件が不足することが多く炭化するだけに留まってしまうと処理に困難が生じる。燃焼温度、酸素供給を確保し、さらに焼却残渣を回収しやすくする施設が焼却炉であり、その規模や目的によって様々な形態が存在する。食品廃棄物のサーマルリサイクルや医療廃棄物の無害化にも利用される。
廃掃法に廃棄物の排出者自己責任が定められており、企業や自治体は自分達の廃棄物を自社処理することが望ましい。かつては都市部の学校や工場、家庭にも小型の焼却炉が存在していたが、廃棄物の多様化と周囲の宅地化によって次第に減少し、環境汚染対策として規制がかかった2020年代では見かけなくなった。
焼却炉の種類編集
乾溜ガス化炉(省エネで産業廃棄物処理に適している)、ストーカー式焼却炉(一般的に都市ゴミ処理に使用される)、流動床式焼却炉、ロータリーキルン式などがある。
焼却の工程編集
工場全体の管理は中央制御室で行われ、焼却工程の作業員は数名程度である。
- 分別収集され、焼却不適物を取り除いたごみをバンカに貯めておく。
- 発熱量などのごみ質を一定にするためクレーンによる攪拌を行った後、焼却炉への搬送設備へクレーンで投入する。
- 炉内温度が一定となるように注意しながら、炉内へごみを搬送する。
炉内の温度が高すぎると耐火材の損傷につながる。また、800℃以上の高温での保持時間を長くし完全燃焼させないとダイオキシン類発生量の増大につながる。
空気の流れ編集
- 外部へ臭気を漏らさないようにするため、ごみピットから燃焼用空気を吸引する。
- 燃焼を安定した状態に維持するため蒸気式空気予熱器で予熱を行い(ボイラーが存在しない小規模施設においては排ガスと燃焼用空気間の熱交換による予熱を行う)、空気比を一定に保つように制御しながら炉に供給する。
- 燃焼によって生じた排気ガスの熱エネルギーはボイラーによって回収され、水蒸気を発生し、その熱は工程内の熱の供給や発電に利用される。また、特に公設の大型焼却炉では地域住民の為に余熱利用の温水プールや公衆浴場などの設備が併設されていたり、近隣地にあるこの種の設備を持つ公共施設へ熱エネルギーの供給を行っている場合もある。
- ダイオキシン類の再合成量を少なくし濾過式集塵機を保護するため、200℃以下まで急速冷却する。また、排ガス温度を低下させ過ぎると煙道内で結露が発生し易くなり、HClやSOx等の排ガス中酸性成分が溶け込むことにより、煙道などの急速な腐食につながる。
- 活性炭を吹き込み、排ガス中に含まれる重金属やダイオキシン類を吸着させ、濾過式集塵機により排ガスより除去する。
- 消石灰を吹き込み塩化水素・硫黄酸化物などの酸性物質と反応させ、反応生成物を濾過式集塵機で除去する。
- サーマルオキシダイザー、HEPAフィルタなどの排ガス洗浄装置でVOCや水銀などの有害物質を取り除く。
- 蒸気などで再加熱し、触媒脱硝設備で窒素酸化物を除去する。
- 有害物質を除去した排ガスは、誘引機送風機により煙突へ導かれ、大気中の拡散作用により地上でのガス濃度が安全なレベルまで希釈される高さから排出される。
灰の流れ編集
- 燃やされた残りの灰は、灰バンカに貯められる。
- 排ガスと一緒に飛んだ飛灰などは、濾過式集塵機で集められる。
- 灰などは、ダイオキシン類や重金属類などの溶出を防止する固化や溶融などの無害化処理した後、積み込み施設で搬出車に積み込み、最終処分場に埋め立て処分する。
汚水の流れ編集
- 灰や煙を洗ったときに発生する汚水は、汚水処理装置を経て、炉内の冷却用に吹き込まれて処分される。
法的規制編集
焼却炉は「廃棄物処理法」、「大気汚染防止法」、「悪臭防止法」、「水質汚濁防止法」、「騒音規制法」、「振動規制法」、「ダイオキシン類対策特別措置法」により法的な規制がされている。特に2002年12月施行の改正廃棄物処理法において家庭用焼却炉を含め、全ての規模の焼却炉に対して下記の構造的な新基準が定められた[1]。
関連項目編集
脚注編集
- ^ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則 第一条の七