「ロジスティック方程式」の版間の差分

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==ロジスティック方程式==
[[File:Logistic equation m vs N.svg|thumb|個体数 ''N'' と一個体当たり個体群増加率 ''m'' の関係]]
上記のようにマルサスモデルは非現実的な面を持つ。個体数が多くなると増加率が抑えられことを表現するために、個体数 ''N'' が増加するにつれて増加率 ''m'' が減少するモデルが自然であ考えられる{{Sfn|寺本|1997|p=8}}。また、個体数がある上限を超えたら増加率は負となり、個体数は減少に向かうと考えられる{{Sfn|Strogatz|2015|p=25}}。これらの点を簡単に表せば、比例定数 ''m'' を
:<math>m=r \left(1- \frac{N}{K} \right)</math>
と置ける{{Sfn|巌佐|1990|p=4}}。すなわち、''m'' の値は個体数がゼロに限りなく近いときに最大値で、その後は ''N'' の値の増加に比例して ''m'' の値は減少するというモデルである<ref name="渡辺守">{{cite book |和書 |author=渡辺守 |title=昆虫の保全生態学 |date=2007-12-20 |edition=初版 |publisher=東京大学出版会 |isbn =978-4-13-062215-8 |pages =39-40}}</ref>。これをマルサスモデルに代入して、次の微分方程式を得ることができる。
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この微分方程式を'''ロジスティック方程式'''と呼ぶ<ref name="Silvertown"/>。個体群成長モデルの一種として'''ロジスティックモデル'''とも呼ばれる<ref name="西村欣也">{{cite book |和書 |author=西村欣也 |title=生態学のための数理的方法―考えながら学ぶ個体群生態学 |publisher=文一総合出版 |year=2012 |isbn=978-4-8299-6520-7 |pages=168-169}}</ref>。この微分方程式は、数学的には ''n'' = 2 の[[ベルヌーイの微分方程式]]に該当する{{Sfn|寺本|1997|pp=10&ndash;11}}。
 
ロジスティック方程式の ''K'' は[[環境収容力]]と呼ばれ、その環境におけが維持できる個体数の定員であを意味する{{Sfn|マレー巌佐|20141990|ppp=2&ndash;34}}。''r'' の単位は上記のマルサス係数と同じく一個体当たりの増加率だが{{Sfn|瀬野|2007|pp=11, 13&ndash;14}}{{Sfn|コーエン|1998|p=112}}、特に[[内的自然増加率]]と呼ばれ、その生物が実現する可能性のある最大増加率を示している{{Sfn|瀬野|2007|p=14}}。通常のロジスティック方程式では、''K'' と ''r'' は時間に関わらず一定とみなし、正の[[定数]]と考える{{Sfn|コーエン|1998|p=112}}{{Sfn|マレー|2014|p=2}}。
 
=== ロジスティック効果 ===
{{see also|密度効果}}
マルサスモデルからロジスティック方程式へ拡張したときに行ったことは、個体群生態学における[[密度効果]]を取り入れたことに相当する{{Sfn|渡辺|2012|p=51}}。上記では ''N'' を個体数として説明したが、ロジスティック方程では有限な環境より簡素前提していためにので ''kN'' は単位面積当たりの個体数である個体群密度でもある{{Sfn|瀬野|2007|p= 20}}。個体群密度がその個体群自身の変動に影響を与えることは、密度効果という名称で呼ばれる{{Sfn|日本数理生物学会(編)|2008|p=4}}。特にロジスティック方程式では、個体群密度が高くなると増加率に負の効果を与える種類の密度効果となっており、これを''r'ロジスティック効果' / ''K'' 置けば呼ぶ<ref>{{cite book |和書 |author=ミンモ・イアネリ稲葉寿、國谷紀良 |title=人口と感染症の数理―年齢構造ダイナミクス入門 |year=2014 |edition=初版 |publisher=東京大学出版会 |isbn =978-4-13-061309-5 |page =52}}</ref>{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=307}}。
:<math>\frac{dN}{dt}\ = N(r - kN)</math>
とも書ける{{Sfn|瀬野|2007|p=22}}。''k'' は'''Verhulst-Pearl係数'''や'''種内競争係数'''とも呼ばれる{{Sfn|寺本|1997|p=9}}。上記では ''N'' を個体数として説明したが、ロジスティック方程式では有限な環境を前提にしているので、''N'' は単位面積当たりの個体数である個体群密度でもある{{Sfn|瀬野|2007|p=20}}。上式右辺の括弧内では、元々の最大増加率であった ''r'' より、個体群密度 ''N'' に比例した ''kN'' を減ずる形になっている。すなわち、''N'' の増加が増加率 ''da''/''dN'' にブレーキをかける効果をもたらしている。このように、個体群密度が個体群の変動に[[フィードバック]]的に影響を与えることを密度効果と呼ぶ{{Sfn|内田|1972|p=45}}。特にロジスティック方程式では、個体群密度が高くなると増加率に負の効果を与える種類の密度効果となっており、これを'''ロジスティック効果'''と呼ぶ<ref>{{cite book |和書 |author=ミンモ・イアネリ、稲葉寿、國谷紀良 |title=人口と感染症の数理―年齢構造ダイナミクス入門 |year=2014 |edition=初版 |publisher=東京大学出版会 |isbn =978-4-13-061309-5 |page =52}}</ref>{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=307}}。
 
ロジスティック方程式では個体群密度増加に比例して増加率が一方的に低下することを想定したが、密度増加によって増加率が上昇する場合も考えられる{{Sfn|ティーメ|2006|p=66}}。例えば、ある程度は密度が高くないと交尾の相手が見つけるのが困難となって、結果として増加率が低下する場合などである{{Sfn|日本数理生物学会(編)|2008|p=4}}。よって、個体密度が低い内は個体群密度増加によって増加率が上昇する種類の密度効果も考えられ、このような種類の密度効果を[[アリー効果]]と呼ぶ{{Sfn|寺本大串|19972014|ppp=17&ndash;1857}}。
 
===個体数と増加率の関係===
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横軸を ''t''、縦軸を ''N'' とした平面上にロジスティック関数を[[グラフ (関数)|グラフ]]を描くと、曲線が描かれる。この曲線は前述のとおりにロジスティック曲線と呼ばれる。初期個体数が3つの範囲 ''N''<sub>0</sub> < 0, 0 < ''N''<sub>0</sub> < ''K'', ''K'' < ''N''<sub>0</sub> のどれに該当するかによって、曲線の形状は大きく異なってくる{{Sfn|Hirsch et al.|2007|pp=5&ndash;6}}。ただし、''N''<sub>0</sub> < 0 の範囲は、負の個体数というものを意味するので、生物のモデルとしてはあまり意味がない{{Sfn|Hirsch et al.|2007|p=5}}。以下では、''N''<sub>0</sub> > 0 の範囲のときの曲線形状について、まずは説明する。
 
点 (''t'' = 0, ''N'' = ''N''<sub>0</sub>) から始まる曲線は、時間が ''t'' = 0 から ''t'' &rarr; &infin; の[[極限]]まで経過するとき、次のように変化する。''N''<sub>0</sub> が環境収容力の半分以下(''N''<sub>0</sub> < ''K''/2 )のときは、''t'' が増加するにつれ、曲線の[[傾き (数学)|傾き]](個体数増加率)を増加させながら、曲線は加速度的に立ち上がっていく{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。しかし、ある時点で曲線は[[変曲点]]を迎え、傾きの増加は止む{{Sfn|ブラウン|2012|p=34}}。その後は傾きは減少しだし、曲線は横倒しになっていく{{Sfn|山口|1992|p=65}}。そして最終的には、傾きは0になり、曲線は水平な直線となる{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。結局、曲線は、変曲点前では[[凸関数|下に凸]]の曲線で、変曲点後では[[凹関数|上に凸]]の曲線となっており、全体としてアルファベットのSのような形を描く{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。このため、S字型曲線や[[シグモイド曲線]]とも呼ばれる{{Sfn|マレー|2014|p=3}}{{Sfn|スチュアート|2012|p=335}}。間にある変曲点は個体数増加率が最大となる点で、前述の ''dN''/''dt'' と ''N'' のグラフの頂点に相当する{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。変曲点における個体数は前述のとおり ''N'' = ''K''/2 であり、そのときの時間は ''t'' = ln (''K''/''N''<sub>0</sub> - 1)/''r'' である{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=307}}。ここで ln は[[自然対数]]である。最終的に漸近する水平な直線は ''N'' = ''K'' の直線であり、個体数は時間が経過すると最終的に環境収容力の値に収束していく{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。
 
初期個体数が ''N''<sub>0</sub> = ''K''/2 のときは、曲線は最初から変曲点から始まる。''N''<sub>0</sub> > ''K''/2 のときは最初から変曲点を過ぎた曲線になる{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。 ''N''<sub>0</sub> = ''K'' であれば、その値のまま一定となる{{Sfn|マレー|2014|p=3}}。''N''<sub>0</sub> = 0 のときも同様に、''N'' = 0 のままである{{Sfn|マレー|2014|p=3}}。
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初期個体数が環境収容力を上回っているとき、すなわち ''N''<sub>0</sub> > ''K'' のときは、この場合の曲線はS字型ではなく、下に凸の曲線となる{{Sfn|Strogatz|2015|p=26}}。''N'' は''N''<sub>0</sub> から単調に減少しつづけ、この場合も、時間経過に従って ''K'' に収束していく{{Sfn|寺本|1997|p=10}}。
 
以上をまとめると、''N''<sub>0</sub> > 0 であれば(個体が存在してさえいれば)、どんな初期個体数であっても、個体数は最終的に常に環境収容力の値に収束していくということである。あるいは、''N''<sub>0</sub> = 0 であれば(個体が存在してなければ)、個体数は 0 のままということである。また、生物個体数のモデルとしては無意味であるが ''N''<sub>0</sub> < 0 の場合も見てみると、この場合 ''N'' は時間発展に従って減少し続け、有限時間内で &minus;&infin; へ発散する曲線を描く{{Sfn|Hirsch et al.|2007|p=5}}。実際の個体数増減においては個体数は[[負]]の値にならないので、0 < ''N'' < ''K'' や ''K'' < ''N'' の場合が一般的には興味の対象となる{{Sfn|山口|1992|p=63}}{{Sfn|マレー|2014|p=3}}。
 
===平衡状態の安定性===
上記で、''N'' = 0 および ''N'' = ''K'' のときはいくら時間が経過しても個体数 ''N'' は増加も減少もしないことから、これらの状態を平衡状態や定常状態と呼ぶことを説明した。平衡状態では、''N'' = 0 または ''N'' = ''K'' という一点に留まり続ける。数学の[[力学系]]分野では、このような点を[[不動点]]や平衡点と呼ぶ{{Sfn|Strogatz|2015|p=19}}{{Sfn|Hirsch et al.|2007|p=2}}。平衡状態には'''安定な平衡状態'''と'''不安定な平衡状態'''がある{{Sfn|巌佐|2015|p=23}}。安定な平衡状態とは、 その平衡状態の点から少しずれたとしても、時間が経過すれば平衡状態へ戻り、収束することを意味している{{Sfn|マレー巌佐|20142015|p=523}}。また、不安定な平衡状態とは、平衡状態の点から少しずれたとき、時間経過すると平衡状態とのズレはどんどん大きくなっていき、平衡状態に戻らないことを意味している{{Sfn|マレー|2014|p=5}}。ロジスティック方程式の場合は、''N'' = ''K'' 時の平衡状態が安定、''N'' = 0 時の平衡状態が不安定となっている{{Sfn|Strogatz|2015|pp=25&ndash;26}}。すなわち、初期個体数 ''N''<sub>0</sub> が ''K'' または 0 であれば、時間経過によらず常に同じ値を取り続けることは同じだが、''N''<sub>0</sub> が平衡状態から少しずれたときの挙動は正反対となる{{Sfn|巌佐|2015|pp=22&ndash;23}}。
 
[[File:Logistic curve vector field.png|thumb|270px|right|ロジスティック曲線とその傾きのベクトル場の様子]]
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実際の生物の個体数増殖においてロジスティック方程式が成り立ち、ロジスティック曲線がその増殖データに上手く当てはまるには、次のような生物学的条件が前提として挙げられる。
 
*対象の個体群は単一個体群である{{Sfn|瀬野|2007|p=7}}。すなわち、環境内には1つ単一の種か、同等とみなせる種のみが存在し、捕食者がいない状況にあてはまる{{Sfn|瀬野|2007|p=5}}。
*対象の生物の各世代(親子)は連続的に重なっている{{Sfn|マレー|2014|p=37}}。すなわち、連続的に子が生まれ、親と子が共存する期間が存在する{{Sfn|山口|1992|p=71}}。
*個体は一定の大きさの環境内に常に存在する。すなわち、環境から移出したり、外部から移入が無い{{Sfn|コーエン|1998|p=112}}。(用語としては'''閉じた個体群'''とも呼ばれる{{Sfn|ティーメ|2006|p=7}})
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いくつかの微生物や小型の昆虫の飼育実験で、ロジスティック曲線がよく当てはまる個体数増加や個体密度増加実験のデータが得られている。例として以下のようなものがある。
*[[キイロショウジョウバエ]]{{Sfn|内田|1972|p=29}}
*[[ゾウリムシ]]{{Sfn|山口|1992|pp=67&ndash;68}}<ref>G. F. Gause. {{Google books|v01OToAhJboC|The Struggle for Existence|page=106}}</ref>
*[[大腸菌]]{{Sfn|巌佐山口|19901992|ppp=367&ndash;69}}
*[[タマミジンコ科|タマミジンコ]]{{Sfn|巌佐|1990|p=6}}
*[[出芽酵母]]、[[分裂酵母]]<small>(''Saccharomyces cerevisiae'', ''Schizosaccharomyces kefir'')</small>{{Sfn|スチュアート|2012|pp=335&ndash;336}}<ref>{{Cite book |last=Gause |first=G. F. |url=https://books.google.co.jp/books?id=v01OToAhJboC&lpg=PP1&hl=ja&pg=PA77#v=onepage&q&f=false |edition=Dover Phoenix Editions |year=2003 (original 1934) |title= The Struggle for Existence |publisher=Dover Pubns |page=77 |isbn=0-486-49520-5 }}</ref>
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野外環境では、前提条件となるような環境が保持されることはほぼ無いため、ある個体群がロジスティック曲線が当てはまるような増加の仕方を示すことは少ない<ref name="伊藤1994">{{cite book |和書 |author=伊藤嘉昭 |title=生態学と社会―経済・社会系学生のための生態学入門 |year=1994 |edition=初版 |publisher=東海大学出版会 |isbn =4-486-01272-0 |pages =48&ndash;51}}</ref>。自然界では環境条件は常に変化し、個体群変動のパターンも様々となる{{Sfn|大串|2014|pp=53&ndash;54}}。
 
ロジスティック曲線によく当てはまる個体数増加が確認できた例として、[[パナマ]]熱帯雨林での[[ハキリアリ]]の1つの巣における個体数増加結果がある<ref name="伊藤1994"/>。理由としては、天敵がいないこと、雨量・温度の気象条件が安定していることなどにより、ロジスティックモデルの前提条件に近い環境であったことによるものと考えられている<ref name="伊藤1994"/>。他の野外生物でロジスティック曲線に合致した例としては、アメリカ・[[アラスカ州]]のセントポール島における[[キタオットセイ]]({{Snamei|Callorhinus ursinus}})の個体数増加の結果がある<ref name="レーヴン・ジョンソン">{{cite book Sfn|和書 |author=P.レーヴン; G.ジョンソン: J.ロソス; S.シンガー ほか|others =R/J Biology 翻訳委員会(監訳) |title=レーヴン・ジョンソン 生物学 下(原書第7版) |date=2007-05-10 |edition=第7版 |publisher=培風館 |isbn =978-4-563-07797-6 |page p=1151}}</ref>。植物の場合では、アイルランドの[[スルツェイ島]]で観測された[[コケ植物|コケ]]の成長の例がある。新規に露出した岩表面上へのコケの定着・広がり方が、ロジスティック曲線に当てはまる観測データを見せた<ref name="Silvertown">{{cite book |和書 |translator= 河野昭一・高田壮典・大原雅|author=Jonathan W. Silvertown |title=植物の個体群生体学 第2版 |year=1992 |edition=初版 |publisher=東海大学出版会 |isbn =4-486-01157-0 |pages =49-50}}</ref>。
 
===人口成長===
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[[File:Discrete logistic equation-time evolutions.svg|thumb|280px|離散時間型モデルの場合の個体数の変化の様子。いずれも ''K'' と ''N''<sub>0</sub> の値は同じだが、青が ''r'' = 0.6、赤が ''r'' = 2.1、緑が ''r'' = 3 のときを示している。]]
{{see also|ロジスティック写像}}
ロジスティック方程式では、時間 ''t'' を連続な実数として個体数変動をモデル化した。しかし、世代の交代が同期的に起こり、世代の重なりがないようなときには、時間を飛び飛びの時間間隔(離散時間)でモデル化したする方が整合性が取れ妥当である{{Sfn|寺本|1997|p=11}}。ロジスティック方程式型の離散時間モデルにはいくつかの種類があるが、一例として次のような[[差分方程式]]がある{{Sfn|巌佐|1990|p=49}}。
:<math> N_{n+1}=N_{n}+rN_n \left( 1-\frac{N_n}{K} \right) </math>
ここで、''n'' は世代で、''n'' = 1世代, 2世代, 3世代,... といったような飛び飛びの時間間隔を意味している。''N<sub>n</sub>'' は、''n'' 世代における個体数 ''N'' を意味している{{Sfn|巌佐|1990|p=49}}。上式と数学的には等価だが、[[ロジスティック写像]]と呼ばれる、次の形式での差分方程式もよく知られている<ref name="ウィロックス"/>。
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上記ではロジスティック方程式を
:<math>\frac{dN}{dt}\ = rN \left( 1-\frac{N}{K} \right) </math>
と表したが、これ以外の表現もある。いずれも数学的には等価だが、その導出過程における生態学的意味づけは様々である{{Sfn|瀬野|2007|pp=i, 25&ndash;26}}。[[#ロジスティック効果]]で説明したように、係数を ''ak'' = ''r'', ''b''/ = ''r''/''K'' と置い、ロジスティック方程式は
:<math>\frac{dN}{dt}\ = N(ar -bN kN)</math>
いう形式表され{{Sfn|瀬野|2007|p=22}}{{Sfn|ブラウン|2012|p=32}}{{Sfn|ハーバーマン|1992|p=41}}。''k'' は'''Verhulst-Pearl係数'''や'''種内競争係数'''と呼ばれる{{Sfn|寺本|1997|p=9}}。また、変数を ''N'' = ''N''/''K'' と置きなおして、すなわち個体数ではなく環境収容力に対する個体数の割合を変数として
:<math>\frac{dN}{dt}\ = ar N(1-N)</math>
がある{{Sfn|Hirsch et al.|2007|p=4}}。
 
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[[ベルギー]]・[[ブリュッセル]]の陸軍大学の数学者であった[[ピエール=フランソワ・フェルフルスト]]によって、ロジスティック方程式は発表された{{Sfn|コーエン|1998|pp=112&ndash;113}}。18世紀になると、[[トマス・ロバート・マルサス]]が出版した『[[人口論]]』に関心が高まっていた{{Sfn|山口|1992|p=54}}。[[マルサスモデル]]の説明で述べたように、マルサスは人口が指数関数的に成長していくモデルを発表し、その帰結として社会が飢饉の発生など破滅的状況を迎えることを予測した{{Sfn|人口研究会(編)|2010|pp=280&ndash;282}}。このセンセーショナルな予測は衝撃を与え、当時およびマルサス死後も長く続く論争を引き起こした{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=282}}。「近代統計学の父」と呼ばれる[[アドルフ・ケトレー]]も、マルサスのモデルに関心を持ち、人口増減モデルについて論じた{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=315}}。ケトレーは[[抗力|流体の抵抗]]をヒントにして、人口増加率への抵抗は人口増加率自体の二乗に比例すると考えた{{Sfn|山口|1992|p=55}}{{Sfn|寺本|1997|p=10}}。
 
ケトレーから教えを受けたこともあり、友人でもあったフェルフルストは、ケトレー自身からケトレーのモデルに関する研究を勧められた{{Sfn|山口|1992|p=56}}{{Sfn|瀬野|2007|p=20}}。ケトレーの考えをもとにして、人口が人口自体によって増加する一方で、人口増加を抑制する何らかの機構が働く数学的なモデルを思案した{{Sfn|人口研究会(編)|2010|p=307}}。1838年、フェルフルストは、"''Notice sur la loi que la population poursuit dans son accroissement''"という題で研究成果を発表し、この論文の中でロジスティック方程式が提案された{{Sfn|山口|1992|p=56}}。この論文の中でフェルフルストが実際に提案した式は、
:<math>\frac{dp}{dt}\ =mp-\phi(p) </math>
:<math>\phi(p)=np^2 </math>
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その後は、より現実的な個体群変動を表すことができるように、ロジスティック方程式を修正したモデルが提案されてきた。1948年には、[[ジョージ・イヴリン・ハッチンソン]]が時間遅れの影響をロジスティック方程式に導入した研究を行った{{Sfn|Kingsland|1982|p=49}}。ロジスティック方程式の前提条件を満たすような環境であっても、個体数が一定に収束せず、多くなったり少なくなったりをいつまでも繰り返すような生物実験の結果も得られた{{Sfn|山口|1992|pp=69&ndash;71}}。[[京都大学]]の[[内田俊郎]]と藤井宏一が[[マメゾウムシ|ヨツモンマメゾウムシ]]の培養実験でそのような結果を得たことを1953年に発表している{{Sfn|巌佐|1990|p=50}}。内田らは、ロジスティック方程式をもとにした[[差分方程式]]でこの結果を分析し、個体数の振動を再現した{{Sfn|山口|1992|pp=73&ndash;75}}。
 
ロジスティック方程式における ''r'' はその種個体群密度実現でとても低いとる最大相対増加率で表しており、これ密度低いとい方がにどれだけ素早く殖できる可能性があかを意味している{{Sfn|日本生態学会(編)|2004|p=62}}。また、''K'' はその環境下で生存できる個体数あるいは個体群密度の上限を示す{{Sfn|日本生態学会(編)|2004|p=62}}{{Sfn|レーヴンほか|2007|p=1150}}。1967年、[[ロバート・マッカーサー]]と[[エドワード・オズボーン・ウィルソン]]は、この ''r'' と ''K'' に着目して、[[島]]における生物個体群の定着と[[絶滅]]に関する理論を発案した{{Sfn|木元|1979|pp=108&ndash;109}}。彼らの理論によれば、ある生物の島への定着が成功するには大きな ''r'' を持つことが重要であり、絶滅の回避には大きな ''K'' を持つことが重要であるとし、それぞれの方向へ[[淘汰]]されることを '''r淘汰'''、'''K淘汰'''と呼んだ{{Sfn|木元|1979|pp=116&ndash;117}}。この説は[[r-K戦略説]]と呼ばれ、生物の[[生活史 (生物)|生活史]]の進化に種内競争の観点から説明を与えた{{Sfn|日本生態学会(編)|2004|pp=61, 64}}。
 
物理学から数理生態学へ転向してきた[[ロバート・メイ]]も個体群変動の問題に取り組んだ{{Sfn|山口|1992|p=76}}。メイはロジスティック方程式の離散化を行い、その式の解は、通常のロジスティック方程式の解とは全く異なる、現在では[[カオス理論|カオス]]と呼ばれる非常に複雑な振る舞いを起こすことを示した{{Sfn|スチュアート|2012|pp=342&ndash;343}}。この結果は1974年と1975年に発表され、大きな反響を得ると共に、その後の[[カオス理論]]の隆盛に大きく寄与することになる{{Sfn|スチュアート|2012|p=342}}<ref>{{cite book |和書 |title=カオスはこうして発見された |author1=ティェンイェン・リー |author2=ジェームス・A・ヨーク |others =ラルフ・エイブラハム、ヨシスケ・ウエダ (編) 稲垣耕作、赤松則男(訳) |publisher=共立出版 |year=2002 |edition=初版 |isbn= 4-320-03418-X |chapter=第10章 区間上のカオスを探索する |pages= 169-170}}</ref>。
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|ref={{Sfnref|ブラウン|2012}}
}}
*{{cite book ja-jp
|author=P.レーヴン; G.ジョンソン: J.ロソス; S.シンガー
|others =R/J Biology 翻訳委員会(監訳)
|title=レーヴン・ジョンソン 生物学 下(原書第7版)
|year=2007
|edition=第7版
|publisher=培風館
|isbn =978-4-563-07797-6
|ref={{Sfnref|レーヴンほか|2007}}
*{{cite book ja-jp
|author=Steven H. Strogatz