削除された内容 追加された内容
O157 のリダイレクト回避
1行目:
{{Infobox medical condition
| Name = 腹痛
| Image = Gray1220.png
| ICD10 = {{ICD10|R|10||r|10}}
| ICD9 = {{ICD9|789.0}}
}}
'''腹痛'''(ふくつう、はらいた、abdominal pain)とは、[[腹|腹部]]に感じる[[疼痛|痛み]]として自覚される[[症状]]である。
9行目:
腹痛は主に「[[器官|内臓]]性腹痛」、「体性痛」、「[[関連痛]]」、「心因性腹痛」などに分けられる。腹痛を発生させる要因も様々なものがあり、体内で発生した何らかの異常を知らせる情報がまず'''痛み'''として自覚される。またこれらの痛みは、異常に対する一種の防御反応とも言えるものである。
 
痛みの症状が著しい場合は、人体に対して二次的に生理的・心理的影響を及ぼす可能性が高くなるため、速やかに要因を突き止め、[[病院]]や[[診療所]]など、医療機関で適切な処置を受ける必要がある([[急性腹症]]、[[疼痛]]を参照)。
 
== 腹痛のアプローチ ==
急性腹痛では次のようなステップ順序で行うと[[誤診]]が少なくなる。まずは外傷性かどうかを調べる。病歴をもとに考え、[[腹部エコー]]で臓器損傷を確認する。次に産科的疾患、婦人科的疾患、外科的疾患、内科的疾患と考えていく。どうしても診断がつかなければLQQTSFAを全て埋めるような問診をして、精神的疾患まで考えていく。診断をつける際は緊急手術が必要かどうかを常に考える。たいていの場合、腹痛の緊急性は、心肺血管系の緊急疾患でない場合、原因によらず、[[腹膜炎]]になっているかどうかで決まる。緊急性を感じたら、術前に必要な検査を行い、静脈確保も手術に耐えられるようなものにしなければならない。具体的には、胸部X線写真ではPA像で撮影、腹部X線写真は立位、臥位の二方向撮影、凝固機能、クロスマッチテスト、針は18Gにするといったことを行わなければならない。原則として背部痛を伴う場合は[[後腹膜臓器]]の疾患を考える。ブスコパンで反応すれば内科系疾患であり、反応しなければ外科系疾患であるという経験則も使える。救急では診断がつき、[[バイタルサイン]]が安定化するまでは[[鎮痛薬]]を使用しないという原則がある。ブスコパンは[[鎮痙薬]]であるので使っても診断は行うことができる。またたとえ診断がついても[[モルヒネ]]は膵、胆管系の疾患を増悪させるので禁忌である。
 
慢性腹痛では、機能性の疾患([[過敏性腸症候群]]、[[便秘]]、[[機能性胃腸症]]など)が多いが、見逃してはならないのは腸閉塞と[[悪性腫瘍]]である。
 
重要な問診事項は以下のようなものである。
103行目:
=== 悪心・嘔吐 ===
==== 悪心・嘔吐を起こす疾患 ====
[[悪心]]、[[嘔吐]]は[[延髄]]にある嘔吐中枢によって制御されている。消化器、心臓、[[前庭]]、脳実質の障害によって嘔吐は誘発される。中枢神経系の障害による嘔吐は悪心を伴わないのが一つの特徴である。消化器の異常が最も多いがそれ以外の疾患も数多い。特に急性冠症候群が悪心、嘔吐のみしか認められないことがあり注意が必要である。診断学上は[[下痢]]といった下部消化器症状の有無が重要である。下部消化器症状が認められる場合は中毒(特に薬物では[[ジゴキシン]]や[[テオフィリン]]が有名)によるもの以外は消化器疾患である可能性が高い。特に見逃すと重篤な疾患としては脳内病変としては脳出血や[[髄膜炎]]があげられる。無痛性心筋梗塞は糖尿病患者や高齢者で多いとされている。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)(DKA)、アルコール性ケトアシドーシス(AKA)(AKA)、[[腎盂腎炎]]、[[妊娠]]、敗血症、絞扼性イレウス、急性胆嚢炎、急性膵炎などが重要である。これらの疾患は下痢といった下部消化器症状を伴わないことが多い。
 
悪心、嘔吐を起こす疾患としては具体的には以下のような疾患が考えられる。
144行目:
 
経口摂取、経口薬の内服が不可能であり、脱水している場合があるため原則としては採血、点滴を行う。
検査では閉塞性疾患を考える場合はまずは腹部単純[[X線撮影]]をおこなう。排ガスや排便の停止が認められる場合は非常に重要な検査となる。重篤な疾患の見落としを避けるには頭部CTや心電図、尿検査を行う。血糖値が250mg/dlであればDKAを疑い、動脈血液ガスや尿中ケトン体を測定する。機能的な閉塞は腹部単純X線撮影が分かりやすい。これは必ず立位と臥位で撮影を行う。機械的な閉塞、[[大腸癌]]や絞扼性[[イレウス]]を疑う場合は造影CTを検討する。絞扼性[[イレウス]]の場合は腹水の貯留が認められることが知られ、単純CTでも見分けることができることもある。
 
==== 悪心・嘔吐の治療 ====
171行目:
[[下痢]]とは24時間以内に200g以上の頻回の軟便、あるいは水様便が認められる状態である。アプローチとしてはまずは脱水所見の有無の確認から入る皮膚のツルゴール、粘膜の乾燥といった身体所見、嘔吐や経口摂取不可能といったエピソード、腹部診察による腹痛など随伴症状の有無、採血における電解質異常などから判断する場合が多い。脱水が認められるが場合は点滴などによる脱水の解除を行う。特に高齢者や小児では容易に脱水が起こしやすい。
 
その後、感染性、非感染性の区別を行う。体外毒素型の感染の場合は発熱が認められないことに注意が必要である。血が混じっているかといった便の性状、過去2日~3から3日の食事歴、旅行歴、同様の症状を伴った人が周りにいるか、抗菌薬の使用の有無、アレルギーなどが重要な問診事項となる。[[食物アレルギー]]([[カキ (貝)|カキ]]などの食物による嘔吐、下痢など)などの存在にも留意する。嘔吐なしの軽症患者では検査なし、重症患者、脱水患者では採血、点滴の施行、特殊患者では便培養を施行することが多い。
 
重要なことは'''感染性下痢症であってもほとんどの場合は抗菌薬の投与は不要である'''。通常であれば排泄によって起炎菌の排出で自然治癒をするということが第一にあげられる。さらに抗菌薬投与によって増悪することもある。例えばサルモネラ菌による腸炎の場合は[[抗菌薬]]の投与によって[[保菌者]]となることがある。[[腸管出血性大腸菌]][[O157]](O157など)の場合は[[溶血性尿毒症症候群]](HUS)(HUS)を誘発することがある。'''[[止瀉薬]]に関しても感染性下痢、出血性下痢といった器質性下痢に対しては使用しない'''。消化管の排菌機能を抑えてしまうからである(特に'''O157'''や'''[[志賀毒素]]を産生する[[赤痢菌]]'''の感染による下痢の場合は止瀉薬の服用によって重篤になることもある)。こういった事情から原則は乳酸菌などの[[整腸剤]]の投与を行う。海鮮物魚介類による下痢、出血性下痢、感染性胃腸炎で頻度の多いE.coli O157:H7、Campylobacter spp.(カンピロバクター)、Vibro parahemolyticus(腸炎ビブリオ)などには抗菌薬が不要である。逆に抗菌薬を使用する感染性胃腸炎には敗血症、重症感のある場合、旅行者下痢症、偽膜性大腸炎、性感染症、肝硬変の患者のVibrio vulnificusなどである。Vibrio vulnificusは生魚などに含まれる細菌であるが、肝硬変患者が感染すると致死率が高い。この場合はテトラサイクリン系の抗菌薬を用いる。下痢の患者に抗菌薬を使用する場合はラックビーRやビオフェルミンRといった抗菌薬耐性の整腸剤を併用する。よく用いる抗菌薬は点滴であれば[[セファマイシン]]系であるセフメタゾンなどである。経口薬では[[ニューキノロン]]系であればトシル酸[[トスフロキサシン]](オゼックス)を150mg錠で3錠分3で5日間や、ホスホマイシン系では[[ホスホマイシン]](ホスミシン)を500mg錠で6錠分3で5日間などがよくみる処方である。起炎菌は市中と院内では大きく異なることが知られており、入院後3日経過していれば抗菌薬投与中といった特殊な事情がなければ便培養は不要である。これはほとんどの場合は感染性ではなく別の原因で起る下痢であるからである。対症療法が必要ならばこの場合も整腸剤を用いる。
 
入院中の下痢、発熱の場合は[[クロストリジウム・ディフィシル腸炎]]を疑いCDトキシンの測定が必要となる。診断したら[[メトロニダゾール]]または経口[[バンコマイシン]]で治療する。
179行目:
[[止瀉薬]]は機能性下痢症にのみ原則用いる。潰瘍性大腸炎に塩酸ロペラミドなど腸運動抑制薬を投与すると中毒性巨大結腸を起こすことなどが有名である。非感染性器質性下痢には炎症性疾患、血管疾患、吸収不良疾患、[[乳糖不耐症]]、手術後、内分泌疾患、放射線、腫瘍、アレルギー疾患、中毒、薬物、便秘、レジオネラ肺炎の随伴症状と多数知られている。
 
=== [[胃腸出血|消化管出血]] ===
消化管出血は腹痛を伴うことがある。消化管出血で特徴のある症候としては、[[吐血]]、[[メレナ]](別名[[タール便]])、[[下血]]、[[血便]]といったものがあげられる。症候によって出血部位の予測がある程度できるとされている。一般に[[トライツ靱帯]]より口側を上部消化管、肛門側を下部消化管という。上部消化管出血は消化性潰瘍の場合が多く胃痛を伴うことが多く、下部消化管出血は下腹部痛を伴うことが多い。
{|class="wikitable" style="margin-left:2em; font-size:95%"
236行目:
|}
吐血、メレナが認められた場合は、まずは[[窒息]]の可能性がないかを評価する。吐物による閉塞が酷い場合は[[気管内挿管]]を考慮する。その後血圧にて循環動態の評価をする。静脈路確保や[[輸液]]を行う。そしてNGチューブによる胃洗浄、食道静脈破裂を疑う場合はSB]チューブの挿入を行う(2010年現在は行わないことが多い)。そして上部消化管[[内視鏡]]による診断と止血を行うのが大まかな流れとなる。吐物が赤か黒か、[[イカ墨]]や[[ワイン|赤ワイン]]といった黒色便の原因となる食事の摂取の有無、腹痛、背部痛といった症候の有無を確認する。既往歴としては消化性潰瘍歴、[[ピロリ菌]]除菌歴、肝疾患について調査し、アルコールの飲酒歴、アスピリン、[[NSAIDs]]、[[抗凝固薬]]、[[SSRI]]、[[スピロノラクト]]ン、鉄剤の使用歴を調査する。慢性肝疾患の合併の確認のためにくも状血管腫、手掌紅斑等も確認する。肝炎ウイルス検査陽性であり凝固異常が認められ食道静脈瘤破裂が疑われれば鼡径静脈で中心静脈確保を行い、感染予防、NGチューブの挿入を行う。
 
==== 下血 ====
まずは[[バイタルサイン]]の測定を行い、循環動態の評価を行う。静脈路確保を行い、[[輸液]]をする。[[肛門鏡]]検査にて痔出血の有無を確認する。痔出血であっても大量出血の場合は緊急手術が必要である。少量ならば座薬や軟便剤の処方にて経過観察が可能である。痔出血でなければ内視鏡検査にて出血源の同定を行う。下血を起こす疾患の頻度では下部消化管の方が多いが[[大腸内視鏡]]では前処置が必要であり、下剤の大量投与は誤嚥のリスクがあること、上部消化管出血で下血が起こる場合は大量出血の可能性があることから[[上部消化管内視鏡]]検査から行われることが多い(場合によってはS状結腸内視鏡、[[シグモイドスコピー]]を用いることがある。)。上部消化管、下部消化管ともに出血源が認められなかった場合は小腸出血の可能性を考える。かつては出血シンチグラフィーや血管造影が行われていた。出血シンチグラフィーでは造影CTにて所見がない場合は検出できる可能性が低い。近年は小腸内視鏡である[[ダブルバルーン内視鏡]]や[[カプセル内視鏡]]が用いられることもある。
258 ⟶ 259行目:
 
==出典==
{{Reflist|30em}}
 
== 参考文献 ==