「成年後見制度」の版間の差分

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後半を整理、出典なく追加された範囲には後見人の権限が保佐人の権限の範囲を定めた民法13条の説明になっているなど不正確なものが含まれるため除去
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*複数成年後見人(保佐人・補助人)、法人後見の導入。なお、後見人(保佐人・補助人)が複数選任されている場合、第三者の[[意思表示]]はそのうちの一人に対してすれば足りる([[b:民法第859条の2|民法859条の2]])。
*保佐人、補助人の取消権の明文化。
 
== 権限 ==
成年後見人の権限として認められる例は、預貯金の解約や株式の売却、遺産分割協議や相続の手続き、病院・介護施設への入院・入所契約である。条件付きながら、介護施設に入所するための自宅の売却、自宅の建て替え、財産から一定の報酬を得ることも認められる。しかし遺言や子供の認知、日用品の購入を取り消して返品することは認められない。また、成年被後見人にあてた郵便物等を成年後見人に転送することは、郵便局へ提出する転居届(郵便法第35条)で行う場合、成年後見人と成年被後見人が同居している事実を郵便局が確認できない場合は認められない。成年後見人が後見事務を行うために郵便物等の転送をさせる場合は、家庭裁判所に「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(転送)の嘱託の審判」(以下「転送嘱託の審判」)を申し立て、家庭裁判所により転送嘱託の審判が確定した後、家庭裁判所から日本郵便等にその旨の通知がされ、6ヶ月を超えない期間で転送がおこなわれる。(家事事件手続法第122条第2項)。ただし、郵便物等に該当するものは、郵便法上の「郵便物」又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する「信書便物」のことを指す(民法第860条の2第1項)ため「ゆうパック」等は「郵便物」に該当しないことから、転送の対象に含まれない。
認められるケースに関しては、いずれも本人のためにする必要があり、成年後見人自身や本人の家族のためにするのは後見人の義務に反するということを理解すべきである。条件付きで認められるケースに関しては、被後見人は自分の意思を表明しにくく、弱い立場にあることに留意しなければならない。取り分け生活拠点である自宅の処分は慎重さが求められる。認められないケースに関しては、例えば日用品まで介入するのは、本人の意思を不当に束縛するためであり、意思を尊重することと判断力の限界を推し量ることのバランスが課題となる。本人の預貯金を解約して株式に投資することに関しては、財産管理の一環として成年後見人に法的権限があることは否定できないが、2017年3月時点では「株式投資は元本が保証されないので、実際に投資した例は聞かない」と司法書士の大貫正男は話している<ref>日本経済新聞朝刊2017年3月11日付</ref>。
 
*代理権 - 申立ての範囲内で家庭裁判所が定めた特定の法律行為について本人に代わって行なうことができる。
**財産管理に関する法律行為 - 本人の資産に関することや負債、収入・支出の内容を把握し、本人のために必要かつ相当な支出を計画的に行ないつつ資産を維持していく。たとえば、不動産などの財産の管理、処分、契約締結など、銀行、郵便局など金融機関との取引など、遺産相続、各種行政上の手続きなど。
**身上監護に関する法律行為 - 介護契約や施設入所契約など、本人の身の回りの世話や療養看護に関すること。たとえば、受診・治療・入院に対する契約締結や費用の支払い、医師からの治療法などの説明を受ける際の同席など、老人ホーム等の施設の入退所や介護サービス利用等に関する、本人との話合い・情報収集・利用手続き・契約締結・費用の支払いなど、施設や介護サービス等における処遇の監視と異議申立てなど。
*同意権・取消権 - 重要な法律行為(民法13条1項)について必要に応じて同意したり取り消したりできる。重要な法律行為とは、(1) 預貯金を払い戻す、(2) 金銭を貸し付ける、(3) 金銭を借りたり、保証人になる、(4) 不動産などの重要な財産に関する権利を得たり失ったりする行為をする(訪問販売、通信販売、クレジット契約を含む)、(5) 民事訴訟の原告となって訴訟行為をする、(6) 贈与、和解、仲裁合意をする、(7) 相続を承認、放棄したり、遺産分割をする、(8) 贈与や遺贈を拒絶したり、不利な条件の付いた贈与・遺贈を受ける、(9) 新築、改築、増築や大修繕をする、(10) 民法602条に定める一定期間を超える賃貸借契約をする。日用品の購入、その他日常生活に関する行為については取り消すことができない。
 
== 法定後見 ==
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任意後見に関する業務(見守り契約や任意代理契約を含む)については司法書士法施行規則31条を備えている司法書士以外の者が行う場合に弁護士法72条違反の可能性が指摘されている(「成年後見制度をめぐる諸問題」赤沼康弘編署)。
 
== 成年後見制度の課題と問題点に関する証明書 ==
;登記事項証明書
:法定後見・保佐・補助が発効、もしくは任意後見契約が成立すると裁判所、公証人の嘱託により[[東京法務局]]後見登録課で後見登記がされる。その登記事項は、[[登記事項証明書]]により証明される。1通<!--800円-->550円<ref name="fee">平成23年4月1日から証明書手数料の変更(引下げ)あり。{{Cite web |url=http://houmukyoku.moj.go.jp/nagoya/static/3.17koseki.htm |publisher=法務省名古屋法務局 |title=成年後見登記について |accessdate=2012年7月22日}}</ref>。
;登記なきことの証明書
:この証明書は、後見登記がされていないことを証明するものである。法務局・地方法務局戸籍課(東京は後見登録課)で発行される。従来の禁治産者・準禁治産者でないことは、市町村役所で発行される身分証明書にて破産者でないことと一括で証明されていた。2000年4月以降の成年後見制度では、成年被後見人・被保佐人・被補助人でないことは登記されていないことの証明書にて証明されるようになった。対して、破産者でないことは身分証明書で証明される。主として、国家資格の登録などにおいて欠格事由に該当しないことの証明に用いられる。1通<!--400円-->300円<ref name="fee"/>。
 
=== 国連障害者権利条約精神保健福祉法との関係 ===
[[精神保健福祉法]]第20条は、後見人又は保佐人を精神障害者の保護者になる者の第1順位としている<ref>保護者になる者の第2順位以下の[[配偶者]]・[[親権者]]・[[扶養義務者]]については本人保護のために特に必要であると家庭裁判所が認めた場合、利害関係人の申立てにより保護者となる者の順位を変更できる。しかし、後見人と保佐人に関しては、順位変更の規定から除外されている。</ref>。これにより[[精神障害者]]の後見人及び保佐人は当然に「[[保護者#各法律による成年者に対する保護者の定義|保護者]]」となり、精神保健福祉法上の義務も負う。
国連障害者権利委員会一般意見書 1 号は、条約 12 条に基づき、「代行意思決定制度」を否定しており、成年後見類型と保佐類型については、条約と意見書が求める「支援付き意思決定制度」に抵触する疑いがある。
 
職業後見人が単独で後見人に就任した場合、実際には[[家族]]・[[親族]]がいて身の回りの世話などを行っている場合でも法律上は職業後見人が当然に精神保健福祉法上の保護者となる。つまり、受療義務など保護者としての法的な義務は家族・親族ではなく後見人が負うことになる。
 
=== 法定後見担い手実務と課題 ===
=== 後見人類型 ===
後見人となる者は[[2010年]]の[[最高裁判所事務総局]]家庭局編成年後見事件の概況によれば、同年の選任時件総数28,606人のうち、家族・親族が約58.6%の16,758人であり、残余が第三者後見人であった。第三者後見人の内訳は司法書士が約15.6%の4,460人、弁護士が約10.2%の2,918人、社会福祉士が約8.9%の2,553人、法人が後見人に選任される法人後見は約3.3%の961人、知人名義が約0.5%の140人、その他が約2.8%で816人となっている。親族等の選任が減るのと反比例して、職業後見人として選任されている司法書士は前年比約26.8%の増加、弁護士は前年比約23.7%の増加、社会福祉士は前年比約22.9%の増加となっている。また、法定後見において財産管理や遺産分割等の法律事務中心と見込まれる場合は法律職が、身上監護を重視すべき事案と裁判所が判断した場合には、[[社会福祉士]]等福祉専門職が選任されるといわれている。身上監護を家族後見人、財産管理を第三者後見人が担うなど、様々な事情によって複数の後見人を選任して役割分担することもある。
 
==== 職業後見人 ====
専門職従事者(いわゆる士業)による第三者後見人を、とくに「'''職業後見人'''」と呼ぶことがある。
 
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このように、後見制度支援信託制度の導入、弁護士・司法書士・社会福祉士以外の士業や団体等も後見人養成を行っており、今後増加する後見人の受け皿を増加させる動きが増えている。
 
==== 市民後見人 ====
とはいえ、職業後見人に対しては月額およそ3 - 5万円の報酬を本人の財産から支払う必要がある。このため成年後見制度を利用すべき状態にある高齢者であっても後見人となるべき家族等がおらず、または家族から財産侵害([[経済的虐待]])を受けているために家族を後見人にするのが不相当な場合などは一定の資力がないと職業後見人を付することができないという問題が生じていた。
 
こうしたなかで都道府県や[[日本成年後見法学会]]等では、後見人の養成が急務であると考えており[[東京都]]では市民後見人の養成講座が開催され、[[世田谷区]]でも同様の取り組みが行われる予定であると発表されている。また、一般の[[市民]]の中にも第三者後見人の担い手になる動きが広がっている(「'''市民後見人'''」)。[[滋賀県]][[大津市]]の[[特定非営利活動法人]]「あさがお」、[[岐阜県]][[多治見市]]の「東濃成年後見センター」などの民間機関による活動の例がある。しかし、各士業団体の指導・監督を受け、常に能力の向上を図っている専門職後見人とは異なり、市民後見人の能力担保を具体的にどう図るのかが課題とされている。
 
=== 成年後見人の背任および横領権限 ===
成年後見人の権限として認められる例は、預貯金の解約や株式の売却、遺産分割協議や相続の手続き、病院・介護施設への入院・入所契約である。条件付きながら、介護施設に入所するための自宅の売却、自宅の建て替え、財産から一定の報酬を得ることも認められる。しかし遺言や子供の認知、日用品の購入を取り消して返品することは認められない。また、成年被後見人にあてた郵便物等を成年後見人に転送することは、郵便局へ提出する転居届(郵便法第35条)で行う場合、成年後見人と成年被後見人が同居している事実を郵便局が確認できない場合は認められない。成年後見人が後見事務を行うために郵便物等の転送をさせる場合は、家庭裁判所に「成年被後見人に宛てた郵便物等の配達(転送)の嘱託の審判」(以下「転送嘱託の審判」)を申し立て、家庭裁判所により転送嘱託の審判が確定した後、家庭裁判所から日本郵便等にその旨の通知がされ、6ヶ月を超えない期間で転送がおこなわれる。(家事事件手続法第122条第2項)。ただし、郵便物等に該当するものは、郵便法上の「郵便物」又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する「信書便物」のことを指す(民法第860条の2第1項)ため「ゆうパック」等は「郵便物」に該当しないことから、転送の対象に含まれない。
このように後見人の担い手は広がりつつあるが、一方で家族が後見人となり財産管理をする傍らで本人の財産を侵奪したり悪徳リフォーム業者が認知症高齢者の任意後見人になり高額の契約を結んだりする等の事例があるのも事実である。年金生活である知的障害者の家族が、年金収入を家族の生計に充てている事例があるとの指摘もされている。監督人がいない場合、後見人を家庭裁判所が監督する建前だが裁判所の人的資源の限界もあって十分な監督ができていないのが実情である。他方、任意後見の移行型については任意後見受任者が監督を忌避して監督人選任申立てを故意的に懈怠する可能性も学会や新聞紙上等において指摘されており、<ref>[[2005年]]開催の日本成年後見法学会のシンポジウム及びその内容を記録した{{Harvnb|日本成年後見法学会|2006|p=155}}等。</ref>監督忌避を目的に任意代理契約でそのまま進めて問題が生じているケースもある。
認められるケースに関しては、いずれも本人のためにする必要があり、成年後見人自身や本人の家族のためにするのは後見人の義務に反するということを理解すべきである。条件付きで認められるケースに関しては、被後見人は自分の意思を表明しにくく、弱い立場にあることに留意しなければならない。取り分け生活拠点である自宅の処分は慎重さが求められる。認められないケースに関しては、例えば日用品まで介入するのは、本人の意思を不当に束縛するためであり、意思を尊重することと判断力の限界を推し量ることのバランスが課題となる。本人の預貯金を解約して株式に投資することに関しては、財産管理の一環として成年後見人に法的権限があることは否定できないが、2017年3月時点では「株式投資は元本が保証されないので、実際に投資した例は聞かない」と司法書士の大貫正男は話している<ref>日本経済新聞朝刊2017年3月11日付</ref>。
 
=== 成年被後見人の法的権利に関する問題 ===
具体的な事例としては、後見人である親族による金銭の着服が発覚し刑事事件となるケースとして、[[福岡県]]で知的障害の実兄2人の成年後見人であった実弟が[[闇金融|ヤミ金]]業者らと共謀して多額の預金を引き出したとして[[親族相盗例]]を排除して[[業務上横領罪]]を適用し、[[福岡地方検察庁]][[特別刑事部]]によって[[逮捕]]・[[起訴]]されたことが[[2006年]][[10月5日]]付けの[[毎日新聞]]によって報じられている。
==== 欠格事由 ====
成年後見制度を利用すること(多くは成年被後見人又は被保佐人になること)で権利の制限となっている資格・制度(いわゆる欠格事由)が多く残されている。[[国家公務員法]]、[[地方公務員法]]などの公務員の任用にあたっての欠格事由となっているほか、[[弁護士法]]、[[公認会計士法]]、警備業法など多岐にわたる。そしてこのことが、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つになっていると指摘されている<ref>{{Cite web|title=成年後見制度利用促進基本計画について-内閣府2‐(2)‐①‐エ)|url=https://www.cao.go.jp/seinenkouken/keikaku/index.html|website=www.cao.go.jp|accessdate=2019/5/12|language=ja|publisher=}}</ref>。実際に、被保佐人となったことを理由に雇用契約を打ち切られたり、公務員としての任用を継続できなくなったりするケースがある。2015年7月には、被保佐人となったことで地方公務員の任用が打ち切られたとして、自治体を相手に、地位確認と損害賠償を求める訴訟が起きている<ref>{{Cite news|title=成年後見制度:「被保佐人で臨時職員解雇は違法」市を提訴|newspaper=毎日新聞|date=2015年7月24日|url=http://mainichi.jp/select/news/20150725k0000m040094000c.html|archiveurl=http://web.archive.org/web/20150725121803/http://mainichi.jp/select/news/20150725k0000m040094000c.html|archivedate=2015年7月25日}}</ref>。
 
このため、[[成年後見制度利用促進法]]及び同法に基づく成年後見制度利用促進基本計画からの指摘を受け、成年後見制度を利用していることを理由とする欠格条項を含む法律188本を一括改正する法案(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案)が第196回[[国会 (日本)|国会]]に提出されている<ref>{{Cite web|title=欠格条項、一律削除へ 成年後見制度で法案決定|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28038410T10C18A3CR0000/|website=日本経済新聞 電子版|accessdate=2019-05-12|language=ja}}</ref>。
また、[[2012年]][[2月]]には[[広島高等裁判所|広島高裁]]で、財産管理能力を考慮せずに親族の一人を成年後見人とした結果、財産を着服されたとして、[[広島家庭裁判所|広島家裁]]の過失を認める判決が出されている<ref>{{Cite news |title=成年後見横領:家裁の過失認定 成年後見人トラブルで初--広島高裁 |newspaper=毎日新聞 |date=2012年2月21日 |url=http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2012/02/21/20120221dde041040007000c.html}}{{リンク切れ|date=2018年11月}}</ref>。
このような財産着服は、[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]家庭局によると、[[2010年]][[6月]]から[[2011年]][[3月]]の10ヵ月間だけでも182件に及ぶという。最高裁は、[[信託制度]]を活用する形での財産保護策を検討している<ref>{{Cite news |title=後見制度:10カ月で悪用182件 「信託制度」導入へ--最高裁が防止策 |newspaper=毎日新聞 |date=2011年10月20日 |url=http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111020ddm012040046000c.html}}{{リンク切れ|date=2018年11月}}</ref>。
 
なお、法改正の動きに先行して、[[兵庫県]][[明石市]]では、成年被後見人又は被保佐人が地方公務員に就くことができない欠格事由となっている地方公務員法16条1号および28条4項につき、その例外を定める条例(明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例)を制定した(2016年4月施行)。<ref>{{Cite web|title=障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例を制定しました/「4 関係資料」その他関係資料内|url=http://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/seitei.html|website=明石市|accessdate=2019-05-12|language=ja|last=明石市|publisher=}}</ref>
一方専門職による職業後見人が不当な報酬額を取得し財産を侵奪したりするケースとして、社団法人成年後見センター・リーガルサポート東京支部の元副支部長である司法書士が、任意後見契約において設定された報酬額に加えて日当等を請求し、結果的に年間500万円程度の多額の報酬額を不当に取得したとして問題となった。この司法書士は、2006年春に成年後見に関する書籍を発行するなどの活動を行っていた。
 
また、東京弁護士会元副会長の弁護士が、2009年から12年までの間に、成年後見人として管理していた千葉県に住む女性の定期預金を解約し、約4200万円を自分の口座に入れるなどして横領した。[[読売新聞社]]の取材では、'''成年後見制度'''を悪用するなどして[[高齢者]]などの財産を着服したり騙し取ったりしたとして、[[2013年]]から[[2015年]]にかけて23人の弁護士が起訴されている<ref>{{Cite news |title=弁護士の着服、被害20億円超…後見人悪用も |newspaper=読売新聞 |date=2015年12月19日 |url=http://www.yomiuri.co.jp/national/20151219-OYT1T50145.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20151220033549/http://www.yomiuri.co.jp/national/20151219-OYT1T50145.html |archivedate=2015年12月20日}}</ref>。これら職業後見人による財産着服についても、信託制度の活用が最高裁判所から求められたが、[[日本弁護士連合会]]の反対により頓挫している。
 
このような中で、後見人としての資質の向上や倫理観、懲罰制度についての議論が起こっており、特に裁判所では士業者団体による後見人候補者名簿の作成に当たっては、名簿提出をする団体の研修内容や組織体制を重視してきた。また士業者団体に対し、裁判所が適切な懲罰制度を設けることなどを求める例もでている。また民間団体による市民後見人が後見業務を行う場合には、複数の法人で相互に活動をチェックする体制をとるなど、権限の濫用を防止するための試みも行われているとの報道がなされている<ref>[[日本経済新聞]][[夕刊]] 2006年[[10月19日]]など</ref>。
 
=== 医的侵襲に対する同意 ===
医療の現場では手術、輸血、人工呼吸器装着などの高度な延命措置など侵襲的または高度・不可逆的な医療行為の前に本人に代わって説明を受け、その同意を後見人に求めるケースがある。しかし法的には後見人等は[[遺言]]や[[結婚|婚姻]]などの身分行為や治療に関する同意など、本人の一身に専属する行為を代理して行う権限はないと考えられている<ref>診療契約、介護契約締結は法律行為なので代理できる点は争いない。医的侵襲については、
:A)診療・介護契約の締結が治療・介護行為への同意と不可分一体のものであると考えれば診療契約締結の代理権に付随して、治療行為への同意権があると解するとする立場
:B)包括的な診療契約の締結(法律行為)と医的侵襲を伴う治療方法(事実行為)の選択とは性質が異なることに基づき、同意権は認められないとする立場
がある。この論点については後見人業務を行う職業後見人及び医療関係者双方の実務家から現実に[[インフォームド・コンセント]]がますます重視され、また輸血を行う際には必ず文書での同意が必要となっていることなどからも形式的な法理論だけでは実務が成り立たないという声が上がっており、法改正により同意権を明文化すべきとする意見が学会や職域団体における議論の中で提示されている。現状は十分な議論が尽くされている状況ではなく、引き続き関連諸団体において議論中である。({{Harvnb|日本成年後見法学会|2006}}等)</ref>。
 
==== 選挙権に関する問題 ====
[[公職選挙法]]第11条<ref>{{Cite web |url=http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=325AC1000000100 |title=公職選挙法 |accessdate=2013年3月14日 |work=e-Gov法令検索 |publisher=総務省行政管理局}}</ref>は、[[家庭裁判所]]から[[成年被後見人]]に認定されている人は、[[選挙権]]と[[被選挙権]]を有しないと定めていた(ただし、あくまで上記類型のうちの「精神上の障害により判断能力を「欠く常況にある」」とされる後見のみが対象であり、保佐、補助はその対象外である)。
 
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2013年(平成25年)3月14日に、東京地方裁判所は、公職選挙法が定めるを有しないと規定している事は憲法違反であると、[[知的障害者]]である原告の主張を認める[[違憲判決]]を下した<ref>{{Cite news |title=成年後見制度で選挙権喪失違憲判決 |newspaper=NHKニュース |date=2013年3月14日 |url=http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130314/t10013194891000.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20130317031345/http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130314/t10013194891000.html |archivedate=2013年3月17日}}</ref><ref>{{Cite news |title=公選法規定は「違憲」=被後見人の選挙権認める-知的障害の女性勝訴・東京地裁 |newspaper=時事通信 |date=2013年3月14日 |url=http://www.jiji.com/jc/zc?k=201303/2013031400505&rel=j&g=soc |archiveurl=http://archive.is/C3Qlh |archivedate=2013年4月26日}}</ref><ref>{{Cite news |title=成年後見制度利用、選挙権奪うのは「違憲」 地裁判決 |newspaper=朝日新聞 |date=2013年3月14日 |url=http://www.asahi.com/national/update/0314/TKY201303140109.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20130314211245/http://www.asahi.com/national/update/0314/TKY201303140109.html |archivedate=2013年3月14日}}</ref><ref>{{Cite news |title=成年後見制度:選挙権喪失は違憲 東京地裁判決 |newspaper=毎日新聞 |date=2013年3月14日 |url=http://mainichi.jp/select/news/m20130314k0000e040186000c.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20130316233140/http://mainichi.jp/select/news/m20130314k0000e040186000c.html |archivedate=2013年3月16日}}</ref><ref>{{Cite news |title=成年後見制度で選挙権制限は違憲…東京地裁 |newspaper=読売新聞 |date=2013年3月14日 |url=http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20130314-OYT1T00691.htm |archiveurl=http://web.archive.org/web/20130317191237/www.yomiuri.co.jp/national/news/20130314-OYT1T00691.htm |archivedate=2013年3月17日}}</ref>。
 
[[日本政府]]側([[総務省]])は、判決を不服として[[東京高等裁判所]]に控訴したが、[[2013年]]([[平成]]25年)[[5月27日]]、成年後見制度で[[後見人]]が付いた者も、選挙権を一律に認める公職選挙法改正案が、[[国会]]で成立した<ref>{{Cite news |title=成年被後見人の選挙権回復 改正公職選挙法が成立 |newspaper=朝日新聞 |date=2013年5月27日 |url=http://www.asahi.com/politics/update/0527/TKY201305270198.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20130528055434/http://www.asahi.com/politics/update/0527/TKY201305270198.html |archivedate=2013年5月28日}}</ref>。
 
==== 東京電力への賠償請求における課題 ====
=== 欠格事由 ===
[[認知症]]高齢者などの意思能力のない者、不足する者(いわゆる賠償弱者)が、[[福島第一原子力発電所事故]]に係る賠償請求をするには成年後見人を選任するしか方法がなく、賠償弱者の権利擁護を図るべき成年後見制度がかえって壁となり、賠償請求できない事態となっている。弁護士などの専門職が認知症高齢者の依頼を受け代理することは[[無権代理]]行為となるためできず、通常は家族等が無権代理行為で東電の請求書を作成しているが、身寄りのない認知症高齢者に代わって賠償請求するものはいない。
成年後見制度を利用すること(多くは成年被後見人又は被保佐人になること)で権利の制限となっている資格・制度(いわゆる欠格事由)が多く残されている。[[国家公務員法]]、[[地方公務員法]]などの公務員の任用にあたっての欠格事由となっているほか、[[弁護士法]]、[[公認会計士法]]、警備業法など多岐にわたる。そしてこのことが、成年後見制度の利用を躊躇させる要因の一つになっていると指摘されている<ref>{{Cite web|title=成年後見制度利用促進基本計画について-内閣府2‐(2)‐①‐エ)|url=https://www.cao.go.jp/seinenkouken/keikaku/index.html|website=www.cao.go.jp|accessdate=2019/5/12|language=ja|publisher=}}</ref>。実際に、被保佐人となったことを理由に雇用契約を打ち切られたり、公務員としての任用を継続できなくなったりするケースがある。2015年7月には、被保佐人となったことで地方公務員の任用が打ち切られたとして、自治体を相手に、地位確認と損害賠償を求める訴訟が起きている<ref>{{Cite news|title=成年後見制度:「被保佐人で臨時職員解雇は違法」市を提訴|newspaper=毎日新聞|date=2015年7月24日|url=http://mainichi.jp/select/news/20150725k0000m040094000c.html|archiveurl=http://web.archive.org/web/20150725121803/http://mainichi.jp/select/news/20150725k0000m040094000c.html|archivedate=2015年7月25日}}</ref>。
 
また、認知症高齢者などは度重なる避難生活に健常者よりストレスや不便を強いられることから[[原子力損害賠償紛争解決センター]](原発ADR)や裁判所に賠償金の増額を申し立てねばならないため、結局、成年後見人を選任しなければならない。しかしながら[[東京電力]]への賠償請求は、早くて[[2014年]]3月10日(またはダイレクトメールを通知した3年後の9月以降)に[[消滅時効]]となるため、それまでに成年後見人をつけ、賠償請求することは困難な状況となっていた。
このため、[[成年後見制度利用促進法]]及び同法に基づく成年後見制度利用促進基本計画からの指摘を受け、成年後見制度を利用していることを理由とする欠格条項を含む法律188本を一括改正する法案(成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案)が第196回[[国会 (日本)|国会]]に提出されている<ref>{{Cite web|title=欠格条項、一律削除へ 成年後見制度で法案決定|url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28038410T10C18A3CR0000/|website=日本経済新聞 電子版|accessdate=2019-05-12|language=ja}}</ref>。
 
2013年[[5月31日]]、[[東京電力]]は、[[福島第一原子力発電所]]の事故による精神的賠償で、避難区域に住んでいた要介護者及び各種[[障害者]]の賠償額を、早ければ6月中旬にも上積みする方針を示した。原発ADRでは、要介護者らの避難生活で受ける負担の重さを認め、東電の賠償額を上回る[[和解]]事例が増えており、東電は要介護者らの負担分を直接請求に反映させる必要に迫られた格好だ。(『福島民友』2013年6月1日参照)これにより成年後見人を選任せずとも原発事故の賠償弱者の権利擁護を図る道が開かれたが、今回露呈した成年後見制度そのものの根本的課題は残されたままとなった。
なお、法改正の動きに先行して、[[兵庫県]][[明石市]]では、成年被後見人又は被保佐人が地方公務員に就くことができない欠格事由となっている地方公務員法16条1号および28条4項につき、その例外を定める条例(明石市職員の平等な任用機会を確保し障害者の自立と社会参加を促進する条例)を制定した(2016年4月施行)。<ref>{{Cite web|title=障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例を制定しました/「4 関係資料」その他関係資料内|url=http://www.city.akashi.lg.jp/fukushi/fu_soumu_ka/sabetsu/seitei.html|website=明石市|accessdate=2019-05-12|language=ja|last=明石市|publisher=}}</ref>
 
==== 東京電力への賠償請求医的侵襲おけ対す課題同意 ====
医療の現場では手術、輸血、人工呼吸器装着などの高度な延命措置など侵襲的または高度・不可逆的な医療行為の前に本人に代わって説明を受け、その同意を後見人に求めるケースがある。しかし法的には後見人等は[[遺言]]や[[結婚|婚姻]]などの身分行為や治療に関する同意など、本人の一身に専属する行為を代理して行う権限はないと考えられている<ref>診療契約、介護契約締結は法律行為なので代理できる点は争いない。医的侵襲については、
[[認知症]]高齢者などの意思能力のない者、不足する者(いわゆる賠償弱者)が、[[福島第一原子力発電所事故]]に係る賠償請求をするには成年後見人を選任するしか方法がなく、賠償弱者の権利擁護を図るべき成年後見制度がかえって壁となり、賠償請求できない事態となっている。弁護士などの専門職が認知症高齢者の依頼を受け代理することは[[無権代理]]行為となるためできず、通常は家族等が無権代理行為で東電の請求書を作成しているが、身寄りのない認知症高齢者に代わって賠償請求するものはいない。
:A)診療・介護契約の締結が治療・介護行為への同意と不可分一体のものであると考えれば診療契約締結の代理権に付随して、治療行為への同意権があると解するとする立場
:B)包括的な診療契約の締結(法律行為)と医的侵襲を伴う治療方法(事実行為)の選択とは性質が異なることに基づき、同意権は認められないとする立場
がある。この論点については後見人業務を行う職業後見人及び医療関係者双方の実務家から現実に[[インフォームド・コンセント]]がますます重視され、また輸血を行う際には必ず文書での同意が必要となっていることなどからも形式的な法理論だけでは実務が成り立たないという声が上がっており、法改正により同意権を明文化すべきとする意見が学会や職域団体における議論の中で提示されている。現状は十分な議論が尽くされている状況ではなく、引き続き関連諸団体において議論中である。({{Harvnb|日本成年後見法学会|2006}}等)</ref>。
 
==== インフォームド・コンセントの実施問題 ====
また、認知症高齢者などは度重なる避難生活に健常者よりストレスや不便を強いられることから[[原子力損害賠償紛争解決センター]](原発ADR)や裁判所に賠償金の増額を申し立てねばならないため、結局、成年後見人を選任しなければならない。しかしながら[[東京電力]]への賠償請求は、早くて[[2014年]]3月10日(またはダイレクトメールを通知した3年後の9月以降)に[[消滅時効]]となるため、それまでに成年後見人をつけ、賠償請求することは困難な状況となっていた。
[[脳血管疾患]]は、国内の年齢65才以上では[[ICD-10|死亡原因]]の上位3位以内に入る疾患であるが、こうした[[高次脳機能障害]]においてはしばしば[[言語障害]]や、[[低酸素脳症]]などによる[[遂行機能障害]]などを併発する場合がある<ref>{{Cite web|url=https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/shiin.html|title=日本の高齢化による死亡原因の変化|publisher=[[公益財団法人]][[長寿科学振興財団]]|accessdate=2018-08-01}}</ref>。他方、[[リハビリテーション]]治療にあたる[[言語聴覚士]]については人員不足の問題が指摘されており<ref>{{Cite journal |和書 |author=小薗真知子 |year=2012 |title=言語聴覚士教育の現状と今後の課題 |url=https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180406013717.pdf?id=ART0009985425 |journal=保健科学研究誌 |volume=1 |issue=6 |publisher=[[熊本保健科学大学]] |accessdate=2018-08-01 |format=PDF |NAID=110009537005}}</ref>、被成年後見人等の側で[[インフォームド・コンセント]]を行うための言語能力(質問能力)等の保全・復旧対策についての環境改善も要される。
 
==== 社会福祉士・精神保健福祉士の指定科目としての位置づけ ====
2013年[[5月31日]]、[[東京電力]]は、[[福島第一原子力発電所]]の事故による精神的賠償で、避難区域に住んでいた要介護者及び各種[[障害者]]の賠償額を、早ければ6月中旬にも上積みする方針を示した。原発ADRでは、要介護者らの避難生活で受ける負担の重さを認め、東電の賠償額を上回る[[和解]]事例が増えており、東電は要介護者らの負担分を直接請求に反映させる必要に迫られた格好だ。(『福島民友』2013年6月1日参照)これにより成年後見人を選任せずとも原発事故の賠償弱者の権利擁護を図る道が開かれたが、今回露呈した成年後見制度そのものの根本的課題は残されたままとなった。
かつて、[[2008年]]度以前の入学者の[[社会福祉士]]の指定科目の中で、「法学」という科目が[[精神保健福祉士]]との共通科目扱いとして位置づけられていたが、[[2009年]]度以降入学者に対して適用される指定科目として、「権利擁護と成年後見制度」が後継となり、成年後見制度メインであることが明確化された(福祉法関連では、精保共通科目ではなくなったが「[[更生保護制度]]」が新たに設定された)<ref>ただし、[[2012年]]度以降入学者に適用される、精神保健福祉士の指定科目中、「精神保健福祉に関する制度とサービス」の「制度」相当部分で、「更生保護制度」の内容をカバーする。[[2011年]]度以前入学者の指定科目、「精神保健福祉論」の「理論」の部分を除いた後継科目の扱いとなる。「理論」の部分は、旧指定科目「精神保健福祉援助技術各論」とともに、後継として、「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」が設定された。</ref>。
 
=== 成年被後見人の財産保護に関する問題 ===
=== その他 ===
==== 自治体首長による申立て ====
* [[2015年]][[4月15日]]付の[[朝日新聞]]によると、自治体の[[首長]]([[市町村長|市区町村長]])が、身寄りの無い[[認知症]]患者の高齢者の財産を保護する目的で、[[家庭裁判所]]に成年後見を申し立てるケースが、[[2010年]]以降に急増している。[[高齢者虐待]]や、親族が財産管理を拒否することが多いことなども背景にあるとされている<ref>{{Cite news |title=身寄りない高齢者守れ 首長の「成年後見」申し立て急増 |newspaper=朝日新聞 |date=2015年4月5日 |url=http://www.asahi.com/articles/ASH425CR0H42ULFA01N.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20151029012341/http://www.asahi.com/articles/ASH425CR0H42ULFA01N.html |archivedate=2015年10月29日}}</ref>。
 
==== 後見人の背任および横領 ====
* [[2015年]][[4月15日]]付の[[朝日新聞]]によると、自治体の[[首長]]([[市町村長|市区町村長]])が、身寄りの無い[[認知症]]患者の高齢者の財産を保護する目的で、[[家庭裁判所]]に成年後見を申し立てるケースが、[[2010年]]以降に急増している。[[高齢者虐待]]や、親族が財産管理を拒否することが多いことなども背景にあるとされている<ref>{{Cite news |title=身寄りない高齢者守れ 首長の「成年後見」申し立て急増 |newspaper=朝日新聞 |date=2015年4月5日 |url=http://www.asahi.com/articles/ASH425CR0H42ULFA01N.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20151029012341/http://www.asahi.com/articles/ASH425CR0H42ULFA01N.html |archivedate=2015年10月29日}}</ref>。
このように後見人の担い手は広がりつつあるが、一方で家族が後見人となり財産管理をする傍らで本人の財産を侵奪したり悪徳リフォーム業者が認知症高齢者の任意後見人になり高額の契約を結んだりする等の事例があるのも事実である。年金生活である知的障害者の家族が、年金収入を家族の生計に充てている事例があるとの指摘もされている。監督人がいない場合、後見人を家庭裁判所が監督する建前だが裁判所の人的資源の限界もあって十分な監督ができていないのが実情である。他方、任意後見の移行型については任意後見受任者が監督を忌避して監督人選任申立てを故意的に懈怠する可能性も学会や新聞紙上等において指摘されており、<ref>[[2005年]]開催の日本成年後見法学会のシンポジウム及びその内容を記録した{{Harvnb|日本成年後見法学会|2006|p=155}}等。</ref>監督忌避を目的に任意代理契約でそのまま進めて問題が生じているケースもある。
* 成年後見制度においては、報酬額に全国一律の基準が存在せず、現行では通常、後見人が就いてから後見の対象者が死亡するまでの業務量に波があるとしても、月額では一律の報酬が支払われているのが現状で、医療や[[介護]]の体制を整えるなどの内容の生活支援が報酬に反映されていないとの指摘がある。このため、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]は[[2019年]][[1月]]に、業務量や業務の難易度などを報酬に反映させるよう、全国の[[家庭裁判所]]に対し通知を出した<ref>[https://www.asahi.com/articles/ASM433FD2M43UBQU003.html?iref=pc_ss_date 成年後見の報酬「業務量や難易度に応じて」最高裁が通知] 朝日新聞 2019年4月3日</ref>。
 
具体的な事例としては、後見人である親族による金銭の着服が発覚し刑事事件となるケースとして、[[福岡県]]で知的障害の実兄2人の成年後見人であった実弟が[[闇金融|ヤミ金]]業者らと共謀して多額の預金を引き出したとして[[親族相盗例]]を排除して[[業務上横領罪]]を適用し、[[福岡地方検察庁]][[特別刑事部]]によって[[逮捕]]・[[起訴]]されたことが[[2006年]][[10月5日]]付けの[[毎日新聞]]によって報じられている。
== 精神保健福祉法との関係 ==
[[精神保健福祉法]]第20条は、後見人又は保佐人を精神障害者の保護者になる者の第1順位としている<ref>保護者になる者の第2順位以下の[[配偶者]]・[[親権者]]・[[扶養義務者]]については本人保護のために特に必要であると家庭裁判所が認めた場合、利害関係人の申立てにより保護者となる者の順位を変更できる。しかし、後見人と保佐人に関しては、順位変更の規定から除外されている。</ref>。これにより[[精神障害者]]の後見人及び保佐人は当然に「[[保護者#各法律による成年者に対する保護者の定義|保護者]]」となり、精神保健福祉法上の義務も負う。
 
また、[[2012年]][[2月]]には[[広島高等裁判所|広島高裁]]で、財産管理能力を考慮せずに親族の一人を成年後見人とした結果、財産を着服されたとして、[[広島家庭裁判所|広島家裁]]の過失を認める判決が出されている<ref>{{Cite news |title=成年後見横領:家裁の過失認定 成年後見人トラブルで初--広島高裁 |newspaper=毎日新聞 |date=2012年2月21日 |url=http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2012/02/21/20120221dde041040007000c.html}}{{リンク切れ|date=2018年11月}}</ref>。
職業後見人が単独で後見人に就任した場合、実際には[[家族]]・[[親族]]がいて身の回りの世話などを行っている場合でも法律上は職業後見人が当然に精神保健福祉法上の保護者となる。つまり、受療義務など保護者としての法的な義務は家族・親族ではなく後見人が負うことになる。
このような財産着服は、[[最高裁判所 (日本)|最高裁]]家庭局によると、[[2010年]][[6月]]から[[2011年]][[3月]]の10ヵ月間だけでも182件に及ぶという。最高裁は、[[信託制度]]を活用する形での財産保護策を検討している<ref>{{Cite news |title=後見制度:10カ月で悪用182件 「信託制度」導入へ--最高裁が防止策 |newspaper=毎日新聞 |date=2011年10月20日 |url=http://mainichi.jp/select/jiken/news/20111020ddm012040046000c.html}}{{リンク切れ|date=2018年11月}}</ref>。
 
一方専門職による職業後見人が不当な報酬額を取得し財産を侵奪したりするケースとして、社団法人成年後見センター・リーガルサポート東京支部の元副支部長である司法書士が、任意後見契約において設定された報酬額に加えて日当等を請求し、結果的に年間500万円程度の多額の報酬額を不当に取得したとして問題となった。この司法書士は、2006年春に成年後見に関する書籍を発行するなどの活動を行っていた。
== 後見制度支援信託 ==
2011年4月から、信託契約を使った新しい仕組みが、成年後見制度に導入される<ref>2011年2月4日の朝日新聞朝刊38面</ref>。被後見人の資産のうち、日常使う分は親族などの後見人が管理し、残りは信託銀行に信託する。大きな支出が必要な場合は、後見人が家裁に申請してチェックを受ける。これにより、専門家の後見人を選任した場合よりもコストを下げることができ、かつ親族後見人による使い込み等も防げると期待される。
 
また、東京弁護士会元副会長の弁護士が、2009年から12年までの間に、成年後見人として管理していた千葉県に住む女性の定期預金を解約し、約4200万円を自分の口座に入れるなどして横領した。[[読売新聞社]]の取材では、'''成年後見制度'''を悪用するなどして[[高齢者]]などの財産を着服したり騙し取ったりしたとして、[[2013年]]から[[2015年]]にかけて23人の弁護士が起訴されている<ref>{{Cite news |title=弁護士の着服、被害20億円超…後見人悪用も |newspaper=読売新聞 |date=2015年12月19日 |url=http://www.yomiuri.co.jp/national/20151219-OYT1T50145.html |archiveurl=http://web.archive.org/web/20151220033549/http://www.yomiuri.co.jp/national/20151219-OYT1T50145.html |archivedate=2015年12月20日}}</ref>。これら職業後見人による財産着服についても、信託制度の活用が最高裁判所から求められたが、[[日本弁護士連合会]]の反対により頓挫している。
一方で、前述のように、弁護士等の職業後見人による財産着服についても、信託制度の活用が最高裁判所から求められたが、日弁連の反対により頓挫している。
 
このような中で、後見人としての資質の向上や倫理観、懲罰制度についての議論が起こっており、特に裁判所では士業者団体による後見人候補者名簿の作成に当たっては、名簿提出をする団体の研修内容や組織体制を重視してきた。また士業者団体に対し、裁判所が適切な懲罰制度を設けることなどを求める例もでている。また民間団体による市民後見人が後見業務を行う場合には、複数の法人で相互に活動をチェックする体制をとるなど、権限の濫用を防止するための試みも行われているとの報道がなされている<ref>[[日本経済新聞]][[夕刊]] 2006年[[10月19日]]など</ref>。
== 後見に関する証明書 ==
;登記事項証明書
:法定後見・保佐・補助が発効、もしくは任意後見契約が成立すると裁判所、公証人の嘱託により[[東京法務局]]後見登録課で後見登記がされる。その登記事項は、[[登記事項証明書]]により証明される。1通<!--800円-->550円<ref name="fee">平成23年4月1日から証明書手数料の変更(引下げ)あり。{{Cite web |url=http://houmukyoku.moj.go.jp/nagoya/static/3.17koseki.htm |publisher=法務省名古屋法務局 |title=成年後見登記について |accessdate=2012年7月22日}}</ref>。
;登記なきことの証明書
:この証明書は、後見登記がされていないことを証明するものである。法務局・地方法務局戸籍課(東京は後見登録課)で発行される。従来の禁治産者・準禁治産者でないことは、市町村役所で発行される身分証明書にて破産者でないことと一括で証明されていた。2000年4月以降の成年後見制度では、成年被後見人・被保佐人・被補助人でないことは登記されていないことの証明書にて証明されるようになった。対して、破産者でないことは身分証明書で証明される。主として、国家資格の登録などにおいて欠格事由に該当しないことの証明に用いられる。1通<!--400円-->300円<ref name="fee"/>。
 
==== 後見制度支援信託 ====
== 社会福祉士・精神保健福祉士の指定科目としての位置づけ ==
2011年4月から、信託契約を使った新しい仕組みが、成年後見制度に導入される<ref>2011年2月4日の朝日新聞朝刊38面</ref>。被後見人の資産のうち、日常使う分は親族などの後見人が管理し、残りは信託銀行に信託する。大きな支出が必要な場合は、後見人が家裁に申請してチェックを受ける。これにより、専門家の後見人を選任した場合よりもコストを下げることができ、かつ親族後見人による使い込み等も防げると期待される。
かつて、[[2008年]]度以前の入学者の[[社会福祉士]]の指定科目の中で、「法学」という科目が[[精神保健福祉士]]との共通科目扱いとして位置づけられていたが、[[2009年]]度以降入学者に対して適用される指定科目として、「権利擁護と成年後見制度」が後継となり、成年後見制度メインであることが明確化された(福祉法関連では、精保共通科目ではなくなったが「[[更生保護制度]]」が新たに設定された)<ref>ただし、[[2012年]]度以降入学者に適用される、精神保健福祉士の指定科目中、「精神保健福祉に関する制度とサービス」の「制度」相当部分で、「更生保護制度」の内容をカバーする。[[2011年]]度以前入学者の指定科目、「精神保健福祉論」の「理論」の部分を除いた後継科目の扱いとなる。「理論」の部分は、旧指定科目「精神保健福祉援助技術各論」とともに、後継として、「精神保健福祉の理論と相談援助の展開」が設定された。</ref>。
 
一方で、前述のように、弁護士等の職業後見人による財産着服についても、信託制度の活用が最高裁判所から求められたが、日弁連の反対により頓挫している。
== インフォームド・コンセントの実施問題 ==
 
[[脳血管疾患]]は、国内の年齢65才以上では[[ICD-10|死亡原因]]の上位3位以内に入る疾患であるが、こうした[[高次脳機能障害]]においてはしばしば[[言語障害]]や、[[低酸素脳症]]などによる[[遂行機能障害]]などを併発する場合がある<ref>{{Cite web|url=https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/tyojyu-shakai/shiin.html|title=日本の高齢化による死亡原因の変化|publisher=[[公益財団法人]][[長寿科学振興財団]]|accessdate=2018-08-01}}</ref>。他方、[[リハビリテーション]]治療にあたる[[言語聴覚士]]については人員不足の問題が指摘されており<ref>{{Cite journal |和書 |author=小薗真知子 |year=2012 |title=言語聴覚士教育の現状と今後の課題 |url=https://ci.nii.ac.jp/els/contentscinii_20180406013717.pdf?id=ART0009985425 |journal=保健科学研究誌 |volume=1 |issue=6 |publisher=[[熊本保健科学大学]] |accessdate=2018-08-01 |format=PDF |NAID=110009537005}}</ref>、被成年後見人等の側で[[インフォームド・コンセント]]を行うための言語能力(質問能力)等の保全・復旧対策についての環境改善も要される。
=== 成年後見人の報酬 ===
* 成年後見制度においては、報酬額に全国一律の基準が存在せず、現行では通常、後見人が就いてから後見の対象者が死亡するまでの業務量に波があるとしても、月額では一律の報酬が支払われているのが現状で、医療や[[介護]]の体制を整えるなどの内容の生活支援が報酬に反映されていないとの指摘がある。このため、[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]は[[2019年]][[1月]]に、業務量や業務の難易度などを報酬に反映させるよう、全国の[[家庭裁判所]]に対し通知を出した<ref>[https://www.asahi.com/articles/ASM433FD2M43UBQU003.html?iref=pc_ss_date 成年後見の報酬「業務量や難易度に応じて」最高裁が通知] 朝日新聞 2019年4月3日</ref>。
 
== 脚注 ==