「道 (1954年の映画)」の版間の差分

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[[道化]]の格好で芸をするジェルソミーナ。新しい生活にささやかな幸福さえ感じていたのだが、ザンパノの態度に嫌気が差し、街へと逃げていく。そこで陽気な綱渡り芸人イル・マットに出会う。ジェルソミーナはザンパノに連れ戻されるが、イル・マットのいるサーカス団に合流することになる。イル・マットはザンパノと古くからの知り合いらしく、何かとからかってザンパノを逆上させる。ある日、我慢の限界を超えたザンパノはナイフを持って追いかけるのだが、その行いで逮捕されてしまう。
 
イル・マットはサーカス団から追放され、ジェルソミーナに助言を与え、やがて去って行く。世の中のすべては何かの役に立ち、ジェルソミーナも役に立っている、それは[[神]]が知っているという。翌日この夜、ジェルソミーナは釈放さイル・マットが運転するザンパノのバイクの荷台に乗せらザンパノを迎えのもとへ送られる。翌朝、2人だけで芸をする日々をすごは到着した。しかし後日イル・マットは行きジェルソミーナはザンパノは故障しのバイクにも自動車を直す綱渡り芸人を見れかける。仕返しする機会を待ってザンパノを待ち、釈放されたザンパノは綱渡り芸人ジェルソミーナがやってきて自分のバイクもここにあるこの事態に渋い表情撲殺す見せる。
 
ジェルソミーナとザンパノ、綱渡り芸再び2の死に放心状態となだけで芸をす日々をすごしたしかし後日、ザンパノは、大道芸自動車アシスタントとして役に立たなくなったジェ車輪の不具合を直すイソミーナ・マットを見捨て、居眠りかける。仕返てい彼女機会置き去りにして去ってゆくいたザンパノはイル・マットを撲殺する
 
ジェルソミーナは、イル・マットの死に放心状態となる。ザンパノは、大道芸のアシスタントとして役に立たなくなったジェルソミーナを見捨て、居眠りしている彼女を置き去りにして去ってゆく。
幾年かの時が流れ、見知らぬ海辺の町に立ち寄ったザンパノは、[[ジェラート]]をほおばりながら、耳慣れた歌を耳にした。ザンパノがたずねると、ジェルソミーナと思われる女が、しばらくその海岸を放浪していたが、誰にも省みられることなく死んでいったという。それはジェルソミーナがよくラッパで吹いていた曲だった。少し老いたザンパノは、往年の鎖芸をサーカスで披露する。酒場で暴れた後、海岸にやってきたザンパノは天を仰ぎ地にしがみつき、絶望的な孤独感に打ちのめされ、ひとり嗚咽を漏らし、ラストを迎える。
 
幾年かの時が流れ、見知らぬ海辺の町に立ち寄ったザンパノは、[[ジェラート]]をほおばりながら、耳慣れた歌を耳にした。それはジェルソミーナがよくラッパで吹いていた曲だった。これを歌っていた町娘にザンパノがたずねると、ジェルソミーナと思われる旅芸人が、しばらくそ海岸を放浪し町に来ていたこと、誰にも省みられわかった。あ朝、となくの旅芸人は死んでいたという。それはジェルソミーナがよくラッパで吹いていた曲だった。少し老いたザンパノは、往年の鎖芸をこの町のサーカスで披露する。酒場で暴れた後、海岸にやってきたザンパノは天を仰ぎ地にしがみつき、絶望的な孤独感に打ちのめされ、ひとり嗚咽を漏らし、ラストを迎える。
 
== キャスト ==
役名、俳優、テレビ版吹替声優<ref name="fukikae">{{Cite web |url=https://www2.nhk.or.jp/archives/chronicle/pg/page010-01-01.cgi?recId=0001000000000000%400000000000000000000000-63-10-1400000000000000000000&hitCount=53&sort=&programPage=1&cornerPage=&keyword=%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%BF+%E3%83%9E%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%8A&op=AND&keyword_not=&op_not=OR&year_1=&month_1=&day_1=&year_2=&month_2=&day_2=&from_hour=&from_minute=&to_hour=&to_minute=&lgenre1=&lgenre2=&lgenre3=&genre_op=AND&rec_count=10&cal_edit= |title=アーカイブス放送履歴 |publisher=[[日本放送協会|NHK]] |accessdate=2013-02-19 }}</ref>の順に記載。
* ザンパノ:[[アンソニー・クイン]]([[小松方正]])- {{lang|it|Zampanò}}という名前の由来の{{lang|it|zampa}}(ザンパ)は動物の脚や[[蹄|ひずめ]]。[[ユーモア|諧謔]]で人間の[[脚]]にも使われる。粗野の象徴。彼の粗暴は、同業の綱渡り道化師イル・マットを殴り倒し、自動車を川に沈め、ワイン酒場で喧嘩をして追い出され、店外に置いてあるドラム缶をスクリーンのほうに放り投げる。道化師としての彼は、[[チャールズ・ディケンズ|ディケンズ]]『[[クリスマス・キャロル (小説)|クリスマス・キャロル]]』さながらの鎖芸を見世物とする。これは、鎖を胸に巻き付け、鉤(フック)を千切る破壊して封印を解くという素朴な怪力芸で、「鋼鉄の肺の男」の異名を持つ。彼はアメリカ製のバイクで巡業する。このバイクは、『道』の前年に公開されたチネチッタ作品『[[ローマの休日]]』の「[[ベスパ]]」のような小洒落たところのない、おんぼろバイクである(『ローマの休日』ヒロイン王女アンが序盤で忍び込む3輪トラックのような荷台が付いている)。旅先で女性たちといい仲になるが、ラヴ・シーンの映像はない。また同じくチネチッタ作品『[[クォ・ヴァディス (映画)|クォ・ヴァディス]]』(1951年)についていえば、『道』には、「{{lang|it|Dove vai?}}」(ドヴェ ヴァイ?)というザンパノの台詞が終盤に出て来る。このイタリア語はラテン語「{{lang|la|Quo vadis?}}」(クォ ヴァディス?)と同義である(映画『クォ・ヴァディス』は、[[イエス・キリスト|イエス]]が「[[最後の晩餐]]」の際に弟子[[ペトロ]]から問われたその言葉「{{lang|la|Quo vadis?}} / どこへ行かれるのですか?」が映画の題名になっている)。脚本ではザンパノは終盤のサーカスで鎖芸を失敗するが、映画の映像は失敗したかどうかはっきりわかる時点までを追わず、あくまでザンパノのそれはスクリーンの向こうの観覧者に委ねられる。
* ジェルソミーナ:[[ジュリエッタ・マシーナ]]([[市原悦子]])- {{lang|it|Gelsomina}}{{refnest|group=*|男性形は「{{lang|it|gelsomino}}」(ジェルソミーノ)。}}は[[ジャスミン]]の花。純粋の象徴。このショートカット・ヘアの女の子ジェルソミーナを演じる俳優ジュリエッタ・マシーナはフェリーニ監督の妻で、[[ムッソリーニ内閣|ムッソリーニ政権]]から隠れて生活していた2人は政権崩壊後の1943年10月に結婚した。ジェルソミーナは映画の中でザンパノからぞんざいに扱われ、時に「{{lang|it|Siete una bestia!}} / ケダモノ!」(スィエテ ウナ ベースティア!)とザンパノを罵る。彼女は旅の途中で[[トマト]]を栽培しようとする突飛な行動に出て、構わず巡業に出発するザンパノから「{{lang|it|Che pomodori}} / ケッ、トマトだと」(ケッ ポモドーリ)と蔑まれつつ、[[リンゴ]]を渡される{{refnest|group=*|モノクロフィルムではっきりわからないが、これはリンゴ({{lang-it-short|mela}})である<ref>Fellini (1969), p. 199: "{{lang|it|''E ZampanoZampanò, rallegrato, le dà una mela.''}}"</ref>。イタリア語を読み解くと、リンゴ({{lang|it|mela}}; メーラ)、[[ナシ]]({{lang|it|pera}}; ペーラ)などの形状の果実は総称で「{{lang|it|[[:it:pomo|pomo]]}}」(ポモ)としてくくられる。トマト(単数形: {{lang|it|pomodoro}}; ポモドーロ、複数形: {{lang|it|pomodori}}; ポモドーリ)の由来は、「{{lang|it|pomo}}」(ポモ) + 「{{lang|it|d'[[:it:Oro|oro]]}} / [[金|黄金]]の」(ドーロ)である。「{{lang|it|d'oro}}」は「{{lang|it|de}}」(デ) + 「{{lang|it|oro}}」(オーロ)。ザンパノは、黄金(おうごん)でない果実をジェルソミーナに渡したことになる。他のヨーロッパ言語において、トマトは、英語「{{lang|en|love apple}} / 愛の果実」(ラヴ・アップル)、フランス語「{{lang|fr|pomme d'amour}} / 愛の果実」(ポム・ダムール)、ドイツ語「{{lang|de|paradeisapfel}} / 天国の果実」(パラディースアプフェル)等としても知られる。}}。彼女は中盤で綱渡り芸人イル・マットに付き従う。ザンパノがイル・マットを殺してからは、「うんうん」と声をあげながら、うわごとを言うようになる。ザンパノと離れて何年かの後、生命を終える。ジェルソミーナは、まるで[[天使]]のような役回り<ref>“[http://www.wasedashochiku.co.jp/lineup/2015/fellini2015.html 2015/3/7〜3/13上映作品 &#124; フェデリコ・フェリーニ監督特集 『道』/『甘い生活』]”. [[早稲田松竹]].</ref>。
* 綱渡り芸人:[[リチャード・ベイスハート]]([[愛川欽也]])- {{lang|it|il Matto}}:[[きちがい|狂人]]の意味{{refnest|group=*|また、[[タロットカード]]の「[[愚者]]」はイタリア語では「{{lang|it|[[:it:Il Matto|il Matto]]}}」である。}}。映画のオープニング[[クレジットタイトル]]に「{{lang|it|Il “Matto”}}」という役名が流れる。「イル・マット」や「[[キ印]]」(きじるし)と訳されることがある。芸達者な彼は綱渡りの綱の上にテーブルとイスをセットしてスパゲッティを食べる。ローマのある公演では空中ブランコの曲芸を披露。このほか、小型バイオリンを弾きこなし悲しいメロディ(映画『道』テーマ曲)を奏でながら、自分の尻に向けてジェルソミーナにラッパを「ブー」と吹かせるシーンがある。イル・マットはジェルソミーナに、ザンパノという男は犬と同じで、ジェルソミーナを好きで話をしたいのに吠えるしかないのだと説く。彼はザンパノをとことんからかい、ザンパノは大爆発する。ザンパノは喜劇で[[ライフル銃]]を持ち、ライフル銃の意の単語「{{lang|it|fucile}}」(フチーレ)をきちんと言わず、「ciufile」(チゥフィーレ)という馬鹿っぽく人畜無害な印象を与える言い方をして、そのせいでジェルソミーナはザンパノを怖がらない<ref>[https://books.google.com/books?id=2PmkDwAAQBAJ&pg=PA41 {{lang|it|Vincenzi & Casa}} (2019), p. 41]: {{lang|it|"''Zampanò ha un fucile in spalla e lo mostra orgoglioso al pubblico, storpiandone il nome in “ciufile” per apparire ingenuo e innocuo e quindi non spaventare la vittima, che altrimenti si difenderebbe, mentre così abbassa le sue difese, pensando si tratti di uno scherzo.''"}}</ref>。それにより人々らを面白がらせるのだが、「鋼鉄の肺を持つ男」であるザンパノは、いちいちイル・マットから可愛らしく「チゥフィーレ」呼ばわりされて相当頭に来ていた。ある日、彼はザンパノの3発(後にザンパノは2発と言っている{{refnest|group=*|「{{lang|it|Gli ho dato solo due pugni}} / パンチを喰らわせてやったのは2発だけだ」(リ オ
ダート ソロ ドゥエ プーニ)。}})で打ちどころを悪くして死んでしまう。イル・マットを殴り倒した時、彼は「チゥフィーレ」のお礼だと捨て台詞を吐く。映画評論家・[[淀川長治]]の解説では、このイル・マットは神である<ref>“[http://www.ivc-tokyo.co.jp/yodogawa/titles/yodo18001.html 淀川長治 世界クラシック名画撰集:道]”.</ref>。
 
== 音声 ==
当時のイタリア映画の慣習から、撮影は音声の録音が行われず、会話と音楽と音響効果は後で追加された<ref name="van order">Order & Thomas (2009)</ref>。ゆえに、キャストたちは通常それぞれの母国日常の使用言語を撮影中に話し、クインとベイスハートは英語、マシーナその他の面々はイタリア語であった<ref>Baxter (1993), p. 110</ref>。
 
クインはメキシコ・[[チワワ州|チワワ]]生まれのアメリカ育ち、ベイスハートはアメリカ・[[オハイオ州|オハイオ]]生まれのアメリカ育ちで、この2人はイタリア語を話さず、イタリア語のオリジナル版における2人は吹き替えであった<ref>{{cite web|last=Jacobson|first=Michael|title=La Strada|url=http://www.dvdmoviecentral.com/ReviewsText/la_strada.htm|publisher=DVD Movie Central|accessdate=6 October 2013}}</ref>。最初にザンパノの吹き替えをした声優に難色を示したフェリーニは、[[黒澤明]]『[[羅生門 (1950年の映画)|羅生門]]』イタリア語吹き替え版において[[三船敏郎]]の声を担当した[[アルノルド・フォア]]([[:en:Arnoldo Foà]])の仕事に感銘を受けたことを思い出し、瀬戸際になってフォアを起用することができた<ref>Kezich (2006), p. 150</ref>。
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英語吹き替え版において、クインとベイスハートは自分の役の吹き替えをしたが、マシーナは別の声優が吹き替えをした<ref name="van order" />。
 
日本では、[[NHK教育テレビ]]で[[1971年]][[11月23日]]の10:30〜12:19に日本語吹き替え版での放送が行われた<ref name="fukikae" />。その日本語吹き替え音源は、[[紀伊国屋書店]]と[[シネフィルWOWOW|シネフィル]]が[[ブルーレイ]]化の際に収録するため捜索したものの、権利元が音源を紛失しており、視聴者の録画もネット上で公募したが<ref>“[https://twitter.com/cinefilDVD/status/398713584978391040 シネフィルDVDさんのツイート:2013年11月7日]”.</ref>見つからなかったため、ソフト収録や放映が出来ない状態となっている。
 
== 主題曲 ==
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主題曲({{lang|it|Tema Della Strada}})を始めとする本作の音楽は、フェデリコ・フェリーニ監督作品を数多く手掛けた[[ニーノ・ロータ]]が作曲した。
 
主題曲は、後に歌詞が付けられ歌手たちにカバーされた。イタリア語ではミケーレ・ガルディエーリ({{lang|it|Michele Galdieri}})が作詞した歌をニラ・ピッツィ({{lang|it|Nilla Pizzi}})らが歌っている。
主題曲は、本作が日本で公開された[[1957年]]の[[第8回NHK紅白歌合戦|第8回]][[NHK紅白歌合戦]]で日本語歌詞が付き、『ジェルソミーナ』として[[中原美紗緒]]が歌っている。
 
本作が日本で公開された[[1957年]]の[[第8回NHK紅白歌合戦]]で、「ジェルソミーナ」として[[中原美紗緒]]が日本語歌詞で歌っている(訳詞:[[音羽たかし]])。[[ザ・ピーナッツ]]は[[音羽たかし|あらかはひろし]]の訳詞、[[宮城まり子]]は[[佐伯孝夫]]の訳詞、[[カルメン・マキ]]や[[島田祐子]]は訳者不詳の日本語詞で同様に「ジェルソミナ」という曲名の歌を歌っている。
 
リュシエンヌ・ドリール({{lang|fr|Lucienne Delyle}})は、ホセ・しばさき(Jose Shibasaki)の日本語詞で「ジェルソミナ」、ロベール・シャブリエ({{lang|fr|Robert Chabrier}})作詞のフランス語詞で「{{lang|it|Gelsomina}}」を歌っている。
 
自ら作詞して歌っている歌手に、[[沢田研二]](曲名「ジェルソミーナ」)、[[美輪明宏]](曲名「ジェルソミーナ」)がいる。
 
[[2010年]]の[[2010年バンクーバーオリンピックのフィギュアスケート競技|バンクーバー冬季オリンピック]]で[[フィギュアスケート]][[シングルスケーティング|男子シングル]]の[[高橋大輔 (フィギュアスケート選手)|高橋大輔]]がこの曲を採用、同種目において日本人選手初のメダリスト([[銅メダル]])になった。
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*[[テレサ・テン]]は映画のヒロイン・ジェルソミーナの名前の付いた歌「[[ジェルソミーナの歩いた道]]」を1981年にリリースした。生前最後の単独コンサート(1985年、NHKホール)で、テレサ・テンは純白のウェディングドレスを着てこの歌を披露した。
 
*[[大槻ケンヂ]]は自著『くるぐる使い』にて同映画に対し「『道』は大好きな映画で、僕は何度見てもホロホロ泣いてしまうのです。」と述べていて、表題作の短編の下敷きに使用したことを明かしている<ref>大槻 (1998), p. 256</ref>。
 
*『[[男はつらいよ]]』などで知られる[[山田洋次]]は本作に影響を受けたことを公言しており、[[阿川佐和子]]司会の番組[[サワコの朝]]に出演した際も、音楽リクエストコーナーで、本作のニーノ・ロータのサントラを選んだ<ref>“[http://kakaku.com/tv/channel=6/programID=28900/episodeID=1168049/ 「サワコの朝 〜山田洋次▽寅さんが生まれた日〜」 2018年6月2日(土)放送内容]”.</ref>。
 
*フェリーニを敬愛している[[井筒和幸]]は、自身の推薦映画を紹介する自著で、フェリーニの『[[8 1/2]]』『[[フェリーニのアマルコルド]]』と共に、本作を推薦している<ref>井筒 (2005)</ref>。