「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」の版間の差分

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寅次郎の見舞いを受けたリリーは、涙を流し喜ぶ。寅次郎の懸命な看病もあって、次第に彼女の病気はよくなり、退院後、漁師町で一緒に生活を始める。その生活は、別々の部屋で寝てはいたものの、とても心の通い合ったものであり、周りがみな同棲・夫婦のような関係と見なすほどであった。リリーの口からも、寅次郎からの経済援助を拒否しながら「あんたと私が夫婦だったら別よ」と言ったことを含め、寅次郎との結婚を意識した発言が幾度となく飛び出した。
 
しかし、その一方で地元の娘と浮かれる寅次郎。そんな煮え切らない寅次郎へのリリーのいらだちが一つの原因になって、二人は大喧嘩。翌朝、リリーは書き置きを残して沖縄を去ってしまう。寅次郎は慌てて手近な漁船に乗り、東京へ戻ろうとする。島伝いに鹿児島までゆき、そこから鉄道でなんとか柴又駅にたどり着いた寅次郎だが、飲まず食わずの旅であったため、そこで行き倒れになり、柴又は大騒ぎとなる。
 
回復した寅次郎から、沖縄でのリリーとの話を詳しく聞いたとらやの人びとは、リリーの寅次郎への気持ちを本物だと感じ、苦労をしてきたリリーが寅次郎の生涯の伴侶として真にふさわしいとの思いから、寅次郎にリリーとの結婚を強く勧める。寅次郎もその気になる。
 
数日後、リリーがとらやを訪ねてきて、再会した二人は大いに喜び合う。沖縄の思い出話を語るうち、「私、幸せだった、あの時」と言うリリー。そんなリリーの言葉を受け、寅次郎は「リリー、俺と所帯を持つか」と漏らすが、直後、照れくささからごまかしてしまう。それに対し、リリーはあえて冗談として聞き流す。好き合いながらも、お互いのプライドや体裁で一緒になれない寅次郎とリリーであった。<ref>この理由付けを裏付ける記述として、「お互い好きでたまらないのに、それをスパッと口に出せないで、意地の突っ張り合い」(「リリーからの手紙」『男はつらいよ2リリー篇』p.459459)。元々は「お別れする会」での弔辞。)がある。もっとも、この点について、「私たち夢見てたのね、きっと。ほら、あんまり暑いからさ」というリリーの言葉に注目し、寅次郎が自分の気持ちをごまかしたからリリーもそれに応ぜざるを得なかったという相対的な要因ではなく、「流れ者」としての自分の生き方に(夢から)戻ったという絶対的な要因に帰着する考え方もある。山田監督自身も、「もともと定住することを拒否した二人が一緒になることで、定住する気持ちが生まれてしまう。それで二人はいったい幸せなのかと言えば、自信がない」(『「男はつらいよ」寅さん読本』p.126)と述べている。</ref>さくらにも見送られ、柴又駅で二人は別れることになったが、別れである以上切なくも、「また今度」をにおわせる爽やかな別れであった。<ref>「切なさ」が現れたものとしては、「寅さん、私に『幸せになれよ』と言ったような気がしたけど、ねえ、私の幸せって何?寅さんと一緒じゃなきゃ嫌だ。(寅さんが一緒じゃなかったら)つまんない。寅さんだってそうでしょ?」(『男はつらいよ寅次郎ハイビスカスの花―寅さんへリリーからの手紙[新潮CD]』)が挙げられる。「嫌ね、別れって」「うん」というさくら・寅次郎のやりとりももちろんその一環である。その一方で、同棲・結婚や定住の先に来るかもしれない決定的な別れよりも、出会い・別れを繰り返しつつ築かれる永遠の関係を二人が望んだがゆえに、爽やかな別れになったとする考え方もある。「夢だと言いながら、互いにかけがえのない存在になっている。同棲というカタチを超えて……」(『「男はつらいよ」50年をたどる。』p.176)、「プロポーズのその先には、『平凡で幸せな家庭を築く』というのがハッピーエンドであると思うかもしれませんが、寅さんとリリーは、もうひとつのハッピーエンドを探しているのでしょう」(『「男はつらいよ」の幸福論』p.168)、「二人の愛の物語が『ああしか』(引用者註:『私たち夢見てたのね』と答えるしか)ありえないところに真に永遠のロマンがある」(『寅さんと麗しのマドンナたち』p.229)などもその一つであるし、そもそも『寅次郎紅の花』でも紹介されている「何年かぶりで会ったのに、まるでけさ仕事に出かけた男が帰ってきたみたいに、懐かしい挨拶なんかお互いにしない」(前掲『男はつらいよ2リリー篇』p.458)といった関係もその考え方の根拠になる。</ref>
 
その後、旅先のバス停で寅次郎が待っていると、通り過ぎたマイクロバスからリリーが降りてくる。ひとしきり軽妙なトークをした後、これから草津に行くので一緒に行こうとリリーが誘い、二人はバスに乗りこむ。そんな「ラブストーリーとしても寅とリリーのバディムービーとしても最高のラスト」 <ref>『pen 2019年6月1日号』p.55 。</ref>で終わる。