「整理解雇」の版間の差分

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'''整理解雇'''(せいりかいこ)とは、[[解雇]]の種類の中の「[[普通解雇]]」に属するもので、法律上の用語ではなく、裁判での[[判例]]により浮上してきた労働慣例での用語である。事業を継続することが困難な場合に行う人員整理としての[[使用者]]からの[[労働契約]]([[雇用]]契約)の[[解除]]のことを指す。
 
== 意義 ==
労働慣習で狭義の意味での「整理解雇」の目的は、事業の継続が思わしくないことを理由に再建策([[リストラ]])を行なわれなければならないのであるが、その中の人員整理について行うことで、事業の維持継続を図ることである。一般に普通解雇や[[懲戒解雇]]は、従業員側にその理由があるが、整理解雇は会社側の事情にもとづくものである。
 
この用語や定義ができたのは、過去の判例の積み重ねによる「[[#整理解雇の四要件|整理解雇の四要件]]」によるものであり、法律や規則の正式な用語ではないが、その後の実務に大きな影響を及ぼしている。そのため使用者が単に事業が思わしくないだけの理由で解雇しようとしても認められないことがある。[[終身雇用]]制や[[年功序列]]型[[賃金]]を前提としてきた日本型雇用慣行において、落ち度のない[[従業員]]を経営上の理由で辞めさせる整理解雇は、[[雇用]]に関する[[労働者]]の期待を裏切るものであり、その生活や将来設計に大きな影響を及ぼす。そのため、使用者側には厳格な法的制約が課せられる。
 
判例等の影響により、2003年、[[労働基準法]]に第18条の2が追加されて「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合その権利を濫用したものとして、無効とする」と明記され、解雇の無効について定義された。なお当該条文は、2008年3月1日に施行された[[労働契約法]]の第16条に移動し、労働基準法から削除されている。
 
整理解雇を行うに当たっては、まず一般的な解雇の手続きとして、常時10人以上の労働者を使用する事業場については[[就業規則]]に「退職に関する事項(解雇の事由を含む。)」について記載しなければならない(労働基準法第89条)ため、整理解雇に関する事項を就業規則に明記しなければならない。そのうえで、「[[#整理解雇の四要件|整理解雇の四要件]]」を満たす必要がある。
*実際の解雇の手続きについては[[解雇#解雇の制限]]及び[[解雇#解雇の予告]]を参照。
 
整理解雇においては、相当数の労働者が同時に解雇される場合が多く、社会的にも大きな影響が生じる。使用者は、30人以上の雇用変動が生じる場合に、事前に[[厚生労働大臣]]に'''大量離職届'''を届け出なければならない(実際の届け出先は[[都道府県労働局]]長。[[労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律]]第27条)。もっとも大量離職届は雇用促進政策との関係で設けられた公法的義務であり、私法上の解雇を法的に制限するものではない。
 
== 整理解雇の四要件 ==
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#:人員整理は基本的に、労働者に特別責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされることから、必要性の判断には慎重を期すべきであるとする。
#'''解雇回避努力義務の履行'''
#:[[期間の定めのない雇用契約]]においては、人員整理(解雇)は最終選択手段であることを要求される。
#:例えば、役員報酬の削減、新規採用の抑制、[[残業]]制限、希望退職者の募集<ref>あさひ保育園事件(最判昭和58年10月27日)では、希望退職の募集をしなかったことを理由の一つとして解雇を無効とした。</ref><ref>ホクエツ福井事件(名古屋高金沢支判平成18年5月31日)では、8~10名の希望退職者を募った結果6名の希望退職者及び解雇者をもって同時期の指名解雇を終了させた事案について、この希望退職者募集は「解雇を回避するために十分に有効なものであったとはいい難い」として、「整理解雇手続が相当なものであったとは認められない」とした。</ref>、配置転換<ref>[[シンガポール・デペロップメント銀行]]事件(大阪地判平成12年6月23日)では、支店独自に採用された労働者が、当該支店の閉鎖により整理解雇された事案について、別支店への転勤が不可能ととして解雇を有効とした。</ref>、[[出向]]等により、整理解雇を回避するための経営努力がなされ、人員整理(解雇)に着手することがやむを得ないと判断される必要がある。
#'''被解雇者選定の合理性'''
#:解雇するための人選基準が合理的で、具体的人選も合理的かつ公正でなければならない。例えば勤務成績を人選基準とする場合、基準の客観性・合理性が問題となる。
#:[[人件費]]削減の方法として、人件費の高い労働者を整理解雇するとともに、他方では人件費の安いほぼ同数の労働者を新規に雇用し、これによって人件費を削減することは、原則として許されない([[泉州学園]]事件、大阪高判平成23年7月15日)。
#:正社員に先んじて有期雇用の労働者を人員整理の対象とすることを、判例は肯定するが([[日立メディコ]]事件、最判昭和61年12月4日)、有期雇用であっても解雇法理は適用されるので、これらの者にも四要件に準じた判断は必要である<ref>みくに工業事件(長野地諏訪支判平成23年9月29日)では、「準社員」を「会社との結び付きの面でも、正規社員と全く同一ではないもののこれに準じた密接な関係にあるものと解され、解雇の相当性判断に際しては、正規社員と同様に判断するのが相当である」として「準社員であったことを解雇の対象者として選定した事情として合理的なものと認めることはできない。」として解雇を無効とした。</ref>
#'''手続の妥当性'''
#:整理解雇については、労働者に帰責性がないことから、使用者は[[信義則]]上労働者・[[労働組合]]と協議し説明する義務を負う。特に'''手続の妥当性が非常に重視されている'''。例えば、説明・協議、納得を得るための手順を踏まない整理解雇は、他の要件を満たしても[[無効]]とされるケースも多い。
 
1~3については使用者が立証責任を負い、4については手続の不備について労働者が立証責任を負う([[山田紡績]]事件、名古屋地判平成17年2月23日(最高裁で確定))。
 
整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされる。もっとも近年の裁判では四要件を厳格に運用することは少なく、人員整理の必要性のみで判断する場合や、それに加えて配置転換や手続の妥当性を考慮に入れて判断している場合が多く、四要件をすべて満たさなくても解雇が認められている裁判も多い。四要件が確立される根拠となった過去の判例には[[大企業]]を舞台としたものが多く、必ずしも[[中小企業]]の実情に即しているとはいえなかった。多くの中小企業では、「配置転換したくても職場がない」「一時帰休させるほどの企業体力がない」など、大企業のように段階的な雇用調整を行う余裕がないため、いきなり[[退職勧奨]]や指名解雇に踏み込まざるを得ないのが実情である。また終身雇用・年功序列が崩れつつある現状では、要件の解釈はかなり変わっている。'''四要件を総合的に考慮した結果、相当と認められれば解雇を有効とする'''、すなわち四つの「要件」ではなく、「要素」として捉える判例も増えている。現状としては、企業の経営判断を尊重して司法審査を控え、各企業の経営や雇用の実態を踏まえて、四要件の充足を従来よりも緩やかに認める流れに傾きつつあるといえる([[ナショナル・ウエストミンスター銀行]]事件、東京地裁平成12年1月21日など)。ただし、これらの傾向が整理解雇の全面的な規制緩和をもたらしているわけではなく、近年においても厳格な四要件を堅持している判例もある([[九州日誠電気]]事件、熊本地裁平成16年4月15日など)。こうした裁判所の姿勢は、中小企業にもできるだけ大企業と同様の努力をしてもらう作用を営んでいる。
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== 事業廃止による全員解雇 ==
[[三陸ハーネス事件]]事件<ref>[http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/009716620070418014.htm 第166回国会 厚生労働委員会 第14号(平成19年4月18日(水曜日))]</ref>(仙台地決・平成17年12月15日・労働経済判例速報1924号14頁、なお[[三陸ハーネス]]は[[住友電装]]傘下の[[自動車|自動車部品]]会社)で示された判断によると、事業廃止により全従業員を解雇する場合には、上記の四事項を基礎として解雇の有効性を判断するのではなく;
#使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置であったか
#*使用者が[[倒産]]あるいは倒産の危機にある場合に比べて、単なる経営戦略上の事業廃止は必要性が低いと判断される。