リバーロキサバン(Rivaroxaban)は経口抗凝固薬の一つである。最初に開発された直接第Xa因子阻害薬英語版である。商品名イグザレルトXarelto。消化管からの吸収率が高く、投与4時間後に第Xa因子の阻害効果が最大となり、効果は8〜12時間持続する。しかし第Xa活性は24時間以内では回復しないので、1日1回投与で用いられる。開発コードBAY 59-7939。

リバーロキサバン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Xarelto
Drugs.com Micromedex Detailed Consumer Information
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
  • US: C
法的規制
投与経路 oral
薬物動態データ
生物学的利用能80% to 100%; Cmax = 2 – 4 hours (10 mg oral)[1]
代謝CYP3A4 , CYP2J2英語版 and CYP-independent mechanisms[1]
半減期5 – 9 hours in healthy subjects aged 20 to 45[1][2]
排泄2/3 metabolized in liver and 1/3 eliminated unchanged[1]
識別
CAS番号
366789-02-8 ×
ATCコード B01AX06 (WHO)
PubChem CID: 6433119
DrugBank DB06228en:Template:drugbankcite
ChemSpider 8051086 チェック
UNII 9NDF7JZ4M3 チェック
KEGG D07086
ChEMBL [1] CHEMBL198362]]en:Template:ebicite
化学的データ
化学式C19H18ClN3O5S
分子量435.882 g/mol
テンプレートを表示

効能・効果 編集

2008年9月、カナダ保健省が股関節全置換術または膝関節全置換術を予定されている患者に対する静脈血栓塞栓症(VTE)の予防についてリバーロキサバンの使用を承認した[3]

2008年9月、欧州委員会が成人の股関節置換術・膝関節置換術予定患者に対する静脈血栓塞栓症の予防について承認した[4]

2011年7月、FDAが成人の股関節置換術・膝関節置換術予定患者に対する肺塞栓症(PE)の基となる深部静脈血栓症(DVT)の予防について承認した[5]。2011年11月には、FDAが非弁性心房細動患者での脳梗塞予防について追加承認した。

2012年1月、厚生労働省が「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制」について承認した[6]

2015年9月、厚生労働省が「深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症の治療および再発抑制」について追加承認した[7]

禁忌 編集

リバーロキサバンは下記の患者には禁忌である[8]

  • 製剤成分に過敏症の既往歴のある患者
  • 出血している患者
  • 凝固障害を伴う肝疾患のある患者
  • 中等度以上の肝障害(Child-Pugh分類BまたはCに相当)のある患者
  • 妊婦または妊娠している可能性のある女性
  • HIVプロテアーゼ阻害剤(リトナビル、アタザナビル、インジナビル等)を投与中の患者
  • コビシスタット含有製剤を投与中の患者
  • アゾール系抗真菌剤(フルコナゾールを除く。イトラコナゾール、ボリコナゾール、ケトコナゾール等)を投与中の患者
  • 急性細菌性心内膜炎のある患者
  • 腎不全(クレアチニンクリアランス15mL/min未満または30mL/min未満)の患者

副作用 編集

重大な副作用として添付文書に記載されているものは、出血[9][10][11](頭蓋内出血(0.09%)、脳出血(0.08%)、出血性卒中(0.07%)、眼出血(0.25%)、網膜出血(0.08%)、直腸出血(1.31%)、胃腸出血(0.78%)、メレナ(0.54%)、上部消化管出血(0.38%)、下部消化管出血(0.23%)、出血性胃潰瘍(0.14%)、関節内出血(0.17%)、コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血(0.01%)等)、肝機能障害(ALT(GPT)上昇、AST(GOT)上昇を伴う肝機能障害(0.1〜1%未満))、黄疸、間質性肺疾患、血小板減少である。(頻度未記載は頻度不明頻度不明)

下記の様にクレアチニンクリアランスが低い患者(15〜49mL/min)では投与量を減じることが規定されているが、2016年3月に発表された前向き観察研究(XaPASS)の中間解析では、投与量を減じても重大な出血が多く(15mg群:1.1%/人年 vs.10mg群:1.6%/人年)、虚血性脳卒中も多い(15mg群:0.7%/人年 vs.10mg群:1.3%/人年)事が示された[12]

作用機序 編集

リバーロキサバンは血中の遊離第Xa因子およびプロトロンビナーゼ複合体に結合した第Xa因子を共に阻害するよう最適化されたオキサゾリジノン英語版誘導体である[13]。直接第Xa因子阻害選択性が高く、生物学的利用能も高いので、速やかに効果が発現する。第Xa因子の阻害は凝固系の内因性経路および外因性経路を両方阻害して、トロンビン生成および血栓形成を共に抑制する。リバーロキサバンはトロンビン(活性化第II因子)を阻害せず、また血小板に対して作用しないことが示されている[1]

リバーロキサバンは幅広い患者(年齢、性別、体重、人種)について薬物動態を予測し易く、5〜40mgの範囲で用量反応関係が平坦である[14]。臨床試験の結果、血中濃度のモニタリングや投与量の調整が不要であることが明らかとなった[1]とされるが、クレアチニンクリアランス(CCr)が50mL/min未満の患者では減量(15mg→10mg)が必要である。さらにCCrが30mL/min未満の患者に用いると血中濃度が上昇することが示唆されている[8]。また臨床試験では肝障害や末期の肝疾患を有する患者が除外されているので、これらの患者に対する安全性は明らかではない。

臨床開発 編集

4つの臨床試験(股関節置換術を対象としたRECORD1および2試験ならびに膝関節置換術を対象としたRECORD3および4)[15][16][17][18]で合計12,000名以上の患者が登録され、股関節全置換術または膝関節全置換術を予定している成人での静脈血栓塞栓症(VTE)予防効果について、40mg/日のエノキサパリン(低分子ヘパリン(LMWH))皮下注射と比較した場合の効果の経口リバーロキサバンの非劣性(および優越性の可能性)が示された。しかし、出血リスクはリバーロキサバン10mg/日の方がエノキサパリン40mg/日よりも大きく、リバーロキサバンに割り当てられた患者(6,000名以上)の内1名が、肝障害で死亡した。RECORD4試験ではリバーロキサバンの方が膝関節置換術後の血栓形成を有意に抑制していた[19]

加えて、リバーロキサバンでは非弁性心房細動(Afまたはafib)患者での脳梗塞予防(ROCKET-AF試験)[20]、入院患者でのVTE予防効果(MAGELLAN試験)[21]、二次性VTEの治療および予防(EINSTEIN試験)[22][23]急性冠症候群(ACS)患者での二次性心血管イベント予防効果((ATLAS ACS TIMI 51)[24][25]のそれぞれについて第II相臨床試験が実施され、8,000名を超える患者が登録された[26]。試験の結果、急性疾患で入院した患者へのリバーロキサバン1日1回×35日間の投与は標準治療であるエノキサパリン10日間皮下注射よりも静脈血栓症のリスクを低減したが、出血の発現頻度はリバーロキサバンの方が有意に高かった[27][28]

2010年12月に発表された試験の結果に拠ると、リバーロキサバンは単剤で短期および継続的静脈血栓症治療に用いることができ、抗凝固薬としてのリスク対効果プロファイルが優れているとの事である。同試験ではリバーロキサバン単剤群(15mg×2回/日を3週間継続後、20mg/日を継続投与)とエノキサパリン投与後ビタミンK阻害薬(ワルファリンまたはアセノクマロール英語版)に切り替えた群について、3、6、12ヶ月時点での急性症候性深部静脈血栓症の発現率が比較された。それに続いて、静脈血栓塞栓症の治療を実施した患者についてその6〜12ヶ月後からさらに6〜12ヶ月間無作為化二重盲検試験が追加され、リバーロキサバン単剤(20mg×1回/日)と偽薬が比較された[29]

リバーロキサバンは主要観察項目で非劣性(リバーロキサバン群:36イベント[2.1%] 対 エノキサパリン-ビタミンK阻害剤群:51イベント[3.0%]、ハザード比:0.68、95%信頼区間:0.44〜1.04、P<0.001)であった。安全性の主要評価項目の発現率は何方の群も8.1%であった。その後の二重盲検試験にはリバーロキサバン群602名、偽薬群594名の患者が登録され、リバーロキサバンの有効性(リバーロキサバン群:8イベント[1.3%] 対 偽薬群:42イベント[7.1%]、ハザード比:0.18、95%信頼区間:0.09〜0.39、P<0.001)が確認された。リバーロキサバン群で非致死的な大出血が4例(0.7%)発生したのに対し、偽薬群では大出血は発生しなかった(P=0.11)[29][30]

化学的特徴等 編集

 
リネゾリド(上)とリバーロキサバン(下)の構造式。共通部分を青で示す。

リバーロキサバンの化学構造リネゾリドに類似しており、同じオキサゾリジノン英語版骨格を持つ。当初リバーロキサバンはオキサゾリジノン系合成抗菌剤またはミトコンドリア毒性英語版を持つ化合物として研究されていたが、リバーロキサバンおよびその代謝物はグラム陽性菌に対する効果を持たず、またミトコンドリア毒性もin vitro では小さい事が判明した[31]

関連薬 編集

多くの抗凝固薬が第Xa因子を阻害する。非分画ヘパリン(UFH)、低分子ヘパリン(LMWH)、フォンダパリヌクスアンチトロンビンIII(AT III)を介して間接的に第Xa因子を阻害する。これらの薬剤はいずれも注射剤である。ワルファリンフェンプロクモン英語版アセノクマロール英語版はいずれも経口ビタミンK阻害薬英語版(VKA)であり、肝臓での多くの凝固因子(第X因子を含む)合成を妨げる。2010年代になって、多くの第Xa阻害薬が開発されて来ている。リバーロキサバンのほか、アピキサバン(日本承認:2012年)ベトリキサバン英語版(開発中)、LY517717(開発中)ダレキサバン(YM150)英語版(開発中)エドキサバン(DU-176b)(日本承認:2011年)である[32]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f Xarelto: Summary of Product Characteristics”. Bayer Schering Pharma AG (2008年). 2009年2月11日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^ Abdulsattar, Y; Bhambri, R; Nogid, A (May 2009). “Rivaroxaban (xarelto) for the prevention of thromboembolic disease: an inside look at the oral direct factor xa inhibitor.”. P & T : a peer-reviewed journal for formulary management 34 (5): 238-44. PMID 19561868. 
  3. ^ "Bayer's Xarelto Approved in Canada" (Press release). Bayer. 16 September 2008. 2010年1月31日閲覧
  4. ^ "Bayer's Novel Anticoagulant Xarelto now also Approved in the EU" (Press release). Bayer. 10 February 2008. 2010年1月31日閲覧
  5. ^ "FDA Approves XARELTO (rivaroxaban tablets) to Help Prevent Deep Vein Thrombosis in Patients Undergoing Knee or Hip Replacement Surgery" (Press release). Janssen Pharmaceutica. 1 July 2011. 2011年7月1日閲覧
  6. ^ バイエル薬品 経口抗凝固剤「イグザレルト錠」の製造販売承認を取得” (2012年1月18日). 2015年2月22日閲覧。[リンク切れ]
  7. ^ 医療用薬6製品 新効能などを追加承認 経口抗凝固薬イグザレルトにVTE適応など”. ミクス (2015年9月28日). 2015年9月28日閲覧。
  8. ^ a b イグザレルト錠10mg/ イグザレルト錠15mg 添付文書” (2016年4月). 2016年6月27日閲覧。[リンク切れ]
  9. ^ Medication Guide--Xarelto”. http://www.fda.gov/. U.S. Food and Drug Administration. 2014年9月1日閲覧。[リンク切れ]
  10. ^ Xarelto Side Effects”. http://www.webmd.com/. WebMD. 2014年9月1日閲覧。
  11. ^ Xarelto Side Effects Center”. http://www.rxlist.com/. RxList. 2014年9月1日閲覧。
  12. ^ リバーロキサバンPMS、低用量でイベント増加 約9000例を6カ月間追跡したXaPASSの中間解析結果”. 日経メディカル (2016年4月6日). 2016年4月6日閲覧。
  13. ^ Roehrig S, Straub A, Pohlmann J, et al. (September 2005). “Discovery of the novel antithrombotic agent 5-chloro-N-({(5S)-2-oxo-3- [4-(3-oxomorpholin-4-yl)phenyl]-1,3-oxazolidin-5-yl}methyl)thiophene- 2-carboxamide (BAY 59-7939): an oral, direct factor Xa inhibitor”. Journal of Medicinal Chemistry 48 (19): 5900–8. doi:10.1021/jm050101d. PMID 16161994. 
  14. ^ Eriksson BI, Borris LC, Dahl OE, et al. (November 2006). “A once-daily, oral, direct Factor Xa inhibitor, rivaroxaban (BAY 59-7939), for thromboprophylaxis after total hip replacement”. Circulation 114 (22): 2374–81. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.106.642074. PMID 17116766. 
  15. ^ Eriksson BI, Borris LC, Friedman RJ, et al. (June 2008). “Rivaroxaban versus enoxaparin for thromboprophylaxis after hip arthroplasty”. The New England Journal of Medicine 358 (26): 2765–75. doi:10.1056/NEJMoa0800374. PMID 18579811. 
  16. ^ Kakkar AK, Brenner B, Dahl OE, et al. (July 2008). “Extended duration rivaroxaban versus short-term enoxaparin for the prevention of venous thromboembolism after total hip arthroplasty: a double-blind, randomised controlled trial”. Lancet 372 (9632): 31–9. doi:10.1016/S0140-6736(08)60880-6. PMID 18582928. 
  17. ^ Lassen MR, Ageno W, Borris LC, et al. (June 2008). “Rivaroxaban versus enoxaparin for thromboprophylaxis after total knee arthroplasty”. The New England Journal of Medicine 358 (26): 2776–86. doi:10.1056/NEJMoa076016. PMID 18579812. 
  18. ^ Turpie A, Bauer K, Davidson B, et al.. “Comparison of rivaroxaban – an oral, direct factor Xa inhibitor – and subcutaneous enoxaparin for thromboprophylaxis after total knee replacement (RECORD4: a phase 3 study) / European Federation of National Associations of Orthopaedics and Traumatology Annual Meeting; May 29 – June 1, 2008; Nice, France, Abstract F85”. Journal of Bone & Joint Surgery, British Volume 92-B (SUPP II): 329. http://proceedings.jbjs.org.uk/cgi/content/abstract/92-B/SUPP_II/329-a. [リンク切れ]
  19. ^ Turpie AG, Lassen MR, Davidson BL, et al. (May 2009). “Rivaroxaban versus enoxaparin for thromboprophylaxis after total knee arthroplasty (RECORD4): a randomised trial”. Lancet 373 (9676): 1673–80. doi:10.1016/S0140-6736(09)60734-0. PMID 19411100. 
  20. ^ ClinicalTrials.gov. “Randomized, Double-Blind Study Comparing Once Daily Oral Rivaroxaban With Adjusted-Dose Oral Warfarin for the Prevention of Stroke in Subjects With Non-Valvular Atrial Fibrillation”. 2009年2月11日閲覧。
  21. ^ ClinicalTrials.gov. “MAGELLAN - Multicenter, Randomized, Parallel Group Efficacy Superiority Study in Hospitalized Medically Ill Patients Comparing Rivaroxaban with Enoxaparin”. 2009年2月11日閲覧。
  22. ^ ClinicalTrials.gov. “Once-Daily Oral Direct Factor Xa Inhibitor Rivaroxaban in the Long-Term Prevention of Recurrent Symptomatic Venous Thromboembolism in Patients With Symptomatic Deep-Vein Thrombosis or Pulmonary Embolism. The Einstein-Extension Study”. 2009年2月11日閲覧。
  23. ^ ClinicalTrials.gov. “Oral Direct Factor Xa Inhibitor Rivaroxaban In Patients With Acute Symptomatic Deep-Vein Thrombosis (DVT) Without Symptomatic Pulmonary Embolism: Einstein-DVT Evaluation”. 2009年2月11日閲覧。
  24. ^ ClinicalTrials.gov. “Oral Direct Factor Xa Inhibitor Rivaroxaban In Patients With Acute Symptomatic Pulmonary Embolism (PE) With Or Without Symptomatic Deep-Vein Thrombosis: Einstein-PE Evaluation”. 2009年2月11日閲覧。
  25. ^ ClinicalTrials.gov. “A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled, Event-Driven Multicenter Study to Evaluate the Efficacy and Safety of Rivaroxaban in Subjects With a Recent Acute Coronary Syndrome”. 2009年2月11日閲覧。
  26. ^ Venous Thromboembolic Event (VTE) Prophylaxis in Medically Ill Patients (MAGELLAN)”. ClinicalTrials.gov (2011年3月11日). 2011年4月15日閲覧。
  27. ^ Hughes, Sue (2011年4月5日). “MAGELLAN: Rivaroxaban prevents VTE in medical patients, but bleeding an issue”. theheart.org. 2011年4月15日閲覧。
  28. ^ About the MAGELLAN Study”. Bayer HealthCare. 2011年4月15日閲覧。
  29. ^ a b Bauersachs, M.D., Rupert; The EINSTEIN Investigators (December 23, 2010). “Oral Rivaroxaban for Symptomatic Venous Thromboembolism”. The New England Journal of Medecine 363 (26): 2499–2510. doi:10.1056/NEJMoa1007903. PMID 21128814. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1007903 2011年4月4日閲覧。. 
  30. ^ Oral Direct Factor Xa Inhibitor Rivaroxaban In Patients With Acute Symptomatic Deep-Vein Thrombosis Without Symptomatic Pulmonary Embolism: Einstein-DVT Evaluation”. clinicaltrials.gov. 2011年4月15日閲覧。
  31. ^ European Medicines Agency (2008年). “CHP Assessment Report for Xarelto (EMEA/543519/2008)”. 2009年6月11日閲覧。[リンク切れ]
  32. ^ Turpie AG (January 2008). “New oral anticoagulants in atrial fibrillation”. European Heart Journal 29 (2): 155–65. doi:10.1093/eurheartj/ehm575. PMID 18096568. 

外部リンク 編集