特性インピーダンス

一様な伝播媒体を用いて交流電気エネルギーを伝達するときに伝播媒体中に発生する電圧と電流、あるいは電場と磁場の比

特性インピーダンス(とくせいインピーダンス、: characteristic impedance、surge impedance)は、電磁気学・電気回路学の分野において一様な伝播媒体を用いて交流電気エネルギーを伝達するときに伝播媒体中に発生する電圧電流、あるいは電場磁場の比である。一般には交流を伝送する分布定数回路および電磁波の媒体(真空及び誘電体)での概念である。

以下では、電気電子工学の慣例に従い、虚数単位として j を用いる。 を交流の角周波数とする。

分布定数線路の特性インピーダンス 編集

抵抗、インダクタ、キャパシタ等の一般の形状を持つ集中定数回路素子に対し、扱う交流の波長に対して無視できないサイズの回路を分布定数回路、特に交流電気エネルギーの伝送を意図した回路を分布定数線路という。分布定数線路、特に損失がなく無限に長い伝送路を仮定すると、交流電気エネルギーは伝送路上の電圧と電流が変化しながら相互に影響し合うことによっておおむね光速度で伝播する。このとき伝送路上に発生する電圧と電流の比は分布定数線路の種類や構造によって決まり、この比を特性インピーダンスと呼び、電気回路でのインピーダンスとアナロジの概念である。電圧と電流の代わりに電場(電界)と磁場(磁界)の比を用いても同じである。特性インピーダンスの概念は物理学者のオリヴァー・ヘヴィサイドによって導入された。

均一な平行二線による伝送線路の特性インピーダンスZ0は次式で表され、周波数の関数である。

 

ここで、R, L, G, C はそれぞれ伝送路の単位長あたりの直列抵抗 (オーム:Ω)、直列インダクタンス (ヘンリー:H)、並列コンダクタンス (ジーメンス:S)、並列静電容量 (ファラド:F)である。特性インピーダンスの物理的次元および単位はインピーダンスに一致し、単位はオーム(Ω)である。特性インピーダンスの逆数を特性アドミタンス(単位ジーメンス:S)ということがある。

さらに、伝送線路が無損失、すなわち R=0、G=0 の条件では、

 

となり、周波数に無関係な定数となる。

電気回路において、ある集中回路素子から分布伝送線路へ、あるいは分布伝送線路から集中回路素子へ電気エネルギーを伝達する場合、集中回路素子のインピーダンスと分布伝送線路の特性インピーダンスが異なるとエネルギーの一部が反射し、定在波の発生により効率低下、異常動作、故障の原因となる。このため、電気エネルギーの伝送のためには接続部においてインピーダンスあるいは特性インピーダンスを一致させる必要があり、このような操作はインピーダンス整合と呼ばれる。交流、特に高周波回路においては回路に挿入されるあらゆる分布伝送線路、集中回路素子、配線コネクタに至るまで接続点でのインピーダンス整合の工夫がなされている。

電磁波の特性インピーダンス 編集

真空中の特性インピーダンス
記号 Z0
376.730313668(57) Ω [1]
相対標準不確かさ 1.5×10−10
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電磁波の特性インピーダンス(: Wave impedance)は、真空を含む誘電体(通常は大気等)中の電磁波の伝播に関する量である。

電気回路における電圧と電流の比という電気インピーダンスの定義を電磁波に準用すれば、特性インピーダンスは電場 E磁場 H の比となり、誘電体の誘電率透磁率εμ とすれば、特性インピーダンス Z は次式で示される(この式はマクスウェルの方程式から導出される)。前提条件により負号が付くことがある。

 

物理的次元および単位はインピーダンスに一致し、単位はオーム (Ω) である。

真空中の特性インピーダンス Z0 は自由空間のインピーダンス (: Impedance of free space) とも呼ばれる。その値は約376.73 Ωであり、大気でもほぼ同じである。強磁性体以外の物質の比透磁率はほぼ1である。誘電率は周波数(波長)の関数であり一定ではなく、特にマイクロ波以下(可視光を含む)の波長領域では大気の誘電率が大きく変化するため真空での値を代用することはできない。

真空のインピーダンスを用いると、真空の構成方程式を以下のように書ける。 真空中の光速度である。

 

脚注 編集

  1. ^ CODATA Value: characteristic impedance of vacuum”. NIST. 2020年6月2日閲覧。

関連項目 編集