猫檀家
猫檀家(ねこだんか)は、日本の昔話・民話の類型の一つ。寺で飼われていたネコが、その恩返しのために寺を栄えさせるというもの[1][2]。
あらすじ
編集典型的なあらすじは以下の通り。
ある寺が貧乏の挙句、食事にも事欠くほどになり、和尚はずっと飼っていたネコに暇を出した。するとネコは、近いうちに長者の家で葬儀があるといって、和尚に策を授けた。
やがて長者の家の葬儀の日。亡骸を納めた棺桶が突然、空に舞い上がった。参列者たちが驚き、その場にいた僧侶たちが必死に祈祷するものの、棺桶は動かない。だが最後に貧乏寺の和尚が経を唱えると、棺桶が降りて来て、無事に葬儀を済ますことができた。
解説
編集東北地方から九州にかけて分布しているものの、報告例は東北に多く、九州には少ない[1][4]。実在の寺を背景とし、寺の由来などを紐解く伝説となっていることもある[2]。
話の中、葬儀の棺桶が持ち上がったのは貧乏寺のネコの仕業であり、長年世話になった和尚への恩返しとされるが、世間ではネコが火車(妖怪)に化けて葬儀を襲うなど[3]、ネコを妖怪と見なして語られることもあり、寺が貧乏に喘いでネコに暇を出すのではなく、ネコが踊り出したのを見て追い出すといった具合に、怪異性をともなっている場合もある[2]。
和尚とネコの交流に重点を置いた典型的な昔話として語られるのは主に東北地方だが、西南地方の多くでは棺桶が宙に上がるような展開はなく、嵐のために葬儀を出せず、和尚が祈祷で嵐を鎮めたとする話に変化している。また恩返しのエピソードがなく、葬儀を襲うネコの怪物を和尚が追い払ったとして、単に和尚の名僧ぶりのみを語る話に変化している場合もある[1][4]。
「猫檀家」はどのバリエーションにおいても「ネコは死体を盗む」「老いたネコは火車に化けて葬儀を襲い、亡骸を奪う」といった、日本古来の俗信が背景にあるものと考えられている。また九州地方では火車を追い払うための呪法が多く伝わっているが、前述のように東北から西南地方へかけて話の形式が変化しているのは、ネコと葬儀との関連性に対する土地ごとの観念の違いや、西南地方ではネコの魔力を封じる呪法に僧侶たちが深く関っていたためと見られている[1][4]。
脚注
編集- ^ a b c d 福田晃 著「猫檀家」、稲田浩二他 編『日本昔話事典』弘文堂、1977年、704-706頁。ISBN 978-4-335-95002-5。
- ^ a b c d 常光徹 著「猫檀家」、野村純一他 編『昔話・伝説小事典』みずうみ書房、1987年、193頁。ISBN 978-4-8380-3108-5。
- ^ a b 播磨学研究所 編『播磨の民俗探訪』神戸新聞総合出版センター、2005年、157-158頁。ISBN 978-4-343-00341-6。
- ^ a b c 福田晃 著「猫檀家」、乾克己他 編『日本伝奇伝説大事典』角川書店、1986年、694-695頁。ISBN 978-4-04-031300-9。