逆差別(ぎゃくさべつ、英語:reverse discrimination)とは、差別を是正し撤廃しようとする過程において、差別されて来た集団(主に社会的弱者)を優遇することにより、優遇されて来た集団の待遇・利益・公平感が損なわれることで生じる差別である。性差別における逆差別は男性差別と混同されやすいが、別の概念である。また、被差別側が、集団となって権力を独占するという事が歴史上頻繁に起こる。元、武士階級や貴族階級が被差別側に落とされるということもあり得ることである。

定義編集

  • 人種差別部落差別性差別学歴差別などの是正措置の行き過ぎや目的の誤りによって引き起こされる差別。英語では「reverse discrimination」という(日本語と極めて語感が違うので注意)。極端な例も含めれば以下のような例がある。
    • 女性の雇用差別を是正(待遇を改良)するため、男性を冷遇することで「男女平等」などと解釈する(「差別ではなく、区別だ」と正当化する)。
    • 差別を受けていた(受けている)黒人を救済するため、白人を差別することで「平等」と解釈する。
    • 低学歴者(中卒または高校の退学者)の就職を有利にするため、高卒者、大卒者、専門学校卒業者、大学院卒業者などを一切採用しない。
    • 障碍者への恩恵を上げるため、健常者への弊害を推進する。
  • 積極的差別是正措置を否定する側が用いる別称。積極的差別是正措置も歴然とした差別の一種であり、他の差別と同様に認めてはならないものであるというニュアンスがある。

アメリカなどの国々においては、過去の差別政策の結果により生じた民族間、経済的階級間の格差を是正するために、伝統的に被差別グループ(少数民族、貧困層など)に属する人々を企業や官公庁の雇用大学入学などで優遇する積極的差別是正措置が行われた。

後者に近い例として、アメリカの医学部の試験で黒人を優遇したことで、医者の器ではなかった黒人が医者になり、「黒人の医者は腕が悪いので危険」という意見が増え、医者として有能な黒人までが資質を疑問視された例がある(風評被害に近い)。アフリカ系アメリカ人の立場からアメリカにおける逆差別問題を論じたシェルビー・スティールは『黒い憂鬱』の中で次のように述べている[1]

「もっともありふれた捏造行為は、人種差別を口実にした被害者的立場の捏造である。これはとくに危険な捏造行為である。なぜなら、この捏造行為は、歴史的な事実に根ざしている。たしかに過去において黒人はひどい虐待を受けたことは誰も否定できないし、以前より巧妙な差別が存在することも誰も否定できない。だが、実際の人種差別の産物であるかどうかを検討しないで、黒人共通の問題である貧困を、すべて人種差別に起因すると考える傾向はどうだろうか。人種差別による被害者であるという言葉自体が、主観的で曖昧な言葉である。自己を被害者と定義すれば、困難な事態に対する責任から放免され、罪悪感を感じないですむ。社会不正があれば、我々が無垢であることが確認されるからである。そして、黒人は社会不正の名によって被害者的立場を捏造し、自己の責任の重荷を他人に転嫁しているのではないだろうか」 —  シェルビー・スティール 、 『黒い憂鬱』

ソビエト連邦では少数民族に対する教育の機会が十分保障されていなかった段階で民族比率による雇用を進めたため、専門職に少数民族が配置される場合があり、能力と地位のギャップが生じた。いずれの場合も、基本的人権にかかわる格差が減少することによって、同時に逆差別となる要因自体が減少すると考えられる。中華人民共和国でも同じように、「一人っ子政策」において漢族チワン族以外の少数民族は優遇される一方、教育面・習慣面(大学入試における少数民族の加点、ハラール認証の一般化など)において政府は少数民族を擁護するような政策を取っているため、逆差別だと批判されることもある。

日本でも同和対策事業などに対して同様の主張がみられることがあり、特に京都市環境局やNHKにおける優遇政策は大きく取り上げられた。近年の日本では、公務員民間企業採用大学入試などにおいて、女性を優先する事例(千葉県大阪府名古屋大学など)が増加しており、問題となっている(参照:堂本暁子)。また、同一職種・同一賃金で、男性により重い負担が掛かってしまうケースも多い。しかし、この問題はほとんど追及されない。その理由は、女性優遇措置は「結果平等」として「政治的に正しい」ものと肯定されてしまうことが多いためであり、これに異を唱えること自体が女性差別バックラッシュとして、非難を浴びやすいためである。

伝統的な差別以外の差別是正によって引き起こされた「逆差別」の例編集

全国社会保険診療報酬支払基金労働組合(全基労)に属する職員のみが昇格人事において優遇されていたことに対し、社会保険診療報酬支払基金労働組合(基金労組)に属する職員が、これにより生じた賃金格差の是正のため経験年数に基づく「選考抜き一律昇格」を要求した。これはしかし全基労に属する職員には適用されなかったため、経験年数を満たしていながら全基労に属しているが故にこの是正の恩恵を受けられず昇格できない職員が「逆差別」を被るとされた[2]

脚注編集

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  1. ^ シェルビー・スティール 『黒い憂鬱 : 90年代アメリカの新しい人種関係』 李隆訳、五月書房、1994年7月、122-123頁。ISBN 4-7727-0074-9
  2. ^ 1990年7月4日、東京地裁、社会保険診療報酬支払基金男女昇格差別事件[リンク切れ]