醸造

発酵作用を利用しアルコールや食品などを作ること
酒造から転送)

醸造(じょうぞう、: brewing)とは、食品材料を微生物によって発酵させ、さらに熟成させる工程。

概要編集

主に微生物による発酵を用いて類(アルコール飲料)、みそしょうゆなどをつくる工程がそれにあたる。醸造でできるアルコールをアルコール燃料とすることもある。

醸造は、先史時代から人類に知られていた発酵という現象、人類が意図せずとも自然に起きていた現象を、やがて意図的に発生させることにより利用されてきた。これらは産業として、あるいはプロトサイエンスのようなものとして科学(主に化学)分野に様々な影響を与えてきた。これらは他の発酵に関する産業と同様、経験的に工夫が凝らされ、現在に至るまで連綿と続いている。

その一方、醸造の生化学分野での研究が進むにつれて様々な応用技術も発展し、医学から食品の製造や加工(発酵食品/加工食品)に至るまで、様々な分野で利用されている。

醸造法には、ワインのようにぶどうの果実自体に含まれている果糖と酵母で発酵・熟成させる直接醸造法と、清酒やビールのように原料となる米や麦芽を一度糖化させる工程を経てから発酵させる糖化醸造法がある。

「醸造」や「brewing」の指す範囲

日本では、かつてたまたま(こうじ)による発酵ばかりが行われていたので、結果として日本語の「醸造」が指すのは麹を用いて発酵させるものばかりであったが、「醸造」という言葉自体には "麹でなければならない" などという意味はそもそも全く無く、現代では様々な微生物によるものも含める。

英語で“brewing”はもともとビールの醸造方法のことを指していたが、こちらも酒類全般の醸造を指す総称となり、はちみつ酒ワイン、さらに日本酒の醸造についてもこのbrewingが用いられる。また、化学的な混合の過程も含めることがある。

アルコールの醸造編集

アルコール醸造は非常に古い歴史がある。たとえばワインは極めて歴史の古い酒の一つであり、新石器時代に醸造が始まったとされる[1]。実は、ワインの醸造は"勝手に起きる"ものであり、ぶどうの果実を大量に収穫し長期間蓄えておくと、実が潰れ、勝手にそこからワインが出来始める。ワインの発祥地とされる場所はいくつもあるが、様々な歴史的記念物、文献などから現在のジョージアにあたる場所では7000年から5000年前にワイン醸造が行われていたことが明らかになっている[2]。実はワインづくりは非常に簡単で、ぶどうの果実自体に元から自然に酵母が含まれているので、全くの素人でもワインの醸造は簡単であり、ぶどうの実を適当に潰して容器に入れて放置しておくだけで勝手に自然発酵が始まり[3]、それを土器(かめ)や(現代ならガラス瓶やステンレス容器やPETボトルなど)に入れて長期間放置しておけば勝手に熟成が進むというような簡単なものなので七千年や五千年前でも簡単に醸造ができ、あまりに簡単で、おまけに美味しかったのでワインは西洋で広まったわけである。

醸造技術は古代エジプトで使われていたことも明らかになっている。シュメール人の書物には様々な種類のビールの製法が記載され、様々な種類の書物の中で最も古いものの一つである。

醸造業西洋経済の大きな部分を占めた。また、酒税は近代国家にとって大きな税収入源であったため、歴史の中には醸造関連を巡る様々な事件も見られる。醸造が酵母と発酵させる作物があるうえ、発酵に適した条件さえ整えてやれば誰でも醸造が可能であったことから密造酒を作る者は後を絶たず、この酒と酒税にまつわる攻防も注目すべき事件や事象をしばしば惹起した。この中から微生物に関する研究も始まり、後年の微生物学の発達では産業としての醸造が与えた影響も大きい(雑菌#発酵産業と雑菌を参照)。

20世紀に入るとオイルショックなどの石油に依存した社会が被った打撃もあり、穀物などから燃料としての醸造アルコール(バイオマスエタノール)を作り、これを燃料とするなどの模索が見られ、21世紀に入っては燃料電池の燃料として利用することで電源としての利用も期待されるなど、アルコール醸造は古くて最先端のバイオテクノロジー分野として注目を集める。

酢の醸造編集

の歴史は、酒の歴史と非常に密接な関係にある。世界で最古の酢は紀元前5000年頃のバビロニアでつくられたと考えられており、古代バビロニアでは、人々は干しぶどうナツメヤシの実(デーツ)などから酒をつくっていたという記録があり、この頃に酢も誕生したと言われている。そもそも、もともと果物や穀物を収穫して蓄えている間に(意図せず、勝手に)出来てしまったのがアルコール(酒)であるが、さらにそのアルコールに自然の酢酸菌が作用して偶然に酢が誕生した、というのが酢の起源だと考えられている。[4]

味噌・醤油の醸造編集

日本では味噌醤油の醸造もある。

醤油は魚醤から作る場合と味噌から作る場合がある。醸造過程で蛋白質を分解させて風味を決定するアミノ酸を得る。こういった発酵食品は経験的に作られ、利用されてきた。その発祥が不明なほどに古くから行われてきたその初期には、保存食を作ろうとしての何らかの失敗(およびセレンディピティの発揮)があるものとも考えられる。


醸造学それに類する学科を持つ大学編集

脚注編集

  1. ^ 石毛直道の発酵コラム 第4回「酒」キリン食生活文化研究所
  2. ^ 橘勝士「グルジアのワインと文化」『日本醸造協会誌』Vol.95 (2000) No.9 p.651-657, doi:10.6013/jbrewsocjapan1988.95.651
  3. ^ [1]
  4. ^ [2]

関連項目編集