馬腹(ばふく)は、古代中国の伝説上の生き物。水の中に住み人を食べるとされる[1]馬腸(ばちょう)[2]とも。

に棲んでおり、体はのようで、顔は人間のようであるという。鳴く声は赤ん坊のようで、人間を食べてしまうとされる。『山海経』(中山経)に、伊水という川に住むと述べられている[3]。現行の『山海経』の本文には記載がないが、『山海経図讃』(「馬腹獣飛魚」)では、馬腹の肉を食すれば兵を辟け、雷鼓をおそれなくなるともある[2][4]

水に住み人を食べる古代の伝説上の獣とある点から、楊守敬『水経注疏』(巻28)などをはじめとして、水唐や人馬などの存在を馬腹と似たものなのではないかと比較されてもいる[2]。後の時代の文献に見られる別の存在に『山海経』に登場する存在を比較・比定する事例は中国古典の校注では古くからしばしば見られるものであり、これもその一例である[1]

馬腹・馬腸 編集

『山海経』(中山経)のなかで水の中に住む存在として馬腸というものも記載している[3]。本文には、馬腸はただ水(川)の中に多いとしか記載されておらず、どのような特徴を持つかについての言及がないが、郝懿行などは、『山海経』(大荒西経)の本文で「女媧之腸」が「女媧之腹」と書かれていることのある例から、馬腸は馬腹のことを示しているのであろう[5]と述べており、異名あるいは誤記であるとしている。

馬腹の登場する現代の創作 編集

脚注 編集

  1. ^ a b 伊藤清司 『中国の神獣悪鬼たち 山海経の世界』東方書店 1986年 22-26頁
  2. ^ a b c 馬昌儀 『古本山海経図説』 下巻 広西師範大学出版社 2007年 572-574頁
  3. ^ a b 高馬三良 訳 『山海経 中国古代の神話世界』 平凡社 1994年 84頁、88頁 ISBN 4582760341
  4. ^ 郝懿行 『山海經箋疏』 中華書局 1981年 513頁
  5. ^ 郝懿行 『山海經箋疏』 中華書局 1981年 200頁