馬鋸(うまのこ)は、詰将棋で長手数の手順を得るために使用される技法(趣向)のひとつ。竜馬(以下、と略記する)を(のこぎり)の刃のようにジグザグに動かす。

概要

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馬鋸の初出は1697年元禄10年)に刊行された无住僊良(むじゅうせんりょう)が著した『象戯大矢数』(しょうぎおおやかず)という詰将棋作品集の巻頭番外作(図1、85手詰)である。

初手から▲7二馬△9一玉▲7三馬(図2)△8一玉▲6三馬△9一玉…のように馬をジグザグに動かし、から遠ざける。その間、玉は8一と9一をひたすら往復する。21手目に▲2七馬(図3)と指してを取り、今度は△9一玉▲3七馬△8一玉▲3六馬△9一玉▲4六馬△8一玉…のように来た道を逆に戻って玉に近づける。39手目に▲7三馬(図4)まで戻ったところで△8一玉▲7二銀不成と違う手を指し、△9二玉▲8四桂打で入手した桂馬を打ち、△同竜▲同桂…と進めていき、以下長い収束に入る。図2図4を比べると盤面はたった1枚(△2七桂)の違いしかないが、その間に36手が経過している。初手から21手目までの馬の軌跡は図5のようになる。

図1
无住僊良『象戯大矢数』巻頭番外作
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図2
3手目▲7三馬まで
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図3
21手目▲2七馬まで
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図4
39手目▲7三馬まで
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図5
馬の軌跡
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『象戯大矢数』では馬が単純に往復するだけだが、馬鋸は昭和以降大きな発展を遂げ、馬が1手動く間に別の手順を挟むことで1サイクルの手順を長手数化する創作技法が発達した。現代の超長篇詰将棋では馬鋸をベースにするものが非常に多く、2022年10月現在の詰将棋の長手数記録第1位の橋本孝治ミクロコスモス(1525手詰)、第2位の添川公司新桃花源(1205手詰)はともに馬鋸をベースとしている。趣向の前後での局面の変化が少ないため煙詰に採用されることもあり、1983年発表の「妖精」から2012年発表の「妖精2」改良図まで最長手数作品には馬鋸が取り入れられている。

馬鋸は、将棋の対局でも理論上は生じ得るが、現実に起こることはほぼありえない。

バリエーション

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馬鋸にはさまざまなバリエーションがある。

往復馬鋸
『象戯大矢数』のように、往復して玉の近くに戻ってくる馬鋸。
片道馬鋸
出題図の時点で玉から遠い位置に馬があり、玉に近寄るだけの馬鋸。
3段馬鋸
普通の馬鋸は1段(または1列)につき馬が2マス動くが、2三→3三→4三→3四のように3マス動くようにした馬鋸。
1手馬鋸
普通は馬が2手動くのに1サイクルかかるが、2手動くのに2サイクルかかる(1サイクルにつき1手しか動かない)馬鋸。1985年に発表された添川公司の「桃花源」で初めて使われた。
1/2手馬鋸
馬が2手動くのに4サイクルかかる(1サイクルにつき1/2手相当動く)馬鋸。2006年に発表された添川公司の「新桃花源」で初めて使われた。

馬鋸と合駒

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馬鋸における王手は離れた場所からのものなので、玉方は合駒をすることも可能である。馬が玉から離れるタイプの馬鋸の場合、合駒をして一度離れた馬を近くに呼び戻すことにより手数を伸ばすこともできる。

上に例としてあげた問題も、発表時は17手目▲3六馬に対し△7二歩▲同馬△9一玉▲7三馬(図2と同じ形。ただし持ち駒に歩が1枚多い)…という手順を玉方の持ち駒がなくなるまで繰り返してから桂馬を取って戻る手順となっていた(391手詰)。詰んだ時に取った歩17枚が持ち駒として残るため、現在ではこの合駒を無駄なものとして手数に数えていない。

馬鋸を含む問題を創作する詰将棋作家の中にはこの無駄な合駒を嫌い、合駒ができないような仕掛けをしておく人もいる。

関連項目

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参考文献

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外部リンク

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