1.1.1-プロペラン
[1.1.1]プロペラン ([1.1.1]propellane) は、有機化合物であり、最も単純なプロペランである。化学式C5H6またはC2(=CH2)3の炭化水素である。3つの三員環が1つのC-C結合を共有する分子構造を持つ。
[1.1.1]Propellane | |
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Tricyclo[1.1.1.01,3]pentane | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 35634-10-7 |
ChemSpider | 125285 |
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特性 | |
化学式 | C5H6 |
モル質量 | 66.1 g mol−1 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
[1.1.1]プロペランは、非常に歪みが大きい分子である。2つの中央炭素原子の結合は、逆四面体型であり、中央の結合の長さは160 pmである。結合の強さには議論があり、59-65 kcal/molから強度は全くないという説まである。ビラジカル状態のエネルギーは、80 kcal/mol高いと計算されている。この化合物は非常に不安定で、114℃になると、5分の半減期で自発的に3-メチレンシクロブテンに異性化する。歪みエネルギーは、102 kcal/molと推定されている。
合成
編集[1.1.1]プロペランは、1982年にケネス・ワイバーグとフレデリック・ウォーカーによって、以下のスキームで初めて合成された[2]。
まず、ビシクロ[1.1.1]ペンタンの1,3-ジカルボン酸 1がハンスディーカー反応により対応するジブロミド 2に変換され、次に、N-ブチルリチウムとのカップリング反応が生じる。最終生成物 3は、-30℃でカラムクロマトグラフィーによって単離される。
しかし、ずっと単純な合成方法も発表されている[3]。その方法では、まず3-クロロ-2-(クロロメチル)プロペン 6のアルケン結合にジブロモカルベンが付加し、その後、メチルリチウムによって脱プロトン化され、求核置換反応が生じる 7[4]。単離はされず、-196℃の溶液中に留まる。
反応
編集酢酸付加
編集[1.1.1]プロペランは自発的に酢酸と反応し、メチレンシクロブタンエステルを生じる(上記の4)。
重合
編集中央のC-C結合が解離し、隣のモノマー単位と結合することにより、[1.1.1]プロペランは重合し、いわゆるスタファンを形成する[5]。
ギ酸メチルや過酸化ベンゾイルによってラジカル重合が始まり、様々なオリゴマーが生成する。N-ブチルリチウムとのアニオン重合では、完全重合生成物が得られる。ポリマーのX線回折により、繋がったC-C結合の結合長は、わずか148 pmであることが示された。
架橋した[3.3.1]プロペランとみなすこともできる1,3-デヒドロアダマンタンも同様に重合する。
出典
編集- ^ Wu, Wei; Gu, Junjing; Song, Jinshuai; Shaik, Sason; Hiberty, Philippe C. (2009). “The Inverted Bond in [1.1.1]Propellane is a Charge-Shift Bond”. Angew. Chem. Int. Ed. 48: 1407–1410. doi:10.1002/anie.200804965.
- ^ K. B. Wiberg, F H. Walker (1982), [1.1.1]Propellane. J. Am. Chem. Soc. volume 104 issue 19, pp. 5239-5240; doi:10.1021/ja00383a046
- ^ J. Belzner, U. Bunz, A. D. Schluter, G. Szeimies et al. "Concerning the synthesis of [1.1.1]Propellane" Chem. Ber. volume 122, pp.397-398
- ^ (1998) Organic Syntheses, Coll. Vol. 10, p. 658 (2004); Vol. 75, p.98 Online article.
- ^ Piotr Kaszynski and Josef Michl (1988), [n]Staffanes: a molecular-size "Tinkertoy" construction set for nanotechnology. Preparation of end-functionalized telomers and a polymer of [1.1.1]propellane J. Am. Chem. Soc.; volume 110 issus 15, pp. 5225 - 5226; doi:10.1021/ja00223a070