CAP定理
CAP定理はブリュワーの定理とも呼ばれ、分散コンピュータシステムのマシン間の情報複製に関する定理。ウェブサービスを想定して作られた定理。
定義
編集ノード間のデータ複製において、同時に次の3つの保証を提供することはできない[1][2]。
- 一貫性 (Consistency)
- すべてのデータ読み込みにおいて、最新の書き込みデータもしくはエラーのどちらかを受け取る。
- 可用性 (Availability)
- ノード障害により生存ノードの機能性は損なわれない。つまり、ダウンしていないノードが常に応答を返す。単一障害点が存在しないことが必要。
- 分断耐性 (Partition-tolerance)
- システムは任意の通信障害などによるメッセージ損失に対し、継続して動作を行う。通信可能なサーバーが複数のグループに分断されるケース(ネットワーク分断)を指し、1つのハブに全てのサーバーがつながっている場合は、これは発生しない。ただし、そのようなネットワーク設計は単一障害点をもつことになり、可用性が成立しない。RDBではそもそもデータベースを分割しないので、このような障害とは無縁である。
この定理によると、分散システムはこの3つの保証のうち、同時に2つの保証を満たすことはできるが、同時に全てを満たすことはできない[3]。単一障害点があれば、ネットワーク分断が発生した際にシステムがバラバラに分裂しても、そこを基準に一貫した応答ができる(分断耐性+一貫性)が、可用性が成立しなくなる。
個別例
編集一貫性+可用性
編集一般的な関係データベース、LDAP、NFS などは一貫性と可用性しか成立しない。2相コミットはこれに該当。ネットワーク分断が発生した際は、片方を切り捨てる。Amazon Relational Database Service の Multi-AZ 配備も該当。
可用性+分断耐性
編集可用性+分断耐性のケースでも、一定時間以内に一貫性を成立させるシステム(結果整合性; eventually consistent)は構築可能である。Amazon SimpleDB や Apache Cassandra などがこの方式を採用している。DNS や HTTP キャッシュなども該当。3種の中ではこの方式が最も障害に強い。
一貫性+分断耐性
編集Apache HBase などが採用している。HBase の場合、単一障害点がある上、ネットワーク分断に対して整合性をとる仕組みが不完全であるため、可用性が犠牲となっている。
歴史
編集この定理は、インクトミの創業者でもあり、カリフォルニア大学バークレー校の計算機科学の教授でもあるエリック・ブリュワーが2000年の Symposium on Principles of Distributed Computing (PODC) で提案(数学的な用語では予想)したのが始まりである[4]。
2002年にMITのSeth Gilbertとナンシー・リンチがブリュワーの予想の厳密な証明を提出し、定理として確立した[1]。
参照
編集- ^ a b Nancy Lynch and Seth Gilbert, conjecture and the feasibility of consistent, available, partition-tolerant web services”, ACM SIGACT News, Volume 33 Issue 2 (2002), pg. 51-59.
- ^ "Brewer's CAP Theorem", julianbrowne.com, Retrieved 02-Mar-2010
- ^ "Brewers CAP theorem on distributed systems", royans.net
- ^ Eric Brewer, "Towards Robust Distributed Systems"