Wikipedia:ウィキペディアは辞書ではありません

ウィキペディアは辞書ではありませんし、慣用表現集、俗語集や専門用語集、または使用手引書でもありません。むしろこのプロジェクトの目的は百科事典を作ることです。姉妹プロジェクトのウィクショナリーは辞書を作ることが目的です。それは「ウィキペディアとは語彙に関する仲間」で、この両者はお互いにリンクし合っています。ウィクショナリーは辞書を書きたいと望むあらゆる執筆者を歓迎します。

ウィクショナリーとウィキペディアの両方において、新たな項目は内容がほとんどないスタブから出発する発展中の作品です。ウィキペディアの記事は良い定義から始める必要がありますが、同様に、その主題に関する他の種類の情報も提供する必要があります。ウィキペディアのスタブが成長して十分となった記事は、辞書の項目とは大きく異なります。

百科事典のそれぞれの記事は、ある人物、人々、概念、場所、出来事、物などを対象にします。一方で、辞書の項目は、単語や句などの言葉そのものを対象にします。辞書の項目では、言葉の意味、用法、活用、類義語、語源、訳語などが内容として含まれます。ウィキペディアの一部では、単語あるいは慣用句自体が百科事典的な対象となることもあります。例えば、大人買いのように。

混乱の原因は、スタブの百科事典の記事が、スタブの辞書の項目によく似ており、不十分に書かれていることです。別の混乱の原因は、「ポケット」辞書のような一部の「紙製」の辞書によって、辞書の項目は「短い」ものだとよく誤解されるためです。その結果「短い記事」と「辞書の項目」は同じだと捉えてしまいます。

ウィキペディアにしか参加していない場合には、どういう内容が辞書に適しているかをよく考えずに、{{字引}}テンプレートを用いることはよくありません。ウィクショナリーでも編集方針に合わないものは、即時削除の対象ともなりえます。ウィクショナリーはウィキペディアの簡易版ではなく、異なったプロジェクトです。

要旨:百科事典と辞書 編集

この節では、ウィキペディアと(辞書の例として)ウィクショナリーを比較します。 しかしその原理において、ウィキペディアは辞書ではありませんし、ウィクショナリーではないという単純なことでもありません。

大きな違い 編集

ウィキペディア ウィクショナリー
何について書かれているか 記事名は、ある人物、人々、概念、場所、出来事、ものなどを意味します。例えば、ネコの記事は「ネコという動物」について書かれます。内容として、生理、何を食べるのか、科学的な分類等を含みます。 項目名は実際の単語や熟語そのものです。例えば、項目ねこは「ねこ」という言葉について書かれます。内容として、品詞、発音、用法、語源、訳語等を含みます。文字漢字記号の一つ一つも対象です。
同じ物事が異なる言葉で表現される場合(類義語 重複記事は統合すべきです
例: 生物生き物
異なる項目名を許容します。
例: 生物いきもの
形態は異なるが同じ言葉とみなせる場合(同音同義異表記語、同じ語彙素など) 重複記事は統合すべきです 異なる項目名を許容します。
例(同音同義異表記語): colourcolor
例(同語彙素): walkwalked
異なる物事が同じ言葉で表現される場合 (同綴異義語) 異なる記事へ分けられます。
例: 種子トリック
1つの項目にまとめられます。
例:

百科事典の記事の名前は、通常は容易に多くの異なる同等の形をとることが可能で、一方で辞書では「言語的な取り組みは、その項目名の言葉に関してである」から、通常は容易には変換できません。この傾向はひとつの指標となり得るでしょう。[1]

小さな違い 編集

ウィキペディア ウィクショナリー
語形変化 ウィキペディアの一単語の記事名は通常は名詞動名詞です。八百屋キャンピングのように。記事名は単数形です。他の語形変化がある場合にはリダイレクトされます。 単語のあらゆる語形変化はそれ自体が項目です。walkwalkswalkedwalkingはすべて異なる項目です。語形変化のための接尾辞もまた項目です。-er-ingなど。
形容詞 形容詞は、名詞にリダイレクトされたり、曖昧さ回避ページであったり、あるいは存在しません。 あらゆる形容詞はそれ自体が言葉や項目です。
使用言語 基本的には日本語です。 あらゆる言語のあらゆる言葉を許容します。

量ではなく 編集

注意すべきは、辞書の項目と百科事典の記事は、単に「長さ」が違うということではありません。短い辞書の項目は、空間的な制約がある紙製の辞書という加工品のためです。すべての辞書が紙の量によって制約があるということはないのです。ウィクショナリーは紙の辞書ではありません。語義の他に、筆順、字源、語源、訳語、派生用語、類義語、対義語、関連語、発音、点字、用法、用例などが含まれ、項目が長くなる可能性があります。

事典の定義の落とし穴 編集

良い定義 編集

辞書と百科事典の両方は定義を含んでいます:

百科事典の記事は、良い定義と1つの主題を説明して開始する必要がありますが、同様にその主題に関する他の種類の情報を提供すべきです。百科事典的な定義は、言語的な関心よりも、百科事典的な知識(事実)に大きな関心があります[2]

良い定義は、循環定義類義語や類義語に近い、過度に広いとか狭い、曖昧、比喩、不明瞭ではないものです。説明的な記事名は、アニメの歴史のように読んだ通りで定義を必要としません。

ウィキペディアは使用説明書ではありません 編集

ウィキペディアは、言葉、熟語、慣用句などをどのように使うべきかという事業ではありません(どのように使われているかは、百科事典においては重要であるかもしれませんが)。一方で辞書は、語義の他に品詞、用例、コロケーションなども示し、言葉の使われ方の説明を主目的としています。

俗語やスラング若者言葉の使用説明書ではありません。わたしたちはハッカーのように会話する方法や、粋な寿司の食べ方を教育しているのではありません。ウィキペディアはマニュアル、ガイドブック、教科書、学術雑誌ではありません。このような場合には、ウィキペディアウィクショナリーではなく、ウィキブックスが適しています。わたしたちは百科事典を書いているのです。

いくつかの記事が業界用語や専門用語を一覧にしているかもしれません。しかし、一覧記事以外では箇条書きではなく、文章による自然な形で情報を提供する必要があります。

新語 編集

新語の記事は、通常は削除されます。このような記事はウィキペディアを利用して、ある用語の使用を増加させようとするという試みのためによく作成されます。ウィクショナリーでは、編集方針として、5年以上経過した新語や、通常の辞書に掲載された新語であれば掲載を受け入れています。代わりに、その新語をウィクショナリーに登録することで貢献することもできるでしょう。

一部の新語は、頻繁に用いられ、また特定の用語に関する多くの事実をまとめ、またインターネットにおいてとかそれよりも広く用いられている証拠を示しています。特定の用語や概念についての記事を裏付けるには、その用語や概念に「ついて」述べている書籍や論文のような、信頼できる二次資料を参照しなければなりません。その用語を「使っている」書籍や論文ではありません。ある著者による個人的な観察と調査(例えば、その用語に「ついて」書いてあるというよりは、その用語を「使っている」ブログや書籍、また記事を見つけることで)は、新語を記事に裏付けるにはまだ不十分です。なぜなら、一次資料の位置づけを昇格させるためには、「分析」や「統合」を行うことが要求されているためです。そうなっていない資料は、独自研究の方針によってはっきりと禁止されています。

広範に使用されているけれど、二次資料では取り扱われていない新語は、ウィキペディアにおいて対象とする準備はまだ整っていません。二次資料が利用可能であれば、その記事を作成したり、他の記事にて用いることは適切となるでしょう。

少数の例で注目的な主題は、信頼できる情報源において十分に裏付けされているでしょうが、略語の存在はまだ一般に認められていないでしょう。そのような例では、新語を使うことに誘惑されます。しかし代わりに、可能であれば平易な説明的な名前のほうが、長かったり不格好なであっても望ましいものです。

辞書のような記事 編集

百科事典に適していない項目が記事として作られることもあります。例えば、「ごめんなさい」や「たのしい」といった単語や、「猿も木から落ちる」といった慣用句についての記事です。このような内容は、百科事典ではなく辞書に適しています。

同様に、ウィキペディアはコンピュータ用語や「駄目駄目」といった俗語などの用法を集めて解説するプロジェクトでもありません。言葉の意味や用法、用例以外に書くことがないような主題では、世の中の事象や歴史、仕組みの解説を目的とする百科事典の記事として成長させることができません。

スタブ 編集

ウィキペディアの利用者の多くは、まだ内容がほとんどないスタブ記事の投稿が奨励されているということには合意しています。もちろん、最初から内容が充実しているに越したことはありません。主題の定義だけしかない記事を作成しても、誰かに注意されることもなく単にスタブ記事として扱われ、後に発展されることになります。しかし、そのような記事を乱立するのはやめたほうがいいでしょう。

どのような項目が百科事典の記事として成長する可能性があり、反対に可能性が低いかという判断は、判断する人によっても変わります。例えば、自由寡占のように百科事典的な内容を膨らませることができる言葉もあり、百科事典としての記事の文脈の中で、その言葉がどのように使われているかについて書くことは極めて重要です。Category:語句のようなカテゴリも存在します。従って、その記事が百科事典にふさわしいかどうかは、個別の検討が必要となります。ですが、一般的に百科事典的な記事に成長する可能性があなた自身では分からない場合には、その記事は作成しないほうがよいでしょう。

問題への対処 編集

スタブ 編集

記事が百科事典に適した内容で書きかけの場合は、{{Stub}}が使用できます。単に短い記事というだけの場合には、スタブとしての対処が可能です。

乱雑に内容が書かれている場合には、導入部のスタイルマニュアルに沿って、体裁を整えることも可能でしょう。項目名に、読み仮名をつけたり、太字にしたりすることができるかもしれません。

記事名の付け方が好ましくない場合には修正を検討することができます。認知度が高い名称、特に略語よりは信頼できる情報源において使われているような正式名称の使用が推奨されています。

真に辞書の項目に近い 編集

場合によっては、本当に語源、外国語、派生用語、類義語、対義語、発音、使用法などだけを説明した内容が作られることがあります。内容をウィクショナリーに移動する方法については、Wikipedia:プロジェクト間の移動にて解説されています。

既にウィクショナリーにも存在する場合には、削除することもできます。

ある記事が辞書のようになっていると判断した場合には、{{字引}}テンプレートを用いて注意を促すこともできます。このテンプレートは、内容が辞書のようになっており、百科事典の記事としての成長が難しい記事に用いるものです。百科事典にふさわしい記事となるように手を加えることが推奨されます。これらはCategory:字引記事に一覧にされます。

辞書へのリンクを指し示す 編集

ウィクショナリーにリンクするための{{Wiktionary}}テンプレートも用意されています。ウィクショナリーのdictionaryという項目にリンクしたテンプレートの例が、この節に表示されています。辞書的な定義であるとして、何度も作成されては削除しているような記事がある場合には{{Wiktionary redirect}}を用いることができます。

脚注 編集

  1. ^ Henri Béjoint Modern lexicography p.30.
  2. ^ R. R. K. Hartmann, Gregory James. Dictionary of lexicography

関連文書 編集