Wikipedia:執筆コンテスト/第参回執筆コンテスト/講評
審査員より
編集まず、審査員より、執筆お疲れ様でしたと一言。惜しくも、A分野(B分野も含めてですが)において時間切れになった記事もあったのですが、次回に期待したいと思います。
- 記事について
★は、Tantalによる審査員賞。
- 「地理」--フレンキシェ・シュヴァイツ、ダルース_(ミネソタ州)、泡瀬干潟、雪形
- 「歴史」--★ビルマの戦い、★占田・課田制、★会所_(中世)、★オーストラリアの歴史、ブルネイの歴史
- 「社会及びメディア」--過誤払い、新グレート・ゲーム、国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案
- 「芸術」--タザリア王国物語、音象徴、★ラインの黄金、★シェイクスピア別人説、ウイングス_(テレビ番組)、★チンドン屋
という形で、今回のA分野の投稿は、ほぼバランスよく、各分野からノミネートされたと思います。ただ、惜しむらくは、哲学分野、宗教分野、心理分野、言語分野、経済分野からのノミネートがなかったのは残念です。確かに、地理や歴史と比較した場合、これらの分野はより専門性が求められるでしょうから、記事のしにくさはあるのかもしれません(事実、イスラームを中心に活動している私としても、イスラームの法、哲学、神学といった分野は下書きしている段階で頭を抱えていることが多いです)。ただ、ウィキペディア内で出尽くしたわけではないでしょうから、今後は、これらの分野の新規投稿、それもスタブでないものを、期待したいと思います。
今回のA分野に関しては、充実した記事が多く、その中で1つ(最終審査で順位をつけて3つ)を選ぶという作業は困難を極めましたが、Wikipedia:秀逸な記事の選考にすぐにかけてもおかしくない文章の内容とその文章構成、スタイル、脚注及び参考文献の提示を重視しました。私は、チンドン屋を選びましたが、それ以外にもビルマの戦い、占田・課田制、会所_(中世)、シェイクスピア別人説、ラインの黄金、オーストラリアの歴史は、FA選考にかけても問題ないのではないでしょうか。チンドン屋を1位にしたのは、体系的に研究されていないであろう分野を、丹念に参考文献を読み込んでいき、百科事典の1記事として充実なものを残されたからにほかなりません。
日本語版の現実として、質の面では、英語版と比較した場合、見劣りする部分があるというのが半年ほど、Wikipediaに携わっての感想です。やっと、補助輪を外して運転ができるようになった子供とでも喩えればいいのでしょうか。また、分野によって、秀逸な記事に偏りがあります。とはいえ、実際には、本当はかけてもいいんだけど、誰も推挙しないという現状もあるかと思います。特に、地理、歴史の分野というのは、項目数こそ多いものの現実問題として、FAに選出されている項目数自体、自然科学の分野と比較した場合には少ない。地理に関して言えば、国を除くと八王子市とコルシカ島のみという現実、歴史に関しても既に滅亡した唐や東ローマ帝国はあっても、各国史(通史)の分野・戦史分野のFAは存在していません。そろそろ、昨年のボツワナの歴史のような大作がFAに選ばれて妥当だという気がするんです。今年のビルマの戦いやオーストラリアの歴史はこの分野のモデルになると個人的には思います。
今回のコンテストを機会に、皆様も、FA選考に参加していただければと思います(参考までに、07/5/2時点での主要言語のFAは英語版1372、ドイツ語版1036、フランス語版346、スペイン語版404、イタリア語版295、ポルトガル語版231、ポーランド語版232、中国語版105、ロシア語版160、アラビア語版113、オランダ語版115、日本語版79)。
私自身が参加したB分野に関しては、投稿分野についての言及のみにさせていただきます。数学、医学、動物学、植物学、天文学、環境分野の投稿がどうしてもほしかった。生物学の分野で言えば、オオカミの再導入やタイセイヨウサケが3月の月間新記事賞に選出されていることから、仮に、これらの記事がB分野に投稿してあったとすれば、私が投稿したイスラーム建築に審査員の票が集まるということはなかったはず。また、Portal:数学のお知らせに、0.999...を秀逸な記事の選考にかかっていることを告知したら、すぐに、賛成票が8つ集まったことを考えると、各分野のPortalにも、執筆コンテスト開催のお知らせをご案内すればよかったのではないかというのが反省点として挙げられるかと思います。また、画像分野の充実を図らないといけないですね。
3月にTemplate:新しい記事に選出された記事を執筆された方々に、お知らせすれば、投稿分野が少ない分野の記事の充実につながったのではないでしょうか。
- 謝辞
最後に、イスラーム建築を1位に選んでいただいた方々と大幅な加筆、編集をしていただいたHiro-oさんとHaydarさん、私が画像面で未熟だったので、その点でご協力していただいたfryed-peachさんに謝辞を述べたいと思います。--Tantal 2007年5月23日 (水) 15:53 (UTC)
執筆者より
編集らりた
編集とりあえず今日のところは、A・B両分野の一位の記事だけに、また後日余裕があれば他の記事に対しても述べさせて頂きたいと思います。
まずA分野で一位を取ったチンドン屋です。構成・記述の詳しさ・文章のこなれ方、いずれも素晴らしいレベルです。私が書いた記事のように「これに付いて知りたければこれを参照」などと書いた本は無いでしょう。その中で丹念に調べ挙げたこの記事はすぐにでも秀逸に相応しいかと思います。
その中で微妙に気になったことというと脚注がどの参考文献に対応しているのかがちょっとわかりにくいかなと思いました。前にもノートで書きましたが同じ著者の物は纏めた方が解りやすくないでしょうか。それと「 細川『繁盛記』」という風に「執筆者+略称」で書かれていますが、「執筆者+執筆年」の方が参考文献の示し方としては一般的ではないでしょうか。それと出来ればISBNも付けていただけるとあり難いです。あと、細かい点として
- >株の暴落、広告取締法の施行などで、大規模な広告楽隊・広告行列は明治40年代に入って衰退し
- >戦前の全盛期は1933年から38年頃とされ
の所ですが、広告取締法により何故衰退したのか、そして昭和になって何故復活したのでしょうか。広告取締法によって大規模な広告楽隊が禁止されたのでしょうか?そのあたりに説明があると良いと思います。
次にB分野で一位を取ったイスラーム建築です。この記事はまず真っ先に写真の多さが目を引きます。本文に即した写真が目を楽しませてくれてあたかも旅行にいっているかのような気にさせてくれます。記述の詳しさ・文章のこなれ方も文句なしでしょう。
ただ構成面で少々疑問を感じます。歴史の項では非常に多種にわたるイスラーム建築の例を引いて説明されているのですが、量が多すぎてどうも解りづらくなっている気がします。概説の項でイスラーム建築の歴史を「『前古典期』あるいは『形成期』、『古典期』、『ポスト古典期』」、地域を「かつてのローマ帝国および東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の支配地域と、サーサーン朝ペルシャ帝国の支配地域」と分けていたのでこれに沿って説明がされるのかなと思っていたのですが、違いました。時代ごとの特徴と地域ごとの特徴とを分離した方が良いのではないでしょうか。また地域・時代ごとの例示はその地域・時代の特徴を説明するために都合が良いものの簡単な説明に留め、それら地域・時代に属する建築を他の節に分離して詳しく説明するという形の方が良いのではと思います。
それと上でも書きましたが参考文献は「執筆者+執筆年度」にした方が書名をいちいち書くよりも簡略化できて良いのではないでしょうか。
以上です。私はどうも他人を褒めることが苦手で、こういう場になると粗探しばかりしてしまう悪い癖があります。これも講評というよりは難癖付けみたいになったかもしれませんが、難癖くらいしか付けられない完成度の高い記事ということで一つ。改めてお二方にはおめでとうございました。らりた 2007年5月26日 (土) 14:31 (UTC)
Avenafatua/ごうだまりこ
編集B分野の講評を書いていきます。講評半分、感想文半分。B分野はエントリ数は少なかったものの、良質な記事がそろって良いコンテストになったと思います。
- イスラーム建築
- 優勝おめでとうございます。いい写真がたくさん集まっていて、目の保養になりました:-)
各様式のまとめが、ダイジェスト版もしくは地図+年表の形で最初のほうに置かれていると良かったかもしれません。ロシア建築の後半の表のようなまとめがあると、ありがたいです。
右側に張ってある「イスラム教」テンプレートに、「イスラーム建築」の項目を入れても良さそうですね。
- 優勝おめでとうございます。いい写真がたくさん集まっていて、目の保養になりました:-)
- シール(工学)
- 工学系の記事として、完成度が高いと思います。各事項に適切な写真が添えられており、理解の助けになっていました。「グランドパッキン」装着プロセスの四コマ写真がいいですね。とても説得力があります。こういう描写は、ものづくり関係の記事で参考にしていきたいものです(建築施工などの記事でこの手法を使ってみたい)。
- ロシア建築
- この記事はもうちょっと評価されて良かったなぁ……と思います。文章と写真で各様式を紹介したあとに、改めて年表がまとめられているという構成が効いています(この年表は英語版に輸出したいくらい)。そして画像のセレクト、目の保養になりました。
なじみのない用語には綴りを書き添えて欲しかったのと、あと、ロシア建築独特の "たまねぎドーム" について言及して欲しかったところです。
- この記事はもうちょっと評価されて良かったなぁ……と思います。文章と写真で各様式を紹介したあとに、改めて年表がまとめられているという構成が効いています(この年表は英語版に輸出したいくらい)。そして画像のセレクト、目の保養になりました。
- コメット連続墜落事故
- 開発の経緯→事故→原因究明→解決、という問題解決のストーリーがよくわかる記事にまとまっていると思います。「目次」を見た時点ですでにその構成のよさが理解できます。失敗学の記事として、模範的です。
- プロトン化水素分子
- まず、章立てがしっかりしていると思いました。「歴史」で発見の経緯・実例を挙げてうまく導入し、次に物性的な話を一気に書き、実例を挙げていく、という、メリハリとストーリー性のある良い構成になっています。読んでいて頭にはいってきやすいです。また、参考文献が箇所ごとにリンクされているので、検証可能性という意味で優れた記事になっています。
- 膜電位
- 「膜電位の基本原理」の部分が、よく噛み砕かれた簡潔な表現となっており、本題へとうまく導入していく良い構成となっていると思います。全体の内容は専門的ですが、冒頭部分が良く書けているおかげで生物学にはあまり強くない読者にも読み進めやすい記事になっています。
冒頭で触れられているオジギソウが御辞儀をするメカニズム、ちょっと詳しく実例として解説されていると読者が喜びそうだと思いました。
- 「膜電位の基本原理」の部分が、よく噛み砕かれた簡潔な表現となっており、本題へとうまく導入していく良い構成となっていると思います。全体の内容は専門的ですが、冒頭部分が良く書けているおかげで生物学にはあまり強くない読者にも読み進めやすい記事になっています。
- オラン・ペンデク
- 未確認の事項 (UMA、怪奇現象) については、その生物自体の検証可能性よりも、「それにまつわる諸説の存在」の検証可能性の重視、すなわちメタ的な立場からの書き方がふさわしくなってきます。そのメタ視点を貫いた記事として評価できると思います。
- ビューティ・ペア
- これは時間切れ……ということで今後に期待いたします。
- グレア
- 自分が書いたので一番最後。
自分の守備範囲上、工学寄りの内容になってしまいまった感があります。生理学的な話や交通関係の話も必須ですね。「評価方法」の部分は書き足していくと、分量としてはおそらく2~3倍、くどい内容になりそうなので、他とのバランスを考えながら書いていきたいです。
照明・交通・建築設計(+インテリア)では広く知られた概念なのですが、今回書くまでは記事自体存在していませんでした。日本語版には、このように「これだけ重要なネタがなぜ今まで書かれなかったんだ!?」というものが、まだまだたくさんあります。これからも日本語版、頑張って育てていきましょう。
- 自分が書いたので一番最後。
--Avenafatua/ごうだまりこ 2007年5月26日 (土) 23:58 (UTC)
Ks aka 98(チンドン屋)のコメント
編集お礼とコンテスト全体の雑感
編集望外の展開に驚いてます。えーと、まずは、Yosemiteさん、審査員の皆様、コメンテーターの皆様、執筆者の皆様、お疲れ様です。そして感謝を。
これまでほとんど執筆のほうに手を出していなかったので、検証可能性や独自研究、出典など、Wikipedia文書やノートの議論などで、自分が言っても履歴に説得力がないのをなんとかしようという、やや邪な気持ちと、日本の大衆文化の項目が全体に手薄で、それは資料などの問題から書くこと自体の困難さも理由となっているであろうこともあるだろうと思い、わずかながら貢献できないかと思っていたことがきっかけで、ほっといても書かないので、自分を追い込もうとして、エントリしました(ほんとは、もうひとつ理由があるんですが)。記事は書かない人、というままで、押し通そうかとも思ったのですが、2ちゃんで突っ込まれたりもして。コンテストの存在は、そういう時に、背中を押してくれます。ふだん文章を書かないわけではなく、とりあえず目標を一次予選通過として、去年の様子などを見るに、25~30kあって内容が破綻していなければなんとかなるか、と甘い見通しを立てて書いていたのですが、40kほどに達して、そこそこなんとかなったと思って、いざ、他のエントリをみてみると、すごいレベルが上がってて、うへえ、と。加えて、Y tambeさんから、まるで下書きから投稿原稿への過程の逡巡を見ていたかのようなコメントに、やべえ、と。
結果、ひとまずは、自分なりにウィキペディアの発展に執筆者として貢献できたと安堵しています。他の執筆者の皆さんは、エントリした1本だけではなく、継続的に優れた記事を投稿されている方ばかりで、選ばれたのは、たまたま、題材が風変わりだったことと、1本のみでの評価となるコンテストという性質に拠るものと理解しています。また、自ら書くことで、「紙製ではない百科事典」のあり方が、少しクリアになってきたところもあって、コンテストという、競い合い、評価される場というのは、専門家が書いた紙の百科事典の質にどこまで近づけるかという部分と、もう一つ、紙ではないからこそできることとは何かということを、実践的に試みるという部分があると思いました。今後継続的な「執筆者」に転ずることもできないと思いますが、少しずつでも「項目の執筆」をしていこうという気を起こさせる、励みになりました。重ねて、ありがとうございました。
記事内容についてコメント
編集以下、せっかくなので、偉そうにコメントをつけてみたいと思います。全体として、個別には分野Aについては全エントリに、分野Bについては決選投票ノミネートとなったエントリに、写真分野は気になった作品だけ、ですが、それぞれコメントを付しました。高く評価されたエントリについては、あえて厳しめに書きます。長いので、読む際は展開してください。--Ks aka 98 2007年5月27日 (日) 16:47 (UTC)
全体に
編集分野Aが中心ですが、全体に思ったこと。
- 文体について。「シェイクスピア別人説」は、ある主張を、論拠を示しながら組み上げていくという意味で、やや論文風で、特に最後に「」という節が置かれているのが、この印象を一層強めているように思います。「会所_(中世)」はエッセイ風な印象、「ビルマの戦い」は、事実を中立的に列挙することで、文と文の繋がりが薄れているように感じました。
- 「概説」について。百科事典の用法の半分は、その用語について詳しく調べるための最初のとっかかりですが、残りの半分は、要するに何かを知ることではないかと考えます。何かの本を読んでいて、ある用語が出てきたけれどさっぱりわからない時に、とりあえず引いてみる。そういう状況を想定すると、エントリされた項目の多くは、内容が充実している分、簡潔に理解することが、やや難しくなってしまっているような印象を受けました。「占田・課田制」は、研究自体が進んでいないとはいえ、どういう制度なのかということを、「会所_(中世)」は、一般的な語法から特定の様式を指すに至ったその様式自体の特徴を、わかりやすく、項目の最初に置いたほうが分りやすいと思いました。「新グレート・ゲーム」については、項目名から内容が推察できないこともあって、その用語がいつ、どのように使われるようになり、どのような分野でどのように定着していったかを充実させて欲しいと思いました。「ビルマの戦い」についても、太平洋戦争の中で、どのような位置づけにあるのか、というようなことを加筆することはできるように思います。
- 地域、年代などについては、概要の部分、加えて、節の見出しで、多少煩雑でも明確に記述しておいて欲しいと思いました。その分野を学ぶ者であれば、国の名前、人の名前である程度推察できると思いますが、もっと単純に、西暦/何世紀という記述が示されていると、たとえば異なる分野から何らかの必要に迫られて部分的な情報を欲している場合などには、可読性・利便性の面で、大きく変わってきます。
- 出典の書式については、"Ibid"の使用や、脚注で「著者名+発表/刊行年」と表記し書誌情報は参考文献へ、というスタイルだと、refタグを使った脚注表示の場合、同一著者の同一年の異なる論文に拠る加筆などで、編集の手間がかかってしまうように思います。ブラウザで表示される1行あたりの文字数を考えると、極端に省略する必要は薄いですから、書誌情報をすべて書く必要は感じませんが、書名の略記などで独立させてしまうほうが望ましいと思いました。
記事種別ごと
編集こっちも分野Aが中心ですが、記事の傾向ごとに、思ったことを。
- いわゆるサブカル分野の作品を扱った「タザリア王国物語」と「ウイングス_(テレビ番組) 」については、この分野全体がまだ解決できていない困難を打破したとは言えないものの、対象を冷静に観察し、客観的に記述するという基本的な態度はクリアしていて、じゅうぶん有用な記事となっていると思います。これらのような「作品」の項目を書く場合、著名な文学作品の項目を百科事典で探してみて、どの作品が載っていて、どの作品が載っていないか、どれくらいの分量で、何が書かれているかを確認すること、加えて、全集の解説などでは、どうなっているかを参照し、紙幅の制限がなくなれば、どのようなことが書かれるのかを考えることは、執筆の指針となるでしょう。執筆する上での次のステップは、書評や番組評が載っている発売・放送時期の雑誌など、扱いたい作品について書かれた資料を集めることだと思います。Garnet Crowは、ウィキペディアにおける成功例の一つでしょう。ここから先は、資料収集、文章としてまとめること、いずれも大変な作業となるでしょうが、サブカル分野の指針となる記事を期待します。
- 翻訳記事について。量、それに訳文の読みやすさなどは、高い水準に達していると思います。「ダルース_(ミネソタ州) 」の完成度、「シェイクスピア別人説」の圧倒的な量とそれを感じさせない訴求力は、特筆に値するでしょう。また、非英語版の項目をわかりやすくまとめ、有用かつ興味を惹起する項目を日本語版にもたらした「フレンキシェ・シュヴァイツ」、日本では関心の薄い地域の情報を伝える「新グレート・ゲーム」、やはり日本では情報を得がたい「ウイングス_(テレビ番組) 」も含め、日本語版への貢献は大きいと思います。既に高い水準にあるだけに、より多くの項目を日本語版に移入し、ウィキペディアを充実させて欲しいと思う一方で、日本語版への移入にあたって、何ができるかというところを探る時期にあるのかもしれないとも感じました。コンテストという場では、「ダルース_(ミネソタ州) 」のコメントにあるように日本語版読者に適応させていくこと、さらに元となる他言語版の記事の欠点を修正し、不足分を補っていくこと、それはどういう作業を必要とし、どのように対処していけばよいかということを、ふだんの執筆時よりも考え、試行錯誤していくことで、他の項目、他の執筆者の指針となっていけばいいなあ、と。
- 歴史記事について。歴史についての記事は、従来百科事典にある項目であり、まとめる際の構造は既に定式化されており、整備されている資料も多く、閲覧も比較的容易だと思われます。そのかわり、扱わなければならない事象は多く、また膨大な史資料と格闘することになります。「オーストラリアの歴史」「ブルネイの歴史」「ビルマの戦い」は、複数の概説からまとめようと試みるものあり、より原資料に近いところにあたるものあり、いずれも高い水準にあり、意欲に溢れるものと感じ入りました。これは、まったく贅沢な注文なのですが、「歴史」といいつつ、それは体制史、政治史に過ぎなかったり、西洋諸国からの視点に覆われていたりといった、従来の歴史記述が抱える問題というのがあります。前者について言えば、「ブルネイの歴史」の冒頭に地理的条件が置かれているのは、フローベールに倣ったものと推察します。全体史、あるいはアナール以降の新しい歴史学の視点を導入した例と言えるでしょう。後者については、たとえば、コロンブスの「発見」は、カリブ先住民にとって「発見」ではないですし、ゲルマン民族の「大移動」は、ヨーロッパ西部に住んでいた者にとっては「大侵略」であるという指摘は、既にしばしばなされています。文化史・社会史的な記述をうまく取り込むか、項目名を限定的に変えることができないか、これまでの百科事典では、そのように書かれていないにしても、非文字時代の記述や西洋による「発見」以前の記述を、中立的にできないか、というのが、今後ウィキペディアに期待したい部分、です。
分野A:各項目について
編集- 過誤払い 紙製ではないウィキペディアにふさわしい比較的新しい言葉を、辞書・用語解説にならず、多岐にわたる個別の事例をまとめ、字数なども調整していく作業など、構成・文章の面、それも百科事典としての項目を作り上げるには、という部分で、相当苦労されたのではないかと推察します。ここから1/3くらい削る覚悟で、並列させている部分をもっと「文章化」していくくらいが、コンパクトにまとまるのかなあ、と思いました。執筆者賞というのが許されるのなら、「過誤払い」を選びます。
- 音象徴 項目としては、すごく興味をそそられるもので、こういう言葉と出会えたことに感謝します。個々の学説については、今後の加筆を期待したいところですが、総説・概説的な部分をざっくりまとめてもらえると、読む側としては、有用な記事になると思いました。言語学や心理学は独特の用語・概念があるので、そのへんをうまくフォローして欲しいです。共感覚的音象徴というものが、どのような経緯で考えられるようになってきたかとか、日本語だと漢字の読みと関連して意味が決まっていく部分もあるんじゃないかと思ったりとか。
- 占田・課田制 上で述べた通り、わからないなりのわかりやすさが欲しかったところではありますが、定説のない制度という、非常に書きづらい項目について、フラットに、学説を追いながら丁寧にまとめた項目だと思いました。
- 新グレート・ゲーム 上でも述べた通り、この用語がどのようなものか、という部分の説明がもっと必要だと思いました。また、冒頭、最初の一文で、いつの時代のことかということに言及があるほうがよいでしょう。記事としては、日本では情報の得にくい地域の、比較的最近の事情を伝える記事として、非常に有用な項目だと思います。第一期が抜けているのは何故?
- 会所_(中世) 参考文献に上がっているものが、本格的な論文・研究書のわりに、文体が柔らかく、図版も丁寧に取り込まれていて、親しみの持てる記事だと思いました。「「会所」と名づけられる、ある特定の独立した建物」がどういうものか、というのの、直接的な説明が、出てこないように思います。「起源と歴史」のところが、ずらっと現在までの歴史を追うではなく、室町時代以前に焦点を当てるでもなく、というのが、気になりました。「ハレ」と「ケ」、「無縁」あたりの言葉が、内部リンク無しに出てくると、ちょっと辛いかも。
- タザリア王国物語 丁寧に客観的に、本文に書かれていることを整理できていると思います。あとは、これに加えて何を書かなければいけないかということを考えること、書評・紹介文、作家の日記など、この作品について書かれている文章をいかに探すか、といったことが必要になってくるでしょう。また、未完の作品を百科事典に書くにあたって、どのように書けば、読者にとって有用か、以後加筆する上でよりよいものとなるか、といったところに挑戦してみて欲しかった。
- ラインの黄金 音楽系だと、多少の知識があるので、楽しく読ませてもらいました。本項目は、対象が限定されているので、あまり多面的な論説の紹介などは避けているのかと思いますし、それは適切な判断だと思います。ただ、オペラ、ワグナー、「指輪」といった、より大きな括りとなる部分の知識がなければ読みづらいように思いました。楽劇にような、重要な人名・用語については、内部リンクに頼りすぎることなく(また節分けするほど大袈裟に扱うわけでもなく)、数行程度の説明を付して欲しいと思いました。台本/物語に関係する「ギリシア神話・哲学の影響」と「構成」をまとめて、「構成」の音楽に関わる部分を「音楽」に持って行くか、物語と音楽をそれぞれにまとめて、その融合に関する部分を「構成」に置くか、というような構造にできれば、読みやすくなるように思います。ワグナー関係は資料も多く、多面的に分析されているので、大変だと思いますが、取り組みがいのあるネタなので、期待しております。日本の(とくに文学者における)ワグナー受容については、中村洪介『西洋の音、日本の耳』が面白いっす。
- フレンキシェ・シュヴァイツ 前述の通り、英語版と比べて読み書きできる人が少ないドイツ語版からの翻訳作業に感謝します。観光・景勝地としてのすばらしさを前面に出してしまったことで、百科事典らしさを損ねてしまったように思います。これだけの写真と、情報があるのですから、一般的な地理記事の構成に合わせ、単に「地理」の部分で描写していくだけで、そのすばらしさは伝わったように思います。
- 国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案 法案本体の概要がわかる記事にはなっていると思います。廃案になった法案を項目を立てて説明するだけの重要性が、見えにくかったように思います。この法案に限らず日本における諜報活動関連の議論は、それなりにあると思いますし、「法案審議とその後の経緯」の節にあることを、背景として具体的に追っていくことで、たとえば1980年代前半からの活発な議論や気運の高まりは、当時の新聞・雑誌や国会議事録、回顧録などで、詳しく書けるはずです。
- シェイクスピア別人説 文体の部分では、難点を指摘しましたが、分量の割にすごく読みやすくなっています。国書刊行会の『世界の奇書』で、ベーコン説は知っていましたが、これほどの深みがあったとは。シェイクスピア本体を、是非お願いします。
- ダルース_(ミネソタ州) 内容に大きな問題を感じない、完成された記事だと思いました。この調子でどんどん項目を増やしていくこともウィキペディアに発展に繋がりますが、コンテストのような場では、日本語資料として紹介できる文献を探してみるというような「挑戦」や、都市の記事以外の大物項目の翻訳に期待します。
- 雪形 言葉自体としては、項目として立てるにはやや早いような気もしましたが、語彙の広がりに言及されている点は、個人的には、高く評価すべき点だと思いました。雪形という表現ではなくとも、伝承などで残雪の形に言及している事例はありそうですから、そのへんは調査可能ではないか、まずは「地形や水流・風向の傾向などの理由で、毎年同じような形を見せる」ことが大事なんじゃないか、と思いました。
- ウイングス_(テレビ番組) 上で書いた通り、海外のテレビ番組の情報が日本語で読めることは、有用ですが、翻訳上の困難と、テレビ番組の項目を書くこと自体の難しさが出てしまったように思います。英語版にはない筋書きを加え、英文表記は、直接関係ない関連作品などは内部リンクに留め、配役の節を立てることで、冒頭部の英文表記を減らせば、可読性が上がるはずです。
- オーストラリアの歴史 上では厳しいことを書きましたが、年表作成を中心に据えるという作業は、記事作成の姿勢として、ごく真っ当であり、記事の土台をなし、以後の執筆者の益となるものですが、単純なコピペでなければ、複数の資料をあたりながらまとめあげていくという実に面倒な作業です。その道をとったこと、項目として仕上げたことに敬意を表します。
- 泡瀬干潟 まとまった歴史資料が少ないようですが、その主なものをしっかり確認しつつ、広く他の資料を用いてわかりやすくまとめた記事だと思いました。泡瀬だけでなく、那覇・沖縄史などに記述はないのかな。構成がいまひとつ百科事典的ではなく、たとえば「生物相」の節は地理に取り込むか歴史よりも後、「利用」の節は「埋め立て計画」の前に置くと、だいぶ印象が変わるように思います。
- ブルネイの歴史 締め切り後の加筆も含めて、圧倒されました。ウィキペディアへの参加・協力に心から感謝申しあげます。
- ビルマの戦い 一次終了時には、どっちかが1位と思って、丁寧に読んで厳しめに感想を書いていたのですが、そのまま載せます。まず、ベーシックな知識がないと、読みづらいなと思いました。それこそ「ビルマの竪琴」で興味を持った人が、戦史としての知識をまったく持たないまま読む可能性もある項目なので、これだけの分量の記事としては、概要が知れる程度に概要を充実させる必要があると思いました。太平洋戦争全体の中での局面の位置づけや、個々の記述・文での視点や役割が曖昧なため、文意を追い切れなくなる部分がありました。たとえば、「泰緬鉄道」の記述は正確であり詳細ではありますが、ここで必要なのは、鉄道敷設という日本の判断の根拠、適切さへの評価、突貫工事であったことによる人員配置上の問題と感情的な問題、コレラによる作業停滞の影響、そして戦局上いかなる役割を果たすか、といったことだと思います。実際には、記述に足りる意義のないものもあるでしょうし、他の節で記述するのが望ましいものもあるでしょうし、「泰緬鉄道」の項目の要約としての位置づけとして独立した節を立てることで(これは項目間の記述の調整上適切な判断だと思います)、時系列に沿えなかったりという困難も生じるかもしれませんが。もっとも気になったのは、ビルマ/ミャンマー史としてのこの戦いの位置づけがあまり書かれていないことです。影響などの節では、ビルマを先頭に置くなど、POVへの配慮が感じられましたし、ミャンマーの歴史も赤リンク、おそらく、刊行されている信頼できる出版物も、ビルマ史としての観点で書かれているのは多くないのだと思いますから、無理なお願いであるとは思うのですが。
分野B
編集一次選考から漏れたものも含めて、分野B全体に思うのは、雑な区別ではあるとしても分野Aよりもその項目の内容を理解していないと書くのが難しいと思うのですが、その点では、無理なく記述されているということです。しばしば主観的な記述が入り込んでしまっていることと、その項目や説明に現れる言葉が、そもそもどういうもので、どういう分野で用いられる言葉なのかということが分りにくいということも、目に付きました。「理解」が、理系というか、概念や理論の説明にはまず必要で、言ってしまえば、それをわかりやすく書き直すのは別の人でもいいとも思うのですが、コンテストという性格上、そこのところについて、一次を通過したものだけ、ですが、例を挙げつつコメントを。
- イスラーム建築 目次を見ると、「歴史」は地理的な分類で並んでいるように見えます。概説でイスラーム建築の歴史に触れるところに年代を、「ムハンマドがキブラをカアバ神殿に定めたのは624年のことであったが、マッカとカアバ神殿がクライシュ族から奪還され」というような記述で、「キブラ」とは何か、「マッカ」とは何か、という説明を一言入れて欲しいです。構成要素の節の冒頭に、イーワーンとかミフラーブの簡単な説明をして欲しいです(イーワーンが何か結局分らない…)。これは、詳細な説明をいちいちして欲しいと言うことではなくて、たとえば「マッカ」というのが、地名なのか建築物なのか神器みたいなものなのか人なのかが、「マッカ」を分ってる人じゃないとわからない。リンク先を、ということもあるかと思いますが、地名なら地名ということさえ分れば読み進められるのであって、項目をちゃんと読むほどどういう土地でどういう歴史を持つかというような何かを知りたいのではないのですね。たとえば「クライシュ族」がどんな民族かはともかく、「民族」ということはわかるから、そのまま読めるから、これは大丈夫。
- グレア 単なる「眩しさ」とは、違う概念ですから、その概念が、いつ誰によって提唱され、どのように広まり、どの分野で発展していったのか、という部分を、冒頭で、できれば節を作って説明して欲しいと思いました。医学なのか、心理学なのか、といったところがわかるだけでも大きく違いますし、ちょっとググって見ると、視力回復手術などで使われることが多いようですし、ハロ(現象)との関連なども紹介されています。
- コメット連続墜落事故 「デハビランド コメット」というのが、会社名なのか特定の機種なのか、わからないまま読み進めないといけないのが辛かった。コメット1とかコメット8番機とかコメット3号とかが入り乱れているのもわかりづらかったり。概要は、たとえば「コメット連続墜落事故(de Havilland Comet disasters)は、航空機の安全性と、事故発生時の原因究明の重要さを示す点で、航空史上重要な事例として知られている連続墜落事故である。イギリスのデハビランド社が開発した世界最初の実用的ジェット旅客機であるコメット1に発生した。コメット1は1952年に就航、操縦技術の変化に対応できないことを理由とした離着陸時の事故が相次いだ後、1954年に連続して飛行中の事故が発生、原因の調査の過程で当時の航空工学および金属工学の分野で十分認識されていなかった金属疲労についての関心が高まった。」とすると、どうでしょう(間違ってたらすみません)。
- 膜電位 これも、生物の細胞膜を前提にしていますが、非生物の膜でも電位は生じるのではないかと思いました。エントリ時の「生理学・神経科学・生物物理学の基本的概念」という言葉が書いてあれば、だいぶ違った印象を受けたと思います。また、日本語文献として、基本的な教科書の類を挙げておくと良いのではないかと思いました。主観的な表現が目に付いた例としては、「しかし、ホジキン(1955)やハクスレー(1951)に先行すること10年以上前、なんと日本人の科学者、鎌田武雄が英国留学中にゾウリムシの膜電位の測定に成功していた(1934)。しかも彼はこの時点ですでにガラス管電極を発明して用いており、ノーベル賞級の技術を二つ同時に駆使していたことになる。」があります。これは、「ホジキン(1955)やハクスレー(1951)に先行して、英国留学中の鎌田武雄が自ら発明したガラス管電極を用いてゾウリムシの膜電位の測定に成功していた(1934)ことが、明らかになっている{要出典}。」とかでどうでしょう。
写真部門
編集- Image:Iwasaki House at Ueno Tokyo.jpg きれいな青空で、余計な人影もなく、個人的にはこれが一番いいと思っていました。残念なのは、水平・垂直が出ていないことで、これは修正可能なんですが、多分下からややあおってると思うんです。あまり背の高くない建築物なら、画面端の柱が斜めにならないように、カメラを地面に垂直にしたまま、画像の大きさをできるだけ大きく&ズームを広角にして、撮影後トリミングという選択肢も考えてみて欲しいなと思いました。
- 画像:Cercidiphyllum japonicum05s3200.jpg 岩崎邸と並んでいいなと思ったのがこの写真です。シャッター速度の選択としては、もっと速くして飛沫と渓流の透明感を出すか、もっと遅くして飛沫や波が白く流れを見せるか、というように思いました。
- 画像:Ibaraki Pref Hohikifune 2006.JPG 曇天で逆光気味ということで、全体の雰囲気を見せるには、ややネムい感じがします。拡大させて見ると、とんだりつぶれたりしていないので、細部がわかりやすい、百科事典らしい写真だと思います。もっと寄って、たとえば網を引く人にフォーカスしたものがあるなら、それもご提供頂けるといいなあと。
コメンテーターより
編集富山県人より
編集- 私は富山県に30年以上すんできているのにもかかわらず、チンドン屋の知識を持っていませんでした。しかし、今回の文章でチンドンが大変よく分かりためになりました。画像も適当な量があって読みやすったと思います。もし私が審査員だったら確実に投票していました。Ks aka 98さん、今後もご健闘を祈ります。
最後にチンドン屋に票を入れて下さった審査員の皆さんありがとうございました。--ネプチューン2007年5月26日(土)12:45(UTC)