横滑り防止装置

横滑り防止装置(よこすべりぼうしそうち 英:Electronic Stability Control )(以下、ESC)とは、自動車の旋回時における姿勢を安定させる装置の一種。 横滑り防止機構、車両(制動)挙動安定(化)装置[1]、車両挙動制御装置や車両挙動安定化制御システムなどとも呼ばれる。

突然の路面状況の変化や、危険回避のために急激なステアリング操作をした場合などに自動車の車両姿勢が乱れた際、万が一の事態をなし得る限り回避するために、ドライバーの運転操作だけでは防ぎきれない横滑りを極力抑制し、走行安定性を可能な限り確保すると共に、車両の姿勢を可能な限りを安定させるためのシステムのこと[2][3][4]

概要

ESCは、オーバーステアアンダーステアなどの車両が不安定状態(以下、危険な状況下)を検知すると、各種センサーから得られた情報を元にブレーキエンジン出力を自動統合制御(瞬時に各輪(一輪または、複数の車輪)へ自動的にブレーキをかけるとともに、瞬時にエンジン出力を自動制御)することによって車両の姿勢を自動制御し、車両の急激な挙動変化を抑え、可能な限り車両の挙動を安定させる [2][4][5][6]

ESCは、車の基本性能である「走る」「曲がる」「止まる」のうち、「曲がる」を制御する予防安全(アクティブセーフティー)のシステムである。「走る」を制御するシステムは「TCS」、「止まる」を制御するシステムは「ABS」である[2]

解説

前出の、制動時に車輪のロックを防ぐABS、制動・加速・減速時の車輪空転(ホイールスピン)を防ぐトラクションコントロールシステム (TCS) 等を統合制御することによって、車両旋回時におけるアンダーステアやオーバーステアを防止する制御を可能としている。

ESCが開発されたことにより、操舵角に応じて最適に車両の姿勢を制御する機能も統合制御が可能となった。また、運転者のステアリングが意図する旋回速度と、ヨーレート(角速度)センサ(ジャイロスコープ)が検出する実際の旋回速度に差異がある場合、電子制御ブレーキを適切に作動させて、実際の旋回速度を運転者が意図する旋回速度に一致させる自動制御も可能となった。

歴史

技術的な進化の過程としては、ABSとTCSが併用され、より精密な制御と作動時の車両の安定を狙って各輪独立制御(EBDなどと呼ばれる)付きABSとなり、ヨーレートセンサが組み合わされて、ステアリング切れ角に合わせて旋回時にも車両を安定させる統合制御が可能になったと考えるとわかりやすい。

さらに近年は、電動パワーステアリング(EPS)の車輪の切れ角を、ハンドル操舵角に単純に比例させるのではなく最適に制御する「操舵トルクアシスト(アクティブ・ステアリング機能)」との統合制御に発展している。こちらのシステムは、2003年トヨタ・プリウスに「S-VSC(Steering-assisted Vehicle Stability Control, ステアリング協調車両安定性制御システム)」として搭載され、2008年10月からのホンダ・オデッセイに「VSA/Motion Adaptive EPS」として搭載された。

以下に、技術的な進化の過程を示す。

  1. 「ABS」と「TCS」のシステムを組み合わせた、制動・加速・減速時のロックやホイールスピンを防ぐための安全補助システムが開発される。
  2. 「1. 」の安全補助システムをより精密に制御し、作動時の車両安定性を確保するために「EBD(「各輪独立制御」のもの)付きABS」と「TCS」のシステムを組み合わせた安全補助システムが開発される。
  3. 「2. 」に操舵角とヨーレートセンサなどから得られた情報を統合した安全補助システム(これが当該装置である)が開発される。

ESCの限界について

ESCは、運転に適度なゆとりをもたらしたり、危険な状況下においてドライバーのブレーキ操作やアクセル操作、およびステアリング操作を効果的にサポートするが、車の物理的限界を高めるシステムではない。そのうえ、ESCの能力には限界があり、ドライバーがいかなる状況下で、いかなるステアリング操作をしても必ず横滑りを防止してくれる万能なシステムではない。また、ESC装着車であっても、タイヤの性能を超えたブレーキ性能を発揮することはできず、タイヤのグリップ力の限界を大きく超える(タイヤの能力を大きく超える)無謀運転やムリな運転までは制御できない。さらに、ESCが作動した状態であっても車両の方向安定性、操舵性やハンドル操作性の確保には限界があり、ESCを過信すると思わぬ事故につながるおそれがある。したがって、ESC装着車であってもESC非装着車と同様に、コーナーの手前や滑りやすい路面等では車両をコントロールできる程度の充分な減速が必要である。また、ESC装着車でもESCを過信せずに、常に周囲の状況に気をつけ、路面状況、道路状況や交通状況に合った安全運転を心掛けるべきである。さらに、ESC作動ブザーが鳴ったり、スリップ表示灯やスリップ警告灯(ESC作動表示灯)が表示されているときは、車両が横滑りなどの不安定な状態に陥りやすいため、特に慎重に運転すべきである[2][3][5][7][8][9]

ESCの導入による効果

ESCの導入は事故の軽減に効果があるとされ、事故率減少に効果がある[10]

ヨーロッパにおけるデータとしては、事故の発生率が約30%減少するという(ダイムラークライスラー調べ)[11]

日本におけるデータとしては、事故の発生率が車両単独事故で約44%減少するという(独立行政法人 自動車事故対策機構調べ)[11][12]

ESCの普及について

特にドイツで普及しており、普及率は約70%となっている。一方アメリカは約20%、日本は約10%となっている[13]

日本の普及率の低さについては、「消費者がシステムを知らない、正当に評価をしていない」「自動車メーカー各社とも名称がバラバラ(「#自動車メーカー各社での名称」を参照)で、ESCの知名度が低い」「自動車メーカーが販売台数の多い軽自動車などに搭載しない」といった問題点が指摘されている[11][14][15][16]

ESCは、外国車や日本車の中でも高額な車には全車標準装備になりつつあるが、コンパクトカーや軽自動車では、一部のスポーツモデルのみにオプションとして設定される場合が多い。ESCの装着に際してかかるコストは、「ESC本体のコスト」、「メーカーが種々のテストをESC装着車種に対して行うために必要なコスト(平たく言えば、開発諸経費)」などがある。当たり前ではあるが、全車種にESCを標準装備かオプション設定にするためには、上記のコストが全車種各々に対してかかる。ダイハツは、一度採用したESCをマイナーチェンジで廃止したこともあった。(L175ムーヴカスタム)

国土交通省は、2010年12月に乗用車にESCを順次義務化すると発表した[17]。 2012年10月以降に新型車として発売される車種およびフルモデルチェンジされる車種に義務づけられる。既存車種も2014年10月以降には装備に追加する必要がある。軽自動車は設計変更に手間がかかるため、新型車が2014年10月以降、それ以外は2018年2月以降に義務化される。

各社での名称

登録商標の関係」や「各社のネーミングに込める想いの相違」などにより、開発メーカーや採用メーカーにより呼称が異なる。しかしながら、その基本的な構造、はたらきや効果は、ほぼ同じである[11][15][16]

現在、日本での名称統一に向けて、アドヴィックスボッシュ(日本法人)コンティネンタル(日本法人)のブレーキ主要3社が「ESC普及委員会」(「#外部リンク:横滑り防止装置公式ホームページ」を参照)を組織し、登録商標ではない一般名称として「ESC」を提唱している。なお、日本のボッシュ社を除くボッシュ・グループでは「ESP」と呼んでいる場合があるが[18]、日本における「ESC」という呼称の使用は親会社である独ボッシュ社からも承認されており、独ボッシュ社の者も来日した際には、公式の席上において「ESC」と呼んでいる[19]

各カーメーカーごとの呼び名は、以下のとおりである(ABC順)。

任意自動車保険の割引について

ESCを装着した車輌は、保険会社により任意自動車保険割引を受けられる場合がある。

脚注

関連項目

外部リンク