1994年のル・マン24時間レース

1994年のル・マン24時間レース
前年: 1993 翌年: 1995

1994年のル・マン24時間レース24 Heures du Mans 1994 )は、62回目[1]ル・マン24時間レースであり、1994年6月18日[2]から6月19日[2]にかけてフランスル・マンサルト・サーキットで行われた。

1994年のコース

概要 編集

当時のル・マン24時間レースは規定の変遷期にあり、グループCのNA車は姿を消した[3]

エントリー台数を確保するためにプロトタイプカーとGTカーを両方受け入れることにした[1]

LMP1 編集

1990年までのグループCである[4]。プロトタイプカーの性能を制限するため[1]の規定が設けられ、実際グループCのプロトタイプカーは全盛期との比較で20秒以上遅くなった[1]ダウンフォースを小さくするためフラットボトムが義務づけられ[4]、カーボンブレーキ禁止[4]、最低車両重量950kg[4]、スキッドブロックの装着により空力性能を抑制[1]、燃料タンクを80リットルに制限[1][4]吸気リストリクター採用[1][4]により500-550PS[4]に出力抑制された[1][4]

トヨタワークス参加ではなかった[3]が、グループCカーが出場できる最終の機会[3]であり、トヨタ・94C-V[1]サードトラストに1台ずつ貸与[4]され、参戦した。ル・マン24時間レースに勝利する絶好の機会でもあり[3]、勝利に期待するトヨタ首脳も姿を見せた[3]。吸気リストリクターを装着されエンジン出力は抑えられた[3]が、熟成を進め[3]て信頼性の心配はなかった[4]

この他ポルシェ・962Cやその改造車など7台、計9台が参戦した[4]

LMP2 編集

フランス西部自動車クラブが設定したコンストラクター製ローコスト軽量車で、エンジンはフランス西部自動車クラブ公認の6気筒以下生産車エンジンに限定され、カーボンチタンの使用が制限されるなど細かい規定がある[4]。出場は3台に留まり将来の成長は見込めなかった[4]

GT1 編集

量産されている車両が原則[4]で、同一メーカーのものならエンジン自由[4]、サスペンションも同一形式内での改造自由[4]、最低重量1,000kg[4]、燃料タンク120リットル以下[4]である。エンジン排気量や過給器の有無によりリストリクターの直径が決定され、出力は600-650PSに抑えられた[4]

ポルシェは当時ポルシェ・962Cを公道向けに改造していたダウアー・シュポルトワーゲンに目をつけ、所有していたシャシを提供してダウアー・962LMを製作させた。GT1として参戦するには1台でもいいので公道走行可能なナンバー取得車両があればよく、ダウアー・962LMは何の問題もなくGT1カーとして認められた[1]。ポルシェのシャシ提供と要請を受けさらに2台が製作され、再度レーシングカーに仕立て直され、実質ポルシェワークスのル・マン・ポルシェ・チーム/ヨースト・レーシングチームで出場した[1]

この他ヴェンチュリー・600LM、ブガッティ・EB110フェラーリ・F40ポルシェ・911など計12台が参戦した[4]

GT2 編集

GT1より制約が厳しく、これまでのGTカークラスに似ていた[4]。エンジンの換装は許されず、最低車両重量は1,050kg、タイヤサイズも制約があった[4]。出力450馬力程度。燃料タンク120L。

ポルシェ・911ホンダ・NSXロータス・エスプリフェラーリ・348LM、ヴェンチュリー・400GTRなど21台が出場した[4]

特に注目されたのはホンダ・NSXで、ホンダでチューニングされ、マシン製作はイギリスのTCプロトタイプ、レース運営はクレマー・レーシングと国際的なチームで、GT2クラス優勝を目標としていた[4]。クレマー・ホンダ・レーシングからアルミン・ハーネ/ベルトラン・ガショー/クリストフ・ブシュー[4]清水和夫/フィリップ・ファーブル/岡田秀樹[4]。もう1台はチーム国光とのジョイントチームであるクレマー・ホンダ・チーム国光からのエントリーで、高橋国光/土屋圭市/飯田章[4]であった。

IMSA GTS 編集

 
74号車 Mazda RX-7 GTO

IMSAで行われてるスペースフレームのシルエットフォーミュラである。GT1と同一の吸気リストリクター装着が義務づけられ、エンジン出力は650PS以下に抑えられ、最低重量は1,000kg、燃料タンク100リットルとなっている[4]

日産・300ZXマツダ・RX-7の3台が出場した[4]

予選 編集

ポルシェ・962Cを改造したクラージュ・C32LMが3分51秒05で1位となった[4]。これは前年プジョー・905が出した記録より30秒近くも遅い[4]。8位までのタイム差は4秒しかなく、性能の拮抗には成功しているように思われた[4]

優勝を争うと思われていたサードトヨタ・94C-Vはダウンフォースが減少したため走りやすいセッティングにする調整に専念して4位[4]ダウアー・962LMは5位と7位であった[4]

決勝 編集

48台が出走した[2]

レース序盤は連続周回数の多いダウアーが優勢で1、2位を占めた[1]。トヨタはグループCに認められる幅広のリアタイヤ1セットで2スティント走り時間短縮して追い上げる作戦を取り、事前の大方の予想通りポルシェとトヨタの一騎討ちとなった[1]。ダウアー35号車のタイヤ破裂、36号車にドライブシャフトトラブルが発生し、日付が変わる頃にはサード、トラストがレースをリードするようになっていた。3時30分頃[4]トラストがトランスミッショントラブル[1][4]でトランスミッション交換に1時間を費やし[4]優勝争いから脱落したものの、それに代わって1位になったサードは順位を保ち、トヨタ初の優勝は確実と思われた[4][1]が、レース終了38分前[1][注釈 1]にシフトリンケージトラブル[1][3]が発生した。乗っていたジェフ・クロスノフ[1]は機転を利かせてエンジンカウルを外し[1]手で3速に押し込んで[1]ピット生還を果たした[3][1]が、このタイムロス18分[3][4]でダウアー2台に抜かれた[1]。追い上げで1台を抜き返した[3][1]もののそこまででレースが終了[1]、トヨタのグループCによるル・マン挑戦はようやく優勝争いをする実力をつけた段階で終了することになった[3]

結果 編集

 
ダウアー・962 LM

18台が完走した[2]

ダウアー・962LMの36号車[2]ヤニック・ダルマス/ハーレイ・ヘイウッド/マウロ・バルディ[1][2]が24時間で4678[2].4kmを平均速度195.265km/h[2]で走り優勝、1987年のル・マン24時間レース以来久しぶりのポルシェ勝利[4]となった。2位はトヨタ・94C-Vの1号車[2][1]エディ・アーバイン/マウロ・マルティニ/ジェフ・クロスノフ[2][1]。3位はダウアー・962LMの35号車[2][1]ハンス=ヨアヒム・スタック/ダニー・サリバン/ティエリー・ブーツェン[2][1]

期待されたホンダ・NSXはドライブシャフト破損、シフトリンケージ不調、トランスミッショントラブル等で総合14位、クラス6位がベストで注目された割には予選・決勝とも見るべきもののない結果だった[4]

IMSA GTSクラスのクレイトン・カニンガム・レーシングの日産300ZXは総合5位・クラス1位を獲得した。

Pos Class No Team Drivers Chassis Tyre Laps
Engine
1 LMGT1 36   ルマン・ポルシェ・チーム ダウワー・962LM G 344
ポルシェ Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
2 LMP1

/C90

1   トヨタ・チーム・サード トヨタ 94C-V D 343
トヨタ R36V 3.6 L Turbo V8
3 LMGT1 35   ルマン・ポルシェ・チーム ダウワー・962LM G 343
Porsche Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
4 LMP1

/C90

4   日綜 トラスト Racing Team トヨタ 94C-V D 328
Toyota R36V 3.6 L Turbo V8
5 IMSA

GTS

75   カニンガムレーシング 日産 300ZX Turbo Y 317
日産 VG30DETT 3.0 L Turbo V6
6 LMP1

/C90

5   ガルフオイル・Racing クレマー・K8 スパイダー D 316
ポルシェ Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
7 LMP1

/C90

9   クラージュ・コンペティション クラージュ・ C32LM M 310
Porsche Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
8 LMGT2 52   ラルブル・コンペティション
ポルシェ・911 Carrera RSR M 307
Porsche 3.8 L Flat-6
9 LMGT2 54   Écurie Biennoise ポルシェ 911 Carrera RSR P 299
Porsche 3.8 L Flat-6
10 LMGT2 59   Konrad Motorsport ポルシェ 911 Carrera RSR P 295
Porsche 3.8 L Flat-6
11 LMGT2 57   レプソル Ferrari España フェラーリ・348 GTC-LM P 276
フェラーリ 3.4 L V8
12 LMGT1 40   Rent-A-Car Racing ダッジ・バイパー RT/10 M 273
ダッジ 8.0 L V10
13 LMGT2 60   Legeay Sports Mécanique アルピール・A610 M 272
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
14 LMGT2 48   クレマーホンダ・レーシング ホンダ・NSX D 257
Honda 3.0 L V6
15 IMSA

GTS

74   チーム・アートネーチャー マツダ RX-7 GTO D 250
Mazda 13J 2.0 L 3-Rotor
16 LMGT2 46   クレマーホンダ・レーシング ホンダ NSX D 240
Honda 3.0 L V6
17 LMGT2 68   Agusta Racing Team ヴェンチュリー 400GTR D 225
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
18 LMGT2 47   クレマーホンダチーム・国光 ホンダ NSX Y 222
Honda 3.0 L V6
NC LMGT1 41   Rent-A-Car Racing ダッジ・バイパー RT/10 M 225
ダッジ 8.0 L V10
NC LMGT1 30   BBA Sport et Compétition ヴェンチュリー 600LM D 221
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
NC LMGT1 37   ADA Engineering デ・トマソ・パンテーラ G 210
Ford 5.0 L V8
NC LMP1

/C90

6   ADA・チーム・日本 ポルシェ 962C GTi G 189
Porsche Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
NC LMGT2 65   Agusta Racing Team ヴェンチュリー 400GTR D 137
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
DNF LMGT1 34   Michel Hommell ブガッティー・EB110 M 230
Bugatti 3.5 L Turbo V12
DNF LMP1

/C90

2   クラージュ・コンペティション クラージュ・ C32LM M 142
Porsche Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
DNF LMGT1 31   Agusta Racing Team ヴェンチュリー 600LM D 115
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
DNF LMGT1 38   Jacadi Racing ヴェンチュリー 600LM M 107
Renault PRV 3.0 L Turbo V6
DNF LMP1

/C90

3   クラージュ・コンペティション クラージュ・C32LM M 107
Porsche Type-935 3.0 L Turbo Flat-6
DNF LMP2 21   Welter Racing WR LM93 M 104
Peugeot 2.0 L Turbo V6
DNF LMGT1 33   Patrick Nève Racing ポルシェ・911 Turbo P 100
Porsche 3.6 L Turbo Flat-6
DNF LMP1

/C90

7   Stealth Engineering/SBF ALD 06 G 96
BMW M88 3.5 L I6
DNF LMGT2 49   Porsche Flymo Mobil Alméras ポルシェ 911 Carrera RSR P 94
Porsche 3.8 L Flat-6
DNF LMP2 22   Welter Racing WR LM93 M 86
Peugeot 2.0 L Turbo V6
DNF LMGT2 58   Seikel Motorsport ポルシェ 968 Turbo RS Y 84
Porsche 3.0 L Turbo I4
DNF LMP2 20   Didier Bonnet デボラ LMP294 P 79
アルファ・ロメオ 3.0 L V6
DNF LMP1

/C90

8   Roland Bassaler アルパ LM G 64
Ford Cosworth DFL 3.5 L V8
DNF LMGT2 50   Larbre Compétition ポルシェ 911 Carrera RSR M 62
Porsche 3.8 L Flat-6
DNF LMGT2 62   ロータス Sport/Chamberlain ロータス・エスプリ Sport 300 M 59
ロータス 2.2 L Turbo I4
DNF LMGT2 55   Simpson Engineering フェラーリ 348 LM Y 57
フェラーリ 3.4 L V8
DNF LMGT2 45   Heico Service ポルシェ 911 Carrera RSR P 57
Porsche 3.8 L Flat-6
DNF LMGT1 29   Obermaier フェラーリ F40 GTE P 51
フェラーリ 3.0 L Turbo V8
DNF LMGT2 63   Chamberlain Engineering ハリアー LR9C D 45
Ford Cosworth YBT 2.0 L Turbo I4
DNF LMGT2 56   Elf Haberthur Racing ポルシェ・911 Turbo 3.6 G 42
Porsche 3.6 L Turbo Flat-6
DNF LMGT2 66   Erik Henriksen ポルシェ 911 Carrera RSR G 34
Porsche 3.8 L Flat-6
DNF LMGT2 61   ロータス Sport/Chamberlain ロータス・エスプリ Sport 300 M 28
ロータス 2.2 L Turbo I4
DNF IMSA

GTS

76   Cunningham Racing 日産 300ZX Turbo Y 25
Nissan VRH35 3.0 L Turbo V6
DNF LMGT2 64   Ferrari Club Italia フェラーリ 348 GTC-LM P 23
フェラーリ 3.4 L V8
DSQ LMGT2 51   キャラウェイ・Sport キャラウェイ・コルベット Y 142
コルベット 6.2 L V8

注釈 編集

  1. ^ 『ルマン 伝統と日本チームの戦い』p.147は「残り2時間のところ」とする。

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac 『Racing On』466号 pp.63-67。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l 『ルマン 伝統と日本チームの戦い』pp.224-231「資料2」。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 『ルマン 伝統と日本チームの戦い』pp.155-220「ルマン24時間レース挑戦 日本チーム」。
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao 『ルマン 伝統と日本チームの戦い』pp.27-154「ルマン24時間レースの歴史」。

参考文献 編集

  • 『ルマン 伝統と日本チームの戦い』グランプリ出版 ISBN 4-87687-161-2
  • 『Gr.Cとル・マン』学研 ISBN 978-4-05-604601-4
  • Racing On466号 特集 ポルシェ962C』三栄書房 2013年9月14日発行 ISBN 978-4-7796-1905-2