けがれ

ブライアン・ラムレイの短編小説

けがれ』(原題:: The Taint)は、イギリスのホラー小説家ブライアン・ラムレイによるクトゥルフ神話短編小説。

2005年にアンソロジー『Weird Shadow Over Innsmouth』に収録され、後にラムレイ自身の作品集『The Taint and Other Novellas』に再録されている。[1]

西暦2000年頃、執筆時の現代を舞台とする。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『インスマスを覆う影』の後日談。オカルトアクションを得意とするラムレイにあっては異色な、静かなホラー。

あらすじ 編集

マサチューセッツ州からイギリスの漁村にやって来たジョージ・ホワイトは、娘アンの他に、私生児ジェフをもうけていた。ジョージは身体が変異する謎の病を患い、ジェフにも遺伝していた。漁師をしているフォスター家に引き取られたジェフは村で遠巻きに見られがちだったが、アンとは仲が良かった。やがてジョージは自殺する。

アメリカから引っ越してきたジェイミソン医師は、近所のトレメイン家とホワイト家と交流し、ジョージのことを知る。ジェイミソンは、ジリー・ホワイトと娘のアンを気にかけ、ジリーを診察するようになる。

ある日、ジェイミソンはジェフを診察することになり、ひどい皮膚病であることが判明する。ジェフは魚シラミに寄生されており、永らく海に入らず皮膚が乾燥したことで、寄生虫が皮膚の奥に食い込んでいた。フォスターは魚シラミのことは知っていたが、人間の肉に寄生していたことに驚く。ジェイミソン医師は、ジェフを海に入れてやるように助言する。

ある夜、酒場でトレメインが口をすべらせてジェフの悪口を言ってしまい、アンを怒らせる。これをきっかけとして、トレメイン家・ホワイト家・ジェイミソンの友情に亀裂が入る。ジリーは夫の故郷であるインスマスについて知りたいと言い、ジェイミソンはかつて働いていたことがあるインスマスについて説明する。インスマスについては迷信が多いが、けがれた血が存在するのは事実であった。ジリーは、ジョージとジェフに連なる血のけがれがアンにも影響あるだろうかと不安に駆られる。やがて、海に呼ばれていると感じるようになったジェフは、海への恐怖心から近寄らなくなり、衰弱する。またジリーは悪夢に苦しめられ、健康が悪化していく。アンは父の秘密について、母親以上のことを理解していた。ジェフは海に出て行き、数日後に溺死体で発見される。

ジェイミソンはアンに、彼女の血筋について解説する。ジョージの本名はジョージ・ウェイト[注 1]であり、ジェイミソンはアンの5代前の先祖であること。彼の一族は深きものどもが地上侵略するための先兵だがジョージは裏切って逃げたこと。ジェイミソンはジョージの子供を調べに来たこと。ジェフは素質が足りず失敗したがジェイミソンとアンは外見に変異が起きず人にまぎれこめる成功例であること。ジェイミソンは、アンを巧妙に口車に乗せて引き込む。実はジリーの病気は、ジェイミソンが毒を盛っていたためだが、そのことは口にせず、邪魔な母親を始末してアンを連れて行くことに成功する。

主な登場人物・用語 編集

  • ジェームズ・ジェイミソン医師 - 老年の元医者。アメリカのニューイングランドから引っ越してきた。かつて、数ヶ月だけインスマスで働いていたことがある。主人公のように描かれていたが、最初から悪人であり、ダゴン秘密教団の科学者。
  • ジョン・トレメイン - セントオーステル英語版にある工科大学の学長。趣味は流木から彫刻像を造ること。15年ほど前に村に引っ越してきた。ジェフを嫌っている。
  • ドリーン・トレメイン - ジョンの妻。
  • ジリー・ホワイト - アンの母。精神的に不安定。
  • アン・ホワイト - ジリーの娘。15歳。本好きで内向的。頭脳明晰だが、学校生活にはなじめない。ジェフと親しい。
  • ジョージ・ホワイト - 一年半前に自殺した、アンの夫。アメリカ人で、マサチューセッツ州の海辺の町の生まれ。金の装身具を相続し、売って生活費としていた。性病と思われる病を患い、顔が変貌していた。
  • ジェフ - 村の若者。ジョージ・ホワイトが売春婦との間に作った私生児で、アンの異母兄。ジョージの病が遺伝し、顔が変異している。漁師のフォスターに引き取られ、村人たちから白眼視されたり同情を向けられつつ、本人は自己主張せず静かに暮らしている。水泳の達人。
  • トム・フォスター - 漁師。ジェフの親代わりの人物。

収録 編集

  • 扶桑社ミステリー『クトゥルフ神話への招待 古きものたちの墓』立花圭一訳「けがれ」2013年

関連作品 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ ウェイト家はインスマス四家の一つ。オーベッド・マーシュ船長の船員幹部の子孫。

出典 編集

  1. ^ 扶桑社『古きものたちへの墓 クトゥルフ神話への招待』322ページ。