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すヾみ舟(すずみぶね)は、1932年昭和7年)に公開された日本初アダルトアニメである。モノクロサイレント映画。『神田川』『川開き』『花火』『夕涼み』『マンガ』という作品名でも流通した[1]

すヾみ舟
監督 木村白山
公開 1932年
上映時間 10分
製作国 日本の旗 日本
言語 サイレント
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目次

解説編集

製作者と言われる木村白山(きむらはくざん、生没年不詳)は黎明期のアニメーション作家で、麻生豊4コマ漫画ノンキナトウサン』のアニメーション化や、文部省主導による教育映画も手掛けたほか、朝日キネマで『勤倹貯蓄 塩原多助』(1925年[2]、『実録忠臣蔵』(1925年)、『松ちゃんの剛勇』(1926年)などの短編アニメーションを監督していた[3]。その傍ら木村が小石川春日町の自宅で、三年の歳月をかけて製作したのがこの作品である。

作品の画風は浮世絵タッチの日本情緒を感じさせるものだったようで、近代洋画的なデッサンの写実性もあったといわれる。当初は二巻物とするつもりだったところ、一巻の完成直後に非合法なわいせつ映像として摘発され押収、木村も検挙されたために二巻目は製作されることはなかった。ちなみに押収された35ミリ原盤の他に、16ミリプリントが複製されており、ブルーフィルムとして戦前期を中心にアンダーグラウンドで密かに流通したという[4]

本作についてブルーフィルム研究の第一人者である長谷川卓也は「純日本情緒を漂わせ、ほのかなユーモアをまじえた作者の浮世絵タッチの構想は、みごとであった」「わずか10分間ほどのものとはいえ、原画は1万5千枚を超えたはず。しかも、いまのアニメ製作のように便利な装置も技術もなく、たった一人の筆先だけでこなしたのだから、その労力たるや想像に絶する」「現在でも『もし入手できるなら、百万円出してもいいね』という人もいるほど。いまなお百万円の値を呼んでいるのは、この『すヾみ舟』と、戦後製の『風立ちぬ[5]ぐらいではなかろうか」と評している[1]。こうした経緯から本作は鑑賞不可能な「幻の純国産ポルノ名画」として伝説的な存在となっている。

なお、ウォルト・ディズニーが本作を絶賛したという「伝説」もあるが、信憑性は低い(ウォルトは生涯を通して一度も来日したことはない)[6]

あらすじ編集

江戸時代、神田川の川開きに現れた二人の女性の痴態を描く。大店の娘風の女は、現れた色男風の男に誘われて行為に及ぶが、寸前に船頭に目撃され川に落下する。娘の付き添いの乳母風の女性は、船頭に手招きされ、再び行為に及んだ娘を覗き見する[4]

映像の現存状況編集

再発見編集

本作は1932年に警察の摘発を受けて以降、実に85年以上にわたってフィルムの所在が不明となっていた。そのため失われた映画として長らく伝説化していたが、2017年東京国立近代美術館フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)に押収版とみられる本作の35mmフィルムが秘かに寄贈された[7]。なお、同センターに所蔵されたフィルムは719.02フィート(219.1m)と693.11フィート(211.2m)の計2本である。しかし、フィルムが再発見されたにも関わらず作品は非公開となっており、作品の死蔵という文化的に不幸な状態が現在まで続いている[8]

「封印」の状況と現状の扱い編集

2018年9月、京都府おもちゃ映画ミュージアム木村白山の研究発表会「木村白山って、何者?」をアニメ研究家の渡辺泰を招いて開催するにあたり、同センターに「作品を借用して上映したい」という旨の依頼を行ったが「寄贈者との取り決めで公開できない」との回答があったという[8]。同センターの回答に対してミュージアムのスタッフは「このまま死蔵されてしまうのは惜しいので、せめて研究者に公開できるよう寄贈者にお願いして欲しい」とコメントしている[8]

なお、1953年以前に公開された日本映画に関してはパブリックドメイン(公有財産)として国内で自由な使用が可能となるほか、本作のように著作権を帰属させるべき者が存在しなかったとみられる作品の場合、法定の保護期間満了を待つことなく知的財産権は消滅する。以上のことから著作権継承者に相当しない第三者の意向で作品の封印措置が取られている現状は極めて異例であると言える。

参考文献編集

  • 毛利厄九「映画『すゞみ舟』鑑賞」『人間探求』1952年7月号 第一出版社
  • 三木幹夫『ぶるうふいるむ物語―秘められた映画史70年』1975年 立風書店
  • 三木幹夫『ブルーフィルム物語―秘められた映画75年史』1981年 世文社
  • 長谷川卓也『いとしのブルーフィルム』1998年 青弓社(同一著者による上書の改訂補訂版)

脚注編集

  1. ^ a b 『ブルーフィルム物語―秘められた映画75年史』三木幹夫(=長谷川卓也)著 1981年 世文社刊
  2. ^ 東京国立近代美術館フィルムセンターに10分尺で現存。
  3. ^ 日本アニメーション映画クラシックス 木村白山(作家紹介)
  4. ^ a b 『いとしのブルーフィルム』長谷川卓也著 1998年 青弓社刊 94-96頁
  5. ^ 高知県で活動した「海老原グループ」(通称・土佐のクロサワ・グループ)が製作した1954年(昭和29年)発表のブルーフィルム版『風立ちぬ』のこと。野坂昭如をはじめとする当時の文壇作家たちを歓喜させたといわれ、ブルーフィルムの最高傑作と評された。
  6. ^ ディズニーリゾート物語』第9巻 2002年 講談社
  7. ^ すヾみ舟 - メディア芸術データベース 2018年2月3日閲覧
  8. ^ a b c 研究発表と上映会「木村白山って、何者?」 5時間を超え、充実内容で開催しました! - おもちゃ映画ミュージアム

関連項目編集