エグモント (劇音楽)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『エグモント』(Egmont)作品84は、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテによる1787年の同名の戯曲のための劇付随音楽。現在では序曲のみが単独で演奏されることがほとんどだが、他にソプラノ独唱を伴う曲を含む9曲が作曲されている。
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Beethoven - Overture to "Egmont", Op. 84 (Kurt Masur, Gewandhausorchester Leipzig)【映像】クルト・マズア指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(2009)Euro Arts Channel 公式YouTube Música incidental para el drama 'Egmont', Op.84. L.van Beethoven - Natalia TrejosのS独唱、Alberto Correa指揮メデジン・フィルハーモニー管弦楽団(Orquesta Filarmónica de Medellín)による演奏。メデジン・フィルハーモニー管弦楽団公式YouTube。 |
概要
編集1809年、ウィーン宮廷劇場の支配人であるヨゼフ・ハルトルはゲーテとシラーの戯曲に音楽をつけ、一種のオペラのようにして上演する計画を立てた。そして、ゲーテの作品から『エグモント』を選んでベートーヴェンに作曲を依頼した。ちなみに、シラーの作品から選ばれたのは『ヴィルヘルム・テル』であり、こちらはアダルベルト・ギロヴェッツに作曲が依頼された(なお、ベートーヴェンが弟子のカール・チェルニーに語ったところによれば、ベートーヴェンは本当は『ヴィルヘルム・テル』に曲をつけたかったようである)。しかし、敬愛するゲーテの作品ということもあり、否応なしに引き受けた。1809年10月から1810年6月までに作曲され、1810年5月24日にブルク劇場でベートーヴェン自身の指揮で初演された。なお、序曲は初演に間に合わず、6月15日の4回目の公演から付されたと考えられている。
作品の題材は、エフモント(エグモント)伯ラモラールの物語と英雄的行為である。作品中でベートーヴェンは、自らの政治的関心を表明している。圧政に対して力強く叛旗を翻したことにより、死刑に処せられた男の自己犠牲と、とりわけその英雄的な高揚についてである。初演後、この楽曲には称賛の評価がついて回った。とりわけE.T.A.ホフマンがこの作品の詩情を賛えたものが名高く、ゲーテ本人もベートーヴェンは「明らかな天才」であると述べた。
曲の構成
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Beethoven - Overture to 'Egmont' op.84 - クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団による演奏。EuroArts公式YouTube。 | |
L.v.Beethoven - 'Egmont' Overture, Op.84 - Cin-Chao Lin指揮Podlasie Opera and Philharmonic Orchestraによる演奏。Podlasie Opera and Philharmonic Orchestra(Orkiestra Opery i Filharmonii Podlaskiej)公式YouTube。 | |
Beethoven:Egmont Overture - Shalom Bard指揮Toronto Symphony Youth Orchestraによる演奏。トロント交響楽団公式YouTube。 | |
L.v.Beethoven 'Egmont' Overture, Op.84 - ソン・ギソン(成耆宣)指揮江南シンフォニー・オーケストラによる演奏。芸術の殿堂公式YouTube。 |
付随音楽は以下のような楽曲が含まれ、とりわけリート《太鼓が鳴ると Die Trommel gerühret 》や「クレールヒェンの死」が名高い。
- 序曲: Sostenuto, ma non troppo - Allegro、ヘ短調→ヘ長調
- リート: "Die Trommel gerühret"(太鼓が鳴ると)
- 第1幕第3場の民家の場面で、クレールヒェン(クラーレ)が歌うリート。
- アントラクト: Andante
- 第1幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽。
- アントラクト: Larghetto
- 第2幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽
- リート: "Freudvoll und Leidvoll"
- 第3幕第2場でクレールヒェンが自宅で歌うリート
- アントラクト: Allegro - Marcia
- 第3幕の幕が下りると演奏される幕間の音楽
- アントラクト: Poco sostenuto e risoluto
- 第4幕の幕が下りきらないうちに演奏される幕間の音楽。下りきらないうちに演奏するのは、第4幕の最後でエグモントが逮捕され、冒頭3小節がその場面の音楽だからである。
- クレールヒェンの死: Clärchens Tod
- 第5幕第3場で、クレールヒェンの自宅の場面で演奏される音楽。ここでクレールヒェンが毒をあおって自決する。
- メロドラマ: "Süßer Schlaf"
- 第5幕の獄中のエグモントの場で、エグモントのモノローグに続いて演奏される音楽
- 勝利のシンフォニア: Allegro con brio
- エグモントの最後の台詞の後、幕が下り始めると演奏される音楽。序曲のコーダと同一の楽曲であるが、こちらが先に完成されたと言われている。
上演について
編集初演後、「エグモント」が劇として上演された回数は不明(1973年のザルツブルク音楽祭の演劇部門で上演された記録がある)。一方で、劇の内容を語り手が説明し、上演する方法が比較的早い時期から行われていたようである。その際に使う説明文としては、かつてはフランツ・グリルパルツァーらが手がけたものを使用していたが、最近ではゲーテの原作から自由に台詞を抜粋して(ただし、話の流れを無茶苦茶にしない程度)上演する方法も多い。演奏会や録音等での語り手役には俳優などがしばしば起用され、例えば1991年のベルリン・フィルのジルヴェスター・コンサートで演奏されたときは、ブルーノ・ガンツが語り手を務めている。日本では1969年にNHK交響楽団が川久保潔を語り手として上演している[1]。
楽器編成(序曲)
編集フルート2(セカンドがピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦5部。
参考文献
編集- 藤田由之「劇音楽《エグモント》Op.84」『作曲家別名曲解説ライブラリー ベートーヴェン』音楽之友社、1992年
注・出典
編集- ^ 1969年5月26日/27日 東京文化会館 指揮 ロブロ・フォン・マタチッチ ソプラノ 砂原美智子 台本 鈴木松子 第527回 NHK交響楽団定期公演