グルート英語: Gruit)は、ホップが使用される以前にビールエールを醸造する際の味付け、香り付け、腐敗防止のために用いられていた薬草などを独自に配合したもの[1]。原料や配合、製造法は秘密とされており、文献などにはほとんど残されていない[1]

市販されるグルートビール

概要 編集

グルートの製造は領主、修道院都市などが独占しており、ビール(エール)の醸造業者に販売することで利益を上げていた[1]。グルートを製造、販売する権利はグルート権と呼ばれ、都市の一部地域では指定されたグルートを使用したビール以外の販売を認めていなかったため、グルート権は都市にとって大きな財源となった[1]

材料 編集

グルートに使用されているハーブには以下のようなものがあると推測されるが、その分量や配合比率は上述のように文献に残されておらず、詳細は不明である[1]

グルートとホップ 編集

ホップ古代エジプト時代から知られるハーブであり、8世紀にはヨーロッパでもホップ園を設けて栽培する修道院が現れる[1]。12世紀にヒルデガルト・フォン・ビンゲンの著書には自身が女子修道院長を務める修道院でグルートの代わりにホップを用いてビールを醸造した旨の記述がある[2]。グルートを使用したビールよりホップを用いたビールのほうが味、耐久性などで優れていたため、15世紀以降にはホップの使用が中心となる[1]。ホップの使用が主流となるまでには、グルート権などで利権を得ていた人々によるホップの使用、普及に対する妨害工作なども行われた[1]

ホップの使用が決定的になったのは1516年バイエルン公国で発布された「ビール純粋令」であり、これによってドイツ語圏ではグルートの使用は完全に姿を消すことになる[1]

イギリスにおいては、15世紀にフランダースよりホップが使用されたビールが輸入されるようになると、グルートを使用して作ったものをエール、ホップを使用して作ったものをビールと区別するようになった[1]。慣れ親しまれていたグルートのエールへのこだわりと、グルート利権からイギリスでホップを用いたビールが普及するのは17世紀以降となる[1]。1697年にビール麦芽への課税が始まったことで、ビール醸造業者は麦芽の使用量を減らしホップを用いたペールエールを産み出し、18世紀にはポータースタウトなどが生み出されていく[1]

グルートビールの特徴 編集

古代のビールや中世のビールの復元を研究しているキリンビールの調べでは、グルートを用いたビールはアルコール度数が高く、ハーブの香りが極めて強いことが分かっている[2]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l 一般社団法人日本ビール文化研究会『日本ビール検定公式テキスト』(2022年5月改訂版)マイナビ出版、2022年、92-94頁。ISBN 978-4839978853 
  2. ^ a b 『ツウになる! ビールの教本』秀和システム、2018年、54-55頁。ISBN 978-4798054704