スルファジアジン銀

スルファジアジン銀(Sulfadiazine silver, Silver sulfadiazine: 略:SSD)は、部分層、また全層の熱傷(やけど)の感染予防に用いる局所抗生物質である[1]。日本ではゲーベンクリーム、英語圏ではSilvadeneで知られる。他の創傷被覆材のほうが効果的であるという暫定的なエビデンスがあるため、一般には使用は推奨されない[2][3]

スルファジアジン銀
Silver sulfadiazine Structural Formula V1.svg
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Silvadene
Drugs.com monograph
MedlinePlus a682598
胎児危険度分類
  • B (not recommended in late pregnancy)
法的規制
  • (Prescription only)
投与方法 Topical
薬物動態データ
生物学的利用能<1% (silver), 10% (sulfadiazine)
血漿タンパク結合High (silver)
排泄2/3 renal (sulfadiazine)
識別
CAS番号
22199-08-2 チェック
ATCコード D06BA01 (WHO)
PubChem CID: 441244
DrugBank DB05245 チェック
ChemSpider 390017 チェック
UNII W46JY43EJR チェック
KEGG D00433  チェック
ChEBI CHEBI:9142 チェック
ChEMBL CHEMBL1382627 ×
別名 (4-Amino-N-2-pyrimidinylbenzenesulfonamidato-NN,01)-silver, sulfadiazine silver, silver (I) sulfadiazine, 4-amino-N-(2-pyrimidinyl)benzenesulfonamide silver salt
化学的データ
化学式C10H9AgN4O2S
分子量357.14 g/mol
物理的データ
融点285 °C (545 °F)
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副作用としては、一般に使用部位への痒みや痛みがみられる[4]。その他、白血球の減少、アレルギー反応、銀皮症溶血肝炎がみられることもある[4]サルファ薬であるため、アレルギーに注意が必要である[4]。周産期の妊婦には使用できない[4]。2か月未満の乳児には推奨されない[4]。また、日本では疼痛を生じることから軽症の熱傷に対して禁忌とされている[5]

スルファジアジン銀は、1960年代に発見された[6]。日本では1982年に発売され[7]、世界保健機関の必須医薬品一覧にも掲載されている[8]

医療用途編集

感染創傷に対して、銀含有創傷被覆材および銀クリームを使用するためのエビデンスは不十分である[9]

表層および部分層熱傷の治療において、他の創傷被覆材の方が効果的であるという暫定的なエビデンスがあり、使用は一般には推奨されない。[2][3]。2010年のコクランによるシステマティックレビューでは、「銀含有被覆材や外用薬が創傷感染の治癒を促したり、予防するかについて証拠は不十分である」とされた[10]。また、2013年のコクランのレビューでは、見出された研究のうちレビューの基準に合致したものの多くに手法の不備があり、熱傷治癒におけるスルファジアジン銀の有効性評価にはほとんど役に立たなかった[2]。ほかのレビューでも、研究の質が十分でないと結論されている[11]

コクランは、SSDを用いることで創傷治癒が遅れる恐れがあると指摘している[2]。クリーム自体は角化細胞の再生に対する毒性作用があるとみなされている[2]。また、創傷表面を脱落させるため傷の深さの再評価が困難になることや、毎日塗布しなければならないことにも懸念を示している[12]。創傷表面の外観を変えてしまうことと頻繁に塗り直す必要があることから、スルファジアジン銀はほとんどの熱傷に推奨されない[12]

副作用編集

処置時に疼痛がみられる[7]。このため、日本では軽症の熱傷には禁忌とされている[5]。耐性菌を生じることもある[7]

広範囲の熱傷では、白血球の減少が生じることがある[7]。また、銀イオンを含むので、紫外線に曝露すると銀皮症を生じることがある。重度または広範囲の熱傷に対して長期に渡って連用すると腎臓、肝臓、網膜に銀が蓄積して全身性銀皮症を生じる場合があり、 間質性腎炎や貧血を引き起こすことがある[13]

薬物動態編集

溶解度が低いため、傷のない皮膚から吸収されることはほとんどない[13][14]。しかし、体液に触れるとスルファジアジンが遊離して体内に吸収される。吸収されたスルファジアジンは肝臓グルクロン酸抱合を受けるほか、尿中にそのまま排泄される[14]。ただし、体内への吸収が問題になるのは、特に広範囲の2度や3度の熱傷などに対して用いた場合に限られる[13][14]

出典編集

  1. ^ Marx, John; Walls, Ron; Hockberger, Robert (2013) (英語). Rosen's Emergency Medicine - Concepts and Clinical Practice. Elsevier Health Sciences. p. 814. ISBN 1455749877. オリジナルの2016-09-13時点におけるアーカイブ。. https://books.google.ca/books?id=uggC0i_jXAsC&pg=PA814 
  2. ^ a b c d e Wasiak, J; Cleland, H; Campbell, F; Spinks, A (28 March 2013). “Dressings for superficial and partial thickness burns.”. The Cochrane Database of Systematic Reviews 3: CD002106. doi:10.1002/14651858.CD002106.pub4. PMID 23543513. http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD002106.pub4/full. "It is impossible to draw firm and confident conclusions about the effectiveness of specific dressings, however silver sulphadiazine was consistently associated with poorer healing outcomes than biosynthetic, silicon-coated and silver dressings whilst hydrogel-treated burns had better healing outcomes than those treated with usual care." 
  3. ^ a b Heyneman, A; Hoeksema, H; Vandekerckhove, D; Pirayesh, A; Monstrey, S (25 April 2016). “The role of silver sulphadiazine in the conservative treatment of partial thickness burn wounds: A systematic review.”. Burns : journal of the International Society for Burn Injuries 42: 1377–1386. doi:10.1016/j.burns.2016.03.029. PMID 27126813. 
  4. ^ a b c d e Silver Sulfadiazine”. Drugs.com. American Society of Health-System Pharmacists (2008年6月1日). 2016年9月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月30日閲覧。
  5. ^ a b 日本皮膚科学会、井上雄二、金子栄、加納宏行ほか「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン」『日本皮膚科学会雑誌』第127巻第8号、2017年、 1659-1687頁、 doi:10.14924/dermatol.127.1659NAID 130005815329
  6. ^ Coran, Arnold G.; Caldamone, Anthony; Adzick, N. Scott; Krummel, Thomas M.; Laberge, Jean-Martin; Shamberger, Robert (2012) (英語). Pediatric Surgery (7 ed.). Elsevier Health Sciences. p. 369. ISBN 032309161X. オリジナルの2016-09-13時点におけるアーカイブ。. https://books.google.ca/books?id=QpabASTwF_sC&pg=PA369 
  7. ^ a b c d 岡部圭介「Modern Dressingの進化」『Pepars』第126号、2017年6月、 23-28頁、 NAID 40021251268
  8. ^ WHO Model List of Essential Medicines (19th List)”. World Health Organization (2015年4月). 2016年12月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年12月8日閲覧。
  9. ^ 英国国立医療技術評価機構 (2016年3月). “Chronic wounds: advanced wound dressings and antimicrobial dressings”. National Institute for Health and Care Excellence. 2018年6月10日閲覧。
  10. ^ Storm-Versloot, MN; Vos, CG; Ubbink, DT; Vermeulen, H (Mar 17, 2010). Storm-Versloot, Marja N. ed. “Topical silver for preventing wound infection”. Cochrane Database of Systematic Reviews (3): CD006478. doi:10.1002/14651858.CD006478.pub2. PMID 20238345. http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD006478.pub2/full. 
  11. ^ “A systematic review of silver-releasing dressings in the management of infected chronic wounds”. Journal of clinical nursing 17 (15): 1973–85. (2008). doi:10.1111/j.1365-2702.2007.02264.x. PMID 18705778. 
  12. ^ a b Maitz, Peter; Harish, Varun (15 April 2016). “How to Treat: Burns”. Australian Doctor. https://www.howtotreat.com.au/how-treat/burns 2017年11月15日閲覧。. 
  13. ^ a b c Jasek, W, ed (2007) (German). Austria-Codex. 2 (62 ed.). Vienna: Österreichischer Apothekerverlag. pp. 3270–1. ISBN 978-3-85200-181-4 
  14. ^ a b c silver sulfadiazine - Drug Summary”. Prescribers' Digital Reference (2017年). 2017年11月16日閲覧。

関連項目編集