ダーウィン事変

日本の漫画作品

ダーウィン事変』(ダーウィンじへん)は、うめざわしゅんによる日本漫画作品。『月刊アフタヌーン』(講談社)にて、2020年8月号より連載中[3]アメリカを舞台に、人間とチンパンジーの間から誕生した「ヒューマンジー」の少年を描いた物語[4][5]

ダーウィン事変
ジャンル サスペンスアクション[1]
社会派サスペンス[2]
漫画
作者 うめざわしゅん
出版社 講談社
掲載誌 月刊アフタヌーン
レーベル アフタヌーンKC
発表号 2020年8月号 -
発表期間 2020年6月25日[3] -
巻数 既刊6巻(2023年11月22日現在)
テンプレート - ノート
プロジェクト 漫画
ポータル 漫画

沿革 編集

2020年6月25日発売の『月刊アフタヌーン』8月号より連載を開始[3]

連載開始時には同誌の公式サイトにて、第1話の原稿のデータをクリエイティブ・コモンズ・ライセンスで提供した[3]。これは本作の担当編集者である寺山晃司が、「とにかく多くの人に読んでもらえることなら全部やろう」と考え、行った試みのひとつである[5]。このことについて、後述の「マンガ大賞2022」の授賞式で司会を務めたアナウンサーの吉田尚記が「画期的なアイデア」であったと話している[5]

同年4月25日発売の『月刊アフタヌーン』2022年6月号にて[6]、うめざわの病気療養により休載することが発表され[7]、7月号より休載し[8]、11月号にて連載が再開されたが[9]、2023年3月号に同様の理由により再び休載を発表し[10]、同年7月号より連載を再開している[11]

Anime NYCのイベントでKodansha USA英語版が2023年秋から本作を刊行するため、ライセンスを取得したと発表[12][13]

2023年3月、単行本第5巻の発売を記念し、梶裕貴が全13役を担当したPVが制作されている[14]

あらすじ 編集

プロローグ
15年前、動物解放を求めてテロ活動を繰り返している「ALA」(動物解放同盟)によって、実験動物にされていたチンパンジーが連れ出され、近所の動物病院で出産した。その赤子は、遺伝子操作によって作り出された人間とチンパンジーの交雑種「ヒューマンジー」だった。
マスコミによって大きな話題となったヒューマンジーは「チャーリー」と名付けられ、チンパンジー研究者のギルバートと弁護士のハンナが育ての親となり、5歳の頃に事件を起こして軟禁生活となったものの、「優れた頭脳と身体能力の持ち主」に成長した[4][15]
序盤
高校に入学したチャーリーは、興味本位に見られて遠巻きにされたり、一部の生徒たちから敵視されて誹謗中傷を受けるが、まったく意に介さず、頭脳明晰な少女 ルーシーと出会い友情を育んでいく[4][15]
しかし、ALAの黒人リーダー マックスは「チャーリーを仲間に加えよう」と画策し、自宅への強襲事件や[16]、狂信的なALA思想を持った生徒による高校銃乱射テロなど[17]など、過激な手段に出る。それにより町の人々は、チャーリーを恐れ憎むようになり、ALAが陽動にルーシーを人質にとりチャーリーをおびき寄せた際に、住民たちが自宅に放火をしたことから、チャーリーの両親ギルバートとハンナは亡くなってしまう[注 1][18][19]
中盤
市民権」など全ての権利のないチャーリーに所有者がいなくなったことから、FBIと警察は拘束しようと動くが、これまでチャーリーを敵視してきたグラハム警部補が里子として引き取る。その後、第二次性徴を迎えたチャーリーは、急激に知力・筋力が増加していることが判明する。そんな中、チャーリーの産みの母親であるチンパンジー エヴァが、「私は二児の母」と単語カードで伝えて老衰により亡くなる[20]
エヴァの墓参りに行った2人の前に、ヒューマンジー オメラスが現れる。ALAのリーダーである彼は、自らが「チャーリーの両親を殺害した犯人」と告白し戦闘になるが、チャーリーより優れた体格を持つオメラスはチャーリーを圧倒する。
DNA検査によりオメラスが「チャーリーの兄弟」であることが判明し、弟のオメラスが代理母によって生まれたと推察される。チャーリー達の生物学上の父親であるグロスマン博士の行方を捜すべく、ニューヨークへと向かう[21]
各地でテロリスト達が決起して、市民を標的にしたハンティングゲームにより多くの犠牲者が出る中で、オメラスはホワイトハウスを強襲する。グロスマン教授の助手のサラ・ユァン博士を確保したルーシー達は、彼女こそが「オメラスの代理母」だと知る[22]
チャーリー達は、ゴルトン社の二代目社長のアンドリューを誘拐して、グロスマン博士の行方を聞こうとする。しかし、ALAのマックスに先にアンドリューを誘拐されてしまう[23]

登場キャラクター 編集

チャーリー
本作の主人公[4]。猿に近い風貌をしている[15]。人間の父親とチンパンジーの母親の間に生まれた「ヒューマンジー」で、15歳の少年[3][24]。アメリカ中西部、ミズーリ州在住[24]
ルーシー
頭脳明晰だが、コミュニケーションが苦手な少女[3][25]

制作背景 編集

制作 編集

作者のうめざわは過去に、「もう人間」という「何が人間を定義するのかという生命倫理を問う」作品を発表した[15]。本作は「もしチャーリーみたいな存在が生まれ、人間と動物の境界が崩れると、人々はどういうふうに反応するだろう」とうめざわが考え、過去の作品より「思考実験的」に発展させた内容となっている[15]

当初うめざわは、本作のプロトタイプとなるネームを担当編集者の寺山に見せ、「どんなことが書きたいのか」を話した[5]。本作のテーマである「人間と動物の生存権」は、このころから決められていた[5]。寺山によると、うめざわは「かなりの量の文献を読み込んだうえで、それを」作中の「人とチンパンジーの間のに生まれた“ヒューマンジー”という存在」に「落とし込んで」制作されているという[5]。うめざわは本作を「読むのにパワーの要る漫画」であると考えながら、執筆している[5]

当初「CGで人とチンパンジーを合成させたような見た目」でリアルに構想されていたが、担当編集者の寺山によると「それだと怖すぎる」という理由により、デザインを変更[5][15]。読者から「可愛いと思ってもらえるよう、やや記号的なキャラデザイン」でありつつ、「生きて、人間とともにいる存在感」を出した本作のデザインとなった[15]。表情による感情表現は困難であるが、うめざわによると、目の描き方を工夫して伝えているという[15]

舞台について 編集

うめざわは「ヒューマンジーという大きな嘘が据えられている分、ほかの部分はリアルに描こう」と考えた。「差別やテロ」が本作のテーマであり、登場人物がそれらについて活発に議論するためには、「日本よりアメリカが舞台のほうがリアリティを持って捉えられる」ことから、アメリカが舞台に選ばれている[5]。うめざわや編集者、スタッフは「アメリカで生活をした経験者はいない」が、海外ドラマや洋画を好むうめざわが、それらから「アメリカ像を膨らませて」制作している[5]。うめざわはアメリカだけではなく、海外へ行った経験がないため、想像力で描いている[26]

評価 編集

受賞 編集

2021年12月9日に発売された『このマンガがすごい!2022』(宝島社)では[27]、オトコ編10位を獲得[15]。同年12月20日発売の『フリースタイル』(フリースタイル)Vol.50にて発表された「THE BEST MANGA 2022 このマンガを読め!」特集にて、「2020年11月1日から2021年10月31日までに発売されたマンガ作品の単行本および電子書籍」の中から本作が16位に選出[3]

2022年1月、日本出版販売による「全国書店員が選んだおすすめコミック 2022」の「出版社のコミック編集・販売担当者より『悔しいけどおもしろい他社作品』を募った」スピンオフ企画「出版社コミック担当が選んだおすすめコミック 2022」にて、2位を獲得[28]。同年3月13日発表の「第25回文化庁メディア芸術祭」マンガ部門で優秀賞を受賞[29]

同年3月28日、漫画好きの有志が「誰かに薦めたいと思う」漫画を選ぶ「マンガ大賞2022」にて、77ポイントを獲得し、大賞を受賞[5][30]。東京都のニッポン放送イマジンスタジオにて同日に開催された授賞式では、担当編集者の寺山が登壇し、受賞や本作についてコメントを発表している[5]。同年9月7日発売の『CREA』(文藝春秋)2022年秋号にて発表された「CREA夜ふかしマンガ大賞」では6位を受賞[31]

2023年[32]、第50回アングレーム国際漫画祭にて「BDGest'Arts アジアセクション」に選出される[14]。同年4月、第47回講談社漫画賞にて最終候補作品に選出[33]

マンガ大賞2022での評価 編集

ライターのタニグチリウイチによると、選考で本作に票を入れた選考員からは、「作品が持つ先鋭さ」が評価されたという[25]

本作に対し、審査員から「令和の『寄生獣』」とコメントが寄せられ、これについて寺山は、もともと『月刊アフタヌーン』が好きだったうめざわは、同作を読んでいたと明かしている[5]

書誌情報 編集

  • うめざわしゅん『ダーウィン事変』講談社〈アフタヌーンKC〉、既刊6巻(2023年11月22日現在)
    1. 2020年11月20日発売[講 1]ISBN 978-4-06-521398-8 
    2. 2021年5月21日発売[講 2]ISBN 978-4-06-523314-6 
    3. 2021年11月22日発売[講 3]ISBN 978-4-06-525778-4 
    4. 2022年4月21日発売[講 4]ISBN 978-4-06-527946-5 
    5. 2023年3月23日発売[14][講 5]ISBN 978-4-06-531026-7 
    6. 2023年11月22日発売[講 6]ISBN 978-4-06-533687-8 

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 実際には、放火する前にALAによって、首を切り裂かれて亡くなっていた。

出典 編集

  1. ^ マンガ大賞に「ダーウィン事変」 うめざわしゅんさん作”. 共同通信. 共同通信社 (2022年3月28日). 2022年8月1日閲覧。
  2. ^ “マンガ大賞2022『ダーウィン事変』が大賞に決定 半分ヒトで半分チンパンジーが主人公の社会派サスペンス”. 日テレNEWS (日本テレビ放送網). (2022年3月28日). https://news.ntv.co.jp/category/culture/33c4beda3f974220a7abb3b0f1c74397 2022年4月11日閲覧。 
  3. ^ a b c d e f g “うめざわしゅんの新連載「ダーウィン事変」がアフタで、第1話をCCライセンスで提供”. コミックナタリー (ナターシャ). (2020年6月25日). https://natalie.mu/comic/news/384862 2022年4月11日閲覧。 
  4. ^ a b c d “半分ヒトで半分チンパンジーの主人公を描く、うめざわしゅん「ダーウィン事変」1巻”. コミックナタリー (ナターシャ). (2020年11月20日). https://natalie.mu/comic/news/405593 2022年4月11日閲覧。 
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m “「ダーウィン事変」がマンガ大賞受賞、担当編集「1話を使って拡散してもらえれば」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年3月28日). https://natalie.mu/comic/news/471526 2022年4月11日閲覧。 
  6. ^ アフタヌーン 2022年6月号”. アフタヌーン公式サイト. 講談社. 2022年4月25日閲覧。
  7. ^ 「ダーウィン事変 第22話」『月刊アフタヌーン』2022年6月号、講談社、2022年4月25日、198頁、ASIN B09X7Y7Y7XJAN 4910138710626 
  8. ^ 「目次」『月刊アフタヌーン』2022年7月号、講談社、2022年5月25日、ASIN B0B118F2KNJAN 4910138710725 
  9. ^ 「表紙」『月刊アフタヌーン』2022年11月号、講談社、2022年9月24日、ASIN B0BDBB9FNHJAN 4910138711128 
  10. ^ 「ダーウィン事変 第27話」『月刊アフタヌーン』2023年3月号、講談社、2023年1月25日、390頁、ASIN B0BS1PL9QVJAN 4910138710336 
  11. ^ 「ダーウィン事変 第28話」『月刊アフタヌーン』2023年7月号、講談社、2023年5月25日、379頁、ASIN B0C4QR2WH8JAN 4910138710732 
  12. ^ "Fall 2023 New Print Licensing Announcement". Kodansha USA. 2022年11月24日. 2022年11月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月25日閲覧
  13. ^ Hazra, Adriana (2022年11月25日). "Kodansha USA Licenses Miraculous: Tales of Ladybug & Chat Noir, 15 More Manga". Anime News Network. 2022年11月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年5月25日閲覧
  14. ^ a b c “「ダーウィン事変」5巻発売記念のPV公開、梶裕貴がチャーリーなど13役を演じる”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年3月23日). https://natalie.mu/comic/news/517754 2023年3月23日閲覧。 
  15. ^ a b c d e f g h i 主人公は“人間とチンパンジー”のハイブリッド!? 人類喫緊の課題を問うコミック”. an・anweb. マガジンハウス (2022年1月25日). 2022年4月11日閲覧。
  16. ^ 『第1巻』, pp. 137–166, 第4話「ヘテローシス」.
  17. ^ 『第2巻』, pp. 69–98, 第8話「兆し」.
  18. ^ 『第3巻』, 第17話「青鬚の城にて(3)」.
  19. ^ 【各界のマンガ好きが推す!】今年の「マンガ大賞」は『ダーウィン事変』――15年目を迎えても、変わらない「読者の目」”. 美術展ナビ. 読売新聞社 (2022年4月1日). 2022年4月11日閲覧。
  20. ^ 『第4巻』, 第22話「WILL」.
  21. ^ 『第5巻』, 第27話「ゴルトン社」.
  22. ^ 『第6巻』, 第32話「ダーウィンのアルゴリズム」.
  23. ^ 『月刊アフタヌーン』2024年1月号, pp. 3–36, 第33話「隠密行動」.
  24. ^ a b 半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」と人間が繰り広げる世界大革命!”. 講談社コミックプラス. 講談社 (2020年12月26日). 2022年4月11日閲覧。
  25. ^ a b うめざわ しゅん『ダーウィン事変』はなぜマンガ大賞に? 高いテーマ性と読者に与えた衝撃”. リアルサウンド. blueprint (2022年3月29日). 2022年4月11日閲覧。
  26. ^ 『月刊アフタヌーン』2024年1月号, p. 844, 〈前略〉実は、うめざわさんはアメリカどころか海外に行かれたことが一度もありません。(寺山) AFTER AFTERNOON - CONTENTS(目次)より.
  27. ^ “このマンガがすごい!今年の1位は「ルックバック」と「海が走るエンドロール」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2021年12月7日). https://natalie.mu/comic/news/456425 2022年4月11日閲覧。 
  28. ^ “書店員が選んだおすすめコミック2022、第1位は龍幸伸「ダンダダン」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年1月27日). https://natalie.mu/comic/news/463266 2022年4月11日閲覧。 
  29. ^ “メディア芸術祭のマンガ部門大賞は「ゴールデンラズベリー」、エンタメ部門に「漫勉」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年3月13日). https://natalie.mu/comic/news/469334 2022年4月11日閲覧。 
  30. ^ “マンガ大賞2022発表!大賞はうめざわしゅん「ダーウィン事変」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年3月28日). https://natalie.mu/comic/news/471523 2022年4月11日閲覧。 
  31. ^ “CREA初のマンガ大賞「夜ふかしマンガ大賞」発表、1位は冬野梅子「まじめな会社員」”. コミックナタリー (ナターシャ). (2022年9月7日). https://natalie.mu/comic/news/492687 2022年9月7日閲覧。 
  32. ^ “諫山創がアングレーム国際漫画祭で、第50回を記念した特別賞を受賞”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年1月29日). https://natalie.mu/comic/news/510769 2023年3月23日閲覧。 
  33. ^ “第47回講談社漫画賞、最終候補作15作品を発表”. コミックナタリー (ナターシャ). (2023年4月10日). https://natalie.mu/comic/news/520241 2023年4月10日閲覧。 

講談社コミックプラス 編集

以下の出典は講談社コミックプラス(講談社)内のページ。書誌情報の発売日の出典としている。

  1. ^ 『ダーウィン事変(1)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2022年4月11日閲覧。
  2. ^ 『ダーウィン事変(2)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2022年4月11日閲覧。
  3. ^ 『ダーウィン事変(3)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2022年4月11日閲覧。
  4. ^ 『ダーウィン事変(4)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2022年4月24日閲覧。
  5. ^ 『ダーウィン事変(5)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2023年3月23日閲覧。
  6. ^ 『ダーウィン事変(6)』(うめざわ しゅん)”. 講談社コミックプラス. 講談社. 2023年11月22日閲覧。

参考文献 編集

外部リンク 編集