デゲネリア科デゲネリアか学名: Degeneriaceae)は、被子植物モクレン目に属するの1つである。ただ1デゲネリア属Degeneria)のみを含み、2種ほどが知られる。常緑高木であり、互生精油をもつ。雄しべは葉状で背軸面につき、雌しべは1個の心皮からなり合わせ目の融合が不完全である。フィジー諸島に分布する。

デゲネリア科
1. Degeneria vitiensis(1 = 花をつけた枝、2 = 花の縦断面、3 = 雄しべ、4, 5 = 雌しべ、6, 7 = 果実
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: デゲネリア科[1][2][3] Degeneriaceae
学名
Degeneriaceae I.W.Bailey & A.C.Sm. (1942)[4][5]
タイプ属
デゲネリア属 Degeneria I.W.Bailey & A.C.Sm. (1942)[6]
下位分類

デゲネリアの名(Degeneria)は、タイプ標本を採集したアメリカ合衆国の植物学者であるでオットー・デゲネル(Otto Degener)に献名されたものである[1]

特徴 編集

常緑性高木であり、高さ30メートルになる[1][8][9]は隔膜をもつ[8]。節は5葉隙5葉跡[8][10]道管の隔壁は斜めで階紋穿孔をもつ[8][10]師管色素体はP-type[8][10]精油を含む[8]

互生し、単葉全縁葉脈は羽状、油点をもち、葉柄が存在、托葉を欠く[8][9][10](上図1)。気孔は平行型[8]

は両性、放射相称、葉腋から生じる長い花柄の先に垂下して単生する[8][9](上図1)。萼片は3枚、離生し、宿存性[8][9][10]。花弁は12–18枚、離生する[8]雄しべは葉状、多数、離生し、求心的に成熟、3本の維管束をもち、背軸側につく[8][11][12](上図1)。タペート組織は分泌型、小胞子形成は同時型、花粉は2細胞性、単溝粒[8][10]。雄しべのうち内側の5–15個は葯を欠く仮雄しべとなる[1][8][9]雌しべは1個(ときに2個)で単心皮性、不完全心皮として知られ、嚢状で合わせ目が完全には融合しておらず、この部分がとさか状に柱頭になっている[1][8][9][10][11][13](上図1)。子房上位、心皮の縫合線に沿って多数の胚珠がつき、胚珠は倒生胚珠で珠柄が長く、厚層珠心、2珠皮性、珠孔は内珠皮性[8][9][10]胚嚢はタデ型[8]。おそらく甲虫によって送粉される[8]

果実袋果状の非裂開果、20–30個の種子を含む[8][10](上図1)。胚乳形成は造壁型[8]。胚乳は油質[8]。種子は扁平、橙赤色の肉質種皮をもつ[8][10]はよく分化しているが非常に小さい[8]。子葉は3–4枚[1][8][10]。染色体数は 2n = 24[8]

分布 編集

フィジー諸島ビティレブ島バヌアレブ島タベウニ島に分布する[1]

多雨多湿の明るい二次林に生育する[1]

系統と分類 編集

葉状の雄しべ、および不完全心皮というデゲネリア科に見られる特徴は、被子植物における最も原始的な状態の1つである考えられていた[11][12]。しかし20世紀末以降の分子系統学的研究からは、デゲネリア科に見られる"原始的"な特徴の一部は、デゲネリア科またはモクレン目における派生形質であることも示唆されている[10][14]

古典的な被子植物の分類体系である新エングラー体系クロンキスト体系では、デゲネリア科はモクレン目に分類されていた[2][15][16][17]。その後一般的となったAPG分類体系でも、デゲネリア科はモクレン目に分類されている[10]

デゲネリア科の中にはただ1属、デゲネリア属(Degeneria)のみが知られている[4][5][10]。またデゲネリア属の中には、2種が認識されている[4][5][10](下表1)。

表1. デゲネリア科の分類体系の一例[1][4][5][9][18]

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j 植田邦彦 (1997). “デゲネリア科”. 週刊朝日百科 植物の世界 9. p. 123. ISBN 9784023800106 
  2. ^ a b 井上浩, 岩槻邦男, 柏谷博之, 田村道夫, 堀田満, 三浦宏一郎 & 山岸高旺 (1983). “デゲネリア科”. 植物系統分類の基礎. 北隆館. p. 219 
  3. ^ 巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編) (2013). “生物分類表”. 岩波 生物学辞典 第5版. 岩波書店. p. 1645. ISBN 978-4000803144 
  4. ^ a b c d Degeneriaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年4月7日閲覧。
  5. ^ a b c d GBIF Secretariat (2021年). “Degeneriaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年4月7日閲覧。
  6. ^ Degeneriaceae I.W. Bailey & A.C. Sm.”. Tropicos.org. Missouri Botanical Garden. 2022年4月7日閲覧。
  7. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 23. ISBN 978-4900358614 
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Degeneriaceae Bailey & Smith”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年4月7日閲覧。
  9. ^ a b c d e f g h Byng, J. W. (2014). “18. DEGENERIACEAE”. The Flowering Plants Handbook: A practical guide to families and genera of the world. Plant Gateway Ltd. p. 24 
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Stevens, P. F. (2001 onwards). “EUPOMATIACEAE”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年4月7日閲覧。
  11. ^ a b c アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳) (2002). “雄蕊と心皮の系統発生”. 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 530–540. ISBN 978-4829921609 
  12. ^ a b 田村道夫 (1999). “葉的雄ずいと茎的雄ずい”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 153–157. ISBN 978-4829921265 
  13. ^ 田村道夫 (1999). “不完全被子状態”. 植物の系統. 文一総合出版. pp. 158–161. ISBN 978-4829921265 
  14. ^ Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/モクレン目/テゲネリア科”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2022年4月7日閲覧。
  15. ^ 加藤雅啓 (編) (1997). “分類表”. バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統. 裳華房. p. 270. ISBN 978-4-7853-5825-9 
  16. ^ Melchior, H. (1964). A. Engler's Syllabus der Pflanzenfamilien mit besonderer Berücksichtigung der Nutzpflanzen nebst einer Übersicht über die Florenreiche und Florengebiete der Erde. I. Band: Allgemeiner Teil. Bakterien bis Gymnospermen 
  17. ^ Cronquist, A. (1981). An integrated system of classification of flowering plants. Columbia University Press. ISBN 9780231038805 
  18. ^ Miller, J. M. (1988). “A new species of Degeneria (Degeneriaceae) from the Fiji Archipelago”. Journal of the Arnold Arboretum 69 (3): 275-280. NAID 10006908063. 

外部リンク 編集