ネボ山(ネボさん[1]英語: Mount Neboアラビア語: جبل نيبو‎、ジェベル・ネボ[2]Jabal Nībū (Jabal Nibu[1])、ジェベル・エン・ネバ[3]Jebel en Neba[4]ヘブライ語: הַר נְבוֹ‎、Har Nevo)は、ヨルダン西部に位置し、近郊の町マダバの北西10キロメートル[1]内(約9km[4])の距離にある[5]標高802メートル[4][6] (817m[1]) の高い尾根である。

ネボ山
جبل نيبو, Jabal Nībū
ネボ山(東1.4kmより)
標高 802 m
所在地 ヨルダンの旗 ヨルダンマダバ県
位置 北緯31度46分04秒 東経35度43分31秒 / 北緯31.76778度 東経35.72528度 / 31.76778; 35.72528座標: 北緯31度46分04秒 東経35度43分31秒 / 北緯31.76778度 東経35.72528度 / 31.76778; 35.72528
ネボ山 Mount Neboの位置(ヨルダン内)
ネボ山 Mount Nebo
ネボ山
Mount Nebo
ネボ山の位置(ヨルダン
プロジェクト 山
テンプレートを表示

アバリム連山英語版の主峰の1座であり[4]、海抜約マイナス400メートルの死海との標高差は1200メートルとなる[2]。死海の東北端より東約9キロメートルの位置にあり[3][4]、山頂からは聖地の全景と、北にヨルダン川渓谷の一部が展望できる。通常、エリコ西岸地区の町が頂上から見え、よく晴れた日であればエルサレムも望むことができる。

山頂部より見る死海 (海抜約マイナス400m)。標高差1,200m。

宗教的意義 編集

 
山頂より約束の地を眺望するモーセの描画(1907年)[7]

申命記の最後にいたる章によると、ネボ山は、イスラエルの民に与えられた約束の地ヘブライ人の預言者モーセに眺望させた場所とされる(申命記32章49節)。そして、モーセはモアブの平野からネボ山、エリコの向かいにあるピスガの頂英語版へと登った(申命記34章1節)。ピスガとは「尖った所」の意で、ネボ山の西2.5キロメートルのラース・エ・シャーガ (Râs es Siâghah[8]Ras es-Siyagha[4]〉) であり、このピスガの頂は標高710メートルとなるが、ネボ山と同一もしくはその一部分として混同される[9]

キリスト教の伝承によれば、モーセは神によってこのネボ山に埋葬されたが、モーセの永眠の地は不明である[10]。申命記によると、神はモーセをベテ・ペオル (Beth Peor) に近いモアブの地の谷に葬られたが、今日までその墓を知る者はいない(申命記34章6節)。ベテ・ペオルは、一説にはネボ山の山麓に知られる「モーセの泉」(アイン・ムサ、Ayn Musa)の場所であるとされる[11]

イスラームの伝承でもまた同様にいわれているが[12]、モーセの墓所はユダヤの荒野のうち、エリコの南11キロメートル、エルサレムの東20キロメートルに位置するナビー・ムーサー(マカーム・ナビ・ムサ、Maqam al-Nabi Musa[13])であるともされる[14]。ナビ・ムサは「モーセ」の意である[15]。学者は、現在ネボ山として知られているこの山が、モーセ五書に示された山と同一であるかどうかの議論を続けている。

また、マカバイ記 二 2章4-7節によると、預言者エレミヤ幕屋契約の箱をこの地に隠したとされる。

遺跡 編集

 
洗礼堂床面のモザイク

1933年、山頂部の標高710メートルのシャーガ(Syagha〈ラース・エ・シャーガ〉)で[16]教会修道院の跡が発見された[17]。その教会は当初、4世紀後半にモーセの死の場所をしのんで建てられた[1]。教会の構造は典型的なバシリカ様式による。教会は5世紀後半に拡張され、西暦597年に建て直された。

教会については西暦394年に一人の女性、エゲリア (Aetheria) の巡礼記に初めて記載された。モザイクで覆われた教会の床下からは、天然の岩をくり抜いた6基の墓が発見されている。モザイク画は保存・修復され[18]、現在も、年代の異なるモザイクの床の断片を見ることができる。現代の教会はその場所を保護して、礼拝の空間を備えるよう建設されている。

近年 編集

 
山頂からの距離を示す案内板
ガリラヤ湖(ティベリアス湖) 106km
ナーブルス 66km
エリコ 27km
ラマッラー 52km
エルサレムオリーブ山) 46km
クムラン(Qumran) 25km
ベツレヘム 50km
ヘロディウム(Herodium) 47km
ヘブロン 65km

2000年3月20日ヨハネ・パウロ2世は聖地への巡礼の中で、ヨルダンで最も重要なキリスト教霊場の1つであるネボ山を訪れた。訪問時、ヨハネ・パウロ2世はビザンティン様式の礼拝堂の側に、平和の象徴としてオリーブの樹を植えた[19]

教皇ベネディクト16世は、2009年5月9日にこの地を訪れて演説し、エルサレムの方向を山頂から眺望した[20]

山頂にある蛇のような十字架の造形物(青銅の蛇の記念碑)は、イタリアの芸術家ジョヴァンニ・ファントーニにより作成された。それはモーセが荒野で作って掲げた青銅の蛇(民数記21章9節)およびイエスが磔刑にされた十字架(ヨハネ3章14節)を象徴している。

画像 編集

脚注 編集

  1. ^ a b c d e ネボ山”. コトバンク. 朝日新聞社. 2018年9月17日閲覧。
  2. ^ a b 野町和嘉『SINAI・聖書の旅 - モーセの足跡を追って』平凡社、1979年、20-22頁。 
  3. ^ a b 鈴木元子「ジューイッシュ・ハーレムの痕跡 - シナゴーグから黒人教会へ」(PDF)『静岡文化芸術大学研究紀要 2005』第6巻、静岡文化芸術大学、2006年3月31日、11-19頁、ISSN 1346-47442020年10月17日閲覧 
  4. ^ a b c d e f 牛山 (1988)、231頁
  5. ^ 小山茂樹『中東がわかる古代オリエントの物語』日本放送出版協会、2006年、84-89頁。ISBN 4-14-081098-X 
  6. ^ 滝口鉄夫『聖書の旅』小学館、2000年、26-28頁。ISBN 4-09-606019-4 
  7. ^ The Death of Moses”. 2020年10月17日閲覧。
  8. ^ Râs es Siâghah”. getamap.net. 2020年10月17日閲覧。
  9. ^ 牛山 (1988)、223・231頁
  10. ^ 牛山 (1988)、230頁
  11. ^ 牛山 (1988)、224-227・230頁
  12. ^ Islamic sites in Jordan Archived 2013年11月10日, at the Wayback Machine.
  13. ^ マカームナビムサ”. コトバンク. 朝日新聞社. 2018年9月17日閲覧。
  14. ^ Amelia Thomas, Michael Kohn, Miriam Raphael, Dan Savery Raz (2010). Israël & the Palestinian Territories. Lonely Planet. pp. 319. ISBN 9781741044560. https://books.google.co.jp/books?id=VRGsmo7xjykC&pg=PA319&redir_esc=y&hl=ja 
  15. ^ ナビ・ムサ”. 駐日パレスチナ常駐総代表部. 2013年5月24日閲覧。
  16. ^ Also found as 'Siyagha' the peak is (710 metres), while the south eastern peak 'el-Mukhayyat' is 790 metres Piccirillo, Michele (2009) Mount Nebo - page 17
  17. ^ Piccirillo, Michele (2009) Mount Nebo (Studium Biblicum Franciscanum Guide Books, 2) pp. 14/15 - extract from Fr Sylvester Saller The Memorial of Moses on Mount Nebo Jerusalem 1941, pp. 15-18)
  18. ^ 牛山 (1988)、224頁
  19. ^ Piccirillo, Michele (2009) Mount Nebo (Studium Biblicum Franciscanum Guide Books, 2) p. 107
  20. ^ Pope Benedict begins his pilgrimage on Mt. Nebo”. Catholic News Agency (CNA). 2016年7月10日閲覧。

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集

 
山頂部、北東の眺望