代数幾何学では、ネロンモデル(Néron model)(あるいは、ネロン極小モデル(Néron minimal model)、極小モデル(minimal model))は、デデキント整域 R の分数体 K 上に定義されたアーベル多様体 AK が、Spec(K) から Spec(R) へ「プッシュプッフォワード」されたモデルで、言い換えると、AK に対応する R 上に定義された「最良」の群スキームである。

ネロンモデルは、André Néron (1961, 1964) により、完全剰余体をもつデデキント整域 R の商体上に定義されたアーベル多様体に対して構成され、Raynaud (1966) はこの構成をすべてのデデキント整域上の半単純アーベル多様体へこの構成を拡張した。

定義 編集

R を分数体 K を持つデデキント整域とし、AK を K 上のアーベル多様体、さらに一般的には滑らかな分離スキームとすると、AKネロンモデルは、次の意味で普遍的なファイバーが ''A<sub>R</sub>'' 上の分離的英語版(separated)で滑らかな(smooth)スキーム AR として定義する。これは、一般のファイバー AR をもつ滑らかな分離的スキームであるので、X が R 上の滑らかなスキームであれば、XK から任意の AK への K-射は、一意に X から AR への射へ拡張できる(ネロンの写像の性質)。特に、標準写像   は同型である。

層のことばでは、Spec(K) 上の任意のスキーム A は平坦グロタンディークトポロジーの層を表わし、Spec(K) から Spec(R) への単射写像によるプッシュフォワードを持っている。よってこの層は Spec(R) 上の層である。このプッシュフォワードがスキームにより表現されると、このスキームが A のネロンモデルである。

アーベル多様体に対して、ネロンモデルは存在し、(同型を除き)一意的であり、R 上の可換な準射影的な群スキーム英語版(group scheme)である。Spec(R) の閉点上のネロンモデルのファイバーは、滑らかな可換代数群であるが、アーベル多様体である必要はない。たとえば、非連結であったり、トーラスであったりすることもある。ネロンモデルは、トーラスのようなアーベル多様体に対してというよりも可換な群に対して存在するが、局所的有限のタイプしかない。ネロンモデルは加法的群に対しては存在しない。

性質 編集

  • ネロンモデルの定式化は、積と可換
  • ネロンモデルの定式化は、エタール基底変換と可換
  • アーベルスキーム AR は生成点上のファイバーのネロンモデルである。

楕円曲線のネロンモデル 編集

K 上の楕円曲線 AK のネロンモデルは、次のように構成することができる。まず、代数曲面(あるいは、数論的曲面)の意味で R 上の局所モデルを構成する。この曲面は、R 上正規で固有な曲面であるが、しかし、一般には R 上滑らかでなく、R 上の群スキームでもない。R 上滑らかな点の部分スキームは、ネロンモデルであり、R 上の滑らかな群スキームであるが、R 上固有であるとは限らない。一般に、ファイバーはいくつかの既約成分に分解することもあり、ネロンモデルを構成するためには、すべての乗法成分、交叉する成分となるすべての点、成分のすべての特異点を捨て去らねばならない。

テイトのアルゴリズム英語版(Tate's algorithm)により、楕円曲線のネロンモデルの特異ファイバーを計算することができる。さらに詳しくは、ネロンモデルを含む極小曲面のファイバーを計算することができる。

参考文献 編集