ヒーラエイラ

ヒーラエイラ（古希: Ἱλάειρα, Hīlaeira）は、ギリシア神話の女性である。長音を省略してヒラエイラとも表記される。メッセニア地方の王レウキッポスの娘で、ポイベー、アルシノエーと姉妹^[1]。しかし散逸した叙事詩『キュプリア』では、姉妹のうちヒーラエイラとポイベーはアポローンの娘とされている^[2]。

ピーテル・パウル・ルーベンスの絵画『レウキッポスの娘たちの略奪』。アルテ・ピナコテーク所蔵。

姉妹のうち特にヒーラエイラとポイベーはレウキッピデス（Leucippides）^[3]あるいはレウキッピス（Leucippis）と呼ばれている^[4]。彼女たちはディオスクーロイ（カストールとポリュデウケース）と結婚したと伝えられ、ヒーラエイラはカストールと結婚して1子を生んだ。アポロドーロスによると子供の名前はアノーゴーンであり^[5]、パウサニアースによるとアナクシスである^[6]。

神話編集

オウィディウスの『祭暦』によると、彼女たちはもともとアパレウスの息子たち（イーダースおよびリュンケウス）と婚約していたが、ディオスクーロイによって略奪された。そのためイーダースとリュンケウスは戦争の準備をし、彼女たちを奪還するべくディオスクーロイと戦った。この戦いでリュンケウスはカストールを討ち、リュンケウスはポリュデウケースに討たれた。イダスはポリュデウケースを攻撃しようとしたが、ゼウスの雷で撃たれた^[7]。

アポロドーロスの簡略化された物語によると、2人はディオスクーロイにさらわれて結婚した^[1]。またアポロドーロスはディオスクーロイとアパレウスの息子たちとの死闘は、アルカディアー地方から略奪した家畜の取り分をめぐる対立が原因であったと述べている^[5]。

パウサニアースは、スパルタにヒーラエイラとポイベーの神域があり、2体の神像が祀られていたことを伝えている。それによると神官は祭神と同様にレウキッピスと呼ばれる乙女たちで、彼女たちの1人が神像のうち1体に手を加え、神像の古い顔を同時代的な新しい造りに変更したが、もう1体に手を加えることは夢のお告げで禁じられた。またこの神域では、1個の卵をレーダーが生んだ卵として、リボンで結んで屋根から吊るしていたという^[4]。

アルゴスのアゴラにはディオスクーロイの神殿があり、彫刻家スキュリスが黒檀で制作した、ディオスクーロイとその妻ヒーラエイラ、ポイベー、および息子たちアナクシス、ムナシヌースの木像があった^[6]。またメッセニア地方の都市メッセーネー（英語版）にあるメッセーネー（トリオパスの娘）を祀った神殿には、ヒーラエイラとポイベー、アルシノエー、その息子であるアスクレーピオスなど、同地方の神話的人物を描いた画家オムパリオーンの図像があったことも伝えている^[8]。