フィプロニル
フィプロニル(英:fipronil)は、バイエルクロップサイエンス (de:Bayer CropScience) の前身であるローヌ・プーランが開発した、フェニルピラゾール系殺虫薬のひとつである。
フィプロニル | |
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(±)-5-アミノ-1-[2,6-ジクロロ-4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4-(トリフルオロメチルスルホニル)-1H-ピラゾール-3-カルボニトリル | |
別称 フルオシアノベンピラゾール | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 120068-37-3 |
PubChem | 7848105 |
J-GLOBAL ID | 200907081918619941 |
KEGG | D01042 |
ChEBI | |
ChEMBL | CHEMBL101326 |
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特性 | |
化学式 | C12H4Cl2F6N4OS |
モル質量 | 437.15 g mol−1 |
外観 | 白色の粉末 |
密度 | 1.477-1.626 |
融点 |
200.5 |
水への溶解度 | 難溶 |
危険性 | |
安全データシート(外部リンク) | ICSC 1503(日本語) |
呼吸器への危険性 | 痙攣、振戦 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
特徴編集
ノミ、ゴキブリ、アリ、アルゼンチンアリ、シロアリなどの害虫駆除に用いる。
神経伝達物質であるGABAの作用を阻害して神経伝達を遮断することで、広範囲の昆虫に対し高い殺虫効果を持つ。 また遅効性であることから、本剤を餌と共に摂食した個体は、致死までに帰巣が可能なことが特徴である。
特にゴキブリやアリの場合、本剤を摂取して帰巣した個体の糞や死骸を他の個体が摂食することで、巣の集団全体へ効果が拡散するドミノ効果が期待できる。
毒性編集
PRTR法(化学物質排出把握管理促進法)の規定により、第1種指定物質(政令番号22)に指定されている。ネオニコチノイド系殺虫剤とともに、ミツバチの蜂群崩壊症候群の原因仮説の1種とされる。
経口摂取による半数致死量であるLD50は、ラットで92 mg/kg、マウスで49 mg/kgである。ヒトの中毒は、0.14 mgの経口摂取による軽度意識障害が報告されている[1]。
体重1kgあたりの一日許容摂取量(毎日、一生涯食べ続けても、健康に悪影響がでないと考えられる量)であるADIは0.00019 mg/kg/dayと非常に低く、日本の登録農薬の中でも非常に厳しく制限されている部類になる[要出典][2]
日本の家庭用ゴキブリ駆除剤が本剤を用いる場合、1個当たり0.5から1mgを含有しており、ADIの約2,500倍から5,000倍にあたる。
フィプロニルを含有する製品編集
ゴキブリ駆除剤編集
- コンバット(韓国ヘンケルホームケア・大日本除虫菊(金鳥))
- ブラックキャップ (アース製薬)
- ゴキファイターシリーズ(フマキラー)
ゴキブリ以外の害虫駆除剤編集
歴史編集
1985年から1987年にかけて、フランスの化学薬品会社ローヌ・プーランによって開発され、US Patent No. US 5,232,940 B2のもと1993年に商品化された。
1987年から1996年の間に世界の60作物の250以上の害虫で評価され、1997年に総生産の約39%が作物保護剤として用いられた。
2003年以降、ドイツの化学薬品会社BASFが、多くの国家でフィプロニル系製品の製造および販売に関する特許権を保有している。
2008年に物資特許の保護期間が切れて、後発医薬品が流通するようになった。
2013年以降、欧州連合のみフィプロニルの農薬で使用することが禁止された為、他の農薬に切り替える措置を取った。その一年後、フィプロニルが全面的に使用禁止になった為、ノミマダニ駆除薬フロントラインは、EUのみ入手不可となった。
卵汚染問題編集
2017年7月から8月にかけて、オランダ食品消費者製品安全庁 (NVWA) によって高レベルのフィプロニルに汚染された鶏卵が発見された後、数百万の鶏卵がオランダ、ベルギー、ドイツ、フランス、韓国、マルタ島の市場から売却または撤去された[4][5][6]。約180のオランダの農場が一時的に閉鎖された[6]。ドイツのマーケットチェーンAldiは8月上旬、予防措置として、ドイツの店舗で販売されているすべての卵を撤去すると告知した[7]。この鶏卵汚染問題は、EU加盟国の15か国の他、スイス、香港にまで波及した[8][9][10]。
フィプロニルに汚染された卵は、今回の発見以前から長い間販売されていた可能性がある。オランダ当局は、2016年11月の段階で卵がフィプロニルで汚染されている事を発見していたが、その結果を伝えられなかったという匿名の通報があった[11]。
- 捜査
- フィプロニルは、農薬として農作物に適正に使用した結果残留する濃度であれば合法であるが、鶏舎に使用するのは違法であるため、捜査が行われた[6][12]。
- オランダとベルギーにある害虫駆除会社2社で捜査が行われた[13]。
- オランダの害虫駆除業者「ChickFriend」が、何百軒もの鶏の農家にフィプロニルが混ざったダニ駆除用界面活性剤 DEGA-16 を使用・販売していた疑惑がある。8月10日に大規模な検挙が行われ、オランダ人オーナーが逮捕されている[14][15]。
- ベルギーの害虫駆除業者「Poultry Vision」は、「ChickFriend」にフィプロニルが混ざったDEGA-16を販売した罪に問われている。同社が、ルーマニアにある化学会社から6m3のフィプロニルを輸入したことが捜査で判明している[16][17]。
- 【補足】 DEGA-16自体は、鶏の厩舎を清掃するために承認された清潔で衛生的な天然由来製品である。
- 8月8日に、オランダ安全委員会はオランダ当局の隠蔽容疑についての公式調査を開始したとアナウンスした[18][19]。
- 報告されたフィプロニル濃度
- 卵中のフィプロニル最大残留限界は、EUの2005年2月23日の会議で『Regulation (EC) No 396/2005』が定められた検出限界0.005 mg/kg とされた[20]。WHOの毒性評価分類は、Class II: moderately hazardousで毒性が下から2番目の殺虫剤としている。
- オランダ食品消費者製品安全庁(NVWA)は、オランダのある養鶏場の卵の試験結果が、0.72 mg/kg の閾値を超えたことを報告した。この閾値を超えるフィプロニルを含む卵は、健康へ悪影響をもたらす可能性がある[21]。
関連項目編集
脚注編集
- ^ 公益財団法人 日本中毒センター 保健師・薬剤師・看護師向け中毒情報
- ^ 2008年の中国製冷凍餃子中毒事件で混入された農薬のメタミドホスは、ADIが0.0006 mg/kg/dayで、本剤よりも許容量が高い。
- ^ “「巣撃滅」は強力すぎる? 対スズメバチ新商品巡り騒動”. 朝日新聞 (2020年2月4日). 2020年2月6日閲覧。
- ^ “국내산 계란에서 살충제(피프로닐 등) 검출” (朝鮮語). 2017年8月16日閲覧。
- ^ Ltd, Allied Newspapers. “Weeks after alarm in Europe, tainted eggs found in Malta” (英語). Times of Malta 2017年8月31日閲覧。
- ^ a b c Daniel Boffey (2017年8月3日). “Millions of eggs removed from European shelves over toxicity fears”. The Guardian 2017年8月3日閲覧。
- ^ “Fipronil contamination scare: Aldi pulls all eggs from shelves in Germany”. Deutsche Welle. (2017年8月4日) 2017年8月4日閲覧。
- ^ “Eggs containing fipronil found in 15 EU countries and Hong Kong” (英語). BBC News. (2017年8月11日) 2017年8月11日閲覧。
- ^ News, ABC. “EU: 17 nations get tainted eggs, products in growing scandal” (英語). ABC News 2017年8月11日閲覧。
- ^ Boffey, Daniel (2017年8月11日). “Egg contamination scandal widens as 15 EU states, Switzerland and Hong Kong affected”. The Guardian. 2017年8月11日閲覧。
- ^ “Fipronil scandal: Belgium accuses Netherlands of tainted eggs cover-up” (2017年8月9日). 2017年8月11日閲覧。
- ^ “Fipronil in eggs”. FoodQuality news.com. (2017年8月3日) 2017年8月3日閲覧。
- ^ Fipronil egg scandal: What we know(BBC)
- ^ “Eigenaren Chickfriend opgepakt, invallen in Barneveld en Nederhemert”. 2017年8月11日閲覧。
- ^ “Nederlanders gingen van deur naar deur met bloedluisverdelger Chickfriend”. 2017年8月11日閲覧。
- ^ “'Bedrijf Chickfriend wist dat het verboden middel kocht'” (オランダ語) 2017年8月9日閲覧。
- ^ Germany, SPIEGEL ONLINE, Hamburg. “Giftige Eier: Spur führt zu rumänischer Chemiefabrik - SPIEGEL ONLINE - Wirtschaft”. SPIEGEL ONLINE. 2017年8月11日閲覧。
- ^ “Onderzoeksraad voor Veiligheid - Onderzoeken & Publicaties - Onderzoek vanwege fipronil in voedselketen”. www.onderzoeksraad.nl. 2017年8月11日閲覧。
- ^ “Dierenpartij wil Kamer terug van reces om eierencrisis”. 2017年8月11日閲覧。
- ^ http://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2005/396/oj
- ^ https://www.nvwa.nl/onderwerpen/biociden/fipronil-in-eieren/fipronil-vragen-en-antwoorden-consumenten
参考文献編集
- 伊藤勝昭ほか編集 編 『新獣医薬理学』(第二版)近代出版、2004年。ISBN 4874021018。
外部リンク編集
- 国際化学物質安全性カード フィプロニル (ICSC:1503) 日本語版(国立医薬品食品衛生研究所による), 英語版
- 農薬等ADI関連情報データベース