フラッシュバック (心理現象)

フラッシュバック (flashback) とは、強いトラウマ体験(心的外傷)を受けた場合に、後になってその記憶が、突然かつ非常に鮮明に思い出されたり、同様にに見たりする現象。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス障害の特徴的な症状のうちの1つである。

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概要編集

フラッシュバックという用語は過去に起こった記憶で、その記憶が無意識に思い出されかつそれが現実に起こっているかのような感覚が非常に激しいときに特に使われる。フラッシュバックが起きた場合には、必ずしも映像及び音が存在するとは限らない。記憶には様々な要素があるため、フラッシュバックは「恐怖」などといった感情味覚痛覚など、感覚の衝撃として発生し得る。

フラッシュバックは、幼児期に経験した外傷体験を言語的に認識する能力を持たないまま記憶し、それでもなお忘れられない場合にも起こる。この、外傷体験を当初から取り込むことに失敗する現象のことを解離という。この記憶はまともに意識に上らないため、時間に抵抗し変造加工が困難である。また、それゆえにフラッシュバック性の記憶はその鮮明さにも拘らず言語化が困難でもある。さらに時間とともに霞がかからずむしろ原記憶よりも鮮明さは増す傾向が強い。

幼年期のトラウマの体験者は、これらの感情の記憶を意識化しないまま持っている可能性もあり、そしてフラッシュバックにおいてそれらを再経験する可能性がある。

アスペルガー症候群などの広汎性発達障害でもフラッシュバックを引き起こすことがある。

治療編集

大麻は、PTSDによる不安や、フラッシュバックの影響を弱め、大麻がPTSDの症状を減少させるという証拠は蓄積されている[1]

大麻の主成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)の作用を模倣する合成カンナビノイドのナビロンを用いた小規模な試験が存在する。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の悪夢の治療のためのナビロンを用い、47人中34人(72%)の患者が、悪夢の頻度や強さを減少させ、28人(59%)で悪夢が完全に休止した[2]

フラッシュバックは、先述のようにPTSDの特徴的な症状の一つである。したがって、治療者や支援者による温かいサポートと適切な手法に基づいた認知行動療法(とりわけ持続エクスポージャー療法)も有効であると思われる[3]。持続エクスポージャー療法は、心理教育、呼吸再調整法、現実エクスポージャー、想像エクスポージャーなどから構成されている。そして、治療者や支援者は、「自分は何も悪くなく、フラッシュバックする出来事は非常にまれで例外的な出来事であったから、そのような出来事は気にしなくて良いし自分を責めないようにしよう(自責感の緩和に基づいた認知の再構成)」といった患者の適切な記憶処理を導き、

・再びそのようなトラウマ体験をすることはありえない(客観的認知に基づいた可能性の否定)

・フラッシュバックする出来事は確実に過ぎ去った出来事であり、そのような出来事が今後の自分の人生を規定することはできない(過去と現実の区別と自己コントロール感の向上)

・トラウマ体験は過去の出来事であり、自分の人生を規定することはできないのだから、フラッシュバックが起きても自分を責めないようにしよう(想起の許容と自責感の緩和)

・フラッシュバックする出来事は、人生のほんの一コマであった。その一方でこれからは長い時間、別のこと(趣味などのやりたいことや今後の目標など)に意識を向けてやっていくことができる(トラウマの矮小化と注意転換)

といった事実に基づいた認識ができるように温かく支援すること、加えて患者の自己実現をサポートすることが重要であるとされる[4]

また、EMDR薬物療法もフラッシュバックの治療に有効であると考えられる[5][6]

関連項目編集

脚注編集

  1. ^ Passie, Torsten; Emrich, Hinderk M.; Karst, Matthias; Brandt, Simon D.; Halpern, John H. (2012). “Mitigation of post-traumatic stress symptoms by Cannabis resin: A review of the clinical and neurobiological evidence”. Drug Testing and Analysis 4 (7-8): 649–659. doi:10.1002/dta.1377. PMID 22736575. 
  2. ^ Fraser, GA (2009). “The Use of a Synthetic Cannabinoid in the Management of Treatment-Resistant Nightmares in Posttraumatic Stress Disorder (PTSD)”. CNS Neurosci Ther 15 (1): 84–88. doi:10.1111/j.1755-5949.2008.00071.x. PMID 19228182. 
  3. ^ 飛鳥井 望 (2011).認知行動療法(PE療法)によるPTSD治療――日本におけるエビデンスと被害者ケア現場での実践応用―― 精神雑誌,113,214-219.
  4. ^ 金 吉春・小西 聖子 (2016).PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル 不安症研究,7,155-170.
  5. ^ 市井 雅也 (2012).EMDR――PTSDに有効な心理療法―― 心身医学,52,819-827.
  6. ^ 山内 美穂・岩切 昌宏 (2017).トラウマに対する認知行動療法と脳機能に関する文献的研究 学校危機とメンタルケア,9,118-127.