急性ストレス障害
急性ストレス障害(きゅうせいストレスしょうがい、acute stress disorder、ASD[1])とは、生死や人間の尊厳に関わるようなトラウマ(心的外傷)を経験した後、体験をはっきりと思い出したり悪夢として現れたり、そのため過覚醒状態となったり、体験に関したことを避ける傾向が続き、数日から4週間以内に自然治癒する一過性の障害を指す。より長期にわたって持続している場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)である。
急性ストレス障害 | |
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分類および外部参照情報 | |
診療科・ 学術分野 | 精神医学, 心理学 |
ICD-10 | F43.0 |
ICD-9-CM | 308 |
GeneReviews |
世界保健機関の『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』第10版(ICD-10)における診断名は、急性ストレス反応である。この反応についての最初の記述は、ウォルター・B・キャノンが1923年の著書『外傷性ショック』(Traumatic Shock)の中で、様々なストレスに対するアドレナリンの緊急反応について論じたものである。
世界保健機関は治療に、抗うつ薬やベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬を推奨していない[2][3]。特にベンゾジアゼピンは、回復を遅らせる可能性がある[2][3]。
定義編集
精神医学的障害の一種である。
症状編集
主な症状は、以下の3つである。
- 追体験
- フラッシュバックとも言う。トラウマの原因となった出来事が繰り返しはっきりと思い返されたり、悪夢を見たりする症状。
- 回避
- トラウマ(心的外傷)に関する出来事や、関連する事柄を避けようとする傾向。
- 過覚醒
- 神経が高ぶった状態が続き、不眠や不安などが強く現れる症状。
他に多動傾向など。
臨床症状は、心的外傷後ストレス障害と基本的に同じだが、症状の持続期間が1か月以内で持続する場合には心的外傷後ストレス障害となる[4]。
また急性ストレス障害は、著しい苦痛や機能の障害をもたらすなど重症である。
治療編集
4週間以内の短期間の心理療法が用いられることがある。
世界保健機関による、2013年のガイドラインが公開されている[2]。抗うつ薬の使用は推奨されない[5]。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬は、外傷体験からの回復を遅らせる可能性があり、外傷体験から1か月以内にはこうした薬を用いないように勧告している[2][3]。急性の外傷ストレス症状には、外傷に焦点を当てた認知行動療法が推奨される[5]。
予後編集
予後は良好で時間の経過とともに快癒することが多い。しかし一部は、PTSDへと発展することがあるため、慎重な経過観察が重要である。
脚注編集
出典編集
- ^ “知恵蔵miniの解説”. コトバンク. 2018年2月10日閲覧。
- ^ a b c d “WHO releases guidance on mental health care after trauma”. 世界保健機関. (2013年8月6日) 2014年8月2日閲覧。
- ^ a b c 世界保健機関 2013, pp. 19-23、27-28.
- ^ アレン・フランセス 2014, pp. 114–116.
- ^ a b 世界保健機関 2013, pp. 19–23.
参考文献編集
- 世界保健機関 (2013) (PDF). Guidelines for the Management of Conditions Specifically Related to Stress. World Health Organization. ISBN 978-92-4-150540-6 2014年1月19日閲覧。
- アレン・フランセス、大野裕(翻訳)、中川敦夫(翻訳)、柳沢圭子(翻訳)『精神疾患診断のエッセンス―DSM-5の上手な使い方』金剛出版、2014年3月。ISBN 978-4772413527。、Essentials of Psychiatric Diagnosis, Revised Edition: Responding to the Challenge of DSM-5®, The Guilford Press, 2013.
- イーサン・ウォッターズ、(翻訳)阿部宏美『クレイジー・ライク・アメリカ』紀伊国屋書店、2013年。ISBN 978-4-314-01103-7。