ユートピア (ドクター・フーのエピソード)

ユートピア」(原題: "Utopia")は、イギリスSFドラマドクター・フー』第3シリーズ第11話。2007年6月16日に BBC One で初めて放送され[1]日本では LaLa TV で2012年3月4日に放送された[2]。「鳴り響くドラム」と「ラスト・オブ・タイムロード」と共に一続きの物語を形成しており、その三部作の第一編である。1996年のテレビ映画版『ドクター・フー』にも登場した、クラシックシリーズの異星人の悪役マスターが再登場を果たした。

ユートピア
Utopia
ドクター・フー』のエピソード
ヤナ教授の衣装
話数シーズン3
第11話
監督グレアム・ハーパー英語版
脚本ラッセル・T・デイヴィス
制作フィル・コリンソン英語版
音楽マレイ・ゴールド
作品番号3.11
初放送日イギリスの旗 2007年6月16日
日本の旗 2012年3月4日
エピソード前次回
← 前回
まばたきするな
次回 →
鳴り響くドラム
ドクター・フーのエピソード一覧

本作の舞台は宇宙が熱的死を迎えつつある100兆年後の未来で、ヤナ教授が"ユートピア"と呼ばれる場所へ最後の人類の末裔たちをロケットで送ろうとする。

連続性 編集

「ユートピア」では「大渋滞」でフェイス・オブ・ボーが口にしたメッセージ「君は一人ではない」("You Are Not Alone")の意味が明かされる。英語の各単語の頭文字を抜き出すとYANA=ヤナとなり、ヤナ教授の正体がドクター以外で唯一生き残っていたタイムロードのマスターであることを意味する。懐中時計を使ってタイムロードを人間に変えるというコンセプトは第3シリーズの「ジョン・スミスの恋」/「ファミリーと永遠の命」でドクターが人間ジョン・スミスとして隠れた際に登場したもので、マスターの正体を隠す装置として本作のクライマックスに大きく関与した。

本作ではかつてのコンパニオンであったジャック・ハークネスが再登場した。彼は「わかれ道」(2005年)でドクターに置き去りにされた後、スピンオフシリーズ『秘密情報部トーチウッド』の主人公となり、その第1シリーズ最終話「世界の終わり英語版」でドクターの来訪を悟った。ジャックは「クリスマスの侵略者」でシコラックスに斬り落とされたドクターの手を回収してドクター探知機として使用しており、ドクターが接近したときに発泡するジェルの中に保管していた。ドクターの手は後に「鳴り響くドラム」、「ラスト・オブ・タイムロード」、「盗まれた地球」、「旅の終わり」で再登場する。

本エピソードではマスターとして知られる裏切者のタイムロードが1996年のテレビ映画版以来の再登場を果たした。また本作では「地球最後の日[Note 1]、「悲しきスリジーン[Note 2]、「わかれ道」[Note 3]、「クリスマスの侵略者[Note 4]、『秘密情報部トーチウッド』のエピソード「世界の終わり英語版[Note 5]の出来事への言及があったほか、「わかれ道」「クリスマスの侵略者」「ジョン・スミスの恋」「大渋滞」のクリップ映像が流れ、またヤナ教授の懐中時計が開く前に過去にマスター役を演じたアンソニー・アインリー英語版の笑い声とロジャー・デルガード英語版The Daemons での台詞が流れた[3][4]

デレク・ジャコビはドクターが出会った描写のあるマスターでは5代目のマスターを、ジョン・シムは6代目のマスターを演じた[3]。サクソン氏 (Mister Saxon) は"Master No. Six" のアナグラムであると推論し、ミスリード(燻製ニシンの虚偽)かもしれないとする意見もあった[5]。しかし、質問を受けた際にラッセル・T・デイヴィスはアナグラムについてわざとではなかったと主張した[6][7]。ジャコビはフラシュアニメ版9代目ドクターScream of the Shalka でもマスター役を演じた。

本作はマスターの再生が初めて描写されたエピソードでもあった。クラシックシリーズでは3代目ドクターの対としてロジャー・デルガードが演じたマスター、The Deadly Assasin(1976年)と The Keeper of Traken(1981年)で登場したマスターの2人が自然な再生体としてのマスターである。再生を使い果たしたマスターは生き延びるために The Keeper of Traken で別人の肉体を奪い、1996年のテレビ映画版でも同様の手法を使って生き延びていた。本作に続く「鳴り響くドラム」でマスターはタイムロードがタイム・ウォーの際に兵士として彼を蘇られたと主張し、以前に "The Five Doctors" で言及されていたようにおそらく新たな再生サイクルを備えた肉体を与えられた。ドクター以外のタイムロードの再生が描かれたエピソードとしては本作は2番目(新シリーズでは最初)であり、番組の歴史を通しての最初は "Planet of the Spiders"(1974年)でのカンポの再生シーンであった、"Destiny of the Daleks"(1979年)の最初のエピソードではロマーナが再生したが、この過程は描かれなかった。

マスターは本エピソードを通してドラムの音が頭に響き続けており、この音は「鳴り響くドラム」と「ラスト・オブ・タイムロード」でも続き、「時の終わり」のプロットポイントとなった。

制作 編集

本作は Totally Doctor Who で三部作の第一話であることが放送の前に告知されており、それ以前では本作に続く2話だけが繋がっているとされていた。Doctor Who Magazine のシーズン調査などの後の参考資料では、これら3エピソードは1つの三部作の物語として扱われている。ラッセル・T・デイヴィスは「ユートピア」を分かれた物語として認識していると述べたが、この決定は恣意的であるともコメントした[8]

本作は新シリーズでは初めてタイトルバックに主要キャスト3人がクレジットされたエピソードであった。10代目ドクター役のデイヴィッド・テナントマーサ・ジョーンズ役のフリーマ・アジェマンに加えてキャプテン・ジャック・ハークネス役のジョン・バロウマンがクレジットされた。

キャティング 編集

デレク・ジャコビが『ドクター・フー』に携わったのはこれで三度目である。最初は2003年9月のオーディオドラマ Deadline[9]で、自身がドクターであると信じ込んでいる脚本家役を演じた。二度目は数ヶ月後にウェブ放送された Scream of the Shalka で、マスターのアンドロイド体を演じた[10]。2017年にジャコビは「ユートピア」での役に復帰し、オーディオドラマシリーズ The War Masterに出演した。

副官役を演じたニール・レイドマン英語版もかつて『ドクター・フー』に携わっており、8代目ドクターのオーディオドラマ Memory Lane でトム・ブラウディを演じ[11]、警備員役のロバート・フォークナルも8代目ドクターのオーディオドラマ The Company of Friends でバイロン卿を演じた。

チャン・ゾーを演じたチポ・チャンは後に「運命の左折」で占い師役を演じた。未来種の首領を演じたポール・マーク・デイヴィス英語版も『ドクター・フー』の世界に復帰し、スピンオフ The Sarah Jane AdventuresWhatever Happened to Sarah JaneThe Temptation of Sarah Jane SmithThe Wedding of Sarah Jane Smith でトリックスター役を演じた。また、彼は『秘密情報部トーチウッド』の「終局英語版」にも出演し、『CLASS/クラス』で主要な悪役コラカイナス役を演じた。

クリート役を演じたジョン・ベル英語版は、『ブルー・ピーター英語版』コンテストで優勝して本作に出演した9歳の少年であった[12]

音楽 編集

元々『秘密情報部トーチウッド』のために作曲された音楽が本エピソードのBGMとして流れている。ジャックがターディスに向かって走ってくるシーンでは『秘密情報部トーチウッド』のテーマを編曲したものが流れ、ジャックがタイム・ヴォルテックスをターディスにしがみついて抜けた後に死んで横たわっている場面ではモチーフが流れた。ドラムのモチーフは5代目ドクターの時代の『ドクター・フー』のテーマを彷彿とさせ、ロン・グレイナー英語版が作曲、デリア・ダービーシャー英語版が完成させた[13]

放送と評価 編集

「ユートピア」はイギリスでは2007年6月16日に BBC One 初めて放送させた。当夜の視聴者数は730万人で、タイムシフト視聴者を考慮すると784万人に上った[3]。その週の BBC One の番組では4番目に多く視聴されたエピソードで[14]評価指数英語版は87であった[3]

IGNのトラヴィス・フィケットは本作を10点満点で8.4と評価し、「シーズンフィナーレのエピソードの幕開けとなる素晴らしい手法」と呼び、特にこれまでのエピソードで登場した要素が重要なものとなっている点を称賛した。しかし彼はエピソードの冒頭については批判的で、ジャックの登場をやや馬鹿げていると論評した上、「文明の残骸は『マッドマックス』が宇宙の吸血鬼に追われることを拒んでいるようだ」とした[15]SFXのリチャード・エドワーズは「ユートピア」を5つ星のうち4つ星とし、より壮大な物語の一部であるため構想は最小限であるとしたが、ジャックの過去とマスターの再登場を称賛した[16]The Stage の批評家マーク・ライトは「ユートピア」に賛否両論を持ち、惑星上の20分を嫌ったが、ヤナ教授役のジャコビの出演や、特に彼の正体の発覚を高評価した[17]

本作については数多くの批評家やライターがそのクリフハンガーについてコメントを残した。io9のチャーリー・ジェーン・アンダース[18]と Den of Geek のJeff Szpirglas[19]は本作のクリフハンガーをシリーズで最高のクリフハンガーの1つに挙げ、マーク・ハリソンは別の Den of Geek の記事で10代目ドクターの時代の最高のクリフハンガーに選んだ[20]。また、Digital Spy のモーガン・ジェフリーとクリス・アレンは本作のクリフハンガーを新シリーズで5番目に優れたクリフハンガーに選んだ。ジェフリーは本作のクリフハンガーを「見事な蓄積したクリフハンガー」であると述べ、アレンは「『ユートピア』をかなり平均的なエピソードから全く別の物へ昇華する素晴らしいクリフハンガー」であると評価した[21]ガーディアンのスティーヴン・ヴルックは「シリーズ全体でおそらく最高の瞬間だ」と第3シリーズの感想で述べた[22]

脚注 編集

  1. ^ ヤナは幼少期に Silver Devastation の海岸で懐中時計を持っていたことを思い出すが、Silver Devastation は「地球最後の日」でフェイス・オブ・ボーが来たと言われている場所である。
  2. ^ マーサはカーディフでの地震についてドクターに質問し、彼はスリジーンとトラブルがあったと返答したが、これは「悲しきスリジーン」での出来事を反映している。また当時は10代目の姿ではなかったことにも言及しており、これはエピソードが9代目ドクターの時期であったことを指す。
  3. ^ 「わかれ道」でジャックをサテライト5に置き去りにした時点で彼がローズ・タイラーの力で蘇ったことを知っていたとドクターは明かした。事実、「わかれ道」の直後にあたる『チルドレン・イン・ニード』スペシャルでもジャックが生きていることに気付いていた。また、「わかれ道」での出来事としてローズがタイム・ウォーを終結させたとドクターは説明した。さらにジャックは「わかれ道」の舞台であった西暦20万100年から時空操作機を使って1869年に飛んだことに言及した。これにより、ジャックが到着したのは「にぎやかな死体」の数か月前ということになる。
  4. ^ ジャックは容器に保存された手でドクターの到着に気付いたとマーサとドクターに教えた。この手は「クリスマスの侵略者」でシコラックスに切断されたドクターの手で、トーチウッド3のハブの備品として『秘密情報部トーチウッド』にたびたび登場した。「世界の終わり」で登場した後、この手はターディスで保管されることとなった。
  5. ^ ジャックは『秘密情報部トーチウッド』の「世界の終わり」の結末で画面外のターディスのエンジン音に気付いた。ターディスの燃料補給の間にドクターはカーディフの時空の裂け目に言及しており、裂け目が最近開かれたことに気付いた。これは「世界の終わり」でアバドンが裂け目を通って異空間から侵入したことによるもの。

出典 編集

  1. ^ “Doctor Who UK airdate announced”. News (Dreamwatch). (2007年2月27日). オリジナルの2007年3月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20070312164215/http://www.dwscifi.com/articles/show/227 2020年3月9日閲覧。 
  2. ^ ドクター・フー (TV Series) Utopia (2007) Release Info”. インターネット・ムービー・データベース. 2020年3月9日閲覧。
  3. ^ a b c d Doctor Who - Fact File - "Utopia"”. 2007年6月17日閲覧。
  4. ^ "Utopia" Podcast” (2007年6月16日). 2007年7月9日閲覧。 [リンク切れ]
  5. ^ Of a Thursday”. Digital Spy (2007年4月1日). 2007年6月17日閲覧。
  6. ^ Radio Times 30 June–6 July 2007: Doctor Who Watch
  7. ^ Doctor Who Magazine issue 384: Return of the Master
  8. ^ Davies, Russell T (4 March 2009). “Production Notes”. Doctor Who Magazine (Royal Tunbridge Wells, Kent: Panini Comics) (406): 4. "And I certainly feel the Series Three climax was two stories, no matter what the DWM season poll says. I'm sorry! I just do! I could rattle off the reasons, but we're into the mystical land of canon here, where the baseline of the argument simply comes down to "because I think so!"" 
  9. ^ A New Doctor, A New Dimension?”. Big Finish Productions. 2005年5月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年6月11日閲覧。
  10. ^ “Jacobi confirmed for Dr Who role”. BBCニュース (BBC). (2007年1月25日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/6297661.stm 
  11. ^ Doctor Who - Memory Lane”. Big Finish. 2020年3月9日閲覧。
  12. ^ “Future Boy”. BBC Doctor Who website (BBC). (2007年6月7日). オリジナルの2007年8月19日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20070819032701/http://www.bbc.co.uk/doctorwho/news/cult/news/drwho/2007/06/07/45505.shtml 2013年7月10日閲覧。 
  13. ^ Freema Agyeman; Trevor Laird; Gugu Mbatha-Raw. "The Sound of Drums commentary". BBC's Doctor Who microsite (Podcast). 2007年6月25日閲覧
  14. ^ Weekly Top 30 Programmes”. Broadcasters' Audience Research Board. 2012年6月4日閲覧。
  15. ^ Fickett, Travis (2007年9月25日). “Doctor Who: "Utopia" Review”. IGN. 2012年3月23日閲覧。
  16. ^ Edwards, Richard (2007年6月16日). “Doctor Who 3.11 "Utopia"”. SFX. 2012年3月25日閲覧。
  17. ^ Wright, Mark (2007年6月17日). “Doctor Who 3.11: Utopia”. The Stage. 2013年1月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年7月10日閲覧。
  18. ^ Anders, Charlie Jane (2010年8月31日). “Greatest Doctor Who cliffhangers of all time!”. io9. 2012年3月23日閲覧。
  19. ^ Szpirglas, Jeff (2011年6月2日). “10 classic Doctor Who cliffhangers”. Den of Geek. 2012年2月23日閲覧。
  20. ^ Harrison, Mark (2010年6月24日). “Doctor Who: 10 cliffhanger screamers”. Den of Geek. 2012年3月23日閲覧。
  21. ^ Jeffery, Morgan (2011年6月3日). “'Doctor Who's best ever cliffhangers: Friday Fever”. Digital Spy. 2012年3月23日閲覧。
  22. ^ Brook, Stephen (2007年7月2日). “Doctor Who: it's season finale time!”. The Guardian. 2012年7月27日閲覧。

外部リンク 編集