上武やす子

日本のアイヌ文化伝承者

上武 やす子(うえたけ やすこ、1934年昭和9年〉11月26日[1] - )は、日本のアイヌ文化伝承者、刺繡作家。北海道登別市において、北海道ウタリ協会登別支部支部、市民勉強会「知里真志保を語る会」、アイヌの女性文化の学習と継承のための団体「アイヌ文化を学び継承する女性の会」などでの活動で、アイヌ文化の伝承普及活動を行っている。また、独学でのアイヌの民族衣装や刺繍製作、アイヌ紋様刺繡の学習会による後進の指導、古式舞踊の指導などを通じて、アイヌ伝統文化の復興、アイヌ文化の保存などに貢献している。

うえたけ やすこ

上武 やす子
生誕 (1934-11-26) 1934年11月26日(89歳)
北海道室蘭市
住居 北海道登別市幌別町
国籍 日本の旗 日本
民族 アイヌ
出身校 室蘭文化服装学院
活動期間 1970年代後半 -
時代 昭和 -
団体 北海道ウタリ協会(1985年 - 2012年)
知里真志保を語る会(1988年 - )
アイヌ文化を学び継承する女性の会(1998年 - )
著名な実績 アイヌ文化の伝承普及活動、アイヌの民族衣装や刺繍の製作、古式舞踊の指導など
活動拠点 北海道登別市
受賞 北海道アイヌ民芸品コンクール 優秀賞(1994年)
アイヌ文化奨励賞(1997年)
伝統文化ポーラ賞 地域賞(2009年)
北海道文化財保護功労賞(2009年)
アイヌ文化賞(2018年)
栄誉 登別市教育文化貢献表彰(2010年)
文化庁長官表彰(2019年)
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映像外部リンク
技vol 4 上武やす子 - アイヌ民族文化財団

経歴 編集

北海道室蘭市で誕生する[2]。幼少時に母を喪うが、父と祖母、母代りの兄に囲まれて育つ[3]。学生時代にはアイヌである自身に対して心ない言葉を投げかけられることもあったが、強い意志でそれをはねのける[3]。室蘭文化服装学院を卒業後に[4]、1960年(昭和35年)に結婚して、幌別町(現・登別市幌別町)へ移り住む[2]

1970年代後半の頃に、当時の登別市長がアイヌの墓を壊して自分らの墓を建てたことに対して、北海道ウタリ協会登別支部(現・登別アイヌ協会)が抗議したことを機に、アイヌ活動への取組を始める[3]。1985年(昭和60年)から6年にわたり、北海道ウタリ協会登別支部の生活相談員として活動する[5][6]。1996年(平成8年)4月に北海道ウタリ協会登別支部支部長に就任し[2]、2005年(平成12年)まで支部長を務める[6]。また、ウタリ協会登別支部のメンバーによる市民勉強会「知里真志保を語る会」を1988年(昭和63年)に結成し、1997年(平成9年)から会長を務める[4]。北海道内で13番目となるアイヌ語教室の設立にも取り組む[7]。1998年(平成10年)には「アイヌ文化を学び継承する女性の会」を設立[8]、アメリカでのアイヌ特別展の開催では、現地の多くの人々から歓迎を受ける[9][10]

これらの活動の一方、生活相談員となったことで、アイヌ文様の刺繡を学び始めたが、支部の活動の停滞により伝統儀式で使う衣装が無かったために、アイヌ民族文化を途絶えさえないために独自の文様を研究し、衣装を縫い始める[11]。1990年(平成2年)からは地元市民を対象とした「アイヌ刺繡教室」を開催、1993年(平成5年)にはアイヌ紋様刺繡を学ぶ会「ピリカノカ」を発足させ、作品の展示会を毎年開催している[12]。1997年からは、札幌や岩見沢の女性20人と協力し、江戸時代後期から昭和初期にかけてのアイヌ民族衣装の忠実な複製に取り組む[11]。2008年(平成20年)には、洞爺湖サミットで訪れた各国首脳たちに贈られたアルバムの表紙をアイヌ紋様刺繡で手がけ、好評を博す[12]。刺繡の他、近隣の市町村内の小学校で、アイヌ古式舞踊の指導にも努める[5]

2020年代以降においてもアイヌ刺繡工芸家として、作品の展示会開催や[13]、後進の指導に努めている[14][15]

受賞・表彰歴 編集

  • 1994年 - 北海道アイヌ民芸品コンクール 優秀賞[16]、北海道教育委員会教育賞[16]
  • 1997年 - 北海道アイヌ民芸品コンクール 奨励賞[16]、アイヌ文化奨励賞[16]
  • 1998年 - 北海道アイヌ民芸品コンクール 審査員特別賞[16]、アイヌ工芸品コンクール ミブ入賞[16]
  • 2002年 - 財団法人ソロプチミスト 社会ボランティア賞[16]
  • 2009年 - 伝統文化ポーラ賞 地域賞、北海道文化財保護功労賞[5]
  • 2010年 - 登別市教育文化貢献表彰[5]
  • 2018年 - アイヌ文化賞[5]
  • 2019年 - 文化庁長官表彰[17]

著作 編集

  • 『上武やす子とピリカノカ』クルーズ、2007年3月22日。ISBN 978-4-905756-40-8 

脚注 編集

  1. ^ 平成9年度 アイヌ文化奨励賞 上武やす子(62歳)”. アイヌ民族文化財団 (1997年). 2024年3月4日閲覧。
  2. ^ a b c 安本浩之「会う・聞く・語る 道ウタリ協会登別支部長 上武やす子さん 南北の文化交流 伝統工芸の魅力伝える もっと技術広げたい」『北海道新聞北海道新聞社、1999年2月11日、蘭B朝刊、19面。
  3. ^ a b c 上武 2007, pp. 2–3
  4. ^ a b 長谷川善威「土曜とーく 上武やす子さん「知里真志保を語る会」会長 功績や温かみ伝えたい」『北海道新聞』、2007年11月10日、蘭C朝刊、31面。
  5. ^ a b c d e 平成30年度(第22回)アイヌ文化賞 上武やす子(83歳)”. アイヌ民族文化財団 (2010年). 2024年3月4日閲覧。
  6. ^ a b 「知里幸恵生誕100年 この1年そして未来へ 上武やす子さん 儀式の復活、語学や刺しゅう教室を通じ民族の文化継承に努める道ウタリ協会登別支部長」『北海道新聞』、2003年12月24日、蘭B朝刊、23面。
  7. ^ 池田静哉「上武さん(登別)アイヌ文化賞 刺しゅう工芸伝承に尽力」『北海道新聞』、2019年1月22日、蘭A朝刊、15面。
  8. ^ 『北海道の生活文化』北海道新聞社〈北の生活文庫〉、2000年3月28日、97頁。ISBN 978-4-89453-080-5 
  9. ^ 「上武やす子さん(「アイヌ文化を学び継承する女性の会」代表)」『女性教養』第561号、日本女子社会教育会、1999年7月1日、13頁、NCID AN00246427 
  10. ^ 北海道新聞社 2000, pp. 98–99
  11. ^ a b 水野薫「技に生きる 西胆振の名人たち 37 刺しゅう家・上武やす子さん アイヌ民族の文化 伝承」『北海道新聞』、2010年10月2日、蘭B朝刊、29面。
  12. ^ a b 第29回 伝統文化ポーラ賞 地域賞”. ポーラ伝統文化振興財団 (2009年). 2024年3月4日閲覧。
  13. ^ 高木乃梨子「アイヌ文化伝承 文様に思い込め 登別で上武さん刺しゅう展」『北海道新聞』、2022年9月16日、蘭B朝刊、17面。
  14. ^ 小林彩乃「山崎さん アイヌ文化賞 白老から選出 奨励賞に菅野さん 刺しゅうなど 後進育成に力」『北海道新聞』、2022年2月15日、苫A朝刊、18面。
  15. ^ 広川春男「アイヌ刺しゅう 生徒16人作品展 室蘭市民美術館」『北海道新聞』、2023年9月15日、蘭A朝刊、16面。
  16. ^ a b c d e f g 上武 2007, p. 48
  17. ^ 高田誠「アイヌ民族楽器、次世代へ ムックリ制作・演奏の鈴木さん、文化庁長官表彰」『朝日新聞朝日新聞社、2019年12月23日、北海道朝刊、19面。