任氏伝』(じんしでん)は、中国伝奇小説である。作者は沈既済

概要 編集

天宝9年(750年)の出来事として語られる異類婚姻譚。主人公は妖狐であり、任氏の美女に変化して鄭六という人物の妻女になり、夫のために貞節を尽くすが、最期は路傍で犬に追いかけられて噛み殺されるという悲話で終わっている[1]

後世、翻案された小説を多く見ることが出来る[2]

作者の沈既済は蘇州呉県の出身。子の沈伝師が代宗大暦4年(769年)に生まれており、そこから類推すると、玄宗の天宝年間に生まれ、大暦末年から徳宗貞元年間にかけて中晩年期を過ごしたと考えられる。安史の乱楊貴妃の死は、沈既済の青年時代に起った事件。小説に大きく関わった史学者[3][4]

あらすじ 編集

鄭六は武術の心得があったが、今は身を持ち崩していた。あるとき、任氏という美人に誘惑されて一夜の契りを結んだ。翌日、町の人から彼女は狐だと知らされたが、美人だったのであきらめきれず、次に町で見かけたとき言い寄った。任氏は正体がばれているので逃げようとしたが、鄭六がそれでも構わないというので妻になった。その後、任氏は未来予知の能力を発揮し、鄭六を金持ちにした。やがて、鄭六は武術の力を買われ、西方の地方官庁に任官することになった。任氏は方角が悪いといって辞退したが、鄭六は何とか説得して旅に出た。その途中、猟犬を見た任氏は狐の正体を現し、猟犬に追いかけられて食い殺されてしまったのである[5]

所収 編集

参考文献 編集

  • 太刀川清「『繁野話』の方法」『紀要』第35巻、長野県短期大学、1980年、1-6頁、ISSN 0286-1178NAID 120005494439 

脚注・出典 編集

  1. ^ 董誥 (1990年). “全唐文”. 上海古籍出版社. 
  2. ^ 例えば、江戸時代の都賀庭鐘 《繁野話》(しげしげやわ) 1766年 第三篇 『紀の関守が霊弓一旦白鳥に化する話』は作者自ら原拠を明かしている。(太刀川清 1980)
  3. ^ 唐宋伝奇集 上. 岩波文庫. (1988年) 
  4. ^ 中国古典文学大系24 六朝・唐・宋小説選. 平凡社. (1968年) 
  5. ^ 王汝濤主編『太平広記選』上・下・続. 斉魯書社. (1980 – 1982) 
  6. ^ 日本語訳があり、吉川幸次郎 訳 1942年 弘文堂 世界文庫。原文・日本語訳を収録。