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芝全交『風雷神天狗落種』(1782年)より。江戸時代黄表紙では女性の天狗もたびたび描かれる。

女天狗(おんなてんぐ、めてんぐ)は、日本の古典文学作品や民間伝承に登場する天狗のうち、特に性別女性であるとされるものである。

概要編集

女天狗は、男天狗と共に世俗のひとびとに混じって存在しているという。その姿は長い頭髪を持ち、(まゆずみ)やおしろいで化粧し、歯には鉄漿をつけ、緋色小袖五ツ衣、薄衣の被衣を身に着けており[1]、天狗どころか優美な女性にしか見えず、背の翼を見るまでは天狗とはわからなかったという[2]

源平盛衰記』には、驕慢な性格の尼僧尼天狗(あまてんぐ)になるとある(女性の尼天狗に対して男性のものは法師天狗と併記している)。尼天狗の顔は天狗に似るが[注 1]、もとが尼のために頭は剃髪しており、背に翼を持ち、法衣を身にまとっているという[1]

江戸時代の百科事典『和漢三才図会』巻44「治鳥 付 天狗 天魔雄」[3]諦忍の著書『天狗名義考』では、『先代旧事本紀』に記されている文の引用であるとして(実質は『先代旧事本紀大成経』)、スサノオが吐き出した猛気から天逆毎姫(あまのさこのひめ)という獣の首と人の体を持つ女神が生まれており、これが天狗の祖先であるとしている。この、天逆毎姫が女天狗のはじまりである[2]ともいわれる。

霊山での天狗編集

女の天狗があるとする記述が見られる一方、『甲子夜話』に記されている源左衛門、『仙境異聞』の天狗小僧寅吉など、天狗などの棲む山の世界へ連れて行かれた江戸時代の人物の語ったという内容には女天狗の記述が見られなかったり、女人禁制の霊山には女性はいないとする内容がほとんどであり、女天狗の記述は見られていない[4]。国学者・平田篤胤に女はいたかと質問された寅吉は「他の山は知らず、岩間・筑波などは女人禁断の山なるゆえに決して女なし」と返答している[5]

民間伝承編集

川に住む天狗であるとされる川天狗の中に、女の天狗が存在してるとうかがえる内容を含む伝承報告がいくつか存在しているが、くわしくはわかっていない。

  • 東京都小河内村の大畑淵というにいた川天狗は夫婦で存在しており、嫁は美しい娘の姿をしていたという[6]
  • 山梨県南巨摩郡南部町では川天狗を女天狗とも呼ぶ。ふつうの天狗にくらべてやさしい顔かたちをしてるともいう[7]

山姥(やまんば)のことを「てんぐさまの女房」と呼ぶ地方[8]もあった。

脚注編集

注釈編集

  1. ^ 平安時代から室町時代にかけて、天狗は江戸時代以後の絵画に典型的に描かれるようになった天狗像のような「鼻の高いもの」ではなく、烏天狗のような鳥類に似たもの、似た顔で描かれることが多く、ここでいう尼天狗も同様に鳥のような顔をしていると考えられる。

出典編集

  1. ^ a b 著者不詳『源平盛衰記』国民文庫刊行会、1910年、195-196頁。
  2. ^ a b 笹間良彦『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年、9-10頁。ISBN 978-4-7601-1299-9
  3. ^ 寺島良安『和漢三才図会』6、島田勇雄・竹島淳夫・樋口元巳訳注、平凡社東洋文庫〉、1987年、344-345頁。ISBN 978-4-582-80466-9
  4. ^ 笹間良彦『図説・日本未確認生物事典』柏書房、1994年、5-6頁。ISBN 978-4-7601-1299-9
  5. ^ 知切光歳『天狗の研究』 大陸書房 1975年 253頁
  6. ^ 千葉幹夫『全国妖怪事典』小学館〈小学館ライブラリー〉、1995年、66頁。ISBN 978-4-09-460074-2
  7. ^ 女性民俗研究会『女性と経験』1巻2号 女性民俗研究会 1956年 41頁
  8. ^ 『山陰民俗研究』1号 山陰民俗学会 1995年 127頁

関連項目編集