学生無年金訴訟(がくせいむねきんそしょう)とは国民年金が任意加入だった学生時代に重い障害を負った者が国民年金に加入していなかったことを理由に障害基礎年金を不支給とした処分の取り消しと損害賠償を国に求めた訴訟[1][2]

最高裁判所判例
事件名 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件
事件番号 平成17(行ツ)246
2007年(平成19年)9月28日
判例集 民集第61巻6号2345頁
裁判要旨
1 (1)国民年金法(平成元年法律第86号による改正前のもの)が,同法7条1項1号イ(昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法7条2項8号)所定の学生等につき,国民年金の強制加入による被保険者とせず,任意加入のみを認めることとし,これに伴い上記学生等を強制加入による被保険者との間で加入及び保険料納付義務の免除規定の適用に関して区別したこと,及び(2)立法府が,平成元年法律第86号による国民年金法の改正前において,上記学生等につき強制加入による被保険者とするなどの措置を講じなかったことは,憲法25条,14条1項に違反しない。
2 立法府が,平成元年法律第86号による国民年金法の改正前において,初診日に同改正前の同法7条1項1号イ(昭和60年法律第34号による改正前の国民年金法7条2項8号)所定の学生等であった障害者に対し,無拠出制の年金を支給する旨の規定を設けるなどの措置を講じなかったことは,憲法25条,14条1項に違反しない。
第二小法廷
裁判長 津野修
陪席裁判官 今井功中川了滋古田佑紀
意見
多数意見 全会一致
反対意見 なし
参照法条
(1,2につき)憲法14条1項,憲法25条,国民年金法[注 1]7条1項,国民年金法[注 1]7条2項8号,国民年金法[注 1]30条1項,国民年金法[注 1]附則6条1項,国民年金法[注 1]附則6条6項,国民年金法[注 2]7条1項1号イ,国民年金法[注 2]附則5条1項1号,国民年金法[注 3]90条,国民年金法[注 3]附則5条10項,国民年金法30条1項,国民年金法89条(2につき)国民年金法30条の4,国民年金法[注 1]57条
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概要 編集

2001年7月以降、学生時代に年金未加入の状態や年金未納の状態で重い障害を負った約30人が、障害年金を受け取れないとして全国の9地裁で提訴した。国民年金が創設された1961年から学生は任意加入であり、20歳以上の学生が強制加入となるのは1991年4月からであった(学生納付特例制度は2000年4月から)。

地裁段階では国の広報が不十分だったことや1985年国民年金法改正時に学生を対象外としたのは違憲として不支給処分を取り消して国に損害賠償を命ずる判決が出たが、高裁段階では「国の広報が不十分との指摘に対し、専業主婦の任意加入率は高かった」等として退けて原告の敗訴とする判決が出た。最高裁でも原告の敗訴とする棄却判決が出て、2009年3月17日までに全ての判決が確定した[2]。原告の勝訴が確定した唯一の例として、障害基礎年金の支給要件である「20歳前の診断」を受けていなかったとして年金が支給されなかった岩手県の男性について、統合失調症の診断を受けたのは20歳1ヶ月であるが、20歳になる前に統合失調症が原因の胃腸の不調で診断を受けたことについて「20歳前の診断」と判断されて経緯から不支給処分を取り消す判決が2008年10月15日に確定した裁判がある[注 4][3]

学生無年金問題を受けて、2004年特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律が成立し、障害の程度によって月額4、5万円を支給する制度が2005年4月から始まっている[4]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b c d e f 昭和60年法律第34号による改正前のもの。
  2. ^ a b 平成元年法律第86号による改正前のもの。
  3. ^ a b 平成12年法律第18号による改正前のもの。
  4. ^ 原告の元学生は二審判決前の2007年に死亡しており、訴訟を引き継いだ父親が死亡時までの障害年金を受け取る権利を得た。

出典 編集

  1. ^ 「学生無年金訴訟、元学生の敗訴確定…最高裁判決」『読売新聞読売新聞社、2008年10月10日。
  2. ^ a b 「学生無年金訴訟、原告の敗訴確定【大阪】」『朝日新聞朝日新聞社、2009年3月18日。
  3. ^ 「学生無年金、原告側が最高裁で勝訴」『朝日新聞』朝日新聞社、2008年11月16日。
  4. ^ 「無年金訴訟、任意加入規定は合憲 元学生5人、敗訴が確定」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年9月29日。

参考文献 編集

  • 稲葉実香、奥村公輔、片桐直人、山中倫太郎 著、松浦一夫 編『憲法入門』三和書籍、2012年3月30日。ASIN 4862511295ISBN 978-4-86251-129-4NCID BB09136498OCLC 816917581全国書誌番号:22050129 
  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社〈判例プラクティス〉、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206全国書誌番号:22607247 
  • 佐藤幸治土井真一 編『憲法』 2巻《基本的人権・統治機構》、悠々社〈判例講義〉、2010年4月。ASIN 4862420133ISBN 978-4-86242-013-8NCID BB01867048OCLC 836288002全国書誌番号:21750875 

関連項目 編集