宇和島事件(うわじまじけん)は、捜査機関誤認逮捕で無罪の男性を1年余も勾留した冤罪事件である。冤罪と判明したのは真犯人が隣県で自白したためであり、愛媛県警および検察の対応が批判された。

事件の概要 編集

1998年10月愛媛県宇和島市内で民家から貯金通帳などが盗まれ50万円が引き出される窃盗と詐欺の事件が発生した。被害者宅に荒らされた様子がないことから、親しい人物の犯行との見方を強めて捜査。1999年2月、被害者宅のかぎを持って自由に出入りが可能だった愛媛県の男性(当時51歳)を追及した際、犯行を認めたため逮捕した。

自供によると1998年10月上旬に約50万円の貯金通帳を、12月下旬に印鑑をそれぞれ盗み、これを使って1999年1月8日に市内の金融機関から50万円を引き出し、その金で借金計20万円を返済したとあった。男性の他の使途などを加えると約50万円になり、引き出した金額とほぼ一致するとして、「金銭目的の犯行」と動機を特定して、検察は男性を起訴した。

松山地方裁判所における公判では男性は無罪を主張した。借金返済について、男性が勤務していた会社の女性事務員が返済は1月7日と証言し、内12万円は1月7日付の「振替伝票」が残っていた。盗んだ通帳で引き出して借金を返したとされていた日が実際は引き出しの前日(1月7日)だったことが明らかになった。また、男性は1998年末にボーナスと給与や年末調整で手取り70万円余りを受け取っており多額の現金を所持していたことも判明した。それに対し、検察は公判で「男性が金に困っていたことに変わりはない」と主張した。

2000年になって、高知県で窃盗罪で公判中の60歳の連続窃盗犯が手帳に犯行メモを残していたことが判明し、宇和島の窃盗事件について自供。その後、金融機関の窓口で応対した職員が「犯人である」と証言や荒らされていなかった被害者宅については施錠されていなかった2階の窓から侵入したことが判明し、捜査による証拠は宇和島の窃盗事件が高知で逮捕された連続窃盗犯の犯行の可能性が濃厚となった。4月1日、高知の連続窃盗犯を宇和島の事件に関し窃盗罪などで追起訴した。

裁判では、被告人となった男性は容疑を否認していたが、検察側は論告で懲役2年6月を求刑しており、2000年2月25日に判決が下されるはずであった。しかし、冤罪が明白になったため釈放され、検察が結審後に裁判所へ改めて審理再開を要請して論告放棄する異例の展開をみせた。

警察のずさんな誤認捜査が判明したにもかかわらず、愛媛県警は「捜査自体に違法性は無かった」として、担当の警察官を処分しないことを発表。松山地検も「起訴に法的な誤りは無かった」と強調し、警察・検察のどちらも責任をとろうとしなかった。

愛媛県の男性は刑事補償を請求をし482万5000円が交付されたが、勾留中に失職したことなどを理由に、国と県を相手に慰謝料など約1000万円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を起こす。裁判では県が500万円と国が100万円の計600万円の和解金を男性に支払うことで和解となった。

備考 編集

2000年にテレビ愛媛が宇和島事件を題材としたドキュメンタリー『自白・この国の捜査のかたち』を制作し、自白偏重といわれる日本の捜査のあり方に警鐘を鳴らした。

外部リンク 編集