辻 吉郎(つじ きちろう、明治25年(1892年8月24日 - 昭和21年(1946年12月9日[1])は、日本の映画監督脚本家俳優である。初期の俳優時代の芸名は市川 芝喜蔵(いちかわ しきぞう)、晩年に辻 吉朗(読み同)に改名している。

つじ きちろう
辻 吉郎
辻 吉郎
往來社『映画往來』第7巻第9号(1931)より
別名義 市川 芝喜蔵 いちかわ しきぞう
辻 吉朗
生年月日 (1892-08-24) 1892年8月24日
没年月日 (1946-12-09) 1946年12月9日(54歳没)
出生地 日本の旗 日本 秋田県
職業 映画監督脚本家俳優
ジャンル 映画サイレント映画剣戟映画
活動期間 1911年 - 1945年
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来歴 編集

明治25年(1892年8月24日秋田県に生まれる[2]

東京市神田区三崎町(現在の千代田区三崎町)にあった旧制・大成中学校(現在の大成高等学校)を卒業[2]、秋田に帰り公務員をしていたが、明治44年(1911年)、京都に移住し、日活京都撮影所俳優部に入社した。「市川芝喜蔵」の名で牧野省三監督・尾上松之助主演のサイレント映画に多く出演した[2]

大正4年(1915年)、尾上松之助主演の映画『大前田英五郎』を演出し、映画監督となる[2]。以降、日活京都一筋に職人監督としての道を歩む。昭和4年(1929年)、「辻吉朗」と改名した[2]

1934年(昭和9年)8月、日活を退社した永田雅一が第一映画社を立ち上げると、辻も合流した[3]

昭和17年(1942年)、第二次世界大戦の開戦による戦時統合で日活の製作部門が、大都映画新興キネマと合併して大日本映画製作(のちの大映)を設立したことを機に、松竹下加茂撮影所に移籍した[2]。昭和18年(1943年)、牧野省三の三男で、辻のチーフ助監督だったマキノ真三と共同監督で『海賊旗吹っ飛ぶ』を監督したが、同作が遺作となった[4]

昭和21年(1946年12月9日[1]、喉頭結核で死去した。満54歳没。昭和20年(1945年)死去説もあり[2]

人物・エピソード 編集

「大監督」と謳われ、また秋田弁のきつい人でもあった。昭和10年の『追分三五郎』の撮影で、光岡竜三郎が清水の次郎長になった。光岡も秋田弁のきついほうだったから、「このスムズのズロツォーが(この清水の次郎長が)」とやったところ、辻監督は怒って「ミチオカくん! これはトウガイドウのハナスだよ(光岡くん! これは東海道の話だよ)、スムズじゃない、スムズのズロツォーだ」と教えた。

これに恐縮した光岡は、「わかりました。このスムズのズロツォーが・・・」とおうむ返しに辻監督にそう答えたという[5]

日活京都では「傾向映画」(左翼がかった作品)で鳴らした監督で、嵐寛寿郎によるとあだ名は「熱演監督」だった。撮影中、夢中になって「う~ん、そこそこ!」と、身振り手振りでキャメラの前に躍り出てしまい、役者があっけにとられて芝居が止まると「チミイ何で演技せんか、NG、NG!」と怒鳴り倒す、フィルムには辻監督の背中しか写っていない、といった調子で、アラカンは「とっくにNGや、面白い人やった」と述懐している[6]

おもなフィルモグラフィ 編集

生涯133作を監督したが、現存するフィルムプリントは『沓掛時次郎』(1929年)や『追分三五郎』(1935年)、『髑髏銭』前後篇(1938年)、『海賊旗吹っ飛ぶ』等の5本のみである[2]。『追分三五郎』と『海賊旗吹っ飛ぶ』は2005年(平成17年)、東京国立近代美術館フィルムセンターの企画「発掘された映画たち2005」で上映され[4]、『槍供養』(1927年)は、9.5ミリフィルムのダイジェスト版が発見され、京都府が復元した[2]。京都府では、同府が所有する『槍供養』の9分の全篇映像ファイルをウェブ上で公開している[2]

編集

  1. ^ a b 『CD 人物レファレンス事典 日本編』、日外アソシエーツ、2002年。
  2. ^ a b c d e f g h i j 映画『槍供養(やりくよう)』の画像配信京都府、2009年11月4日閲覧。
  3. ^ 第一映画社、資本金五十万円で正式設立『大阪毎日新聞』昭和9年8月26日(『昭和ニュース事典第4巻 昭和8年-昭和9年』本編p493 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  4. ^ a b 発掘された映画たち2005東京国立近代美術館フィルムセンター、2009年11月4日閲覧。
  5. ^ 『ひげとちょんまげ』(稲垣浩、毎日新聞社刊)
  6. ^ 『聞書アラカン一代 - 鞍馬天狗のおじさんは』(竹中労、白川書院)

外部リンク 編集

画像外部リンク
  bungeiyarikuyou.asx
現存する『槍供養』(1927年)の映像ファイル(全篇9分、京都府