数学 において弱形式 (じゃくけいしき、英 : weak formulation )は、線型代数学 の概念を、例えば偏微分方程式 などの他の分野において問題を解くために用いることを可能にする、重要な解析上の道具である。弱形式において、方程式の絶対性はもはや要求されず(適切である必要すらない)、代わりにあるテストベクトルあるいはテスト函数に関する弱解 が存在する。これは超函数 の意味で解を要求する問題を構成することと同値である。
ここでは弱形式に関するいくつかの例を紹介し、その解に対する主要な定理であるラックス=ミルグラムの定理 (Lax-Milgram theorem)を述べる。
V
=
R
n
{\displaystyle V=\mathbb {R} ^{n}}
と
A
:
V
→
V
{\displaystyle A:V\to V}
を線型写像とする。このとき、方程式
A
u
=
f
{\displaystyle Au=f}
の弱形式は、すべての
v
∈
V
{\displaystyle v\in V}
に対して次の方程式を満たす
u
∈
V
{\displaystyle u\in V}
を見つけることとなる。
⟨
A
u
,
v
⟩
=
⟨
f
,
v
⟩
{\displaystyle \langle Au,v\rangle =\langle f,v\rangle \,}
ここで
⟨
⋅
,
⋅
⟩
{\displaystyle \langle \cdot ,\cdot \rangle }
は内積を表す。
A
{\displaystyle A}
は線型写像なので、基底ベクトルに対して調べれば十分である。すると
⟨
A
u
,
e
i
⟩
=
⟨
f
,
e
i
⟩
i
=
1
,
…
,
n
{\displaystyle \langle Au,e_{i}\rangle =\langle f,e_{i}\rangle \quad i=1,\ldots ,n\,}
が得られる。実際、
u
=
∑
j
=
1
n
u
j
e
j
{\displaystyle u=\sum _{j=1}^{n}u_{j}e_{j}}
と展開することで、次の行列の形式での方程式が得られる。
A
u
=
f
.
{\displaystyle \mathbf {A} \mathbf {u} =\mathbf {f} .}
ここで
a
i
j
=
⟨
A
e
j
,
e
i
⟩
{\displaystyle a_{ij}=\langle Ae_{j},e_{i}\rangle }
および
f
i
=
⟨
f
,
e
i
⟩
{\displaystyle f_{i}=\langle f,e_{i}\rangle }
である。
この弱形式に関連する双線型形式は、次で与えられる。
a
(
u
,
v
)
=
v
T
A
u
.
{\displaystyle a(u,v)=\mathbf {v} ^{T}\mathbf {A} \mathbf {u} .}
ここでの目標は、ある領域
Ω
⊂
R
d
{\displaystyle \Omega \subset \mathbb {R} ^{d}}
上の次のポアソン方程式
−
∇
2
u
=
f
{\displaystyle -\nabla ^{2}u=f\,}
の解で、境界で
u
=
0
{\displaystyle u=0}
となるようなものを見つけることである。また解空間
V
{\displaystyle V}
は後述の議論で決定する。弱形式の導出のために、次の
L
2
{\displaystyle L^{2}}
-スカラー内積を用いる:
⟨
u
,
v
⟩
=
∫
Ω
u
v
d
x
.
{\displaystyle \langle u,v\rangle =\int _{\Omega }uv\,dx.}
微分可能な函数
v
{\displaystyle v}
をテスト函数として用いることで、次が得られる。
−
∫
Ω
(
∇
2
u
)
v
d
x
=
∫
Ω
f
v
d
x
.
{\displaystyle -\int _{\Omega }(\nabla ^{2}u)v\,dx=\int _{\Omega }fv\,dx.}
この方程式の左辺は、グリーンの恒等式 を用いた部分積分 により、より対称的な次の形式で記述できる。
∫
Ω
∇
u
⋅
∇
v
d
x
=
∫
Ω
f
v
d
x
.
{\displaystyle \int _{\Omega }\nabla u\cdot \nabla v\,dx=\int _{\Omega }fv\,dx.}
これは正しくポアソン方程式 の弱形式と通常呼ばれるものである。ここで空間
V
{\displaystyle V}
を定義する必要がある。この空間は、この方程式を導けるものでなければならない。したがってこの空間における導函数は二乗可積分である必要がある。実際、ゼロ境界条件で、弱微分 が
L
2
(
Ω
)
{\displaystyle L^{2}(\Omega )}
に属す函数からなるソボレフ空間
H
0
1
(
Ω
)
{\displaystyle H_{0}^{1}(\Omega )}
を考えれば、目的は満たされる。
次のように記号を定めることで、一般的な形を得ることが出来る:
a
(
u
,
v
)
=
∫
Ω
∇
u
⋅
∇
v
d
x
{\displaystyle a(u,v)=\int _{\Omega }\nabla u\cdot \nabla v\,dx}
および
f
(
v
)
=
∫
Ω
f
v
d
x
.
{\displaystyle f(v)=\int _{\Omega }fv\,dx.}
これは双線型形式 の対称部分の性質に依存するラックス=ミルグラムの定理 (Lax-Milgram theorem)の構成である。最も一般的な形という訳ではない。
V
{\displaystyle V}
をヒルベルト空間 とし、
a
(
⋅
,
⋅
)
{\displaystyle a(\cdot ,\cdot )}
を
V
{\displaystyle V}
上の双線型形式 で、次を満たすものとする:
有界 :
|
a
(
u
,
v
)
|
≤
C
‖
u
‖
‖
v
‖
{\displaystyle |a(u,v)|\leq C\|u\|\|v\|}
強圧的 :
a
(
u
,
u
)
≥
c
‖
u
‖
2
.
{\displaystyle a(u,u)\geq c\|u\|^{2}.}
このとき、任意の
f
∈
V
′
{\displaystyle f\in V'}
に対して、次の方程式には唯一つの解
u
∈
V
{\displaystyle u\in V}
が存在する。
a
(
u
,
v
)
=
f
(
v
)
.
{\displaystyle a(u,v)=f(v).}
また次が成立する。
‖
u
‖
≤
1
c
‖
f
‖
V
′
.
{\displaystyle \|u\|\leq {\frac {1}{c}}\|f\|_{V'}.}
この場合、ラックス=ミルグラムの定理を適用することは明らかに十分すぎるものであるが、他の場合と同様の形にするためにこの定理を使用する。
有界性:
R
n
{\displaystyle \mathbb {R} ^{n}}
上のすべての双線型形式は有界である。特に、次が成り立つ。
|
a
(
u
,
v
)
|
≤
‖
A
‖
‖
u
‖
‖
v
‖
{\displaystyle |a(u,v)|\leq \|A\|\,\|u\|\,\|v\|\,}
強圧性: これは実際、
A
{\displaystyle A}
の固有値の実部が
c
{\displaystyle c}
よりも小さくないことを意味する。これは特に、ゼロ固有値が存在しないことを意味するので、系は可解である。
さらに次の評価が得られる。
‖
u
‖
≤
1
c
‖
f
‖
,
{\displaystyle \|u\|\leq {\frac {1}{c}}\|f\|,\,}
ここで
c
{\displaystyle c}
は
A
{\displaystyle A}
の固有値の最小実部である。
上述のように、
V
=
H
0
1
(
Ω
)
{\displaystyle V=H_{0}^{1}(\Omega )}
とし、ノルムは次で定める。
‖
v
‖
V
:=
‖
∇
v
‖
{\displaystyle \|v\|_{V}:=\|\nabla v\|}
ここで右辺のノルムは
Ω
{\displaystyle \Omega }
上での
L
2
{\displaystyle L^{2}}
-ノルムである(ポアンカレ不等式 により、これは正しく
V
{\displaystyle V}
上のノルムを与える)。しかし、
|
a
(
u
,
u
)
|
=
‖
∇
u
‖
2
{\displaystyle |a(u,u)|=\|\nabla u\|^{2}}
であり、コーシー=シュワルツの不等式 より次が成り立つ:
|
a
(
u
,
v
)
|
≤
‖
∇
u
‖
‖
∇
v
‖
{\displaystyle |a(u,v)|\leq \|\nabla u\|\,\|\nabla v\|}
。
したがって、任意の
f
∈
[
H
0
1
(
Ω
)
]
′
{\displaystyle f\in [H_{0}^{1}(\Omega )]'}
に対して、ポアソン方程式 の唯一つの解
u
∈
V
{\displaystyle u\in V}
が存在し、次の評価が得られる。
‖
∇
u
‖
≤
‖
f
‖
[
H
0
1
(
Ω
)
]
′
.
{\displaystyle \|\nabla u\|\leq \|f\|_{[H_{0}^{1}(\Omega )]'}.}
Lax, Peter D. ; Milgram, Arthur N. (1954). “Parabolic equations”. Contributions to the theory of partial differential equations . Annals of Mathematics Studies, no. 33. Princeton, N. J.: Princeton University Press. pp. 167–190 MR 0067317